「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」デザイナーの吉田圭佑
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デビューから7年、吉田圭佑が手掛ける「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」が円熟味を増している。ファッションショーを開けばおしゃれな若者が集い、業界関係者からの支持も厚い。それでも尚「基本自分に自信がないんですよ」と、30歳を迎えた今でも控えめなスタンスは変わらずだ。「個人と社会の接点が見つかったときにファッションになる」と語る同氏のクリエイションはこの7年でどう変化し、これからどこを目指していくのか?
吉田圭佑
1991年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。ここのがっこうとESMOD JAPONの「AMI」でファッションデザインを学び、2015年秋冬シーズンに「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」を立ち上げ。同シーズンで「東京ニューエイジ」の合同ショーに参加し、ランウェイ形式でコレクションを発表した。日向坂46や櫻坂46といったアイドルの衣装デザインなども担当している。
KEISUKEYOSHIDA
2015年秋冬シーズンに「東京ニューエイジ」でデビューコレクションを披露したユニセックスブランド。「明るいのか暗いのかわからない空気と、そこにいる彼らの感情と装い」をコンセプトに服作りを行う。
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ケイスケヨシダが作る言語化できない"なにか"
ー デビューから7年が経ちました。振り返ってみてターニングポイントだと思うシーズンは?
ヒカリエのホールBで赤いライトの中ショーを行った2019-20年秋冬コレクションです。やりたいことが結びついてきたというか。その辺りからブランドの規模も少しずつ大きくなってきて、縫製チームやパタンナーチームとより深く密に仕事をできるようになりましたね。学生時代の卒業コレクションでそのままブランドデビューして、荒削りのままきた感覚がそれまでありましたが、色々な人が関わってくれることで精神的な自覚も芽生え、ブランドとともに自分自身も成長しているという実感があります。
ターニングポイントとなった2019-20年秋冬コレクション
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ー一方で、変化しながらも一貫した軸のようなものを感じます。
軸としてあるのはコレクションへの向き合い方ですかね。コレクションを作り始めるときはすごく楽観的なんですよ。ただ発表の1ヶ月くらい前になると、がくんと心が落ちてしまう瞬間があって(笑)。
ーなぜショー前に落ちこむんですか?
基本自分に自信がないんですよ(笑)。時代を眺めたり、やりたいことに注力すると、宮下公園で開催したショー(このタイミングでメンズからウィメンズにシフト)のときと一緒で、自分は今良いと思って作っているけど、新しいことに挑戦しているからこそ不安が出てきてしまう。見た人がどういう風に感じるかなんてわからないし、色々不安になって追い込まれてしまうんですよね...。例えば今作っている2023年春夏コレクションは、今まで以上にミニマルにしたいなと思っているんです。今の時代は、ニュートラルに人を捉えたいというか普遍性の延長にあるものに惹かれるなと感じていて、それを自分なりの目線でやろうと思ったときに、デザインしすぎてしまわないように考えたりすると、やっぱりストレスだし、ビジネスとしての悩みも少し出てきます。まあでも悩んだ挙句、結局最初に思っていたことをやるので、何グジグジしてんだよって毎回思うんですけどね(笑)。
ー今何人でコレクションを作っているんですか?
縫製師、パタンナーなど計6人で作っていますね。コンセプトから共有して、イメージを膨らませていく最初の段階から6人でやっていて。そのあとスタイリストの正明(井田正明)と信之(井田信之)に入ってもらい広げていく流れです。
ーイメージを伝えてパタンナーが服を作り上げていく「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のような作り方を採用している?
シーズンによるんですけど、最近は少しずつトライしています。特にその手法に挑戦したのが、暗い部屋のシーズン。あのシーズンはものづくりへの意識が変わって、もっと可能性を広げられるんじゃないかと考えたコレクションでした。それは学校のシーズンを作りながら感じたことでもあって。僕は基本ぼんやりしたところから製作を進めていくんですが、自分が何を作りたいかぼんやりしている段階からチームに入ってもらったのはその時期からでした。抽象的な絵を書いたり、デザイン画ではなく言葉やムードボードで質感を伝えて実験してもらったり。僕は製作する上でリサーチを必ず行うんですが、その中で自分の頭の中にない違う角度から放たれた意見やアイデアからムードを拡張し、取り入れていくみたいな、そういう作業はたしかに最近結構していますね。
学校のシーズンと称した2021-22年秋冬コレクション
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ーリサーチとは具体的にどんな作業なんですか?
単純に言えば、脳みそを作る作業です。ただ調べ物をするのがリサーチではなくて、自分が気になっていることについて、そのイメージにつながる服や風景、写真、ムードみたいなものを集めたり、映画を見たり、絵を書いたり、生地に触れたり、生地の柄を作ってみたり、粘土をこねたり、コレクションを作るための準備の全てがリサーチだと思っています。そのリサーチで作った脳みその状態で日常を生きると、「この感じは今考えていることに近いな」とか、テレビのニュースを見たときに「いま社会がこういう状態になっていて、意外と自分が考えている個人的なこともここにつながってくるな」といったような瞬間があって。そこからコレクションのイメージが浮かび上がってくるんです。これは、自分の内面から発露したものがリサーチによって肥大化していって、それと社会との接点を見つけたときにやっと"ファッション"になるという考えがベースにあるからなんですよね。
個人的にコンセプトの段階で明確な言葉にして、これを表現したい、という作り方はあんまり好きじゃない。それでいいなら服を作らず喋ればいいと思うので。言語化できないことを自分の中でなんとか捉えようとする行為が、僕が思うファッションデザイン。その成果としてコレクションができたときには、自分でも新鮮な気持ちになることができますし。
ー内面から生み出される言語化できない"なにか"は時代感と結びつくものですか?
