第8話からつづく——
「トーガ(TOGA)」20周年を記念して東京で凱旋ショーを開催することになった古田泰子。日本を代表するスタイリストの一人、北村道子を迎えたコレクションは注目を集めた。翌年には毎日新聞社が主催する「毎日ファッション大賞」で2度目の大賞に輝くなど、さらなる成長と進化を印象付けている。その裏にあるのは古田のファッションに対する哲学と、社会を変えたいという信念だった。——「TOGA」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第9話。
・デビューから20年、東京に凱旋
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2017年にブランドの創立20周年を迎えて、ロンドンの後に東京の国立新美術館でもショーを開催しました。初めてコレクションにスタイリストを起用したのもこの時。私はいつもスタッフと綿密に話しながら作り上げていくので、ある程度イメージもできあがっていて、自分たちが頭に描いたものをそのまま表現するやり方。するとどうしても思い入れが強く出てしまう。20年を機に、より強くわかりやすく伝えるため、第三者の力を借りるコレクションを試みました。
ロンドンのショーのスタイリングはジョディー・バーンズ(Jodie Barnes)。同じ服でも、着る人、ジェンダー、環境が変わることによって違う形に見せたい、という気持ちだったので、東京では北村道子さんにスタイリングをお願いしました。北村さんは「トーガの服の強さを残し、他は排除して削ぎ落とした方が強く見せられる」とおっしゃって。同じ服でもボタンの外し方一つで違う服に見えてくるんです。プロの力を借りて変化する過程を見て、面白いなあという発見がありました。
・身体を見せるための服をデザインする
以前はトーガについて、「シアトリカル」とか「ドーリー」などと表現されることが多かったと思います。でも徐々に、スポーツとの関わりや、肌の見せ方を意識するようになり、身体性を評価してもらえるようになりました。それはきっと「人が選びたいのは、身にまとう服だけじゃない」と思い始めたから。自分でコントロールできるのは、自分の身体。じゃあその身体を見せるための服を、どのようにデザインできるか。
「なりたい自分になれるよ」とは何かのCMみたいですが、もともとファッションはマイノリティの人たちの意見をいち早く取り入れて、常識だと思っていたことを覆すものだと思っています。なのでいつも「規制されていた枠から出たい」と声を上げている人たちに対して、何かできないかなと考えています。
特にこれからは、ファッション哲学や主義主張を持ち、意思を出していくべきだと思います。これが日本はなかなか実現できていない。政治のシステムもジェンダーギャップもそう。いまだに好きなものを着て働きに行けない女性も多い中で、日本をベースにしているトーガがどういった発信をしていくべきか。
「大量生産できる服」という根底は今も変わりません。ショーのためだけのアイテムではなく、人の手に届くものを作ること。まだまだやりたいことがあります。——第10話(最終回)につづく
最終回「聖なる衣が最期を飾るまで」は、8月22日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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