張り子のヨーダとNIGO®
Image by: FASHIONSNAP
「ヨーダには少し憧れのようなものがありますね」とNIGO®。『スター・ウォーズ』の主要キャラクターであり最高位のジェダイ・マスターの姿に、自身を重ねることもあるという。今年、100周年を迎えたウォルト・ディズニー・カンパニーのプロジェクト「Disney Create 100」に抜擢され、NIGO®が着目したのもディズニー傘下のルーカスフィルムによる『スター・ウォーズ』とヨーダだった。その深いつながりにフォーカスしながら、幼少期から現在、そして隠居生活についてまで、ディズニーとヨーダを通して語ってもらった。
「Disney Create 100」とは?
ウォルト・ディズニー・カンパニーが創立100周年を記念して立ち上げたプロジェクト。グローバル・パートナーのほか、ファッション、映画、音楽、アートなどの各分野で活躍するビジョナリーや次世代の才能が、アート作品やアイテム、体験を寄贈。チャリティオークションを通じて、重篤な病気を抱える子供たちの願いをかなえる団体メイク・ア・ウィッシュを支援する。
日本からはNIGO®、吉田ユニ、そしてVERDYが参加。NIGO®は、ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のルーカスフィルムによるSF作品『スター・ウォーズ』のキャラクターからヨーダをセレクトし、等身大の張り子を制作した。オークションは9月26日から10月20日まで入札が行われる。
6歳で手に入れたドナルドダック
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FASHIONSNAP(以下、F):今日はNIGO®さんの私物もお持ちいただいたのですが、こちらは?
NIGO®:僕はスター・ウォーズが好きなんですが、ここ最近でハマった作品のひとつで、『マンダロリアン※』に出てくるボ=カターン・クライズのマスクです。
※『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ。2019年12月にDisney+で配信がスタートし、現在シーズン3まで公開されている。
F:NIGO®さんはヴィンテージコレクターとしても知られているので、この手のプライベートコレクションはたくさんお持ちですよね。
NIGO®:一度、オークションで一気に売ったことがあるんですが※、結局また買い出して増えてきていますね(笑)。
※2015年、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開に合わせ、サザビーズとイーベイの共同で開催されたオークションにNIGO®が参加。プライベートコレクションから、貴重なスター・ウォーズおよび関連グッズ600点超を競売にかけた。
F:コレクターとしての第一歩は幼少の頃だったと聞きました。
NIGO®:まだ小学校に上がる前の6歳くらいですかね。ものをコレクションするという意味で僕が一番最初に手に入れたのが、ドナルドダックのおもちゃでした。プッシュパペットという、底の部分を押すとヘニャっと倒れる人形です。
F:ちょっと懐かしいおもちゃですね。
NIGO®:親にお正月の初売りに連れていってもらった時に、最後に余ったお小遣いの500円で、文房具屋さんの福袋を買ったんです。その中に入っていたんですよ。異国のものに触れたことがなかったのもあって、それがすごくカッコよく見えたんですよね。40年以上経っていますが、今もアトリエに置いてあります。
F:原点と言えますね。ディズニーのキャラクターに触れたのも、その時が初めてなのでしょうか。
NIGO®:おそらくそうだと思います。あとは小学生くらいの頃、ミッキーマウスの刺繍が背中に入ったデニムのベストを着ていたんですが、それをすごく気に入っていて。
F:それこそNIGO®さんのヴィンテージコレクションに通ずるものがありそうです。
NIGO®:たぶん最初は、それがディズニーの何なのかってよく知らなかったと思う。ウルトラマンに惹かれる子もいたし、仮面ライダーが好きな子もいましたけど、僕は子ども心にミッキーマウスというキャラクターが、ただ魅力的だったんだと思います。
F:それでは今「ディズニーのキャラクターで何が好きか」と聞かれると?
