このほど米投資ファンドのベインキャピタルによる買収が分かったマッシュホールディングスが、それを前に2022年8月期連結決算を発表した。売上高1023億円(前期比14%増)を計上し、初の1000億円を突破。営業利益は98億円だった。新型コロナ感染拡大によるロックダウンや、社会情勢による物流の混乱、円安などさまざまな外的要因によりアパレル各社が厳しい決算を発表する中、同社は既存事業に加えてコロナ禍で立ち上げた新ブランド・新ラインも好調に推移し、ファッション・ビューティ・飲食など全ての事業で増収を達成した。
■マッシュホールディングス 2022年8月期通期実績
売上高:1023億円(前期比14%増)
営業利益:98億円 ※前期比は非公表だが黒字確保
国内・海外の売上高:国内 928億円(同14%増)、海外 103億円(同14%増)
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―コロナ禍に加えて、世界情勢が不安定な1年でしたが、売上高 1023億円と初の1000億円を超えました。2022年8月期通期をどのように総括されますか?
やはり中国の物流ショックのインパクトが大きかったですね。納期が遅れ販売が困難な状況が続いたのですが、その危機に直面しながらも、良い結果が出せたのではないかと思います。
ー上海のロックダウン等によるサプライチェーンの混乱はアパレル各社に大きな打撃を与えました。良い結果への施策は?
実店舗の休業状態が続いた2020年は、倉庫に在庫を抱えていたことからEコマースで販売することができましたが、今回は物流が止まって商品が手元にない状況でした。でも店舗、ECともに休業するわけにはいきませんよね。今あるものをどう売るか、その努力をしたということです。細かいことではありますが、商品MDの変更や店頭MDの工夫、さらにはSNSで発信する際の写真の撮り方まで、本当に地道な努力を積み重ねた結果だと思います。
ーその工夫はどういったモノだったのでしょうか?
想定していた商品が手元にない中で、いかにニュース性の高い仕掛けやトピックを作れるか。コラボレーションにはじまり、前期は400以上のニュースリリースを配信しました。常にお客さまに話題を提供し、コミュニケーションを図ったことは売り上げにもつながったと思います。度重なるアクシデントに対する防御能力、臨機応変かつチャレンジングな姿勢により、スタッフの対応能力が大きく飛躍したのではないでしょうか。
ー資材、原料の高騰も大きな問題になりました。多くのブランドが値上げに踏み切っていますが、御社の考えは?
もちろん原料の高騰にも頭を悩ませました。ただやみくもに値上げをするということはしません。人気のある定番商品はなるべく据え置く方針を取りました。一方で季節商材、ディテールにこだわったアイテムに関しては、1点1点の原価率を考慮し、SKU全てを丁寧に精査して適切な価格改定に踏み切りました。
現在大きな社会問題でもある、円安における取り組みも同様です。今までと全く同じ商品に対して「円安になったので値段を上げました」ということは絶対にしません。値上げをする際には、縫製や生地のクオリティなどお客さまが少しでもメリットを感じて頂ける付加価値をいかに商品を通して届けることができるか、それが一番大切なことでしょう。
ーコロナ禍で市場動向が大きく変化し、家中やメンズアイテムなどにフォーカスが当たるようになりました。御社も時代を捉えたブランド展開が奏功しています。
■主な事業の業績
「スナイデル」:前期比38%増、2019年比52%増
「スナイデル ホーム」:同94%増(2020年秋冬デビュー)
「ジェラート ピケ」:同15%増、2019年比72%増
「ジェラート ピケ スリープ」:同107%増(2021年2月デビュー)
「リリー ブラウン」:同22%増(リブランディングによりV字回復)
そうですね。世の中の常識や時代が変わる瞬間を見極め、最適なブランド、アイテムを提供するのは、私たちが得意とするところだと思います。コロナ禍で立ち上げたスナイデル ホームは前期比94%増と伸長しましたし、好調が続くジェラート ピケでは、昨年立ち上げたオンラインと一部店舗で取り扱う寝具ライン「ジェラート ピケ スリープ(gelato pique Sleep)」の売上が同107%増を達成。今年8月にデビューしたペットライン「ジェラート ピケ キャット&ドッグ(GELATO PIQUE CAT&DOG)」は、初日売上が4100万円、約3ヶ月間の売上は1億6000万円を計上し、順調な滑り出しです。先ほどコラボでニュースを、という話をしましたが、ジェラート ピケは1年間で17件のコラボレーションを実施し、コラボだけの売上が約60億を達成しました。
ーメンズ事業も着実に成長しています。
今年立ち上げた新メンズブランド「アウール(AOURE)」は、コロナ禍のビジネスシーンに服装で悩む男性のニーズに上手くハマったように思います。あまりファッションにお金はかけ過ぎずに、上品かつスマートカジュアル、爽やかに見える"ちょうど良い"ファッション。パンツラインは「マルペンサ」を中心に、初速で3000本近く売れたヒットカテゴリーで、シルエットや機能性、シーン問わず着こなせる使い勝手の良さに高く評価を頂いていますね。
そのほかメンズ領域では、ファンがとても多い「バブアー(Barbour)」のライセンス事業にも力を入れていく計画です。
ー2021年8月期の業績が前期比横ばいだったビューティー事業はどうだったのでしょうか?
