第3話からつづく——
エスモードのパリ校に留学した古田泰子。ファッションの本場で学び、自分らしいクリエイションを追求していく日々。ある日「コム デ ギャルソン」のファッションショーを見るチャンスを得て、大きな衝撃を受ける。それまでパリに残る道を模索していた古田だが、即座に「日本に帰ろう」と決意した瞬間だった。——「トーガ(TOGA) 」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第4話。
・差別やひいき、異国で探す自分
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エスモードジャポン3年目に、パリ校に留学しました。授業はすべてフランス語。デザインや創造力を伸ばしていくのはもちろんですが、モードの本場ならではのシミュレーション授業もありました。例えば「もしあなたが、あるメゾンのデザイナーを引き継ぐことになったら?」。蓄積されたアーカイヴを持つメゾンで、自分のアイデンティティをいかに打ち出すか。こういった授業はパリ校で初めて体験する刺激的なものでした。
常に問われるのは「自分が何をしたいのか?」ということ。なんとなく描いたデザイン画を提出すれば、「あなたらしさはどこにあるの?」とすぐに指摘される。コンセプトや伝えたいことがデザインの前提だという自分の中の軸が、どんどんはっきりとしていったように思います。
高田賢三さん、山本耀司さん、川久保玲さん、三宅一生さんといった日本のデザイナーがパリで注目を浴びていて、彼らを尊敬している先生が多く、日本人というだけで優遇されることもあったように思います。課題に対してルールを破った作品を提出しても、他の生徒だったら怒られるところ、自分は褒められたり。それは日本に対する特別な意識なのか、あるいは単に私がすごかったのか(笑)。
一方であからさまなひいきをする先生も少なくなくて、日本みたいにみんな平等に優しく教えてくれるわけじゃない。私も差別を経験したし、自分の日本人というアイデンティティを強く感じさせられた2年半でした。
パターンの先生は途中から話をしてくれなくなり、その理由も分からない。目の前で「おはようございます」と挨拶しても無視。でも卒業制作発表で、先生方の前でプレゼンテーションした際、その先生が最後に一言「頑張ったわね」と言ってくれたんです。もう色々な想いが混ざって泣きました。その時に制作したのは、トラッドな素材をベースに「解体」を表現した作品。今の作風にも通じるところがあると思います。
・ヘルムート ラングとギャルソンの衝撃
フランスでは休日も多いので、学校の課題を提出して休みになるたびに、思い切り遊びました。ノルマンディーやリールといった田舎町に行ったり。バスツアーのパーティーにも参加しました。貸切のマイクロバスなんですが、途中のトイレ休憩で誰かがバスに乗り損ねていても平気で出発しちゃう。誰も大騒ぎしないし「しょうがないよね」みたいな。フランス人のいい加減さとおおらかさ、個人主義は、割と性に合っていました。
ファッションショーに関わるフィッターなどのアルバイトも、積極的にやりました。なんとかしてショーの裏側が見たくて、舞台裏のメイクルームの窓から忍び込んだり、あの手この手で潜入したことも。
印象的だったのは「ヘルムート ラング(Helmut Lang)」のショー。メンズとウィメンズをミックスしたコレクションで、当時には珍しくジェンダーレスで男女が同じものを着て、とにかくモデルが早歩き。服は少しずつディテールが変わっていく。初めてミニマルなデザイン展開のコレクションを見て、感動しました。
卒業後はそのままパリに残りたいと思い、アルバイトを続けていました。でもある時、アシスタントをしていたデザイナーが、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のショーの席を手配してくれて。コレクションを目の当たりにしたら「こんなすごい服を作っている人の下で働きたい!」と胸を衝かれてしまった。すぐに日本に帰ろうと思いました。
後日「ギャルソンに入るため、日本に帰りたい」とその方に伝えたら、給料を倍にするからと引き止められて。でも、お金じゃなかったんです。最後は彼も「そこまで言うならわかった。応援しているから」と、背中を押してくれました。——第5話につづく
第5話「衣装デザイナーとしての活動、そして挫折」は、8月17日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP.COM
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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