ロマン・ミレーCEO
Image by: FASHIONSNAP

ロマン・ミレーCEO
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フランス発の山岳ブランド「ミレー(MILLET)」は、1921年創業と、数あるアウトドアブランドの中でもかなり老舗の部類に入る。1970年代に一度は創業家の手を離れたが、LVMHグループでも要職を務めた現CEOのロマン・ミレー(Romain Millet)氏が叔父と共にブランドを買い戻し、2021年以降は再び創業家による舵取りが進む。ブランドが上陸して60年以上が経つ日本では、高温多湿気候に対応した独自製品の研究開発が活発で、売上高は2021年からの3年で2倍以上に伸びたという。今春はアウトレット以外では国内唯一の直営店を渋谷に出店し、さらに認知拡大を目指す。出店に合わせて来日したロマンCEOに、創業家体制の手応えと今後の注力分野を聞いた。
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ロマン・ミレー/ミレー・マウンテン・グループCEO

PROFILE:1979年フランス・アヌシー生まれ。「ミレー」の創業者マルク・ミレーのひ孫にあたる4代目。金融・コンサルティング業界を経て、アウトドアやファッション企業で経験を積み、2020年から現職。フレンチアルプスの拠点アヌシーからブランドのグローバル展開を指揮している。
「山は人を高みに導いてくれる場所」
──改めて、ミレーというブランドについて教えてください。
ミレーは1921年に私の曽祖父が創業し、1973年まで一族で手掛けていました。私は1979年生まれなので当時を知りませんが、幼いころから祖父には山の素晴らしさや、自然が人間にとってどれほど大切かを聞かされて育ちました。かつてミレーのバックパックが、人類をアンナプルナ初登頂に導いたという話も聞いていましたよ。ただし、まだ子どもだったので、本の中の話のように感じていました。
大人になるにつれ、いつかミレーを買い戻したいという夢を抱くようになりました。叔父も同様に考えていて、我々は30年にわたってその可能性を模索していたんです。チャンスが巡ってきたのは2020年。当時の私はLVMHグループのウォッチ&ジュエリーの北アジアCEOとして上海で働いていましたが、すぐに家族とフランスへ戻り、叔父とブランドを買い戻すことにしました。話がまとまったのは2021年のクリスマスイブ。まさにクリスマスプレゼントでしたね。
昔も今も変わることなく、山は人の気持ちを高みへと導いてくれる場所です。しかし、常に情報に追われるようになり、山への交通インフラも整った現代では、人々はより山や自然を求めるようになっている。ミレーは創業から100年以上経っていますが、こうした時代の中では今後さらに意義深いブランドになれると確信していますし、多くの人を山へ導いていきたい。短期でブランドを売却するようなことは考えていません。ここからまた100年、ブランドを継続し、次の世代に引き継ぎたいと考えています。







「ミレー」が3月にオープンした渋谷の直営店
Image by: MILLET
──創業家体制になって以降、ブランド経営で大切にしてきた価値観は何ですか?
人々を山へ連れ出し、高みに導くにあたって、我々が重視していることは3つあります。1つ目はシビアな高山の環境下でも安全を確保すること。製品の機能性もそうですし、フランスのシャモニーや日本の白馬で有力なガイド会社と提携しています。2つ目は環境保護です。我々は山を尊重し、山に恩返しをしないといけません。環境負荷を減らすため、製品開発においても人々への教育においても注力しています。3つ目はブランド経営において家族のような精神を持つこと。世界中で働く従業員や取引先、サプライヤーは大きな家族です。チュニジアの自社工場では200〜300人が働いていますが、訪れるたびに家族だという思いが強まりますし、日本のファミリーも100人以上になりました。こうした考え方がブランドを長期的な安定に導くと考えています。
多くの場合、ブランドは年を経ると経営者とともに消滅し、価値観は受け継がれないものです。でも、ミレーを買い戻した際、祖父が幼いころから私に語ってきたこうした価値観がブランドに引き継がれているの感じて、胸がいっぱいになりました。だからこそ、このブランドは100年以上続いてきたんだと思います。受け継がれてきたものを大切にしつつ、同時にこの数年間で、トレイルランニングなどの新領域を開拓できている点にも手応えを感じています。
強みは信頼性、「我々が作っているのは本物」

