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分解しては編み直す──ここのがっこう出身デザイナー 林ひかりの破壊と想像の間

Image by: Yuko Kitade

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 2002年生まれ24歳の林ひかりは、ファッション業界の注目を集め始めた若手クリエイターのひとり。Tシャツなどの編み地を地道に解くことで完成する林の作品は、ほつれ、弛んだテキスタイルが柔らかさと破壊的ムードを兼ね備え、独特な雰囲気を宿す。

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 大学在学中に「ここのがっこう(coconogacco)」を受講したことで制作を始め、修了後すぐに「チカ キサダ(Chika Kisada)」の2026年春夏コレクションにコラボレーターとして参加。ファッションクリエイターの発掘とサポートを行う「ファッション・フロンティア・プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」の2025年度グランプリを受賞するなど、少しずつステップアップしている。

 根っからのスポーツ少女だったという同氏は、なぜファッションクリエイターの道を目指すようになったのか。目まぐるしい時代の流れと向き合いながら制作を続ける林の現在地を、リアルな言葉で辿る。

■林ひかり:デザイナー・クリエイター
2002年、神奈川県生まれ。2023年の大学在学中に「ここのがっこう」を受講し、制作を始める。Tシャツやストッキングを“ほぐす”した破壊と創造が表裏一体となった作品が特徴。「チカ キサダ」の2026年春夏コレクションのショーピースとして、Tシャツやドレスなどを制作。2025年10月に自身初の個展を開催した。2025年度「ファッション・フロンティア・プログラム」でグランプリを受賞。

ダブルスクールでここのがっこうにたどり着くまで

──元々は一般的な四年制大学に進学したと伺いました。ファッションは子どもの頃から好きだったんですか?

 私は四人姉妹の三女で、幼い頃から少し大人びた子どもでした。特に、服やアクセサリー、ネイルのような「身につけるもの」へのこだわりが強かったです。だから、高校の制服が本当に嫌いで(笑)。帰り道では、学校から離れるにつれて着崩していくのが日課でした。ただ、よく考えると具体的にどういう系統が好きとか、トレンドに敏感というより、自分が着たいもの・ダサいと思うものがはっきりしていたのかなと。なので、姉たちの影響を受けたこともあまりなくて。

──服飾の道に進もうとは思わなかった?

 高校生までは、水泳、バスケ、ラクロスとゴリゴリの体育会系で、大学進学もスポーツ推薦を検討していたほど。ファッションはあくまでも好きなものの一つで、まさか今のような道に進むとは考えたこともありませんでした。

──スポーツ少女だったんですね。大学在学中に、服飾系の中でも個性的な「ここのがっこう」にはどうやって辿り着いたんですか?

 最終的には4年生の大学でもファッションが学べる学科に進学したのですが、技術的なところを学んでいくうちに、もっと色んな側面が知りたい考えるようになりました。ただ、ダブルスクールができそうな教育機関を探しながら、自分はファッションとどう向き合いたいのか、まだ曖昧なことにも気がついて。リサーチした中から、人との対話や意見交換、制作が地続きで行われるここのがっこうに惹かれました。

──ここのがっこうで特に印象的だった授業や出来事は?

 個人的に合っていたなと思うのは、アイデアや考えをアウトプットする“受け皿”が常にあったことですね。電車の中でぼんやり考えていたことをポロッと話すと、山縣さん(ここのがっこう主宰:山縣良和)や講師の方々、受講者の皆がリアクションをくれるんです。ふとした瞬間に気になったことを取りこぼさずにいられるというか、思考を固めるプロセスを体感できました。

 課題はいつも予想外のものが多くて、つい「なんだこれ」と思っても、取り組んでみると「考えあぐねる楽しさ」が見つかる。印象に残っているのは「100枚のドローイング」。私は長年の“スポーツ精神”が染み付いているので、「100枚やってやる!」と必死に仕上げたんです。ところが、講評では3枚だけ提出した人や数枚を合体させた人もいて、「自分はなんて分かりやすいレールを歩いてきたんだろう」と、いい意味でショックを受けました。それで、アイデアやアプローチはもっと自由でいいんだと、気が楽になったんです。

──“自分の常識”を手放すことは簡単ではないと思うのですが、葛藤はありませんでしたか。

 自分はノーマル過ぎるかもしれないと悩んだこともありました。でも、ここのがっこうで色んな人と話して、たとえネガティブに思える経験にも別の側面を見出せるようになりました。私の制作の大部分を占める「ほぐす」作業は地道で時間もかかりますが、辛いと感じたことはないんです。長年のスポーツ経験で忍耐が鍛えられていたお陰かなと思っています。

Tシャツの“ほぐしレベル”によって変わるデザイン

──林さんの作品は、ストッキングを伝線させたものや、Tシャツを極限までほつれさせた手法が特徴的です。

 最初はストッキングの伝染のディテールが皮膚のたるみのように見えて興味が湧いたんです。同じ時期に、年配の方のシワやたるみのある肌に愛着を感じて、よくドローイングしていたのですが、どこか重なるニュアンスがあると思い、形にしてみようと。

ストッキングを細かく伝線させ、縫い合わせたカーディガン

──どんなところがリンクすると感じましたか?

