「その人にあった着こなし方で着てもらえるのが1番嬉しいです」と語るのは「リト ストラクチャー(rito structure)」のディレクター 嶋川美也子。自由自在に組み合わせが楽しめるシグネチャーシリーズ「コネクティッド ライン(Connected Line)」をはじめ、日々のスタイリングに取り入れやすいアイテムを展開し、国内外のマーケットで着実に成長を続けている。昨年「リト(Rito)」からブランド名を改め、リブランディングしてから約1年。独自のアプローチで生み出されるリト ストラクチャーのクリエイションを紐解く。
嶋川美也子
繊維商社のスタイレム瀧定大阪で16年間テキスタイルデザイン事業に携わった後、2016年秋冬シーズンに「リト(Rito)」をスタート。2019年には「Rakuten Fashion Week TOKYO」への初参加を果たした。2022年春夏シーズンのリブランディングに伴い、ブランド名を「リト ストラクチャー(rito structure)」に変更。「感覚を共に構築する」をコンセプトに、機能的でミニマルなデザインのアイテムを展開している。
シーズンを追うごとにアップデートし続ける服
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ーリブランディングから約1年が経ちました。この1年を振り返っていかがですか?
リブランディング以降、売上は順調に伸長していて今まで以上に多くの方々に見ていただけるようになったなという実感があります。「エッセンス(SSENSE)」などを通じて海外の売上が好調で、特に韓国での評判が良いですね。リブランディング前から知ってくださっている方からの反響としては、「リトの頃よりも更にミニマルで洗練された印象。すごく素敵ですね」と言って頂くこともあり、とても嬉しく思っています。
ー海外で好調な要因をどのように捉えていますか?
シンプルなデザインにワンポイントのアクセントを取り入れるなど、人を選ばないデザインが受け入れられているのではないでしょうか。またエッセンスなどの海外ECでは、女性らしいデザインのアイテムを男性の方が購入する傾向にあります。
ーリト ストラクチャーの主な購買層は?
ウィメンズは30代を中心に、20代や40代の方にも購入して頂いています。メンズは、もう少し若い方も購入されている印象です。
ー売れ筋アイテムは何ですか?
定番アイテムとして販売しているシャツやジャケットは好調ですね。シーズンごとに素材を変えたり、コンセプトに合わせたディテールを取り入れたりと、少しずつデザインを変えながら展開しています。
あとは、ブランドのシグネチャーアイテムである「コネクティッド ライン」も人気アイテムのひとつ。ボタンホールと紐で他のアイテムとドッキングすることで様々な着こなしを楽しんで頂けるシリーズで、リブランディング前から展開しているブランドを象徴するアイテムです。2022年春夏コレクションで登場したコネクティッド ラインのシャツは、中に取り外し可能なキャミソールドレスをレイヤードしています。紐をギュッと結んでシルエットの変化を楽しむことができるほか、上のシャツを単体で着てもらうとマニッシュな雰囲気のスタイリングになります。
2022年春夏コレクションで発表した「コネクティッド ライン」のシャツ
Image by: FASHIONSNAP
ーコネクティッド ラインを開発したきっかけは?
元々は私自身がレイヤードが好きだったことがきっかけですが、やはり着る人に日々のコーディネートをもっと楽しんで欲しいという思いが大きかったですね。今では各シーズンで最低1型、多くて3型程度のコネクティッド ラインのアイテムを展開しています。
ーコネクティッド ラインのおすすめの着こなし方はありますか?
私の中で「絶対こう着て欲しい」といった思いは全然なくて。その人にとって最適な着こなし方を見つけて着てもらえたら嬉しいです。
ー現在、渋谷パルコにリミテッドショップも出店していますね。
はい、8月から10月までの約2ヶ月間にわたり営業しています。ブランド設立以来、1週間以上のポップアップは開催したことがなかったので、ブランドにとって初の試みとなります。リト ストラクチャーの服は素材にすごくこだわっているので、実際に見ていただいたり、自分の体に沿わせてもらわないとわからない部分も多いんです。コロナ禍で実際にアイテムを見てもらえる機会が減ってしまっていたので、今年はリミテッドショップなど様々な形でアイテムに触れていただく機会を作っていけたらと考えています。
ーリミテッドショップではコネクティッド ラインも展開していますね。
コネクティッド ラインをはじめ、毎シーズン人気のジャケットや、ダッフルコート、ダウンジャケットといったアウターなど、2022年プレフォールコレクションと2022年秋冬コレクションのアイテムを中心にラインナップしています。9月には韓国出身の刺繍アーティストのユ・ソラ(YU SORA)さんとのコラボレーションアイテムも発売予定です。
ーソラさんとはどういった経緯でコラボに至ったのでしょうか?
