
TEN10志賀光 COO、Sakas PR長坂啓太郎 代表
Image by: FASHIONSNAP

TEN10志賀光 COO、Sakas PR長坂啓太郎 代表
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ファッション業界において、ブランドとメディア、そして生活者を繋ぐ重要な役割を担う「PR」。しかし、情報が溢れ、発信の手法が多様化する現代において、従来のPRのあり方に疑問を抱く者も少なくない。
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2019年にそれぞれ独立し、数多くのブランドのPRを手掛けているTEN10の志賀光と、Sakas PRの長坂啓太郎。国内PRの第一線を走る2人が、この度パートナーシップ・プロジェクト「カンマ(comma)」を立ち上げた。「このままでは、ブランドの未来を作れないのではないか」。2人が抱いた危機感とは何だったのか。そして、ジャンルの壁を越えて目指す「新しいPRの形」とは?
長坂啓太郎
Keitaro Nagasaka
1985年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、アバハウス(ABAHOUSE)や「ガラアーベント(GALAABEND)」スタッフを経て、ソスウ(SOSU)にPRとして入社。2019年に独立し、Sakas PRを設立する。現在2つのショールームを構え、「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」や「ブレス(BLESS)」「ア ベイシング エイプ®︎(A BATHING APE®︎)」など、国内外のブランドを扱う。
志賀光
Hikaru Shiga
1987年生まれ、埼玉県出身。大学卒業後、2011年にPR01.に加わり、PRや営業を担う。在職中にクリエイティブチームとして「TEN10」を発足。2019年に独立後、スタイリスト市野沢祐大と立松秀顕とともに2021年に法人化した。「TEN10」ではPRや衣装制作、飲食事業などを行う。
ファッション業界の「当たり前」に、小さな疑問が積み重なっていた
──カンマの立ち上げに至った経緯を教えてください。
Sakas PR長坂啓太郎(以下、長坂):僕たちが初めて顔を合わせたのは2017年、東京で開催されたショーの現場でした。その後、それぞれ会社を立ち上げたのが2019年で、独立時期がほぼ一緒なんです。当時、僕のオフィスに複合機がなくて、TEN10のオフィスにコピーを取りに行ったりして。
TEN10志賀光(以下、志賀):そうそう、よく来てたよね(笑)。
長坂:仕事の現場が重なることも多くて。経営やキャッシュフローのことなど、同業の中で率直に相談できる数少ない相手が志賀さんでした。
TEN10志賀光(以下、志賀):そうやって情報交換をしていくうちに、お互いPRという職種でありながら、得意な領域が微妙に違うことに気づいたんです。Sakas PRはリース貸し出しをして、メディア露出を増やすオーソドックスなショールームスタイル。一方、僕の会社は「TEN10」という自社スペースを持ち、サンプルを外部に貸し出さないブランドも担当するなど、アプローチが異なります。
協業を考え始めた根本には、「自分が提供しているサービスで、ブランドの未来を時代性を持って作れているのだろうか」という疑問があったからです。プレスリリースを送り、メディアに掲載され、次の仕事へと移っていく。日々の繰り返しの中で、その問いへの答えが見当たらなくなっていたんです。そうした状況を打破したいと考えている中で、約1年前、「じゃあ何か一緒にやってみますか」という話になりました。

──PRという仕事に対して、具体的にどのような危機感を持たれているのでしょうか。
志賀:PRという言葉一つとっても、今は求められる役割が多様化していて、一人の人間で全てをカバーするのが難しくなっています。だからこそ、キャスティングやプランニングなど、それぞれ得意分野を持つフリーランスが集まって一つの案件を回すことが増えているのですが、僕はこのスタイルにも難しさがあるなと感じていて。マンパワー不足を補う手段としては有効ですし、僕自身も経験してきましたが、どうしても拭えない懸念があったんです。
長坂:たとえば、あるブランドのPRチームに、別の競合ブランドを手掛けているメンバーがスポットで混ざったとします。クライアントからすれば、それは決してポジティブには映りませんよね。デザイナーにとって、自身のブランドの裏側を知るPR担当が近い立ち位置のブランドにも携わっているという事実は、信頼関係を損なう要因になり得ます。だからこそ僕は、ここ2年ほどは基本的に「1社で1案件を責任を持ってやり切るスタイル」に切り替えました。
今はメディアだけでなく、ブランド自身が扱えるコンテンツも増えています。そうなると、僕たちPRは写真や映像など、たくさんの要素を作っていかなければならない。ブランドによっては、それを全てデザイナーがやるしかなく、時には僕たちPRにセールスの意見を求めることもあります。単にリースの貸し出しをしてプレスリリースをメールで送るだけ、というのはナンセンスになっていくでしょう。領域を少し広げてでも、ブランドにとって良い相談相手でいなければならないと思っています。
志賀:定型のパッケージをこなしているだけのPRでは、提供するサービスの価値そのものが薄まってしまいます。ブランドのためにどこまで頭を絞り、戦略を組み立ててどう成長させていくことができるか。それが、今回のパートナーシップの大きな動機でもあります。
情報伝達ではなく「関係構築」、カンマが描く5つの循環プロセス
──カンマには決まったメニューがないそうですが、それはなぜですか?
志賀:従来のPRが一時的な「情報伝達」や話題化を主軸に置いているとすれば、カンマは長く残り続ける「関係資産(Relational Assets)」の構築に重きを置いているからです。パブリックリレーションズ(PR)という言葉の本来の意味である「人、ブランド、社会の関係性設計」に、もっと忠実でありたい。だから、既存のフォーマットで「このプランはいくら」と最初から限界線を引くようなやり方はしません。
カンマでは「日常的な対話(DAILY MATTER)」からスタートし、「課題の共有(SHARING ISSUES)」「オリジナリティへの洞察(FINDING ORIGINALITY)」を徹底的に行います。対話の中からブランドの中核にある思想やヴィジョンを丁寧に汲み取り(MAKE A VISION))、どんなクリエイションを作り、「誰と繋ぐべきか(LINK AND CONNECT)」をオーダーメイドで設計・実装していく構造をとっています。そしてまた「日常的な対話(DAILY MATTER)」への循環を通じて、PRとクリエイションの境界を越え、“⼈とブランドの関係”を更新し続けられたらと考えています。