渋谷店に飾られた、登山家メスナーの8000メートル峰全14座登頂を支えたダウンジャケット
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──日本の売上高は、2024年に2021年の2倍になったと公表しています。日本市場での成長をどのように見ていますか?
ミレーにとって日本は、フランスに次ぐ売上規模の国であり、日本の成長率はグローバル平均と比較しても好調です。日本ではミレーはもともと登山のブランドとして認知を得ていましたが、近年は日常着の領域においてもパイを拡大している。それがまさに渋谷に直営店をオープンした理由でもあります。渋谷の店は、シャモニーの店と共にブランドにとって最大規模になります。ここを起点に、日本のビジネスをさらに成長させていきます。日本は海外からの観光客にも期待できますね。グローバルでのミレーの年平均成長率は7%ほど。日本の成長スピードに比べればゆっくりですが、アウトドア市場の年平均成長率は5%前後と言われていますから、我々の成長スピードは悪くないものです。
以前はシャモニーでトレッキングするアジア人といえば、日本人か韓国人でした。それが変わってきていて、タイやインドネシアの人々が年々増えています。今後、人口増が見込める東南アジアや中南米などをこれから開拓していきます。
──スポーツやアウトドアのマーケットには、強力な競合ブランドもひしめいています。その中で、ミレーの強みは何ですか?
いくつかありますが、1つ目は信頼性。渋谷店の2階には、登山家のラインホルト・メスナーが人類で初めて8000メートル峰全14座登頂を果たした際に着用していたミレーのダウンジャケットを展示しています。ミレーは、エクストリームな挑戦をするアスリートから信頼される存在だということです。SNSやプレゼン資料で人々を山へ誘うことは簡単ですが、高所で人を安心安全に保つ製品やネットワークはそう簡単には提供できません。我々は最高の製品を作るために、最高の素材メーカーや縫製工場とサプライチェーンを構築しています。また、全ての製品をアスリートが着用し、山でテストしています。私たちが作っているのはアウトドア風のファッション製品ではなく、本物です。それこそが私たちの強みです。
2点目として、製品開発をローカライズしている点も挙げられます。ミレーは私の祖父の時代に日本の輸入商社と取り組みを始め、日本に進出してからは60年以上。日本の山はシャモニーとは全く違います。フランスの山は岩が多いので、ウェアが岩にこすれた際などにも破れない堅牢性が求められますし、一方で日本は非常に湿度が高く、それに対応したウェアが必要です。日本には合繊を中心に優れた素材メーカーが多く、日本で求められる製品の開発を可能にしました。日本の消費者の声に耳を傾け続け、日本市場に向けた防水透湿シェルの「ティフォン」、機能性肌着の「ドライナミック メッシュ」などを生み出してきました。
そして、3つ目の強みは祖業であるバックパックです。ミレーのバックパックを手に取っていただくというのは、ミレーの歴史を手に取っていただくということ。アパレルを主力製品としている多くのアウトドアブランドも登山用のバックパックを企画していますが、5000メートル以上といった高所を経験していますか? これこそ、ミレーを選ぶ理由につながると思います。
「機能的なウェアが、日常でも求められるようになっている」




高温多湿な日本向けに、生地メーカーと開発した独自の防水透湿素材を使用したブランドを代表するアイテムの「ティフォン」。ジャケットで3万6300円から
Image by: MILLET
──近年ラグジュアリーブランドが苦戦している中国市場でも、アウトドア市場は成長を続けています。中国をドライバーに、規模を急拡大している競合ブランドも目立ちますが、ミレーの考え方は?
私はかつて6年間中国に住んでいましたし、娘も中国生まれです。中国市場は興味深く、同時に理解するのは非常に難しいですが、中国のアウトドア市場は今後、世界最大の市場である北米と同じレベルまで育っていくかもしれません。ただ、我々が顧客対象とするような中国人の多くは国の東側に住んでいます。一方で、山があるのは国の西側。東西間の移動は飛行機で4〜5時間かかり、週末に気軽に旅行して山に登るというような感覚ではありません。あんなにも美しいヒマラヤ山脈が自国にありながら、我々の中国の潜在顧客の多くは、その魅力を知らないんです。
日本の人々が日本の山を楽しんでいるのと同様に、中国の皆さんが自国の山で新しい発見をし素晴らしい体験をする、ミレーはその手助けをしたいと考えています。中国ではトレイルランニングの市場も拡大していますから、その体験もサポートしたい。もちろん、彼らが自国の山を楽しむだけではなく、シャモニーにも来てくれたら嬉しいですが、シャモニーへ呼び込むことがゴールではありません。
中国市場では近年、以前勢いがあったラグジュアリーブランドに取って代わって、スポーツやアウトドアのブランドがデイリーラグジュアリーのような存在になりつつあります。そこをうまくつかんでいるブランドは確かにありますし、売り上げへの貢献は大きいでしょう。ただ、ミレーの根幹にあるのは、人々を山へ導き、自然の中で得られる幸福感を感じてもらうこと。中国でも、そこはぶらすことなくビジネスを進めていきたいと思っています。
──成長のために、パフォーマンス領域に加えてライフスタイル領域に注力するアウトドアブランドも多いです。ミレーも強化していきますか?
ライフスタイルとは、そもそもどういう定義なのでしょうか? それはパフォーマンスと相反する概念ですか? 違いますよね。パフォーマンスとライフスタイルはそれぞれ別個に存在するのではなく、境界線は曖昧だと思っています。例えば、東京の夏は40℃近くになりますが、一方で地下鉄やオフィスの中は冷房でキンキンに冷えていて、凍えそうになります。台風や突然の豪雨もありますよね。我々の製品は、そうしたシーンにも非常に適しており、それゆえ、我々の製品を登山者だけではなくより多くの人が使うようになっています。ファッション、ライフスタイル、パフォーマンスというのは言葉の使い分けだけの問題で、事実として機能的な製品がさまざまなシーンで求められるようになっている。ミレーは今後も、日常生活の中で高いパフォーマンスを発揮する製品を作っていきます。
今後はレンタルや自社での中古品販売を強化