NIGO®:やっぱりミッキーマウスかな。不変ですよね。少し前ですが「ヒューマンメイド(HUMAN MADE®︎)」を京都に出店する時に、その建物が文化指定されているアール・デコ調の1928年竣工のビル(名称:1928ビル)で、ミッキーマウスの生まれ年と一緒だと気づいたんですよね。そのつながりで、スクリーンデビューした当時のタッチでミッキーマウスのTシャツを作ったんですが、そのモノクロの感じも好きですね。
F:そういったキャラクターの生みの親であるディズニーについては、どんな印象ですか?
NIGO®:まず、ウォルト・ディズニーという一人の人間の生き方に興味があります。ディズニーランドができるまでのドキュメンタリー映像を見たことがあって、本当にいい意味で子どもというか、発想力がものすごい。僕にとって良いお手本でした。何かを生み出す仕事をしていると、どうしてもフレッシュな発想ができなくなることがあるので。でもまあ自分も、かなり子どもの方だと思いますが。
F:ディズニーは子どもだけではなく大人にも愛されていますね。
NIGO®:誰もが羨むことではないでしょうか。あとは、彼が亡くなってからもその意思を引き継いでいって、今のウォルト・ディズニー・カンパニーが存在するということも。
F:ピクサー、マーベル・スタジオ、ルーカスフィルムといった映画会社も傘下となり、巨大コングロマリットに成長しています。やはりその中でも、スター・ウォーズの作品シリーズについてはNIGO®さんにとって特別ですか?
NIGO®:そうですね。作品を見ていると日本的な部分も感じられたりして、ジョージ・ルーカスが日本の文化から影響を受けているのかなと想像したり。ディズニーの傘下になってからも、そういったルーカスのコンセプトが尊重されているというか、より力を増している感覚があります。ドラマシリーズの『マンダロリアン』もそうですが、小説でしか読んだことがなかったようなストーリーがリアルな映像として表現されていて、のめり込んでいます。
ダコバ星とヨーダへの憧れ
F:今年ディズニーが創立100周年ということで、それを記念したグローバルプロジェクト「Disney Create 100」に、参加クリエイターの一人としてNIGO®さんが抜擢されました。
NIGO®:オファーは嬉しかったですね。やはり好きなので、やるしかないというか。わからないものには手を出したくないので。
F:プロジェクトでは、クリエイターがチャリティオークションに出品するものを制作します。その題材としてNIGO®さんがヨーダを選んだ理由は?
NIGO®:少し憧れというか、スター・ウォーズのストーリーの中でヨーダが一時期、ダコバという小さな星で隠居して、静かに生活していた感じが好きなんです。僕も自分の会社とブランドを売った時に一度、すごく小さなオフィスを借りて、半ば引退のような気持ちで過ごしていた時期があって。その場所を個人的に「ダコバ」と呼んでいました。今はまた、元のような忙しい生活に戻ってきてはいるんですが。
F:どこか自身と重なる部分があるんですね。それで今回、制作したのが張り子のヨーダ。等身大で、かなり精巧に作られています。
NIGO®:フィギュアとかもそうですが、まずライフサイズ(=等身大)が好きで惹かれるんですよ。ただ、ライフサイズのヨーダって公式ではぬいぐるみくらいじゃないかな。なので作りたいと思ったのと、作るなら日本の技術でと考えて、最初は陶器で作るという案もありました。今自分が陶芸にハマっているのもあって。
F:ヨーダの身長が66センチなので、工芸品としてはかなり大きなものになりますね。
NIGO®:その大きさとスケジュール的に陶器は難しいということがわかり、であれば張り子にしよう、となりました。僕の出身の群馬は「高崎だるま」が有名で、その技術を使ってヒューマンメイドでも張り子のカモなどを継続的に展開しています。今回のヨーダも僕がディレクションし、3ヶ月ほどかけて職人さんに作って頂いたんですが、本当に素晴らしい仕上がりで。造形も色も、ほぼ一発OKでしたね。
F:張り子というのがわからないほどリアルです。オークション販売なので、価格設定もNIGO®さんが?