前期も売上高が同1%増とほぼ横ばいで着地しました。これは大反省ですね。お客さまが面白いと感じて頂ける仕掛けや商品作りに対して、少し保守的になっていたところがあったと思います。
ー組織体制が変わったマッシュビューティーラボの戦略を教えてください。
組織改革ではブランド事業とリテール事業を分離しました。ブランド、EC、PR、店舗、連携を強めながら改革を進めています。例えば、昨年2月に立ち上げた「スナイデル ビューティ(SNIDEL BEAUTY)」は前年比280%増と改革の効果がすぐに現れました。デビューから間もないブランドですが、ベストコスメアワードで71冠達成と高い評価を頂きました。
ービューティー事業において強化している部分は?
PRの強化が要となります。ブランドのフィロソフィーや商品の魅力を言語化するのは非常に重要。言語化ができた上で、それに相応しいヴィジュアルや表現手法をクリエイティブに落とし込む。そうした基本的なこともしっかりと見直しながら、進めていかなければと感じています。
ーファミリーマートとの協業したナチュラルオーガニック処方の新ブランド「ミティア オーガニック(Mitea ORGANIC)」が今年10月にデビュー。オーガニックコスメがコンビニに並ぶことは画期的なことです。初動はいかがですか?
ファミリーマートからお褒めの言葉を頂いており、数値的なデータを見ても合格点に達していると受け止めています。多くの人にオーガニック製品を手に取ってもらいたいといった思いから始まった協業ですが、今後は春夏の新作としてコラボ商品の発売、その後も年に数回の商品の入れ替えを計画しており、売り場の棚が一層華やかになり、より多くのお客さまに楽しんで頂けると思います。
■プロパー消化率
サステナブルの観点から会社全体の目標値は80%。
2022年8月期はセールを含む消化率がファッション全体で86%、その中で高かったのがスナイデルで92.1%。
■EC化率および会員数
EC化率はグループ全体35%。ファッション事業41%、ビューティー事業24%。
会員サービス「MA CARD FOR GO GREEN」の現状の会員数は約512万人。2023年の目標値は600万人。
ー秋冬商戦の足元の状況は?
秋の立ち上がりは順調に推移しています。ただ、売り上げの初速軌道は従来と変わってきているように感じています。これまでは人気商品は発売の初日、2日目に一気に売上を伸ばし、徐々に落ち着くのが常でしたが、今年はじわじわと日を追うごとに伸びている状況で、消費者も慎重になっているのではないかと分析しています。今後は円安という暗い影もあるので、どうなるか先が見据えられない状況です。
ーコロナ第8波が懸念されていますが、今後の見通しをどのように捉えていますか?
第8波に対してはそこまで深刻には受け止めていません。日本の事情とグローバルの事情は勿論異なりますが、日本も徐々に世界基準になっていくだろうと感じています。これからの1年は円安という"恐ろしい魔物"と戦う年になるかと思います。
ー2023年8月期の業績予想と戦略は?
売上高1100億円を目指します。営業利益は、為替が前期と一緒なのであれば恐らく増収増益になる見通しですが、今後の為替の動きがどうなるか不透明なため、あくまで想像の範囲。営業利益に関する予想は現状は出さない方針です。
やはり大きく進捗させなければいけないのはD2C分野とメンズ事業。ニュージーランド発のケアブランド「エコストア(ecostore)」やバブアーといった、ライセンス事業も今後大きな柱にしていこうと考えています。
(聞き手:長岡史織、福崎明子)
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