 年を重ねたり、ふくよかになったりすると、皮膚がたるんだり、肉割れができたりしますが、それってとても人間的な「痕跡」だなと。それから、肉割れって、肌が裂けたような見た目だけではなく、人肌の温かさも感じる。それから、ストッキングの伝線の見た目は破壊的な印象もあるけれど、誰かが履いたものという「余熱」のようなものがあると思っていて。素材としても、ストッキングを伸ばすと自然とバイアスがかかり、柔らかいのに緊張感のあるシルエットが生まれる。そういう二面性がどことなく重なって見えたんです。

──Tシャツをほつれさせる手法を見つけたきっかけは?

 引き続き、人の痕跡や記憶が遺されたものに興味があったのですが、ボロボロにリメイクされたロックTシャツを見て、これを日本人の感性で作ったらどうなるのか試してみたのがきっかけでした。カットしたり破いたりするのではなく、Tシャツの編み地を解いてみたら、柔らかく繊細なテクスチャーや存在と不在のバランスが独特で面白かった。うまくほどけなかったり、破きすぎたりして納得がいくバランスになるまで時間がかかりました。反復的な“ほぐす”手法についても考えを深めていったら、ふと自分が作っているのは“ただ在る”瞬間なのかもと腑に落ちた瞬間があって、「これだ」という作品が完成しました。

──“ただ在る”瞬間とは?

 理路整然とした答えが求められる現代社会で、人に与えられた社会的な役割や評価を剥がした先にある、曖昧な瞬間や美しさを表現したいと思ったんです。Tシャツの輪郭をギリギリ保ちながら編み地を解いていくと、元の機能から解放された新しいものが生まれる。一着の中に、目が詰まっているところとほぐれているところで濃淡が出るのですが、そのグラデーションは制作時の自分の感覚に委ねらるので、ある意味“その時の状態”が表れているとも言えます。

──編み地をほどくというシンプルな手法ですが、デザイン画や下書きなどは用意しますか?それとも即興でしょうか。

 感情や思考のメモ、アイデアとしてドローイングはしますが、基本的に即興です。感覚的なので法則はありませんが、頭の中では“ほぐしレベル”が3段階くらいに分かれていて、ゆるめにほぐすと「1」、生地が詰まっている場合は「3」になります。一着の中でレベルのバランスを調整して、作品の佇まいを決めている感じです。

──ちなみに、“ほどく”ではなく“ほぐす”と言うのは意図的なものなのでしょうか。

 自然とそう言い始めたのですが、目の詰まった生地の緊張感を残しながら、抜け感を調整して糸をほどいているので、なんとなく“ほぐす”がいいのかなと感じています。硬いものを柔らかくしたり、緊張を安らげるニュアンスが合っているなと。

情報消費への抵抗から個展を開催

──「チカ キサダ(Chika Kisada)」の2026年春夏コレクションでは印象的なピースに林さんの作品が取り入れられていました。

 千佳さん(チカ キサダのデザイナー幾左田千佳)がここのがっこうの修了展を見て、連絡をくれたんです。作品についてお話ししたら、次のコレクションで何か作ってみて欲しいと言ってくださって。

──他者との協業は普段の制作とどんな違いがありましたか?

 最初から千佳さんが「ブランドに寄せようとしなくていい」と伝えてくださったので、いつもの制作と大きく変えたところはありません。チカ キサダの世界観やテーマを私の視点で捉えたら何が生まれるか、自分にとっても新鮮で楽しかったですね。

チカ キサダとのコラボピース Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

──去年は初の個展も開催し、活動を活発化させた印象があります。

 ショーに参加させていただいて、知ってくださる方が増えました。それで急に、自分が何をしてるのか、しっかり見せないと流されてしまうと焦りを感じたんです。

──流されてしまう?

