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お目当ては試合だけじゃない 100万円のVIP席も人気、スポーツ観戦の新常識

文・五十君花実

Bリーグ・アルバルク東京の本拠地TOYOTA ARENA TOKYO

Video by: FASHIONSNAP

 近ごろ、球場やスタジアムでスポーツ観戦を楽しむ人が皆さんの周りでも増えているのでは? 友人同士やカップルで参加するフィットネスレースの「HYROX」に、仲間と楽しむピックルボールやランニングクラブなど、スポーツを通じたコミュニティが支持を集めている。こうした、人とつながる“ソーシャルスポーツ”の潮流と呼応するように、スポーツを「見る」側でも、仲間や家族と時間を共有することの価値が注目されている。

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 国内のスポーツ観戦市場は、コロナ禍からの回復を経て拡大。それと並行し、観戦の楽しみ方も多様化している。近年の球場やスタジアムには、バーベキューをしながら観戦できるグループ席や、ラウンジを備えた豪華スイートルーム、親子連れが楽しめるファミリーシートなどが設けられている。飲食やグッズ販売、特別な体験の提供など、試合観戦にプラスアルファの価値を加え、収益機会を広げる動きが進んでいる。進化するスポーツ施設のいまを、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの本拠地である横浜スタジアムと、2025年に東京・青海に開業したバスケットボールBリーグのTOYOTA ARENA TOKYOで取材した。

数字で見る国内スポーツ観戦市場

 国内のスポーツ観戦市場の規模は2026年に8743億円となり、コロナ禍前の2019年を3.3%上回った。スタジアム観戦率は20.0%で、2019年の21.8%に近づいている(グラフ①)。観戦者1人あたりの年間平均観戦回数は2021年の3.4回から2026年には4.7回に増加(グラフ②)。観戦1回あたりの飲食費も2026年は2020年の約1.5倍に増えている。物価高の影響も考慮する必要があるが、観戦者の消費額にも変化が見られる(グラフ③)。

「野球そっちのけで会話をしている」米国の球場文化

 球場やスタジアムで広がる高付加価値化の流れは、日本政府が約10年前から進めてきたスポーツ産業の成長戦略とも重なる。政府は2016年の「日本再興戦略2016」で、スポーツ市場規模を2015年の5.5兆円から2025年に15兆円へ拡大する目標を掲げた(その後、達成時期を2030年まで延期)。同年、スポーツ庁と経済産業省は、スタジアムやアリーナを維持管理に費用がかかる“コストセンター”から、収益や地域経済への波及効果を生む“プロフィットセンター”へと転換する方針を提示。こうした動きで先行しているのが米国のプロスポーツだ。メジャーリーグやNBAの施設には豪華なVIPスイートなどが設けられ、スポーツ観戦をラグジュアリーな消費体験として提供するビジネスが近年ますます発展している。

9月22日に横浜スタジアムで開催された横浜対中日戦画像

9月22日に横浜スタジアムで開催された横浜対中日戦。スタジアム収容人数約3万4000人に対し、来場者は3万3443人と大賑わい

Image by: FASHIONSNAP

 横浜・関内駅からすぐの横浜スタジアムは、国内でも早くから観戦体験の多様化に取り組んできた球場の一つだ。2011年12月にDeNAが球団を取得し、翌2012年には「コミュニティボールパーク」化構想を打ち出した。野球ファンだけでなく、家族や友人、職場の仲間など、さまざまな人が集まる場所へと変えていく取り組みだ。「以前は、球場=野球を見に行く場所というイメージだったと思います。でも、米メジャーリーグの球場を視察すると、正直、観客はあまり野球を見ていない(笑)。試合そっちのけで会話やお酒を楽しんでいる。そういう社交場としての側面は参考にしています」と語るのは、 横浜DeNAベイスターズの林裕幸副社長。

 コミュニティボールパーク化を掲げた当時、横浜スタジアムの年間観客動員数は約110万人。座席の稼働率も低く、来場者を増やすことが経営上の課題だった。そこで最初に狙ったのが、20〜30代の男性会社員。「仕事帰りに居酒屋に行く感覚で、スタジアムに来てもらう。誘われて来た人が球場の魅力に気付いて、次は友達や家族を連れて来てくれる。そんなふうに、どんどん輪が広がっていきました」。

横浜DeNAベイスターズの林裕幸副社長のポートレート

横浜DeNAベイスターズの林裕幸副社長

Image by: FASHIONSNAP(KAZUO YOSHIDA)