横浜に住んでいるのですが、馬車道を歩いていた時にたまたま「BankART」というアートスペースで若手作家の個展が開催されていて、そこでソラさんの作品を初めて拝見しました。ソラさんの世界観にとても感動して、私からラブコールを送ったんです。コラボアイテムの製作では彼女と話し合いを重ね、カットワークの部分に極細の黒のステッチを入れたり、ブランドのコンセプトを刺繍で表現するなど、これまでのリトにはない新しいデザインに挑戦しています。コロナ禍ということもあり、直接お客様と関わる機会も減っていたので、どんな方たちが来てくださって、リト ストラクチャーのアイテムを見てくれるのか、とても楽しみです。
着方は委ねる、着る人の存在を邪魔しない
ーリト ストラクチャーでは「プロダクトデザインとしての衣服」をコンセプトに掲げています。
私自身、建築やインテリアが好きということもあり、それらのクリエイションは服作りの根底で意識している部分です。ヴィジュアルの美しさだけでなく、建築や家具のように丈夫で人々に安心感を与えるアイテムをこのブランドでも作っていきたいというシンプルな思いがあります。
私の好きな家具にイタリアの建築家のカルロ・モリーノ(Carlo Mollino)が手掛けた「ザノッタ(Zanotta)」のガラステーブルがあるのですが、そのテーブルは女性の背骨をデザインのコンセプトにしていて。シンプルでかっこいいヴィジュアルの裏には確固たるコンセプトや背景がある。リト ストラクチャーでもそうしたモノづくりにおける物語を大切にしていきたいです。
ー建築とファッション、ジャンルは違えどクリエイションに通ずる部分があるんですね。
そうですね。私自身、プリツカー賞を受賞した建築家 アレハンドロ・アラヴェナ(Alejandro Aravena)の「建物は建てた人間が決めるのではなく、居住者に託す」という考えに非常に影響を受けています。リブランディング前から「着方は委ねる」という考え方は変わっておらず、だからこそ自由な組み合わせができるコネクティッド ラインを製作したり、シンプルなアイテムを好きなように着てもらうといったことに重きを置いています。着る人自身が愛着を持って、長く着てもらえるアイテムを作ることが重要であると感じています。
ーデザイン過程において意識していることは?
単にシンプルなだけでは面白くないので、ミニマルなデザインの中に様々なアクセントを散りばめています。通常よりも大胆なカッティングを施したり、畳んだ時も美しい佇まいとなるよう計算してタックを入れてみたり。
ー服を畳んだ後のことまでをデザインに織り込む。
そうですね。例えば襟が前にきているパーカは、畳んだ時にフードの部分が後ろにいかないので、まっすぐ畳める仕様になっています。そもそも襟元が前にあるデザインが魅力的だと思って取り入れた訳ですが、ある日お客さんが「畳んだ時のシルエットが美しい」と仰っていて、そういった着眼点もあるのかと気付かされたんです。
ー建築や家具のほかにも、デザインの要素となるものはありますか?
例えば建築作品を解説した書籍に書かれた文章など、自分が目にした"言葉の断片"からアイデアを構築していくことは多いです。2022年秋冬コレクションのテーマである「Self-Shaping」は、ドイツの「ウーアバッハタワー(Urbach Tower)」という木をしならせた建築との出会いがきっかけでした。高さが14mもあるのですが、水分量などすべて計算してしならせた木を組み立てたそうなんです。「木」というキーワードを起点に、素材選びやデザインのアイデアを膨らませていき、木をイメージしたジャカードをデザインに取り入れたり、しなりをイメージしてアイテムに切り込みを入れたりといったアプローチを試みました。
ー言語という記号から服のデザインへと昇華させていくのですね。
時々、「デザイン画を見せてもらえませんか?」と言われる場面があるのですが、私のノートにはそういったものは全然なくて(笑)。デザインの多くは言語から構築しているので、いわゆるファッションデザイナーの方が描かれているようなデザイン画はほとんどありません。ノートには琴線に触れた現代アーティストの言葉のほか、各シーズンのコンセプトに合わせて作る糸や生地に関するメモ、自分がいつか使いたい糸のことや生産者の方のお名前なども書き留めていますね。
ー長年テキスタイルデザインを追求してきた嶋川さんにとって、テキスタイルの魅力は何でしょうか?
