ここ一年で古着をよく見るようになった。ひとくちに古着と言ってもいろいろあるが、僕が好きな古着は「見たことのないデザインのもの」で、どこの国で作られたのか、いつの年代のものなのかといったこだわりはない。とにかく自分の目に新鮮に映るデザインが好きだ。時代とともに変化する生活様式に合わせて、必要とされる服のデザインやギミックも変わっていく。そうして消えていった現代には存在しないディテールは、僕にとってしばしば新鮮に映る。
一方で、そういった視点で古着を楽しむようになった結果、今もなお新しい刺激をくれるプロダクトを提案し続けるブランドの偉大さを実感するようになった。過去の作品を見ても、現代においても常に新鮮だと感じるブランドの一つが「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」だ。
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創設者である三宅一生氏が掲げたブランドのコンセプトは「一枚の布」。パリコレクションデビューとなった1973年のランウェイでは、日本の着物や、インドのサリーからインスピレーションを受けた“一枚の布をまとうことで服として成立させる”デザインを発表し、西洋を驚嘆させた。
三宅氏は、シャツやトラウザーズといった既存のフォーマットを現代の感性でアップデートする手法ではなく、一枚の布と向き合った際、“現代ではどんな形状の服が求められているのか?”という原始的な問いからデザインをスタートをするという。三宅氏によるデビューコレクションからデザイナーが複数回交代した今日に至っても、ブランドのデザインの核として欠かせないものとなっているこのアプローチは、「その街で生活する人を考えたときに、どういった機能が求められるか」という視点で設計を行う建築に近いと、建築・街づくりの仕事に携わる僕の目には映る。
イッセイ ミヤケのデザイン性は各年代で高く評価され、アーカイヴ作品では「イカコート」と呼ばれるロングコートや、ポケットがいくつも配されたカーゴボンバージャケット、近年では「バオ バオ イッセイ ミヤケ(BAO BAO ISSEY MIYAKE)」や「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」など、時代を問わず名作を世に送り出している。その中でも僕がひっそりと愛しているB面的名作が、イッセイ ミヤケがブランドの立ち上げ初期から現在も各ラインで取り扱うジャンプスーツだ。
ジャンプスーツ、もといツナギと称される形状の服はさまざまあるが、基本的にトップスとパンツが一体となっているため、埃やゴミが侵入しづらかったり、パンツのウエストを絞るベルトが必要ない合理的な形状から、ワーク、ミリタリー、スポーツ用のウェアとしてしばしば採用されてきた。ヘビーデューティなイメージも相まって、洋服の歴史の中でもファッション着として捉えられるようになるまでに時間がかかったらしい。
イッセイ ミヤケのジャンプスーツの何がいいのかと言えば、デザインが至極スタイリッシュかつモードに昇華されているところだ。僕が所有している1980年代の初期のものは、マオカラーシャツタイプの上半身と、どぎついテーパードがかかったパンツ部という組み合わせで、“三宅節”の効いたディテールがワークウェアのような野暮ったさを感じさせない。腰にはグルカパンツを彷彿とさせる太いベルトがついており、絞ってハイウエストで着用したり、緩めて全体をストンとしたシルエットにしたりと、フレキシブルに表情を変えることができる。裾丈はワンクッション程度の長さで設計されていて、座った際に裾がまくりあがりツンツルテンになることもない。これはスラックスを仕立てる際、一般的には靴下が見えない程度のハーフクッション~ワンクッションの丈感とすることがエレガントとされるドレスのセオリーに通じる部分なのでは、と思う。もともと泥臭いイメージのあるジャンプスーツを、現代のファッション着として座った際の美しさまで考慮してデザインに昇華した三宅氏の技はあっぱれだと感じる。まさに三宅氏が当時の目線でジャンプスーツを一から構築した衣服だったのだろうと感じ取れるし、同社のデザインコンセプトを大きく反映している名品だ。
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イッセイ ミヤケのプロダクトにはその時々の人の生活や日常を強く意識した要素が含まれるからか、人間の身体のフォルム、そしてその動きに着目して作られているものが多い。2013年に立ち上がった「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」では「現代を生きる男性のための日常着」をテーマに、イージーケアかつ高いストレッチ性が特徴のプリーツウェアを発表しているが、それまでプリーツは女性らしいものと考えていた僕にとってそれはそれは新鮮に映り、またその着心地の快適さから何着か愛用している。
近年は新型コロナウイルスの流行をはじめ、世相が大きく転換するような出来事が多く発生している。そのパラダイムシフトの中で人々の生活様式が大きく揺れ動く時代にこそ、イッセイ ミヤケのクリエイティビティは本領発揮をするだろう。混沌としたこの現代をどう読み取り、咀嚼し、アウトプットするのか。この先も進化し続けるであろう同社のクリエイションに希望を込めたい。
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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