NIGO®:はい。最初は25(=ニゴー)ドルから。開始価格としてはかなり低いですけど、ディズニーと一緒に夢を与えられたらと。
僕を「踏み台」に
F:「Disney Create 100」は、「伝統と変革」というテーマが含まれているとのことで、NIGO®さんの「未来は過去にある」という考え方と通ずる部分もありそうです。
NIGO®:まさに「ケンゾー(KENZO)」のアーティスティック・ディレクターの仕事はそれに重なりますね。高田賢三さんのアーカイヴへのリスペクトを忘れることはありませんし、それをいかにして変えていくかを考えながら、もの作りをしています。伝統のあるブランドに新しさをもたらしていくことは、挑戦でもありますね。
F:大きなやりがいがありそうです。
NIGO®:同時に重さも感じていましたが、今は少しずつ楽しめてきています。いずれにしても、まず型をしっかりわかってからじゃないと、変えたり崩すことができません。ただ好きなだけでは浅くなり、本物ではないと見破られる。なので常に学ぶことは大事だと感じています。
F:実際にパリのメゾンというファッションの中心地に身を置いてみて、何か変わってきていると感じることはありますか?
NIGO®:ラグジュアリーとストリートが一本化しているような状態は続いていますね。あとは、これだけ世の中に娯楽やカルチャーが溢れている中で、ただ服だけを作っていたら世界や視野が狭いと受け取られることもあり、広く発信できる人が重要という考え方もあります。でも一方では、いわゆる"デザイナー"ではなく"ディレクター"が持て囃されることで、王道を作れる人が少なくなってきているかもしれない。そんな複雑な思いもあったんですが、先日の「LVMHプライズ」の審査に参加した時に、ちょっと流れが変わってきているかもという感覚がありました。
F:「セッチュウ(SETHU)」のデザイナー桑田悟史さんがグランプリに輝いたファッションコンテストですね。
NIGO®:はい。彼を筆頭にして、ファイナリストたちが皆いい意味でヤバかったんです。しっかりと真面目に、自身の服作りをとことん突き詰めてきたことが滲み出ているというか、彼らは本当の意味で"デザイナー"でしたね。
F:今回の「Disney Create 100」も、次世代に向けた若手クリエイターを応援する取り組みが用意されています。
NIGO®:よい取り組みだと思います。僕は「踏み台」と言われたりもしますが、自分が紹介したり一緒に仕事をしたり、そういう人たちがどんどん活躍していくのが嬉しいんですよね。例えばKAWSなども、元々はただ友達として絵を買っていましたけど、今や先生と呼ばれるほど大物ですから。
F:そのKAWSも、ファッションと接点を持つようになったのは、最初にコラボしたNIGO®さんがきっかけですよね。
NIGO®:アートとファッション、畑が違うという先入観は全く無くて。他のジャンルもそうですね。僕らがそういう最初の世代なのかもしれない。
トキワ荘を作りたい
F:今回のプロジェクトで、NIGO®さんは次世代アーティスト枠としてグラフィックアーティストのVERDYさんを推薦されたとのことですが、その理由は?
NIGO®:次世代では影響力がダントツなので、彼しかいないと思いました。勢いがある今、ディズニーをテーマに何を作るかを見てみたい、というのも理由ですね。人としてどうかという部分も大事で、彼は柔軟なんです。それでいてアグレッシブさもある。
F:先日パリで発表したケンゾーの2024年春夏コレクションでも、グラフィックデザインでVERDYさんを起用していました。
NIGO®:よく一緒に話をするんですが、ちょっと自分と重なる部分もあるというか。一昔前だと海外から来日した人がみんな僕のところに来るような感じでしたが、今その役目は彼になってきています。基本的に僕は、あまり人に会わないですしね。
F:昨年、アップル(Apple)のティム・クック(Tim Cook)CEOが来日した時にもVERDYさんを訪ねていましたね。
NIGO®:中目黒にオフィスを構えていた建物をシェアオフィスに変えまして、そこにVERDYくんが入っているんですよ。あとはダブルタップスの西山徹くんと、ユニクロ「UT」のクリエイティブディレクターもやっている河村康輔くん、そして僕がアトリエを持っている形。いわゆる「トキワ荘(※)」を作りたくて。
※トキワ荘=手塚治虫、藤子不二雄(A)、藤子・F・不二雄、赤塚不二夫といったマンガ家が下積み時代を過ごしたアパート。
F:60〜70年代の原宿に集まったマンションメーカー(=マンションの一室をアトリエにしたデザイナーズブランド)のようでもありますね。
NIGO®:同じような雰囲気が、裏原系の聡明期だった90年代にもありました。みんなの事務所が近所にあって、何のアポもなくふらっと立ち寄ってたわいもない話をして、遊びながら色々な面白いことが生まれていったという。自然とみんなが切磋琢磨して、それぞれ伸びていったんだと思います。
F:NIGO®さんは、現代の若いデザイナーやクリエイターたちに、どんなことに挑戦してもらいたいと思いますか?
