
Image by: FASHIONSNAP

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ラグジュアリーからデザイナーズ、ファストファッション、古着まで、無数の服で溢れる今の時代。生産、消費、情報の流れなどあらゆるもののスピードが加速してゆく中で、揺るぎない魅力や価値を携えた「本当に良い服」とはどのようなものだろうか──ファッションの第一線で活躍するプロたちが持つとっておきの一着についての語りから、“本当に良い服”を見極め、選ぶための真髄を紐解く連載企画「私が思う、本当に良い服」。
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記念すべき第1回のゲストは、「トーガ(TOGA)」デザイナーの古田泰子さん。服作りはもちろん、古着やヴィンテージも知り尽くした同氏が選ぶ、“本当に良い服”とは?
ITEM PROFILE:
「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」1994年秋冬コレクションで初登場したPコート。「人形のワードローブから再現した服(Clothing reproduced from a doll's wardrobe)」をコンセプトに、人形の服をそのまま人間サイズに拡大したようなデザインが特徴。

目次
出会いは、マルジェラが一世を風靡した90年代のパリ
マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)本人がパリでブランドを始めてセンセーショナルなムーブメントを起こしていた1990年代当時、私はラッキーなことにパリに留学していたんです。パリファッションウィークの中でも異質な存在として盛り上がっていたので、彼が何か新しいことをやるたびに見に行っていました。当時、マルジェラがパリのセレクトショップ「レクレルール(L’ECLAIREUR)」で、ウィンドウに白い紙を貼って覆い、そこからモデルが出てくるような形式でコレクションを発表したことがあって、それを見に行った際にこのコートに出会いました。非常に高価だったのですがどうしても欲しくてたまらず、後日、レクレルールかオンワード樫山のショップのどちらかで購入したと記憶しています。



マルタン、川久保玲の忘れられない思い出
当時からマルジェラは、ランウェイショーにもメディアにも一切顔を出しませんでした。だから、ショーの手伝いやインターンに入った学生などからの情報しかなかったのですが、当時彼を実際に見た人たちから、「マルタン・マルジェラは男性で、すごく背が高い」という噂を聞いていたんです。
ある日、当時マルタンが打ち合わせのためによく訪れているという噂があったセレクトショップに行くと、まさにその特徴に当てはまる人がマルジェラの服を大量に持っていて。私はインターンをさせてもらいたかったので、店の外で待ち伏せして、「マルタン・マルジェラですか?」と声を掛けました。そうしたら、「違うよ。でも僕はブランドを始めたときから一緒に働いている人間だよ」と。それで、学生時代に作った作品を送りたいと伝えたら、住所を教えてくれたんです。
後日作品を送ったところ、手書きの手紙で返事がありました。お断りの内容でしたが、「ウェイティングリストには入れておく」というようなことが書かれていて。その手紙は今でも大切に持っています。そういったこともあり、この服には勝手な思い入れがあるんです。

そして、実はこのコートにはもう一つ、忘れられない思い出があります。私が日本に帰国して「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」でアルバイトをしていたときに、川久保玲さんもこのPコートのネイビーを着ているという噂を聞きつけて。「私も持っている!」と思ってすごく嬉しかったのを覚えています。本当は私もネイビーのワンサイズ下が欲しかったんです。
服作りの概念を覆す、驚きの発想力とディテール
この服の凄さは、まず「コンセプト」とその発想力です。「人形の服をそのまま拡大する」というコンセプトのもと、誰もが当たり前に知っているミリタリーウェアとして完成されたデザインの「Pコート」を、当時の概念を覆すような発想で再構築していて。人形の服ならではの狭い肩幅やパフスリーブ、ボタンの数や大きさ、ステッチの太さ、ダーツなどを、徹底的にそのままのバランスで人間の服として再現しています。
ステッチには、通常デニムなどに用いる20番や30番よりもずっと太い、カバン用の8番が使われていると思うのですが、これは普通の服の工場ではなかなか縫えないもので、技術的な開発や挑戦も必要だったかと。そんな風に、普通なら人間の洋服の仕様に置き換えてしまいがちなところを、徹底的に再現しようという確固たる意思を全体から感じます。




しかも、コンセプチュアルで前衛的なデザインであるだけでなく、とても機能的なんです。肩幅をとても小さくしたことで可動域が取れなかったからか、背面にはライダースジャケットのようなアクションプリーツが入っていたり、袖付けも少し上に上げて運動量を確保していたりと、ちゃんと着心地も考えられている。肩パッドと共に入れる「裄綿(ゆきわた)」という芯地も、既製品を使うのが一般的なところ、これは袖の形に合わせてオリジナルで作っていると思います。
さらに、内側のディテールには、ヨーロッパの中世のドレスやコルセットなどに使われるような、身体を縛って中に固定することで美しいシルエットを生み出したり、自分でサイズ調整ができるような紐が取り付けられていて。当時はPコートの肩幅がこんなに狭くてパフスリーブになっていることも、軍物のワークウェアに中世のドレスの要素をドッキングさせるという発想もなかったので、衝撃でした。
一方で背裏の付け方は、バイアスに裁断した生地を輪で取った(背中心に縫い目ができないよう一枚の布で作っていること)、クラシックなメンズの作りなんですよね。最初に見たとき、「ウィメンズの服にこういうメンズの裏地の付け方をしてもいいのか」と気づかされました。そして、この「フレンチ綾(ツイル)」の素材が使われていると、私は「マルジェラだな」と思います。フレンチ綾は、昔の軍物では階級の高い人の服の裏地に使われていた素材。私も好きで最初は自分のコレクションにも使っていたのですが、今はもうコストの問題などで廃盤になりつつあります。当時のマルジェラは、この素材を表地として使った服も作っていました。


デザイナーだけでなく、パタンナーや生産の現場も「こういう作り方をしてもいい」と知っているかどうかで、出来上がるものが全く変わってきます。ルールに縛られず、もっと自由にやっていいんだということを、このマルジェラの服は教えてくれました。ステッチワークにしても、彼がこのコレクションを発表したことで、多くのデザイナーがステッチを単なる縫い代の始末ではなく、デザインの一部として捉えるようになったと思います。
当時のメゾン マルタン マルジェラのコレクションラインは、すべてにおいて挑戦があり、強いコンセプトがあり、ショーでは絶対的な世界観がある。ファッションにおける“三拍子”が揃ったコレクションを毎回発表されていました。
古田泰子が考える、「本当に良い服」の定義
私が惹かれるのは、二つのタイプです。一つは、表面的ではなく、内部の構造からデザインされているもの。もう一つは、そういった理屈は抜きに、ただ作り手の勢いだけで「やりたいこと」がそのままぶつけられている服。この二つの要素が両立しているものが、私にとっては最高の服です。

古田泰子 | Yasuko Furuta
エスモードジャポン/エスモードパリでファッションデザインおよびパターンを学ぶ。1997年、東京を拠点に自身のブランド「トーガ(TOGA)」をスタート。2005年に発表の場をパリへ、2014年にはロンドンへと移す。現在、ショーによる発表を続けるメインコレクション「トーガ」の他、プレコレクション「トーガ プルラ(TOGA PULLA)」、メンズウェア「トーガ ビリリース(TOGA VIRILIS)」、ユニセックスライン「トーガトゥー(TOGA TOO)」を展開している。
title design: Chiaki Sato
最終更新日:
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