絶対に結びつくと思います。「いまの時代って〇〇だよね」って言っちゃうとすごい簡単なんですけど、世の中そんな単純なものではないですよね? 例えば、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ(Demna)が作った流れを「オーバーサイズが流行っていた時期」とまとめてしまうのは短略的すぎるじゃないですか。なんで人々の心にその表現がフィットしたのか、それこそが本当に大事なことで、一言でまとめず丁寧に分析する必要があると思うんです。あのコレクションも彼が少年期に移住を経験した背景があったり、マルジェラの文脈だったり、スピーディーな時代の流れの中でスローファッションの提案としてのアティチュードもありましたよね。
そして、学生時代に作る作品は、それ以降の自分の作風のための受け皿になるものだと思うんですが、ブランドデビューした後のデザインは半年間での気付きをその器を通して世界を眺めるような作業だと考えていて。だからプロになってからの言語化できない"なにか"は、常に時代と密接な関係でいられると思うんです。
ハルタとの協業で生まれた新たな視点
ー吉田さんは学生時代ファッションに救われたそうですね。
中学生の時、男子校で運動もできないし、学校では窓際にいて、ずっとイケてるやつになりたかったんですよね(笑)。でも高校に入ってファッションを好きになって、ファッションにのめり込んでいくうちに、学校の中のイケてるイケてないがどうでもよくなって。ファッションを通して自分に自信を持つことができたっていうのは、ファッションに救われた部分ですね。
ーその経験があってか、今回製作したハルタとのコラボローファーは税込3万3000円と比較的学生も手に取りやすい価格に設定されています。
そこは意識した部分ですね。前回のコラボでは、メンズのみの展開だったのですが、女性のお客さんからも欲しいという声を多く頂いたので、今回女性の木型で作り、ウィメンズも販売しています。
ー前回と異なる点は?
BLACKは微妙な修正を加えただけですが、DEADBLACKは大幅にアップデートしました。前回はダメージレザーを使ったものでしたが、今回はハルタのガラスレザーの質感を残したままダメージを入れていて。個人的に一番やりたかったことができて、とても満足しています。このほか、ハルタのオリジナルカラーのROTERを新色として追加し、計3色を展開しています。
ーベースはハルタのビジネスシューズだと聞きました。
ローファーを作るからには、学生の頃の記憶を大切にしながら大人も履きたいと思えるようなものにしたいと思って。そんな時にハルタのショールームでこのビジネスシューズが目につきました。シルエットが少し歪んでいて印象的だったので、このビジネスシューズの木型をベースに、ちょっと先を尖らせ、底を厚くすることでモダンに仕上がるのではないかと考えたんです。
あとローファーや制服の着こなしって、美徳や時代感が現れるというか。僕が中高のときは、かかとを踏んでボロボロに履くのがイケていたんです。ただ最初の打ち合わせでボロボロのハルタの靴の写真を参考資料に持って行ったら、一番推奨してない履き方だと言われてしまって(笑)。でもそこから、この質感のかっこよさをダメージ加工で表現しましょうという構想につながったんです。
ー前回の売れ行きはいかがでしたか?
24時間限定の販売でしたが、とても好評でした。ケイスケヨシダとしてこれまであまり出してこなかったベーシックなアイテムでしたが、お客さんに支持されたということで自信につながりましたね。
それもあって次の2023年春夏シーズンは、先ほどお伝えしたようにこれまでよりミニマルに挑戦したいなと考えるようになったんです。自分なりの現代の眼差しの中でニュートラルに人を捉えたいというか、普遍性の延長にあるものに惹かれるこの感覚を表現していきたい。装飾や服のデザインだけで人を表現するのではなくて、もっと環境をデザインするというか、人そのものに近いアウトプットをしたいと考えています。情報量が少ない中で、それでも匂ってきてしまう癖のような部分をどこまで表現できるかというのが、次のシーズンとその次のシーズンに通ずる自分の課題です。
ー次回のコレクションが楽しみです。今後は海外も視野に展開していく?
自分の作品が海外でどういう風に見てもらえるのかは正直とても気になります。先ほどニュートラルという言葉を使いましたが、ケイスケヨシダの表現の中で、眺めている社会は日本だけじゃなくてもっとグローバルにならないといけないという想いは最近ちょっとずつ強くなってきていて。学生時代から、ファッションを通して世界の人の在り方やムードを感じとってきたので、今度は自分がファッションに何を返していけるのか、そういうことに向き合うフェーズに今後はしていきたいですね。
■コラボローファー:販売ページ
※10月11日まで
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