NIGO®:どこを目指すかというのもあるとは思いますが、やはり外に出ていくことですかね。出て行きたいと思ってもらいたい。今は自分自身でメディアを持つことができて、SNSである程度のフォロワーがいたら成り立つ時代でもありますが、それって広いようでいて小さい世界に感じます。僕の場合は元々アメリカをゴールとしていて、でもそれがスタートになっちゃった部分もあるんですが。
F:そういう意味では、世界における今のNIGO®さんの地位や活躍は夢があります。
NIGO®:日本人でもこういうことができるんだっていうような、サンプルに自分がなれればいいですね。広い世界に出ずに、自己満足のレベルで終わってしまってはもったいないクリエイターがたくさんいると思います。ものづくりの技術やクリエイティブな部分では、日本はまだまだ注目されていると思うので。
今もし何でも叶うなら
F:ヴィンテージやアンティークに造詣の深いNIGO®さんが考える、100年残るプロダクトってどんなものだと思いますか? 例えば、100年前のリーバイスのジーンズに感じるロマンとは一体なんなのか。
NIGO®:リーバイスもミッキーマウスもそうですが、意外と形を変えていないですよね。ある時点から全く変わっていないっていうのがすごい。それで100年飯を食っていけるということは、もう1000年2000年もいけそうな雰囲気さえありますし。
F:本当の意味の不変ですね。
NIGO®:でも日本文化を知ると、100年というのは短くも感じます。1000年以上の老舗がたくさんありますから。長く続くことはベストだと思いますが、実際には難しいでしょうね。後継者で考え方も変わっていくだろうし。物としては変わらずに受け継がれても、企業としては時代によって変わっていって良いんだろうなとは思います。
F:最後になりますが、NIGO®さんが叶えたい夢はありますか?
NIGO®:僕は子どもの頃、夢がなかったんですよね。「将来何になりたいか」とか、全然答えられなかった。でも、今もし何でも叶うなら、時間が欲しいかな。1日48時間とか。やりたいことがあり過ぎて、時間が足りな過ぎるので。
F:世界中を飛び回って多忙な日々だと思いますが、本当にやりたいことはまだまだあると。
NIGO®:忙しいばかりではなくて、合間を縫って好きなことはしていますよ。山口や三重とか、日本の色々なところに行って陶芸をして過ごしたり。茶道を習ったり。そういう時は、しばらくスマホも見ないです。
F:対極にある生活も必要なのかもしれません。
NIGO®:陶芸をやりながら、日本の文化を受け継ぐ人が減っているのはもったいないなとか、自分の人生はあと何年あるんだろうとか、色々と考えるんです。「真剣にやらなきゃ」と思い直したりして。
F:修行しながら人生について考える時間でもあるんですね。だんだんとヨーダに近づいているような。
NIGO®:そうかもしれませんね(笑)。
聞き手:小湊千恵美
■Disney Create 100 オークション
開催期間:2023年10月12日〜30日
US https://us.disneycreate100.givergy.com/us
JAPAN https://au.disneycreate100.givergy.com/jp
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