 こうした集客策に加え、球団も長年の低迷期を脱して優勝争いに加わるようになるなど、チームの変化も観客の関心を集めた。2019年からはウィング席の増設などで収容人数を拡大し、2025年の観客動員数は約236万人と、2011年の2倍以上に増加。女性や子どもの来場者も増え、現在では収容人数約3万4000人(※プロ野球開催時)の球場が、ほぼ満員になる試合も多い。

「3時間一緒に過ごす場所」として座席を考える

 野球の試合はおおよそ3時間と、サッカーやバスケットボールに比べて長い。そこで横浜スタジアムは、カップルや子連れの家族、友人同士のグループ、企業の接待など、来場者が誰と、どのように時間を過ごすのかを考え、座席の形や設備を多様化してきた。その一つが、2020年に導入した、バーベキューを楽しめるBOXシートだ。バックネット裏の最上階に位置し、2026年シーズンのチケットは6枚1組で食事込み11万円。オプションでビールサーバーも付けられる。

横浜スタジアムの各種座席画像
横浜スタジアムの各種座席画像
横浜スタジアムの各種座席画像
横浜スタジアムの各種座席画像

横浜スタジアムのバーベキューを楽しめるBOXシート。2026年シーズンのチケットは6枚1組11万円。オプションでビールサーバーも付けられる

Image by: FASHIONSNAP(KAZUO YOSHIDA)

 高価格帯の観戦体験も拡充している。2019年の大規模改修に合わせて誕生した「NISSAN STAR SUITES」は、専用の室内空間と屋外観覧席を備えたVIP向けのスイート。全30室で、定員は8〜16人。2026年シーズンの料金は1試合44万〜66万円(飲食代別)で、グループでの観戦のほか、企業の接待や商談、社内懇親などに利用されている。年間契約のほか、複数試合のパック販売や1試合単位の販売も行っているが、林副社長によると、年間契約とパック販売でほぼ埋まるほどの人気だという。

スタジアムで販売しているベイスターズグッズ画像
スタジアムで販売しているベイスターズグッズ画像
スタジアムで販売しているベイスターズグッズ画像
スタジアムで販売しているベイスターズグッズ画像

横浜DeNAベイスターズとして、ファッション性の高いオリジナルグッズ開発にも注力している

Image by: FASHIONSNAP(KAZUO YOSHIDA)

 こうした取り組みを事業面で後押ししたのが、2016年に実現した球団と球場の一体経営だ。球団運営会社の横浜DeNAベイスターズが球場運営会社の横浜スタジアムを子会社化したことで、施設の改修や場内サービスの充実、飲食・物販などの施策を連携して進めやすくなった。そこから、球団オリジナルビールの開発や、ファッション性を意識した応援グッズの展開などにも注力。観客動員の増加に伴って、飲食やグッズの売り上げも成長してきたという。

球場の外にも広がるコミュニティ

 横浜スタジアムの取り組みは球場の外にも広がりつつある。2026年3月、関内駅前の再開発によって開業した複合施設「BASEGATE横浜関内」の一角に、横浜DeNAベイスターズはライブビューイングアリーナ「THE LIVE」をオープン。大型ビジョンや飲食店などを備え、球場のチケットを持たない人も試合を楽しめる空間だ。野球以外のスポーツや音楽イベントも開催し、球団をきっかけとしたにぎわいを街へと広げようとしている。

関内駅前にオープンした「THE LIVE」の画像

関内駅前にオープンした「THE LIVE」では、大型ビジョンを見ながら食事が楽しめる

Image by: 横浜DeNAベイスターズ

 「スタジアムがにぎわっていても、それが街に広がっていかなければ、球団がこの場所にある意味が限定的になってしまう。スタジアムを街に開かれた場所にしていきたいという思いは以前からありました」と林副社長。球場に入場した人だけでなく、近隣で働く人や、買い物や食事を楽しむ人、野球にそれほど詳しくない人も含め、取り込みを進めている。横浜スタジアムが掲げてきたコミュニティボールパークの考え方は、街全体へと広がり始めている。

選手と交流できる特別体験も提供

 一方、2025年に東京・青海に開業したTOYOTA ARENA TOKYOは、施設を新設する段階から、観戦体験の多様化を設計に取り込んだアリーナだ。プロバスケットボールBリーグのアルバルク東京の本拠地で、収容人数は約1万人。コート中央に提げられた大型ビジョンや客席をぐるりと取り囲むリボンビジョンなど、最新の映像設備を生かした演出も特徴。映像と照明が連動した演出は没入感があり、単に試合を見せるのではなく、観客が興奮を共有できる空間づくりの工夫が随所に施されている。

