第2話からつづく——
故郷を離れ、東京で新生活をスタートさせた古田泰子。入学したエスモードジャポンの尖った同級生たちに刺激を受け、また年上の友人からは「自分の好きなものだけを作っていてはいけない」と気づかされる。ある時クリエイターのコンテストに参加することになり、古田は友人とのユニット名に"聖なる衣"という意味の名をつけた。——「トーガ(TOGA)」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第3話。
・年上の友人から教えられたこと
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エスモードジャポンに入学して、まず驚いたのが最初に行うみんなの自己紹介。「◯◯によく出没しますけど、見かけても声をかけないでください」という子がいたり、みんなものすごく尖っていて個性的。それを見て「よし望むところだ、こういうヤツを待ってたぜ!」みたいな感じでわくわくしました。年齢も16歳から40歳くらいまで幅広くて、外国からの留学生も多い。
エスモードはフランス校のカリキュラムに沿った教育なので、日本の服飾学校とは少し違っていたかと思います。一年目は「総合基礎」で、デザインとパターンと縫製を履修。それから応用服飾史、デッサン、CAD、ジャーナリズムの授業も隔週で。私は特に描くことが好きで、学校に行くのが毎日楽しみでした。
好きなものを描いて作るの繰り返し。でも、たまたま知り合った長谷川さんという年上の友人に「服を作るには、好きなものだけを描いていちゃいけない」ということをよく言われました。メキシコ料理屋でバイトしている彼は、とてもおしゃれで、そしてとても変わっていた。「今、何をしてました?」って電話がかかってきて「音楽を聞いてました」と答えると、「その音楽にはどんな登場人物が出てきて、そこに見える景色は何ですか?」なんて聞いてくる。「ぼーっとしてないで、ちゃんとイメージして聞かないと何の意味もないですよ。街の明かりも、みんなそうです」と言ってガチャッと切られたりして。
『アンダルシアの犬』(ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリによる1920年代のフランス映画)を一緒に見た時には「この目を切るシーン、何だと思いますか?」とか、ずっとこんな調子。服も「好き」以外にも伝えることが必要だと彼に要求されて、それまでこなしていた学校の課題も簡単に描くことができなくなってしまった。何を作ったら人の心に引っかかるのか? 私は何を伝えたくて服を作っているのか?——それが初めて自分に向けられた「問い」だった気がします。
「かわいい」「きれい」だけじゃない服というのを、自分で考え始めていた時期でした。学校が商業的なベースで教えてくれる訓練学校だとすれば、彼は美術論のような視点を教えてくれた人。会話といったら表現論になるので顔を合わせるのも嫌な時期もあったけど、長谷川さんと出会って物の見方が大きく変わったと思います。
・運命の「TOGA」、お蔵入りに
元はといえば「TOGA」は、同級生の友人とのユニット名。ある時、六本木にあったクラブ「ピカソ」の壁画を描いているマーク・ヴィガン(Mark Wigan)というイギリスのアーティストが主催するコンテストが行われることになり、日本のクリエイター志望の若者を、イラストやファッションなどあらゆる分野で募集することになりました。友人の宝島社の知り合いに「応募者が集まらないから、何かやらないか」と言われ、暇だった2人で何か作ってみようかと、5~6体のコレクションを制作。ウールの地の絞り染めで大きな水玉のような模様のボディに、ガーゼの袖がついているというデザインでした。
出展の必要にかられて、2人でブランド名を考えることにしました。寝っ転がりながら応用服飾辞典を眺めて、「どれにしようか?」「短い単語がいいな~」「ブランド名を略されたくないよね、ジザメリとかみたく」なんて具合に。そこで目に飛び込んできた言葉が『トーガ :聖なる衣』。服の原型という意味もあるということで、運命のように感じて即決でした。「トーガでいこう!」。
『トーガ ピクタ:特別な時に着る衣装』『トーガ ビリリース:成人男性が着る服』といったライン展開まで想像ができました。でも、その時のトーガはコンテストの一回限りで、服はオーダーも入ったんですが一旦お蔵入りに。なぜかというと、私はその後すぐに、パリに留学することが決まっていたのです。——第4話につづく
第4話「パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃」は、8月16日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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