ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”を紹介するコラム連載「sushiのB面コラム」。第12回はライダースジャケットの上にカーディガンを合わせた、デザイナー古田泰子氏の絶妙なバランス感覚が光る「トーガ(TOGA)」のドッキングカーディガンについて語る。
今までにない常識を覆すようなデザイン、誰も思いつかなかったアイテムの合わせ方──僕らはいつだってファッションに目新しさを求めている。
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以前、本コラムで「プラダ(PRADA)」のリネアロッサラインは「一周回って逆にカッコいいデザイン」だと紹介した。その理由として「ぱっと見で違和感をおぼえるものは新鮮である」と語ったが、この“新鮮さ”を生み出すために、昨今ブランドやショップのオリジナルで散見されるのが「既存の概念を組み合わせたり、アップデートしたりして再解釈する」という手法だ。この手法は服のみならずクリエイションの方法論としてありふれており、作り手にとっても一見とっつきやすい。それ故に、仕上がりが乱雑なモノも増えてきているように感じている。これが高いクオリティで昇華されている場合、それはそれは魅力的に見えるのだが、そのアイテムの一つだと思うのが「トーガ(TOGA)」のメンズライン「トーガ ビリリース(TOGA VIRILIS)」のドッキングカーディガンだ。
トーガは1997年にデザイナーの古田泰子氏によって設立された。2013年からはコレクションの拠点をロンドンに置き、メンズラインのトーガ ビリリースのほか、プレコレクションラインである「トーガ プルラ(TOGA PULLA)」、一点物のライン「トーガ ピクタ(TOGA PICTA)」などを手掛ける。
ブランドを象徴するのは、古田氏のヴィンテージに対する深い造詣がエッセンスになるデザイン。トーガの服はしばしばモッズやロカビリー、時にはパンクといった、文化の文脈を感じさせる要素が目立つ。代表的な人気アイテムであるコンチョをあしらったシューズやバッグなどがまさにそうだ。ヴィンテージショップ「TOGA XTC」も展開するトーガにとって、ヴィンテージ古着はブランドイメージにも強く紐づく要素の一つだろう。
一方で、僕個人がトーガのデザインでもう一つ重要な要素になっていると思うのが、今回紹介するカーディガンにも用いられているドッキングというアプローチだ。ドッキングは意外性のあるアイテムを合体させたり、現実では難しいアイテムをレイヤードすることで、スタイリングに新鮮さを生み出す。例えばダッフルコート×モッズコートや、ミリタリーコート×ファーコートなどは、普通であれば考えにくい“コートとコートの重ね着”の提案だが、これを1枚取り入れるだけで高度なスタイリングが完成する。古田氏自身のスタイリング技術の高度さを感じられる名シリーズだと思う。
そんなドッキングシリーズの中でも特に僕が好きなのが、ダブルのライダースジャケットにガーディガンを重ねたアイテムだ。その魅力はなんといってもその見た目の特異さにある。前見頃にのみライダースのデザインをあしらい、袖と背面はニットというデザインに落とし込むことで、普通では難しいジャストフィットのカーディガンの中にライダースを着込んでいるような見た目を絶妙なバランスで実現している。アウター×アウターの組み合わせも奇想天外だが、ドッキングカーディガンはアウターとインナーの関係性が逆転している点が非常に新鮮だと感じる。
* * *
2022年も末に差し掛かり、時々インスタグラムにポストしている自分のスタリングの写真を見返すと、フラットなトーンを好んだ去年に比べて、今年は少しアクの強いアイテムや重ね着、目立つアクセサリーを取り入れた、足し算的な着こなしが気分だったのだなと感じる。自分の中でもどこか“新鮮な刺激”をスタイリングに求めていたのかもしれない。
そこで常々思っていたのが、頭に浮かんだ着こなしのアイデアを手持ちのアイテムで再現することは非常に難しいという事だ。頭の中では「このシャツとこのジャケットの重ね着はいけるんじゃないか?」と思い実践してみても、色のトーンや重ねるアイテムのサイズ感などが想像よりも難しく、微妙に納得のいかない部分があることがほとんど。この問題を解決するには、ワードローブ内の物量を増やし選択肢を広げるか、特定のアイテムと重ねる前提でワードローブを整えていくしかない。
だが、今回紹介したトーガのドッキングシリーズはそういった意外性のある組み合わせを、あらかじめ理想的なバランスに調整した上で消費者に提案している。しかも、トーガならではのクリエイションのエッセンスも多分に感じさせながら、最終的にハイクオリティなものに落とし込んでいるという点で「第三者が既存の概念をカスタマイズする意味」を最大限に引き出している稀有な例だと感じるのだ。
既存概念のカスタマイズや再定義は、元ネタの作り手の本来の意図・意志を一旦無視するという点で、一歩違えば元ネタに対してかなり挑戦的な態度にもなりえるのが非常に難しいところだが、そうならないためにも重要なのが、作り手の意志や元ネタに対する理解の深さであり、それを体現するためのクリエイティビティやセンスが完成度を大きく左右する。トーガはそういった観点でも高いレベルで実現している素晴らしいブランドだと思う。
>>次回は12月31日(土)に公開予定
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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