長坂:そのため、「ここまでしかできません」という限界線をあらかじめ引かないようにしていて。その部分で、僕と長坂さんの感覚はとても合っていると思います。
──お互いから見て、相手の「ここがすごい」と思う強みはどこでしょうか。
長坂:志賀さんが以前の仕事で作った提案書を見せてもらった時、非常にロジカルでデータに基づいているのに、その中に「このブランドのことが本当に好きなんだろうな」という愛情がちゃんと感じられて驚きました。広告代理店が作る資料とは全く違うんですよ。「この人と一緒にやったらどんな未来が描けるだろう」と、ブランド側に期待させる力を感じました。
志賀:いやいや(笑)。逆に僕には絶対にないと思うのは、長坂さんは人の良いところを見つけるのが本当に上手い。僕はどうしても「外部の専門家」として見られがちなんですが、長坂さんは向上心や競争心の高いデザイナーたちの懐に深く入り込み、ちゃんと「仲間」として認められている。「この人になら本音を話したい」と思わせる人間力が最大の強みだと思いますね。
──今年3月の東コレでの「ユウショウコバヤシ(yushokobayashi)」のショーがカンマとしての最初の仕事と聞きました。2社で組んだからこその相乗効果はありましたか?
志賀:3〜4ヶ月という短い準備期間の中で、長坂さんがショーの現場ディレクションをクラシックにまとめてくれたおかげで、僕はPR戦略に集中する時間を十分に確保できました。一人でやっていたら手が回らなかったであろう、海外メディアへのアプローチも実現できました。
長坂:ショーの前にプレス向け、 バイヤー向け、 一般客向けと内容を変えたブランドのアイデンティティを伝えるメールを送るなど、 志賀さんの緻密な設計と実装力は流石でしたね。一人では思いつかなかったアイデアがいくつも生まれましたし、お互いの役割が明確だったことで、結果として多くの露出に繋がったと感じています。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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yushokobayashi 2026年秋冬コレクション
──カンマとして予定している取り組みがあれば教えてください。
志賀:戦略を実践に循環させる仕組みとして、定期的に「カクテルパーティー」を開催します。これは、僕たちが持つファッション、アート、ビジネス、メディアのコミュニティに、毎回異なる共催パートナーそれぞれのコミュニティを重ね合わせることで、既存のネットワークだけでは生まれない新しい接点を作る試みです。例えばデザイナーが資金調達やファッションロー、あるいは生産管理やOEMといったビジネスの課題に直面したとき、業界内に知り合いが誰もいない状態からでも、安心して頼れる相手と繋がれる場所を作りたいんです。適切な人を紹介するだけでなく、紹介した後も伴走できる体制がカンマの目指す形です。
長坂:クライアントであるブランドから「良いセールス、生産管理を紹介してほしい」と言われるんですが、ブランドにとって重要なことであるため気軽には紹介できなくて。でも、このカクテルパーティーという開かれた場であれば、起業家から弁護士、クリエイター、学生など、さまざまな立場の人がフラットに出会うことができる。紹介して終わりではなく、カンマが中長期のプロジェクトとして伴走することで、ブランドの持続的な成長にコミットしていきたいと考えています。

──最後に、COMMAの活動を通して、社会やファッション業界をどのように変えていきたいですか?
志賀:「情報を出せばメディアに掲載され、認知が広がる」というアテンションのみの時代は終わりに向かっています。。今はその情報に、腹落ちするような「信頼の文脈」と「共感」が伴っているかが重要です。そのために、カクテルパーティーのようなフィジカルな体験の場を作るなど、情報を広く届ける前の、関係性を深く耕す工程にもっと時間をかける必要があると考えています。
長坂:あと、ファッション業界と他業界との間にある見えない壁は、昔から言われ続けている課題ですよね。日本のデザイナーズブランドが10年、20年と長く続いていくためには、その壁を越えてマーケットを広げていくことが絶対に必要だと、僕も現場でずっと思い続けてきました。
志賀:まさに。2社が組んでいるこの「カンマ」という構造自体が、個社で囲い込まずに「業界全体に開いていく」という意思表示です。ファッションの領域で培ったクリエイティブの知見やストーリー分析の力は、他の業界の魅力を引き出すために絶対に活かせるはず。
たとえば地方の伝統工芸や観光振興など、「職人さんが話す思想を、ちゃんと翻訳して形にできる」という僕たちのPR・クリエイティブの感覚は、他業界にとっても大きな価値になるはずです。それが巡り巡って、デザイナーたちのマネタイズの多様化や、新しい文化の地層になっていく。ファッション以外の大手企業からも、すでに「新しい文脈を作ってほしい」と声がかかり始めています。業界の壁を越えるための「渡り船」のような存在になれるよう、ここから新しいPRの形を作り上げていきたいですね。
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