
Image by: FASHIONSNAP

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日々ファッションを中心にさまざまな領域の新世代を取材するFASHIONSNAPが、次代を担うアップカミングな才能にフォーカスする「次世代クリエイター」特集。設立5年以下で独自の世界観を持つ、注目の若手デザイナー2人目としてフィーチャーするのは、2024年に自身のブランド「カカン(KAKAN)」を立ち上げた工藤花観だ。
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ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでファインアートとアクセサリーを専攻し、ミラノでファッションデザインを学んだ彼女が手掛ける服には、相反する要素が美しく共存している。シグネチャーである手紡ぎ糸の「HANDSPAN」シリーズに代表される、有機的で野生的な揺らぎを内包したアートピースのようなニット。その一方で、日常の身体に心地よく寄り添うテーラリングアイテムも支持を集めている。
「TOKYO FASHION AWARD 2026」の受賞や、東京ファッションウィークでの初ランウェイ、バレエ公演「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」の衣装制作など、デビュー3年目ながら着実に歩みを進めるカカン。9月頭に予定されていた2027年春夏シーズンのランウェイショーは、先日、工藤の体調不良で惜しくも中止と発表されたが、引き続きブランドへの期待は高い。「服は『羊水』のように自分を守ってくれる存在」であると同時に、「自分の生き方をアティチュードとして表現するのに一番使いやすいもの」だと語る工藤は今、自身とブランドの現在地をどう見つめているのか。ロンドンやミラノで得た学びから、人の感覚や感情に寄り添い訴えかけるものづくりの背景、彼女が描くブランドの未来像までを紐解く。

「カカン」2026年秋冬コレクションより

■工藤花観 | Kakan Kudo
1998年生まれ、東京都出身。セントラル・セント・マーチンズでファインアートとファッションアクセサリーを学び、生態系に宿る思考と感性の関係性を探究。その後ミラノへ渡り、イスティチュート・マランゴーニでファッションデザインを専攻。ヨウジヤマモト、シャネル、ポーラオルビスなどでの経験を経て、2024年に自身のブランド「カカン」を始動。同年、株式会社フランカを設立した。2025年には「TOKYO FASHION AWARD」に選出。2026年秋冬の東京ファッションウィークで初のランウェイショーを開催した。
目次
アートからファッションへ シャイな自分が選んだ道
── まずは、工藤さんがファッションに興味を持ったきっかけを教えてください。
幼いころから絵を描くことが大好きで、物心ついたときにはいつも色鉛筆と落書き帳を手に絵を描いていました。服を着た人の姿を描くことが多かったので、母は「将来はファッションデザイナーになるのかな」と思っていたそうです。
そこから明確にファッションデザイナーになろうと思ったのは、14歳のとき。地元の図書館で雑誌「モードェモード(MODE et MODE)」を読むのが好きで、いつものように雑誌を開くと、エディ・スリマン(Hedi Slimane)が「サンローラン(SAINT LAURENT)」を手掛けたコレクションに出会いました。ユニセックスでありながら男性にも女性にもそれぞれ異なる色気がある。性差を曖昧にするのではなく、それぞれの魅力を際立たせる表現に衝撃を受けました。

── その当時から現在まで、ご自身にとって「ファッション」はどのような存在ですか?
幼いころから幼稚園や学校に行くのがあまり好きではなかったんです。そんな憂うつな朝でも、洋服を着ておしゃれを楽しむことは、自分の気持ちを少しだけ前向きにしてくれました。だから私にとってファッションは、孤独に寄り添い、背中をそっと押してくれるお守りのようなもの。「戦闘服」や「鎧」のように自分を武装するものというよりは、「羊水」のように優しく包み、守ってくれる存在です。その感覚は昔も今も変わりません。
── 高校卒業後は、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(以下、セントマ)に進学。海外のファッションスクールへの進学を決めた理由は?
国内の美術大学や服飾専門学校も選択肢にはあったのですが、ファッションだけを専門的に学ぶことがデザイナーになるための唯一の道ではないと思い、一般大学に入るための受験勉強をしていました。さまざまな可能性を模索する中、ある大学の交換留学先としてセントマがあることを知り、それを目指そうと親に相談したところ、「同じお金を使うなら、直接海外に行ったほうがいいんじゃないか」と言ってくれて。調べていくうちにカリキュラムにも共感する部分が多く、セントマへの進学を決めました。

