ドク、ドク、ドク。空間にエコーする女性の呼吸、そして心臓の鼓動――それが「クレージュ(Courrèges)」の2024年秋冬ランウェイで流れた音声だった。白いポリウレタンで覆われた正方形のランウェイ、その輪郭をなぞるようにモデルは歩を進めていく。官能的なビートは速くなったり、落ち着いたりするが、それと呼応しながら、会場の中央が山のように膨らんでは、平らへと収まっていく。まるで生き物のようなランウェイに、ショーに招かれたゲストたちは息を呑んだ。
シンメトリーと官能性が、今回のコレクションのキーワードだ。ファーストルックは、天に向かってスッと伸びた襟がついたトレンチコート。下腹部の中央にはポケットがあり、そこに左手が入れられている。このポケット位置は2024年プレフォールで初めて登場したもので、クリエイティブ・ディレクターのニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)は大いに気にいったに違いない。局部を撫でるような、自慰行為を仄めかす直接的なジェスチャーは、コレクションの官能的なムードをさらに高めている。
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Image by: Courrèges
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そして、このコレクションにはもうひとつ重要なジェスチャーが隠されている。コレクションノートによると、このシーズンの制作は、首にスカーフを巻くというジェスチャーの考察から始まったようだ。スポンテニアスかつ可塑的なこの行為は、デ・フェリーチェのデザインアプローチに大きな影響を与えた。これまでの「クレージュ」といえば、身体の曲線と対比させるかのように、服はソリッドな直線と構築的なシルエットを描き、ファブリックの遊びは少なかった。しかし今回は流動的なドレープ(特に中盤のドレスが象徴的だ)が取り入れられ、裾はスカーフのようになびいている。これらの要素によってもたらされた“軽さ”はコレクションにフェティッシュでありながらクリーンでもある多義性をもたらした。
Image by: Courrèges
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ラテックスなど伸縮性のある定番素材に対し、ノンウォッシュデニムの使用は新鮮さをもたらした。
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モノクロームとベージュのストイックなカラーパレットのなかで唯一1ルックで赤を効かせたり、鳥肌の電気を帯びた質感を表現したフェザーのアップリケなどで、デリケートに抑揚をつけていく。
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ショパンの「ノクターン」がフィナーレに響き、ショーは美しく幕を閉じた。身体の美しさと官能性を際立たせるのは、肌の露出の多さによってだけ際立つわけではない。「クレージュ」においては、それは布で覆われていても、エモーショナルに溢れ出すのだ。
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