 急速な情報社会の中で、「林ひかりの作品はこう」と画一的に語られることへの不安と言いますか。自分が地に足をつけて制作を続けるためにも、早く次の作品を見せないといけない衝動に駆られていました。

 そこで個展向けに作り始めたのが、15メートル程の布を使った作品でした。最初は少なからず、情報消費に対する抵抗感から始まったのですが、時間をかけて布をほぐしていくうちに、そうした他者評価も取り込みながら新たな作品を生み出すというポジティブな感情に変わっていきました。

Image by: Yuko Kitade

──制作の中で、気持ちにも変化が生まれたんですね。個展の概要では、「混沌とした感情」、「触れられず、言葉にできず、空白に沈むもの」、「曖昧で不確かな揺らぎ」といったキーワードが並んでいて、曖昧さを肯定的に捉えようというメッセージに感じました。

 制作を始めた当初の気持ちに向き合いたかったんです。リメイクTシャツに着想して作った初めての作品は、「壊れているのに完成している」曖昧な状態が面白かった。そこから今の自分の思考を編み直したいと考えました。

個展の概要テキスト(抜粋)

車窓から流れていく風景、
スクロールで押し流されていく情報、
無数のイメージと言葉が目の前を通り過ぎる。

生まれて忘れ、浮かんで消える。
掬い取った水が指の隙間から零れ落ちるように、見過ごされた断片は、再び水面を漂い 記憶の底に沈んでゆく。
目まぐるしい社会の中で私たちは何を大切にし、
どんな瞬間を心に残したいと思うのか。
トンネルに入った車窓には、
スマホの電源を落とした黒い画面には、
そこに在るあなたの姿が浮かび上がる。

──個展では、衣類を解体・再構築した作品以外に、空間作品にも挑戦していました。

 日頃から平面的な衣類だけでなく、空間そのものがファッションだと考えていたので大きな作品に挑戦できたのはシンプルに楽しかったです。どこにテンションをかけて吊ったらどう見えるのか、光の入り方や布の重なり具合や透け具合のバランスを見て調整していきました。

 服に近い構造の作品でも、トルソーを使うのか、ハンガーに掛けるのか、平置きにするか、あえて額縁に入れるのか多様な展示方法を試しています。展示空間で見せる方法を考えるのは、自分の作品が持つ立体性を意識するいい経験になりました。

──昨年末には「ファッション・フロンティア・プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM、以下FFP*)」のグランプリを受賞しています。作品について教えてください。

 「Reframing」というテーマで作ったのですが、制作期間中に亡くなった祖母に思いを馳せていました。祖母は私たちが幼い時に織物をよく作ってくれた人で、じっくり織物に向き合う時間はきっと彼女にとって生き生きとした時間だったんだと思います。そして子ども服はすぐに着られなくなってしまい、消費スピードが早い。この二つの時間軸を融合したいと思い制作しました。

 そこで使われなくなった子ども服のTシャツに、祖母が手掛けた織物の柄をプリントしたものをほぐして、大人も着られるくらいのサイズに変形ました。撮影ではふくよかな体型のモデルに着用してもらっています。消費サイクルが早い子ども服に祖母の思い出の時間を重ね、子どもも大人も着られるサイズにすることで、「誰の身体にも属さない形」のドレスとして提案しました。

※デザイナーの中里唯馬と一般社団法人「unisteps」が2021年に設立。ソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)とクリエイティビティ(創造性)を併せ持つ衣服のデザインを具現化できるファッションデザイナーを育成・支援するプログラム

自分の作品を「思考され続けたい」

──林さんの活動はデザイナーとも、アーティストとも言えると思います。ご自身がしっくりくる肩書きは何でしょうか?

 「ファッション」は制作の根底にありますが、自分はいわゆるファッションデザイナーでは無いと思っていて、今はアーティストとデザイナーの中間を行き来している感覚です。活動を続けていく中で、しっくりくる言い方を見つけたいと思っています。

──今後は作品の販売も予定しているのでしょうか。

 個展の開催やアワードを受賞した後、販売について聞かれる機会が増えて嬉しく思っています。ただ、単純に物を作って売りたいわけではないので、制作背景やディテールの意図を伝えられる方法を模索している最中です。

──林さんの今の夢は何ですか?

 漠然とした理想として、自分の作品に対して「思考され続けたい」というのがあります。バズるとか、共感されるとか、そういう消費のされ方ではなく、存在し続けるような作品を作りたいと思っています。

 ただ、今の自分の在り方や作風に対して固執したくないとも思っています。その時々の考えや感覚の曖昧さも肯定したい。衣類や布を“ほぐして”再構築する手法は大切にしながら、インテリアや雑貨、写真や空間作りなど、表現の幅、思考のプロセスについては自由に考え、挑戦したいです。

最終更新日:

■林ひかり:Instagram

平原麻菜実

Manami Hirahara

FASHIONSNAP 編集記者

埼玉県出身。横浜国立大学教育人間科学部人間文化課程卒業後、レコオーランドに入社。国内若手ブランド、国内メーカー、百貨店などの担当を経て、2020年にビューティチームの立ち上げに携わる。ポッドキャストやシューティング、海外コスメレビュー、フレグランス、トップ取材など幅広い観点でファッションとビューティの親和性を探る企画を進行。2025年9月より再びファッションチームに所属。映画、お笑い、ドラマ、K-POP......エンタメ中毒で万年寝不足気味。ラジオはANN派。

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