メディアへの顔出しをしていない工藤は、「服そのものを通してブランドを伝えることを大切にしたい」と語る。「作り手であると同時に、着る人と同じ目線で純粋に服やおしゃれを好きでいたいと思っています」。
── セントマでは、最初はファインアートを専攻していたそうですね。
ファウンデーションコース(基礎課程)では、先生から私の作品は「ファッションとファインアートの間にある」と言われたんです。イギリスで初めて触れたコンテンポラリーアートやパフォーマンスアートに強く惹かれ、最初はファインアートのクラスに進みました。
実際に学ぶ中で気がついたのは、私は一人で完結する制作よりもいろいろな人とコミュニケーションを取りながら生まれるものにも惹かれるということでした。パフォーマンスアートの道に進むことも悩みましたが、ファッションは自分自身が表現の主体になるより、自分が表現したいものをモデルたちが着て体現してくれる。シャイな私にとっては、その距離感が心地よかったんです。最終的には、自分らしい距離感を保ちながら人と関わることのできる「ファッション」という表現方法が自分には合っていると思い、ファッションの道に進むことを決めました。
── その後、ミラノのイスティチュート・マランゴーニに進学したのはなぜですか?
セントマの基礎課程の後、ファッション科の学士課程への進学も考えました。ただ、経済的に大学院まで進むことは難しいとわかっていたので、学士課程の限られた時間の中では、自分に足りないものと向き合いたいと思いました。当時は、セントマで得た学びを実際の服に落とし込む技術がまだ追いついておらず、このまま進学しても「セントマ卒」という肩書きだけが一人歩きしてしまうと感じたんです。
ロンドンでアートの基礎は学べたので、ファッションデザイナーを志す上で次に自分は何をするべきかを考えました。それなら、自分の強みを活かしたり個性を際立たせたりするために、好きなデザイナーが多かったイタリアに行こうと決めたんです。私がやりたい、生活に寄り添いながらも色気や華やかさがある服作りは、ロンドンよりもイタリアの方が学べる気がしました。
── ミラノでの経験は、ご自身にどのような影響を与えましたか。
本当に行って良かったと思っています。イギリスは多様性があり、文化的に卓越している部分と無頓着な部分、その振れ幅もユニークな魅力だと感じていました。一方でイタリアは日本に似ていて、衣食住すべての豊かさを求め、そのどれもが欠けてはいけないという価値観が生活の中に根差しています。その感覚が自分に合っていましたし、豊かさへの執着は日本以上でした。美意識だけではなく、人間が生きることそのものを肯定し、貪欲に楽しもうとする。そんな価値観に触れながら生活を送ることで、「人生を豊かに彩るとは何なのか」ということをイタリアで学ぶことができました。


「皮膚は感覚器」 化粧品業界での経験が変えたファッション観
── カカンの立ち上げ前には、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」や「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」に加え、ビューティ領域でも経験を積んでいますが、それはなぜですか?
夏休みに一時帰国した際は、日本のファッションブランドでインターンをしていました。その中で、ファッションとは違う世界も見てみたいと思っていたときに、ポーラ・オルビスホールディングスの「ミルク(MIRC)」という研究所で働く機会をいただきました。「美」にまつわる知見を社内外へ発信し、社会に新たな見方や価値を提示することをミッションとする部署です。
そこで得た一番大きな気づきは、「皮膚は身体の中までつながる一番大きな臓器であり、感覚器でもある」ということでした。アートや映画を観て感動したときに鳥肌が立つように、直接触れなくても肌はいろいろなものを感じ取る。それまで私は、ファッションは身体に「輪郭を与えるもの」 だと思っていたのですが、服もまた、肌の延長線上にあるのではないかと考えるようになりました。その経験から化粧品にも興味を持ち、「シャネル(CHANEL)」のビューティ部門でもインターンとして働きました。VMDや出版物に関わる業務、競合リサーチなどのアシスタントを経験したほか、Z世代の視点からの店舗設計やCSRに対する意見をレポートする機会もありました。