TOYOTA ARENA TOKYOで行われたアルバルク東京対琉球ゴールデンキングス戦の画像

9月23日にTOYOTA ARENA TOKYOで行われたアルバルク東京対琉球ゴールデンキングス戦は、Bリーグ屈指の好カードということもありチケットは完売、9591人が来場した

Image by: FASHIONSNAP

 ホスピタリティの面では、一般席を含む全席にクッション性の高いレザータッチの座席を導入。客席はどこからでもコートを見渡しやすいように配置され、大型ビジョンで試合の展開を把握しやすいため、バスケットボール観戦になじみのない人でも楽しめる環境だ。また、子連れの観客に向けて、観客席とプレイスペースを自由に行き来できるシートを導入。子どもが試合に飽きても、遊んだり休憩したりできるようにした。こうした幅広い観客への配慮に加え、高付加価値化を象徴する設備として注目されるのが、VIP向けの観戦エリアだ。

TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像
TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像
TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像
TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像
TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像
TOYOTA ARENA TOKYOの各種座席画像

TOYOTA ARENA TOKYOのコートにせり出すように設けられた「JAPAN AIRLINES TERRACE SUITE」。全6種で、それぞれ異なる内装コンセプトを採用している

Image by: FASHIONSNAP

 場内には16室のスイートルームがあり、主にアルバルク東京のスポンサー企業をはじめ、法人が利用しているという。室内にはゆったりとしたソファやテーブルを設置し、専用の屋外観覧席も備え、企業の接待や商談の場として使用されている。さらに特徴的なのが、コートにせり出すように設けられた6室の「JAPAN AIRLINES TERRACE SUITE」だ。東京の夜景や、和のモチーフをテーマにした部屋、緑いっぱいの部屋など、それぞれ異なる内装コンセプトを採用した空間になっており、利用料はテラスのみのタイプが1試合80万円、部屋+テラスだと同100万円。テラス付きスイートは食事込みで15人が利用でき、コートとの距離も近い。「高級感を味わいながら、試合の臨場感も楽しめる」と広報担当者は話す。

 選手との距離の近さを売りにした観戦体験もある。1階の「PLAYERS LOUNGE」は、ロッカールームからコートへ向かう選手を間近で見ることができる、ガラス張りのラウンジ。食事を楽しみながら、試合前の選手に声援を送ることができる。試合後には選手がラウンジを訪れ、ファンとの交流が行われることもある。

TOYOTA ARENA TOKYOの「JAPAN AIRLINES TERRACE SUITE」の中の1室

Video by FASHIONSNAP

 スポーツ施設の価値は、試合が開催される数時間だけでは測れなくなりつつある。誰と訪れ、何を食べ、どのように過ごすのか。あるいは試合がない日に、その場所をどう活用するのか。音楽業界で楽曲の販売だけでなく、ライブという体験が重要な収益源になっているように、スポーツビジネスでも試合を見せるだけでなく、観客が会場で過ごす時間全体から収益を生み出す動きが進んでいる。そのにぎわいを周辺の街にも広げて、スポーツ施設を地域経済を支える拠点にしていく動きが、今後ますます強まりそうだ。

【連載:ソーシャルスポーツ 2026】

 FASHIONSNAPでは“スポーツの秋”に合わせて、「ソーシャルスポーツ 2026」と題した連載を掲載します。競技成績や順位を競うのではなく、人とつながる・交流することが主目的になっている令和のスポーツのあり方や、スポーツ×ファッションに関連する話題をお届けします。

第1回:HYROXは現代版の合コン? 仲間と楽しむ"ソーシャルスポーツ"新潮流
第2回:【ソーシャルスポーツを楽しむ人たち #1】Bunka Running Club
第3回:お目当ては試合だけじゃない スポーツ観戦の新常識
第4回:【ソーシャルスポーツを楽しむ人たち #2】URBAN YOGA
第5回:甘いだけじゃない! 選んで楽しいプロテイン
第6回:野田クリスタルがプロデュースするクリスタルジムに行ってみた
第7回:ファッションとしても大注目 大人から始めるバレエレッスン
第8回:【ソーシャルスポーツを楽しむ人たち #3】あつまれテニスラバー
第9回:東京レガシーハーフマラソンでおしゃれランナーをSNAP

※掲載内容やタイトルは変更する可能性があります

最終更新日:

文・五十君花実

Hanami Isogimi

FASHIONSNAP ディレクター

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

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