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フランスの大規模デモ、その背景──学生たちの声と、暴動のそばで続く日常

文・岡本真実編集・小湊千恵美

ルーヴル美術館のピラミッド前で抗議する学生たち

Image by: Getty Images

ルーヴル美術館のピラミッド前で抗議する学生たち

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ルーヴル美術館のピラミッド前で抗議する学生たち

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 10月17日にフランス各地で行われた大規模デモをめぐっては、衝撃的な光景がSNSなどで広く拡散されている。しかし破壊や略奪の映像だけでは、この日のフランスと、首都であるパリの全体像は見えてこない。多くの人々が平和的にデモに参加し、教育や将来への思いから声を上げた学生たちもいた。そして、すぐそばではいつもと変わらない日常も続いている。

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 前回の記事では、パリの高級ブティックに及んだ被害と、その翌日の街の様子を現地から伝えた。それに続く今回は、デモの背景と街のもう一つの姿に目を向ける。

デザインやアートを学ぶ学生たちも声を上げた

 今回の抗議活動の背景には、9月中旬から広がった高校生たちの運動がある。パリ近郊の高校では、教師不足や校舎の老朽化などをめぐり、生徒や教員が抗議した。大学進学先を決めるシステム「Parcoursup(パルクールシュップ)」への不満も、若者たちの訴えに含まれていた。

 同じフランスの公立高校でも、教師不足や校舎の老朽化、クラスの過密化など、教育環境には学校ごとに差がある。こうした抗議は大学や「グランゼコール」と呼ばれる選抜制の高等教育機関にも広がり、パリ国立美術学校や、応用美術を学ぶデュペレ校などでも学生たちが声を上げた。ファッションやアートの分野を志す若者たちも、それぞれの方法で運動に参加していた。

デザイン学生は巨大な「トロイの木馬」でデモに参加

 ファッションやアートに関わる人にとって注目したいのが、デザインや工芸の分野で知られるパリの名門校、エコール・ブール(École Boulle)の学生たちだ。家具デザインや工芸、インテリアデザインなどを学ぶ学生たちは「Boulle Debout」というグループを立ち上げ、校舎の入口を封鎖するなどして高校生たちへの連帯を示した。

 仏紙「ル・パリジャン」によれば、学生たちは自分たちが経済的、文化的に比較的恵まれた環境にいることを自覚しながら、そうではない若者たちのためにも声を上げていたという。

 17日のデモには、学生たちが制作した巨大な「トロイの木馬」も登場した。自分たちが学ぶデザインやものづくりを、社会に意思を示すための表現へとつなげた。

フランスの学生デモに「トロイの木馬」を模した象徴的なオブジェが登場した

フランスの学生デモに「トロイの木馬」を模した象徴的なオブジェが登場した

Image by: Guy Smallman/Getty Images

 学生たちの動きはその後も続いた。19日には、美術史や博物館学などを学ぶエコール・デュ・ルーヴル(École du Louvre)の学生らが高校生への連帯や教育・文化分野への支援を訴え、ルーヴル美術館の入口を封鎖。同館は臨時休館となった。

ルーヴル美術館のピラミッド前で抗議する学生ら

ルーヴル美術館のピラミッド前で抗議する学生たち

Image by: Luc Auffret/Anadolu via Getty Images

デモと破壊、略奪は同じではない

 17日には、学生運動に加えて、物価高や生活への不満を訴える市民らの抗議も重なり、全国各地で大規模なデモが行われた。参加者は内務省発表で約55万人、主催者発表では約80万人にのぼった。

 多くのデモ参加者は平和的に行進していた。しかし一部では警察との衝突が起き、混乱に乗じた店舗の破壊や略奪も相次いだ。パリをはじめ各地でブティックや商店が被害を受け、経営者や従業員にも大きな影響が出た。

 フランスでは、デモなどに乗じて破壊行為に及ぶ人々を「casseurs(カスール)」と呼ぶことがある。店舗を壊し、商品を奪う行為は抗議活動ではなく、犯罪行為だ。デモへの参加と、破壊や略奪は同じものではない。

 実際、仏紙「ル・モンド」が取材した高校生や大学生の中にも、破壊行為への複雑な思いを語りながら、デモを続ける意義を訴える若者たちがいた。フランスでは、平和的なデモによって意思を示すことは基本的な権利として位置づけられている。

 デモに参加することと、破壊や略奪を支持することは、もちろんイコールではない。破壊行為を批判することと、なぜ多くの人々が抗議しているのかを考えることは矛盾しない。デモそのものと、その混乱の中で起きた犯罪行為は、切り分けて見る必要がある。

混乱のすぐそばで続いていたパリの日常

 SNSで拡散される映像を見ていると、フランス全体が混乱していたようにも映る。しかし、実際に街を歩くと、状況は場所によって大きく異なっていた。

 デモが行われた17日も、パリ中心部のサントノレ通りにほど近いパレ・ロワイヤル周辺は穏やかだった。オペラ地区のラーメン店には行列ができ、人気ショップ「Merci 2」周辺には多くの観光客が訪れていた。デモが行われていない場所では、普段の週末と変わらない日常が続いていた。

 一夜明けた18日には、被害のあった地区で復旧作業が進んでいた。パリ市によると、17日夜から18日朝にかけて約1000人の清掃職員が出動。現地でも、割れたガラスやごみを撤去する作業員の姿が各所で見られた。

 サントノレ通りでは、ガラスが破損した「ディオール(DIOR)」の香水・コスメ専門店「DIOR BEAUTÉ」が閉まっていた一方、近くの「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は営業していた。被害を受けたブティックのすぐ隣ではカフェが客を迎え、シャンゼリゼ通りでは観光客や買い物客が行き交っていた。

 深刻な被害が残る場所がある一方で、少し歩けば、いつもどおりのパリがある。混乱と日常が、同じ街のそれほど離れていない場所に同時に存在していた。

 とはいえ、危険を軽視していいわけではない。その後も一部地域では混乱が続き、夜間外出禁止措置や地下鉄駅の利用制限も導入された。パリを訪れる際には、最新の交通情報やデモの場所を確認し、衝突が起きているエリアには近づかないことが重要だ。

暴動の映像だけがパリのすべてではない

 今回の暴動をめぐって、SNSなどでは、暴動を移民や宗教と短絡的に結びつける言説も見られる。しかし、映像に映った人の外見から、その人の国籍や出自、信仰を判断することはできない。

 破壊や略奪の責任は、その行為に及んだ個人にある。その責任を、同じ出自や宗教を持つ人々全体に広げることは、まったく別の問題だ。

 割れたショーウィンドーの映像が強い印象を残す一方で、教育や将来への不安から声を上げた若者たちがいた。そして、そのすぐそばでは、普段どおりに食事し、買い物をし、街を歩く人々の生活も続いていた。

 暴力や略奪は決して正当化できない。だが、衝撃的な映像だけから、デモ全体やパリという街全体を語ることも、出来事を単純化してしまう。なぜ人々が声を上げたのか。そして、その傍らでどのような日常が続いていたのか。それぞれを切り分けて見ることが、今回の出来事を理解する上では必要だろう。

 一部の情報だけが独り歩きし、そこから新たな偏見や分断が生まれないことを願う。

最終更新日:

文・岡本真実

MAMI OKAMOTO

EDITER / WRITER

東京生まれ。大学卒業後、Huge、装苑のエディターを経て渡仏。現在、パリを拠点にフリーランスの編集者として活動中。

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