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「写真は死んだがファッションは死んでいない」ニック・ナイトが見据える表現の未来

聞き手&文菅原まい

Video by: FASHIONSNAP

聞き手&文菅原まい

 「写真は死んだ(Photography is dead)」——。世界を代表するファッションフォトグラファー、ニック・ナイト(Nick Knight)氏がかつて発したこの言葉は、写真界に大きな波紋を広げた。そんな彼に「では、ファッションは死んだと思うか?」と尋ねると、返ってきたのは迷いのない「No」という返答だった。

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 1990年代末、インターネットの可能性にいち早く着目し、2000年にファッション映像プラットフォーム「SHOWstudio」を立ち上げた同氏は、ファッションフィルムやライブ配信など、現在では当たり前となったデジタルでのファッション表現を早くから実践してきた。SNSによって誰もが批評家になり、ランウェイショーだけが新作を発表する場所ではなくなった今、ファッションはどこへ向かうのか。伊勢丹新宿店で10月5日まで開催している自身の個展に合わせ来日したナイト氏に、変革期にあるファッション業界と、SNSがもたらした“民主化”、そして「写真は死んだ」という言葉の真意を聞いた。

ニック・ナイト氏

Image by: FASHIONSNP

変わるファッション、その先に広がる表現

——以前、「写真は死んだ」と発言されていました。今でもそう考えていますか?

 はい。今でもそう思っています。ただ、「写真は死んだ」という言葉は、「写真」という言葉が今もかつてと同じ意味を持つのか、改めて考えてもらうための、ある種の“警鐘”として発したものであって、文字通りの意味ではありません。「写真は死んだ」と言えば、「死んでなんかいない」と反論する人が出てくる。でも、そう反論するには、まず「写真は本当に死んでいないのか?」と考えるでしょう。それが重要なのです。

 20世紀に「写真」と呼んでいたものと、今私たちが作っているイメージは、もはや同じものではありません。今ではiPhoneやデジタルカメラで撮影した後に、光やフォーカス、背景まで変えることができる。3Dスキャンしたデータから彫刻を作ることもできるし、その場から世界中へ直接発信することもできます。かつて写真は雑誌や本、ギャラリーを介して人々に届けられていましたが、今は誰の許可も必要ありません。そう考えると、かつて明確に定義されていた「写真」というメディアはある意味死んだと思っています。大切なのはそのことを嘆くのではなく、私たちがすでに新しい時代を生きていると認識すること。それと同時に、イメージの作り方そのものも変わっていると理解することなのです。

——では、ファッションは死んだと思いますか?

 いいえ。なぜならファッションは常に変化するものだからです。変わらなければ、それはファッション(流行)ではないでしょう。

——今のファッション業界をどのように見ていますか?

 業界全体となると、正直なところ分かりません。すべてを俯瞰して追っているわけではないですから。ただ、ファッションの世界には今も素晴らしい才能がたくさんいます。例えば、ロンドン発の「シネイド・オドワイヤー(SINÉAD O'DWYER)」やファッションデザイナーでありアーティストの ミカエラ・スターク(Michaela Stark)、インフルエンサーデュオのフィーカル・マター(Fecal Matter)など。彼らは本当に美しく、面白いものを作っています。それに川久保玲や山本耀司のように長く活動しているデザイナーも、今なお素晴らしい仕事を続けています。

 一方で、業界の人たちと話していると、昔と比べて業界全体が「保守的」になっているようには感じます。ものを売るためのマーケティングが強くなって、業界全体で新たなことに挑戦しようという気概が感じられないのが正直なところ。とはいえ、今はファッション業界が新しい時代に向けて再調整している最中なのだと思います。そもそもファッションとは、変化し続けるものです。今はまさに大きな変化の途中にいて、人々はさまざまなことを試しながら、21世紀のファッションがどうあるべきかを模索している。まだその先に何があるのかは分かりません。だからこそ、面白い時代だと感じています。

——東京ファッションウィーク「Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 S/S」が8月31日から9月5日までの期間開催されました。ファッションショーは今でも面白いものだと思いますか?

 今も変わらず刺激的だと思います。ただ、今はランウェイショー以外にも、コレクションを発表する方法がありますよね。

 1980年代や90年代、新しいコレクションを発表する場といえば、ほぼファッションショーに限られていました。しかし、インターネットの登場によってオンラインでの発信が可能になり、コロナ禍をきっかけにその動きはさらに加速した。今では、映像やSNSなどコレクションを発表する手段はいくつもあり、必ずしもファッションショーを行う必要はありません。

——ランウェイショーそのものが時代遅れになった、ということでしょうか?