工藤は今年、第一子を出産した。
── その経験は、現在の服作りにも繋がっていますか?
すごく繋がっています。そこで「装う」とは単に外見をつくろうことではないということを学びました。先ほどお話しした通り、アートを見て心を揺さぶられることも、服が肌に触れて心地よいと感じることも、身体で受け取る感覚という意味ではつながっている。美しさは、目で見るものだけではなく、身体で感じるものでもあるのだと実感しました。
そして、現場の美容部員の教育やサポートをするエデュケーション部署で出会った方々からも大きな影響を受けました。知性や好奇心があり、自分自身を知ろうとしている。その姿を見て「美しくある」とは、メイクアップや着こなしで外見を整えることだけではなく、内面からにじみ出るものでもあると気づかされました。
同時に、何を美しい、あるいは何を醜いと感じるかにひとつの正解はないことも学びました。完璧さだけではなく、不完全さ中にも美しさはあるのかもしれない。そうした美醜の曖昧さを観察し、「『美しくある』とは何か」に向き合って生きていくこと。それこそが美意識であり、その感覚を服にも映し出したいと思っています。
ニットとテーラリングで紡ぐ、生き方の表現としての服
── カカンは下記のようなブランドメッセージを掲げていますが、クリエイションの根底にある哲学や思いを改めて教えてください。
KAKAN brand message
人は服を纏うとき、作り手の思いに触れる
私は感じている心地よさ、痛みも服にする
“KAKANを着る”
その選択があなたらしく生きるきっかけとなるよう
私は服を作り、それを楽しんでいる
服には、作り手が感じていることや考えていることが表れると思っています。そして、意識していなくても、私にとっての心地よさや痛みが服ににじむと思うんです。シーズンごとのコンセプトやリファレンスとして言葉にできるものだけではなく、そこにあるさまざまな感情や機微が、説明をしなくても、肌を通じてなんとなく届いたらいいなと思っています。
そして、母から譲り受けた服のように、そこに人の思いや記憶があると服は単なる「もの」ではなくなって、取っておきたいと思える。カカンの服も思い出と同じように、着る人にとって残しておきたいものであってほしいです。
── 着る人にとってどんなブランドでありたいですか?
私にとってのファッションがそうであったように、「今日は出かけるのが億劫だな」という日でも、カカンの服を着ることでちょっとだけ頑張れる。友達のように少しだけ背中を押してくれる。そんな、お守りのような存在でありたいです。そして、服は自分の生き方や考えをアティチュードとして表現するのに、良い意味で一番使いやすいものだと思うんです。例えば、流行にとらわれずに自分のスタイルを変えないこともそうですし、もしくは一つのブランドやスタイルだけでなく、時代背景の異なる古着を交えることによって、多様性を受け入れているという姿勢を伝えることもできる。だから、そのうちの一つとして、「カカンを着る」ということが意思を持って選ばれるようなブランドになれたらいいなと思っています。

Image by: KAKAN
── 以前「ファッションデザインは現状に疑問を投げかけ、未来を切り開く力がある」とも話していました。工藤さんは、服を通して何を表現したいと考えていますか。
ココ・シャネルがジャージー素材のドレスを作って女性たちの装いをコルセットから解放したように、かつては当たり前ではなかったものが、今当たり前になっている例がたくさんありますよね。今は「分かりやすさ」をすごく求める時代だからこそ、本質的なものを見失いがちだと感じていて。カカンの手紡ぎ糸のニットは、本当に不思議でいびつなものです。ニットウェアは、一度裁断したら戻せない布帛と違って、ほどいたり、水彩のように色を足したりする自由さがあります。そういった、単純ではない揺らぎや複雑さのあるもののあり方を提案したいと思っています。
── シグネチャーの手紡ぎ糸のハンドニットは、どのようにして生まれたのでしょうか。
イスティチュート・マランゴーニの卒業制作で取り組んだのがきっかけです。インパクトがあるのにすごく軽くて、置いているとぎゅっと縮んでいるけれど、人が着たりハンガーにかけたりすると伸び縮みするといった発見が面白くて。卒業制作の展示で人に見てもらったときのリアクションも良かったので、これをきっかけにブランドを始めようと思いました。


