
「アビサエ エクストレ ド パルファン」
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR

「アビサエ エクストレ ド パルファン」
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR
今年で50周年を迎えたフランス発のフレグランスメゾン「ラルチザン パフューマー(L'ARTISAN PARFUMEUR)」から、人気フレグランス「アビサエ」の新作「アビサエ エクストレ ド パルファン」が登場した。ユーカリ、インセンス、アンバーグリスを軸に、オリジナルをより濃密に、神秘的に描き出した香りだ。オリジナルのアビサエに続き、調香を手掛けたダフネ・ブジェ(Daphne Bugey)に、その創作背景や香りの魅力、調香のアプローチについてインタビューした。
近日中には、このほど歌舞伎役者や作家、バレエダンサーといった、極み抜かれた技術と感性を宿す表現者たちが、ラルチザン パフューマーの世界観を体験したスペシャルムービーを公開。表現者たちとラルチザン パフューマーの五感に響く“共演”が叶う。

ダフネ・ブジェ:フランス・グルノーブル出身。10歳の頃、家族旅行で訪れた南仏グラースの香水博物館で香りの世界に魅了され、調香師を志す。旅をしながら調香するスタイルで、さまざまなメゾンの香水を手掛ける。ラルチザン パフューマーでは、「アビサエ」「ミラビリス」「アルカナ ロザ」などのラ ボタニック コレクションの調香を担当。
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR
光の届かない海の底へ 「アビサエ エクストレ」が描く深淵
⎯⎯ 既存のアビサエ オードパルファムと新作のアビサエ エクストレ ド パルファンでは、表現した世界にどのような違いがありますか?
オリジナルのアビサエは、現実と想像のはざまに広がる深海の神秘へと誘う香りとして創作しました。未知の世界へ足を踏み入れるような感覚を表現したかったのです。アロマティックな爽やかさ、繊細なフローラルのニュアンス、奥行きのあるウッディノートが、意外性をもって共存しています。ユーカリ、ローズ、ベチバーは、その世界観を形づくる上で欠かせない要素でした。
新作のアビサエ エクストレ ド パルファンでは、その世界をさらに深く掘り下げたいと考えました。単に海の深みを探るだけでなく、より豊かな感覚の広がりを表現したかったのです。深淵が持つ、よりダークで豊か、そして神秘的な側面を描くため、樹脂を思わせるリッチなニュアンスやバルサミックなアクセントを加えました。インセンスが神秘的な奥行きを添え、ローズはより贅沢で包み込むような表情を見せます。さらに、シプリオールとアンバーグリスがウッディなベースの存在感を際立たせています。こうして生まれたのは、単に濃度を高めた香りではなく、同じ物語における新たな一章なのです。

アビサエ エクストレ ド パルファン
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR
⎯⎯ 多くの人に愛されているアビサエを再解釈する上で、どのような挑戦がありましたか?
最大の課題は、継承と進化のあいだに理想的なバランスを見出すことでした。アビサエを愛する方々には、その個性を瞬時に感じていただきながらも、同時に新たな発見ももたらしたかったのです。
私にとってフレグランスの再解釈とは、単に香りをより力強く表現することではありません。オリジナルの作品に秘められていた新たな側面を見出し、そこに光を当てることです。だからこそ今回の挑戦は、アビサエの本質を守りながら新たな道を拓き、物語をさらに先へ進めることでした。そのアプローチは、まるで誰も足を踏み入れたことのない深淵を探検するようなものでした。
⎯⎯ オリジナルのアビサエと新作のアビサエ エクストレは、どのように使い分けるのがおすすめですか?
私にとって、この2つは異なる表情を持つフレグランスです。アビサエは、明るさと奥行きをあわせ持ち、肩の力を抜いてまとえる魅力があります。アロマティックな爽やかさが際立つため、日中の装いや、さりげないエレガンスと意外性を求めるシーンにふさわしい香りです。
一方のアビサエ エクストレは、より親密で、深く引き込まれるような魅力を備えています。豊かで包み込むような存在感があり、特に夕方から夜にかけての時間や、香りを第二の肌のように自然にまといたいときに惹かれますね。