テキスタイルは料理と同じで過程がすごく重要。最初の原料選びや撚糸の回数で服のシルエットがかなり変わるんです。どの段階で、どのように手を加えるかによって、「ハリのあるシルエットにするのか、落ち感のあるシルエットにするのか」「清涼感を出すのか、温かみを加えるのか」といった違いを生み出すことが可能なのは非常に面白いです。20年ほどテキスタイルに携わっていますが、終わりのない探究が続いています。そんな奥深い世界はとても魅力的です。
リブランディング後初の東コレ参加へ
ーリブランディング後初めて東京ファッションウィーク「Rakuten Fashion Week TOKYO」に参加し、8月29日に新作の2023年春夏コレクションを発表します。
リブランディングしてから大々的にお披露目する場を設けていなかったので、もう一度ブランドを再認識してもらうために参加を決めました。今回はショーではなく、「"Weave a Time 〜時を紡ぐ〜"」をテーマに制作した映像作品の形式で披露する予定です。映像には、その時々の事柄を普遍的なものにしたいという思いを込めました。
ー2023年春夏コレクションの特徴は?
「昔のものを大切にする」「過去のものを集めて新しいものを作り上げる」といった時間軸を意識したコレクションで、ディテールには「集める」「重ねる」といったデザイン要素を落とし込んでいます。個々のアイテムとしても着用できるし、複数のアイテムを組み合わせて着用することもできる、そういったプロダクト的な考えを今回も反映しました。今シーズンはアイテムの収納性を高めたデザインのアイテムも新たに登場します。コネクティッド ラインのように新たな定番デザインにしていきたいと考えています。
また、「過去のものを集める」という観点では、過去のコレクションでストライプシャツを作った際に余ってしまった生地を細かく切り裂いた糸や、長年お付き合いのある機屋さんが昔から残しておいてくれた糸を用いたアイテムも製作しました。その機屋さんは、私が15年以上前に「すごい素敵だから残しておいてください」と伝えていた糸をそのまま残してくれていて、今回その糸を使ってツイードを作ることができました。
ー機屋さんと築いてきた信頼関係は老舗繊維商社ならではの強みですね。
そうですね。今後も機屋さんと協力しながら、リトストラクチャーのコレクションで残ってしまった素材からツイードを作る取り組みをプロジェクト化して進めていく計画です。
ーサステナブルなモノ作りの姿勢が伺えます。
このプロジェクト以外にも「プラスグリーンプロジェクト(PLUS∞GREEN PROJECT)」(※)の第2弾として、淡路島にある「トゥッティ(TUTTI)」の生育実証の場「スタイレム アグリ ラボ(STYLEM AGRI LABO)」で栽培しているハーブを一部活用して作られたエッセンシャルオイルの販売を予定しています。お香の生産が盛んな淡路島は「香りの街」として知られているのですが、瓦の生産地としても有名で。淡路島の古い瓦を活用して、エッセンシャルオイルと一緒に使えるアロマストーンも作れたらと考えています。
※プラスグリーンプロジェクト:従来廃棄される衣類などのポリエステル繊維を培地としてリサイクルすることで、人々がサステナビリティに親しみを感じるライフスタイルの実現を目指すスタイレム瀧定大阪のプロジェクト。第1弾アイテムとして、ポリエステル繊維をリサイクルした培地「トゥッティ(TUTTI)」を発表した。
ー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
日本だけではなく海外での認知度をさらに高めていきたいと考えています。アメリカやヨーロッパの方々にも、今後はリト ストラクチャーの魅力を伝える機会を増やしていきたいですね。
■リト ストラクチャー:公式オンラインストア
■rito structure LIMITED SHOP
会期:2022年8月11日(木)〜10月10日(月)
所在地:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ 3階
営業時間:11:00〜20:00
※9月9日からは、YU SORAとのコラボアイテムを会場で販売。9月10日にはアーティスト本人が在店し、購入者特典として、アーカイヴ生地で製作したキーホルダーに好きな文字やマークを入れて配付する。
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