── カカンは「ニット」と「テーラリング」がブランドの軸になっていますが、その理由は?
作家性のある手紡ぎ糸のニットと、私が好きな「ラグネ・キカス(RAGNE KIKAS)」や昔のバーニーズのニットのように、より日常的でありながら色気のあるハイゲージのニットを作りたいと考えていました。それを日常の中で生かすための服として、自然とニット以外のアイテムや、テーラリングが必要になりました。
でも、「ディリジェンスパーラー(DILIGENCE PARLOUR)」を手掛けるフローリストの越智康貴さんが、2026年秋冬のショーについて「ニットからはデザイナー自身の衝動の方向性や知的好奇心が働く領域などの内的なものを、スーツからは社会構造そのものに対する挑戦など外へ向かうものが感じられた」と評してくださったんです。元々意図して区別していたわけではありませんが、感覚的なものを理解してもらうためには「社会性」が必要だとは思っていて。作家性のあるものも、日常の中で人が着る服も、私にとってはどちらもファッションです。「アートなのか、デザインなのか?」と区別したがる論争もありますが、どっちもでいいんじゃないかなと。都会の喧騒の中にも暮らしの営みがあり、草花がある。それと同じように、私にとってそのどちらもを同じ世界で共存させることが自然な景色で、カカンにとってのニットとテーラリングなのだと思います。
── ニットとテーラリング、それぞれにおけるカカンらしさや独自性とは?
手紡ぎのニットは同じ形でも糸の表情が全て異なる一点物なので、アートピースを手軽に日常に取り入れることができる点です。伸縮性があるので、ダウンジャケットの上から着たり、どんな体型の人にもフィットします。縫い目がなく、どこがどう繋がっているのか分からない不思議な構造も魅力の一つだと思います。

ハイゲージのニットは、フォーマルでありながら色気のあるバランスを目指しています。肩肘張らずに着られる着心地の良さにもこだわっていて、肌着や下着の上から直接着ても気持ちのいい獣毛素材を選んでいます。
テーラリングに関しては、私自身がアパレル以外の仕事でミーティングに出るときの、「自分らしくありながら、相手への敬意も表せる服が欲しい」という経験が元になっていて、自分のために作ったのが始まりでした。抜け感やおしゃれさがありつつも、きちんと人前に立てるフォーマルさのあるデザインと、現実的な機能性を大切にしています。電車で座ってもシワになりにくい素材を選んだり、袖口をまくり上げたようなデザインにして、性別や体型を問わず着こなしやすいように工夫しているのが強みです。