トレイルランニング向けの「インテンス」は、近年の強化カテゴリーの1つ
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──ミレーにとっての今後の強化分野を教えてください。
日本を含むアジア市場は、エリアとして今後成長を期待しています。高温多湿な日本で開発した商品は、東南アジアを開拓していく上で強みとなるでしょうし、既に韓国では日本で企画開発したドライナミックメッシュの肌着がベストセラーとなっています。
また、ブランドとしてサービス面も強化していきます。今の若い世代は、我々世代のように常に新しい製品を買うのではなく、レンタルしたり、中古品を買ったりすることが多くなるでしょう。彼らは高額な製品を購入して家に置いておくことよりも、体験に価値を見出しています。我々は、単に製品を作って売るだけではなく、消費者との関係性をどう構築していくか考えるべきです。例えば、フランスではレンタル事業を始めました。モンブランに登りたいと思ったら、ミレーの装備をレンタルできます。レンタルによって1つの製品を多くの人が使うことになれば、環境負荷も小さくなります。また、ミレーは修繕も創業当時から受け付けています。中古製品の販売については、フリマアプリやオークションサイトなどを通したCtoC取引が主流ですが、我々自身で自社の中古品を回収し、安全性をチェックした上で再販していく仕組みを整えたいと考えています。
──顧客との関係性構築の面では、ロマンCEOのラグジュアリーブランドなどでの経験も生きてきますね。
CRM(顧客関係管理)のデータベースに何千人もの顧客が登録されているとしても、その一人ひとりを唯一無二として扱うべきです。そういった発想において、ラグジュアリーブランドで経験した手法は非常に印象的でした。マスマーケティングではなく、非常にパーソナライズした手法で顧客にアプローチしていく。これは、アウトドア業界にとって参考になる部分が多いと思います。直営店を持つことはラグジュアリーブランドにとっては非常に一般的な手法ですが、アウトドア業界では長らく卸売りが主流でした。ミレーが渋谷に直営店をオープンしたのも、そういった考え方の延長上にあります。これまでの私のキャリアは、私自身やミレーのチームにとって助けになっていると思います。
──今後の出店計画を、グローバルと日本、それぞれで教えてください。
今、グローバルでは直営店を50店前後運営しています。出店は競争ではありません。店舗をオープンし、そこを起点にエコシステムを構築することは重要ですが、焦ってはいない。日本にはまだまだ大きな可能性があります。でも、短期の成果を求めてはいません。おそらく今後5年間で日本にオープンする店舗は3〜5店くらいでしょうか。グローバルで今の倍の規模の100店を目指すといった考えもありません。直営店だけではなく、ECや卸にも注力し、しっかりと成果を上げていきます。
──最後に、ロマンCEO自身は普段どんなアウトドアアクティビティを楽しんでいますか?
冬はスキーツアーリング(バックカントリースキーの一種)を楽しむことが多いですね。中国に住んでいたころは、長野の野沢温泉村や北海道など、日本のスキー場にも家族で来ていました。夏はトレイルランニングを行っており、毎年100キロ以上のレースに出ています。
近年は1つの山域を選んで、1年を通してその山を探検するようにしているんです。去年フォーカスしたのはシャモニー。冬はスキーツアーリングをして、夏は世界最高峰とも言われるトレランレース「UTMB」のCCC(100キロの部)や、もう1つレースに出走しました。今年はツェルマット近郊を楽しんでいます。同じ山や山域でも季節によって見せる表情が全く異なって、とても興味深いんです。



ロマンCEOの背後のロゴは、ミレーと提携しているシャモニーのガイド協会のもの
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