ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”を紹介するコラム連載「sushiのB面コラム」。第5回は、「パズル」や「ハンモック」といったバッグが人気の「ロエベ」から、“ベルト嫌い”の筆者が心を鷲掴みにされたという「フラメンコ ノット ベルト」について語る。
スタイリングにおいて小物に気を使えるようになるということは、ある一定の洒落者の域に達していることの証だと思うようになった。アウターやトップス、パンツなどのファッションにおける基礎中の基礎、インフラ的なアイテムに比べると、スタイリングのスパイス的な意味を果たす小物類は、モノを揃えようとなった際に当然優先順位は下がる。小物類に手を出せるようになるということはクローゼット内のインフラが整い、自分のスタイルが新たなフェーズに突入していることに他ならないはずだ。
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僕も新たなフェーズに突入している感を醸したい、という事で最近は小物類の収集に凝っている。小物といっても色々で、アイウェアやアクセサリー類、時計など様々なジャンルを漁る中で、理想的なモノに出会えないという意味で最も大きな壁にぶち当たったのがベルトだ。特にメンズは選択肢がほぼ無いに等しく、クラシックなものがほとんどで、デザインが効いたものは相当に限られているように感じるが、最近「ロエベ(LOEWE)」で発見した「フラメンコ ノット ベルト」がなんとも痒い所に手が届く名作だったので紹介させてほしい。
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スペインはマドリードにてレザー製品のみを取り扱っていた工房をルーツに持つロエベは、もとよりそのレザーアイテムの品質の高さをウリに100年以上の歴史を築いている。過去には「クロエ(Chloé)」や「ディオール(DIOR)」などの製品の生産を請け負っていたという背景もある。2013年からクリエイティブディレクターに僕自身もファンであるジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が就任してからはクリエイションも一気にモダナイズされ、「ハンモック」や「パズル」など絶大な人気を獲得しているバッグ類がイメージに強く「A面的名作」と言うにふさわしいが、アパレルでもフィッシャーマンデニムなどアイコニックな名作を連発している。
同氏のデザインはユニークでアイキャッチーなものをベースにしながらも、ポップというよりかはどこかに怪しさや艶めかしさが共存し、洗練されたものに昇華されているのが唯一無二だと感じる。ジョナサンが手掛けるロエベは、自身のブランドである「ジェイ・ダブリュー・アンダーソン(JW ANDERSON)」で見せる、どこか悪趣味で、それでいて何度も見返したくなってしまうような中毒性のあるクリエイティビティと、ロエベの持つエレガントでハイエンドなブランドイメージが見事に融合したメゾンの黄金期であると個人的に思っている。
今回紹介するフラメンコ ノット ベルトも、ジョナサンの秀逸なデザインセンスをひしひしと感じる名品なのだが、ベルト選びの何が鬼門だったのかというと、僕はそもそもベルトが嫌いなのだ。バックルは腹部に異物感を与えるし、横から見たときにボディのラインを邪魔することも多い。タックイン時ならまだしもトップスの裾を外に出しておくときは見えもしないくせに、案外いい値段がする。個人的にベルトは不条理だったのだ。一方で、フラメンコ ノット ベルトはバックルがないロープタイプで、シンプルに腰あたりに縛ってウエストに巻く。実はこのベルトは、同社の生産する人気バッグモデルのひとつであるフラメンコ ノット バッグの先端のぽってりとしたノットが特徴的なロープをそっくりそのままデザインに落とし込んだもの。あくまでもバッグの子分的なポジションなのがなんともB面的だ。アイコニックなノットをあしらったデザインは「パンツやスカートのウエストを絞る」という機能性よりも「スタイリングに一癖加える」という装飾性を優先させ、基本的にはトップスの上から縛ることを前提としているためアクセサリーに近い。緩いパンツを縛る機能としてのベルトではなく、見せるためにつけるベルトなのである。
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冒頭で小物を揃えることに凝っていると書いたが、そもそも僕は小物を集めようと思い立った時に、ベルトを揃えるつもりは毛頭なかったほどに“ベルト無精”だった。ところがこのロエベのベルトは、僕がベルトに対して抱いていた気に入らない点を見事にすべて解決するグッドデザインで心を奪い去っていった。以前の連載記事「あがりの服と、あがる服。」で取り上げた「エルメス(HERMÈS)」のサックマリンという鞄も、鞄嫌いの自分にこれなら持ちたい!と思わせる名作だったと紹介したが、フラメンコ ノット ベルトも同様、これならむしろこのベルトが映えるようなスタイリングをしたい、そんな気持ちにさせてくれる名品だと思う。加えて、街でも着けている人をあまり見かけないのもまた良く、他人と被りにくく自分のスタイリングを底上げするには持って来いのアイテムだ。そう確信した僕は以前ロエベの店舗に駆け込んだことがあったが、ベルトながらに4万4000円というそれなりにパンチの効いたお値段に待ったがかかり、いまだに購入に踏み切れていない。僕のスタイリングが新たなフェーズに突入するのはどうやらまだ先の話のようだ。
>>次回は5月31日(火)に公開予定
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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