初のショーとバレエ衣装制作 動く身体がまとう新たな可能性
── 「TOKYO FASHION AWARD 2026」を受賞し、2026年秋冬シーズンには東京ファッションウィークで初のランウェイショーを開催。初のショーはいかがでしたか?
学生時代も含めて人生で初めてのショーだったので、大きなプレッシャーもあり大変でしたが、とても思い入れのある瞬間になりました。
ショーの後に、展示会に来たあるジャーナリストの方から「言葉で言い表すことは難しい。混沌としていたが、それが良かった」という感想をいただけたことが嬉しかったです。私が目指していることの一つが、例えば現代アートを見て「なんだこれは」と感じたときのように、すぐには言葉にできない感情が、観た人の中に湧き上がることなんです。だから、ほんの少しでも人の感情を動かすことができたのかなと感じました。その後、さまざまなコレクションレポートなどを読み、それぞれの人が異なるものを感じ取り、言葉にしてくださっていることも嬉しかったです。「ちゃんと見てくれている人がいるんだ」と感じられたこと、そして自分の中にあった感覚が、服を通して誰かに届いたと実感できたことは大きな喜びでした。
── 2026年秋冬コレクションのテーマは、「美しさとは野生的な物でもあり、純粋さだけではない」という意味を込めた「WILD, NOT PURE」。何を表現することを目指したのでしょうか。
まず、タイトルの「WILD, NOT PURE」は、厳密には「Beauty is wild, not only pure(美しさとは野生的な側面をを持ち、純粋さだけではない。そして純粋さを否定することでもない。) 」という意味を込めています。このシーズンは、「モデルが手紡ぎのニットコートを脱いで、シンプルなドレス姿で帰っていく」というイメージがまず最初にありました。音楽も、モデルを裸足にすることも決めていました。そこからどうして私はこの表現をしたいのだろう、と自分自身を紐解いていくようにコレクションを設計していきました。なぜそのイメージを実現したいと思ったのかを辿っていくと、例えばカカンのニットは有機物なので「土に還る」ことができるという意味で自然の一部であること。観客もモデルも皆、立場や役割を越えて、服を脱げば裸になり、「ありのままの姿」に還るということ。もしくは脱皮を表現していて、次のステージに向かう覚悟を表したいのだろうか。自分自身に、アイディアの本質を問いかけ続けながらできあがったショーでした。
また、コレクションを作り始めた夏の終わりに妊娠がわかりました。その経験は、妊娠というのは聖母のような清らかさだけでは語れない、もっと「生」そのもののような感覚で、愛おしさと苦しさもあって、ものすごく野性的。今はうまく説明はできないけれど、そういった要素が少しずつ混ざり合う中で生まれたのが、「WILD, NOT PURE」というコレクションです。


── 最近では、バレエ公演「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」の衣装も手掛けていました。
もともとパフォーマンスアートが好きなように、身体と服の関係には関心があって、服は身体が入って初めて生まれる「動きの造形」だと思っています。その時に動く身体と洋服との相性の良さを感じていたので、ぜひ挑戦したいと思ったんです。
── どのようなテーマでデザインしたのでしょうか。
公演と同じく、衣装も「ニュークラシック」がテーマでした。私にとって「ニュークラシック」とは、伝統へのアンチテーゼではなく、受け継がれてきた価値や輪郭を捉えた上で、今だからこそできる新しい表現を加えていくことでした。私が担当した第1幕は、古典バレエの名作から新作までの名場面を組み合わせたガラ公演(さまざまな作品の名場面やハイライトを集めて構成された特別な公演や演奏会) で、7~8着ほどを制作しました。
例えば、「眠れる森の美女」の「ローズ・アダージョ」という演目では、本来16歳のオーロラ姫を、日本を代表するバレエダンサーである中村祥子さんが演じています。少女の清らかさだけではなく、出産を経て、変化する身体と向き合いながら踊り続けてきた今の彼女だからこそ表現できる、成熟した美しい女性像を衣装にすることを目指しました。それぞれの演目のコンセプトとダンサーに向き合いながら、一つひとつデザインを提案していきました。
── 初めての舞台衣装制作を通して、何か気づきはありましたか?
バレエやその歴史に関してリサーチをする中で、長い歴史を持つ芸術は、革新を繰り返すことで伝統として受け継がれていくのだと学びました。そして、一人ひとりのミューズ(ダンサー)に向けて服を作るという意味ではブランドの服作りと通じる部分もあったのですが、制作のプロセスは普段の服作りとは全く違いました。ダンサーは日ごとに身体が変化していくので、劇場内にはミシンを備えた衣装部屋があり、普段からダンサーの身体をよく理解している衣装さん(バレエ衣装を専門に縫製やフィッティング、体型の変化に合わせて細かな調整を担うお針子さん)のお二人が、日々細かな調整を行います。公演期間中は練習段階から毎日現場に入って、例えば「白鳥の湖」の衣装では、オーストリッチの羽根を使用していたので、汗でしぼんだ羽根を乾かしたり、抜けた部分に付け足したりと、公演ごとにケアを重ねていました。

