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「ジル サンダー」不完全のエレガンス 秩序を崩す挑戦

2027年春夏コレクション

文・大杉真心

 「ジル サンダー(JIL SANDER)」のクリエイティブ・ディレクターにシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)が就任して3シーズン目となる2027年春夏コレクション。今季もブランドの歴史が刻まれたミラノ本社でショー形式の発表を行った。前シーズンに敷かれていた温かみのあるブラウンのカーペットはペールグリーンへと変わり、柔らかく落ち着いた空気が漂う。ベロッティが目を向けたのは、ブランドの代名詞である“ミニマリズム”の厳格さをあえて崩し、“不完全さ”の中に美しさを見いだすことだった。

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セラピーのような再構築

 「"完璧さ”というものは、脆いものです。それが永遠に続くことは、ほとんどありません。だからこそ、不完全さにはこれほどの魅力があり、人を惹きつけ、心を誘い、そして躍動感に満ちているのでしょう」とベロッティ。

Image by: JIL SANDER

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 その言葉通り、今季はブランドへのリスペクトを土台にしながら、崩して再構築することに挑んでいる。ブランドに根付く「ユニフォーム」の厳格さの中に柔らかさや遊び心を差し込むことで、新しいジル サンダーの軽やかさが見えてきた。

 「コレクションをつくることは、セラピーに通うようなものです。自分が何を残したいのかを理解するために、いったん物事を解体する。そして、もう一度それらを組み立て直すのです」。

ひねりを効かせたテーラリング

 テーラリングは、ミニマルな佇まいを保ちながらも、随所にひねりを効かせた。シルエットはコクーンのように丸みを帯び、もともと小ぶりな襟はさらにコンパクトに首元へと詰め、ボタンをあえて高い位置に2つ配したオーバーサイズのジャケットや、掛け違えたようにフロントが開いたジャケットなど、見慣れたテーラリング全体のバランスに変化を加えた。

Image by: JIL SANDER

Image by: JIL SANDER

 クラシカルなアーガイルニットもアレンジ。柄部分だけをモヘアに切り替え、生地が引き上げられたような独特の表情を生み出している。

Image by: JIL SANDER

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シワとボリュームがもたらす軽やかさ

 今季の代表的なディテールがシワ加工だ。キャミソールドレスにシースルー素材を波打つシワが出るように重ねて身体を覆うドレスや、トラウザーにプリーツのようなシワを施したピースなど、整ったものをあえて崩した。

Image by: JIL SANDER

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 ブランドの象徴的なアイテムであるシャツも、新たな展開に。抜き襟のオーバーサイズで、バックスタイルに余分な生地をデザインしているものなど、リラックスしたシルエットとなっている。

理想化された日本の風景を崩す

 ニュートラルカラーが続くショーの中盤、鮮やかな色柄が現れた。古い日本画に着想を得た風景で、ベロッティはこれを“理想化された平穏”の象徴として用いている。その風景をプリントしたスカートには、同じイメージを原色やドットで抽象化したニットトップスを合わせた。コレクションノートでは、こうして突然現れる鮮やかな色柄を、スマートフォンに届いた通知が思考の流れを遮る様子に例えている。「一見脈絡のないものに直面してこそ、自分が求めているものがより鮮明に見えてくるのです」とベロッティは語る。

Image by: JIL SANDER

 身体を包み込むようなバルーンドレスは、圧倒的なボリュームと軽やかさを両立させた。ぬいぐるみのようなふわふわした風合いのニットドレスに肩パッドを入れるなど、新鮮な素材使いも見られた。

Image by: JIL SANDER

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新顔のシューズとバッグ

 足元は、ドレスにローファーやフラットシューズを合わせたこれまでから一転、パンプスが中心に。同系色のグレーのストッキングを合わせたヴィンテージ調のスタイルが目立った。

 バッグの新作「フォロ(FORO)」は、裏地をめくって見せられるバイカラーのデザインが特徴的で、閉じればマチのあるトートとしても使用することができる。

“不完全さ”が見直される時代

 ジル サンダーらしいミニマルなシルエットや緻密な仕立てといった軸は保ちながらも、シワや歪みなど意外性を持ち込み、ベロッティらしい遊び心が感じられた。

Image by: JIL SANDER

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 テクノロジーの進歩によって整った美しさがあふれる今、不完全さや人の手にしか生み出せない質感に、あらためて価値を見いだす声も高まっている。今季のジル サンダーは、常にデジタルを通してものを見る私たちに、リアルな質感の豊かさをあらためて気づかせるような問いかけにも感じられた。

Image by: JIL SANDER

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最終更新日:

文・大杉真心

Mami Osugi

ファッションジャーナリスト

文化女子大学(現文化学園大学)でファッションジャーナリズムを専攻、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」記者として海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当。2019年、フェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家を取材。2021年8月に独立後、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。2022年から文化学園大学と文化服装学院の非常勤講師を務める。

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