 ランウェイショー形式での発表自体が悪いと言っているわけではありません。ただ、今はほかにも良い選択肢があるということです。

 ショーを開催するには、いつだって多くのお金と労力がかかります。でも今は、若いデザイナーが全財産をつぎ込んでまでショーを開く必要はありません。友人に自分の服を着てもらって撮影し、それをInstagramに投稿すれば、世界中の人に見てもらえる。今、ファッションにはこれまでとは異なる経済のあり方や、仕事の仕方が生まれています。そしてそれは、20年前や50年前のやり方よりも、ずっと「今」という時代に合っている。長く業界にいる私たちが認識しなければならないのは、これまでのやり方にとらわれず、新しい方法を模索していく時代だということです。

——2000年に立ち上げたSHOWstudioは、短尺動画がSNSの主流になる以前から映像やリアルタイムでの発信に取り組んできました。なぜ、これほど早く映像の可能性に着目したのでしょう?

 答えはとてもシンプル。ファッションは、静止画よりも映像で見せる方が理にかなっていると考えたからです。

 デザイナーが服を作るとき、その服は静止した状態ではなく、人が着て動くことを前提に作られています。川久保玲であれ山本耀司であれ、それは誰であっても同じです。服は動いている状態で見られることを想定して作られている。だから、ファッションフィルムという発想は私にとってごく自然なものでした。

——ファッションショーライブ「La WATCHPARTY」など、現在さまざまなバックグラウンドを持つSNSアカウントがコレクションの感想や批評をリアルタイムで発信しています。この変化をどう捉えていますか?

 良いことだと思います。今起きているのは「ファッションの民主化」であり、同時に「イメージの民主化」です。

 私がまだ10代だった1970年代、家にはカメラが1台しかなく、それは父のものでした。使うには父の許可を取らなければならなかったし、当時はカメラを持っていない人の方が多かった。でも今は、誰もがカメラを持ち、ヴィジュアルや写真を通じて自分自身を表現できるようになりました。文章も同じです。かつて文字を書くことができたのは限られた人だけでしたが、今では誰もが書くことができる。ソーシャルメディアによって、写真でも同じことが起きています。より多くの人が自分を表現できるようになったことは、文化の発展においてとても良いことだと思っています。

——ナイトさんもSNSで新しい情報を探されていますか?

 もちろん。いつも見ています。特にInstagramは新しいものを発見するためのとても良いプラットフォームです。以前なら知ることのなかった画家や彫刻家を偶然発見することもあれば、アートや絵画、写真などで、今まで見たことのないことをやっている人たちにも出会える。もちろん面白いデザイナーやモデルもたくさんいます。

 実は、私が一緒に仕事をしている人たちの多くもInstagramで見つけています。向こうから私に連絡してくる場合もあれば、私が作品を見つけてフォローし始めることもある。もちろんInstagramにいない人の中にも、面白い人はたくさんいるでしょう。ただ、そういう人たちは見つけるのは少し難しいですよね。

——こうした変化の先に、ファッションはどこへ向かっていくと思いますか?

 それはまだ分かりません。今は業界全体でさまざまなことを試しながら、21世紀にふさわしい新しい表現や仕事の仕方を模索している最中だと感じます。ただ、向かう先が分からないからこそとても興味深い時代だと思いますし、期待もしています。

——最後に、ナイトさんご自身はこれから何を追いかけていきたいですか?

 私が今興味を持っているのは、写真やファッションそのものではなく、それらを通じたコミュニケーションです。写真でも、ファッションでも、絵画でも、音楽でも、彫刻でも、ダンスでもいい。どんな表現手段を使うかではなく、それを通じて人とどう繋がるかを追っていきたいです。

「残念ながら東京ファッションウィークはスケジュール的に見ることができないですが、SHOWstudioのレポーターから『ヨシオクボ(yoshiokubo)』が興味深かったと報告を受けていますよ」とナイト氏

iPhoneで撮影し、AIで加工 制作過程を動画で解説 

 個展では、iPhoneで撮影し、AIを用いて鮮明化した作品全26点を展示。自身の庭で育てた薔薇を被写体とした代表作に加え、2023年に「ディオール(DIOR)」の代表的なフレグランスのキャンペーンヴィジュアルとして制作した5点を初めて販売している。自宅の庭に咲く薔薇を摘み、自然光の中でiPhoneを構えるというシンプルな手法から、ダイナミックな作品はいかにして生まれたのか。その制作プロセスを聞いた。

最終更新日:

◾️NICK KNIGHT, ROSES FOR TOKYO
開催期間:2026年9月5日(土)〜10月5日(月)
会場:伊勢丹新宿店 本館2階 イセタン ザ・スペース
所在地:東京都新宿区新宿3-14-1
営業時間:10:00〜20:00

聞き手&文・菅原まい

Mai Sugawara

FASHIONSNAP 編集記者

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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