アビサエ オードパルファム(75mL 4万2900円)
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR
創造の自由が広げる、自然と旅のインスピレーション
⎯⎯ アビサエをはじめ、ラルチザン パフューマーのフレグランスを複数手掛けられています。メゾンが掲げる「創造の自由」を、どのように捉えていますか?
私にとって「創造の自由」は、調香における最も大切な価値の一つです。ラルチザン パフューマーは、調香師一人ひとりが自身のビジョンを表現し、自分らしい方法で物語を紡ぐことを認めています。その信頼関係は、私にとって大きなインスピレーションの源です。不必要な制約にとらわれることなく、直感や感性、想像力に導かれながら香りを生み出せるからです。思いがけない発想や意外なコントラスト、自然を見つめる新たな視点にもつながっていきます。
ラルチザン パフューマーは、独創性とクラフトマンシップを称えるブランド。その哲学があるからこそ、自分らしさと個性に満ちた、印象深いフレグランスを生み出すことができるのだと感じています。

Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯ 世界中を旅することがお好きだそうですが、旅先での経験は調香にどのように活かしていますか?
旅は、最も大切なインスピレーションの源です。旅に出るたびに、新鮮な視点で世界を見つめ直すことができます。風景や人々との出会い、土地に根づく習慣や食文化、思いがけない発見まで、あらゆる体験が香りの記憶を豊かにしてくれるのです。
スウェーデンの世界遺産ラポニアを訪れた時の投稿
中でも日本は、私に大きな影響を与えた国の一つです。過去に3ヶ月間、日本各地を一人で旅したことがあります。それは人生の中でも特に印象深く、創作の糧となった経験でした。日本人の自然との関わり方や、桜の季節に人々が儚い美しさを讃える光景に、深い感銘を受けました。
⎯⎯ 日本での体験の中で、特に心に残っているものはありますか?
香道や茶道、和菓子づくりに息づく緻密な職人技など、日本に受け継がれる伝統文化にも心を動かされました。オーガニック農場で働き、高野山の仏教寺院を訪れ、屋久島では樹齢1000年を超える杉の森にも足を運びました。
そうした経験を通じて、私は日本の「わび・さび」の美意識に関心を抱きました。不完全さや儚さ、簡素さのなかに美を見出す考え方ですよね。調香においても、わび・さびは一見すると欠点のように思える要素が、作品ならではの個性を生む源になり得ることを教えてくれます。やや際立ちすぎる香料や意外性のあるアクセントが、香りの個性や本質を形づくることがあるのです。
アビサエにおけるユーカリの印象的な存在感は、その良い例です。ユーカリがもたらす緊張感によって、この香りならではの個性と記憶に残る魅力が生まれています。美しさは、ときに完璧な調和から外れる要素によってもたらされるのです。

アビサエ オードパルファム
Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯ 最後に、ご自身が香りまとう時のルールを教えてください。
調香師になってからは、香りをまとうことそのものが創作プロセスの一部となりました。新たなテーマに取り組むときには、試作した香りを日常生活の中で実際にまとい、その美しさや香り立ち、時間の経過による変化を確かめています。
香りがラボを離れ、現実の環境の中でどのような表情を見せるのかを観察することは欠かせません。自らの作品をまとうときには、周囲の反応や感想にも注意深く耳を傾けています。そうした率直な反応の中に、香りの本質を理解する手がかりが隠されていることがあるからです。
ただ、休暇中はまったく香水をつけません。旅先では、その土地や環境が持つ香りを、できるだけありのままに感じていたいのです。街角の香り、雨上がりの空気、市場の賑わい、その土地ならではの食文化。周囲の世界を存分に感じ取るために、肌はできるだけニュートラルな状態にしておきます。
私にとって香りとの関係は、香りを観察する時間と、世界の香りに耳を傾ける時間とのあいだを行き来するものなのです。

アビサエ エクストレ ド パルファン(75mL 5万5000円)
Image by: L'ARTISAN PARFUMEUR
アビサエ エクストレ ド パルファンは、トップノートで、ユーカリレジン(樹脂)が霜をまとったような冷たさを帯び、インセンスがそのフレッシュさを引き立てながら、濃密なミネラル感を加える。ハートノートでは、樹脂のようなローズを、シスタスラブダナムや松によって官能的かつ包み込むような印象に仕上げた。そしてベースノートは、サンダルウッド、シプリオール、アンバーグリスが、温かみと奥行きのある、力強い印象をもたらす。時間の経過とともに、香りの深みが静かに増していくアロマティック ウッディ香調だ。
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