Image by: ©Fukuko Iiyama
デビューから3年、理想の先に見つめるブランドの現在地
── ブランド立ち上げから3年目。現在地をどう捉えていますか?
取り組むべきことはたくさんあると感じています。現在、国内の卸先は10店舗前後ですが、これまで外部のセールスを入れずに自分たちでやってきたので、取り扱っていただいていることへの感謝がありながらも、それぞれの店舗と丁寧にコミュニケーションを取る時間を十分に持てていないことに葛藤があります。MD面もさらにブラッシュアップが必要だと考えています。

── 「TOKYO FASHION AWARD 2026」の受賞でパリでの展示会にも初参加しました。
まだ1年目なので、直接的な手応えはこれからだと思っています。今後のパリの展示会では、まずはバイヤーやスタイリストなど、純粋にカカンを手に取って見て欲しい方々にブランドを知ってもらう機会にしていけたらと思っています。一方で、国内での成長も大切にしたいフェーズです。このアワードの2年間を、その先の海外展開に向けてマーケットを知ったり、一緒に取り組むパートナーと出会ったりするための時間として有意義に使いたいと考えています。
「人生の1本目のリップスティック」のような存在を目指して
── 世界的な不景気や環境問題などもある中で、デザイナーズブランドを続けていくことは簡単ではありません。工藤さんは、生まれ変わっても再びファッションデザイナーをやりたいですか?
私はファッションの可能性と価値を信じています。ファッションを選んだ過程はこれまでお話しした通りで、紆余曲折はありながらも、自分なりに納得し、覚悟と責任を持って今の仕事をしています。不景気や環境問題など、日々の社会変動に直面し、課題を抱えている産業はファッションに限ったことではないと思っています。
実際に業績を伸ばしているブランドもある中で、デザイナーズブランドを一括りにして後ろ向きに捉えるのではなく、そこにどのような可能性があるのかを、一人ひとりが責任を持って考えていく。その小さな積み重ねによって、少しずつ社会は良くなっていくのだと思います。円安や物価高のように今ファッションを楽しむ余裕を持ちにくい状況には、もっと大きな社会の流れや構造が関係しています。でも、それを理由に諦めてしまったら、生まれたばかりの私の子どもがこれから生きていく未来に対しても、無責任だと思うんです。
私は来世ではなく、今を生きる子どもたちの未来のために、誠実に、そして前向きに社会に向き合っていきたいです。そして、1日の始まりに誰もが服を着る。その1着を作るために、私はファッションデザイナーでいたいんです。

── 最後に、今後のブランドの夢や未来像を教えてください。
ショーやバレエ衣装の仕事を通して、「カカン=手紡ぎニットのアート」というイメージが早く浸透した一方で、自分が作りたい日常の服との間に少し葛藤が生まれました。そのため、今後はオートクチュールとプレタポルテを明確に分けて展開していきたいと考えています。
クチュールとしてのカカンの夢は、5年後になるのか10年後になるのか分かりませんが、パリのオートクチュール公式スケジュールで発表するブランドになることが一つの目標です。コンテンポラリーダンスシアターの舞台衣装制作にも興味があります。そして、アートピースがロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などのパーマネント・コレクションに収蔵されるような、タイムレスなものづくりを目指したいです。
一方で、カカンの日常着は、「人生の1本目のリップスティック」のような存在でありたいと思っています。初めて自分のお金で買うリップをシャネルにするのか、ディオールにするのか。それって、女の子にとってとても大切な選択ですよね。鞄の中に1本入っているだけでなんとなく気持ちが嬉しくなったりする。カカンのプレタポルテが日常を少し彩るものとしてはもちろん、人生の大切な節目にも選んでもらえるような1着になれたら嬉しいです。

最終更新日:
■KAKAN:公式サイト/公式Instagram
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