「防具から出る香りは最高の香水」YOKO FUCHIGAMI新ブランドはクリエーティブなのか?

提供: 花王
YOKO FUCHIGAMI・坂部三樹郎 Photo by: FASHIONSNAP

 「日常と隣り合わせにないと、ファッションじゃない」。世界的ファッションデザイナーYOKO FUCHIGAMI(ヨウコ・フチガミ)が、「汚れ」「臭い」「縮み」「ティッシュ」にフォーカスした4つの新ブランドを発表した。泥の汚れを洗わずにデザインに採用したシャツや防具についた汗の匂いを染み込ませたコートなど"常識を覆す"新作の内容は?"普段から頻繁に会う仲"だという「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」デザイナーの坂部三樹郎とともに、YOKO FUCHIGAMIのデザイン哲学を掘り下げる。

yokofuchigami-20170515_038.jpg■YOKO FUCHIGAMI
トータル・ファッション・アドバイザー、「YOKO FUCHIGAMI」デザイナー、日本服飾協会理事長。フチガミ9姉妹としても有名で、全員がファッション業界に携わっている。姉は着物デザイナーの渕上加代子。アシスタント時代に、フランス映画「ロンリーウーマン」のジャスティン・ファーランドの衣装を担当し、主役より衣装が話題になり、チャイルド・オスマン監督のシルクロードシリーズは全作、彼女が衣装を手がける。型に囚われたファッションが嫌いで、裸が一番のオシャレだという。ジーンズブランドYOKO IGIRISU JEANSなどセカンドブランド多数。パリやバリでコレクションを開催している。

mikiosakabe-portrait-20170530_004.jpg■坂部三樹郎
「MIKIO SAKABE」デザイナー。成蹊大学理工学部卒業後、渡欧。2006年、ベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーファッション科を首席で卒業。2007年、台湾出身のシュエ・ジェンファン氏とともに「MIKIO SAKABE」を設立。2008年春夏シーズンでは同世代デザイナーとともに「ヨーロッパで出会った新人たち」展を企画。その後も東京、パリ、ミラノで並行して作品を発表するなど、ワールドワイドに活躍中。








■泥の汚れはおしゃれ?

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「ARA-WA-9」・・・「汚れが何よりのデザイン」という考えのもと、泥の汚れを洗わずにデザインしたシャツを展開するブランド。

−まずは「ARA-WA-9」の泥が付いたシャツから見ていきましょう。

坂部:プリントではなく汚れは本物の泥なんですね。泥染めは何百年も前からありますが、意図せず付いた泥をデザインに反映させたというのは面白いアイデアだと思います。この服を見て、*フセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)が卒業ショーで泥に埋めたコレクションを思い出しました。

*フセイン・チャラヤン・・・キプロス出身のデザイナー。ファッションとアートの二つの領域を横断的に活動するクリエーターの先駆者として大きな影響を与えてきた。

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−坂部さんなら泥をどんな形でシャツに落とし込みますか?

坂部:クリエーションは全体の関係性から成り立つものですから、ここで考えなければいけないのはシャツと泥の関係性です。僕だったらほつれさせたり、やぶいたりとデザインを連動させて泥だということがはっきり分かるようデザインすると思います。YOKOさんはそこをパッチワークで表現していて、白シャツという汚れやすい代表格的な服を選び、"泥感"を演出したんだと思います。

■臭いはデザインとして成立する?

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「BOUGU FUCHIGAMI」・・・「防具から出る香りは最高の香水」をテーマに、防具についた汗の匂いをそのまま服に染み込ませたコートなどを展開するブランド。

−続いては汗の臭いをつけた「BOUGU FUCHIGAMI」についてです。

坂部:実際の臭いだけではなく、臭いそのものを可視化するためにチュールで表現したということですね。*ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)が宇宙人の臭いがする服を作っていて、嗅いだこともない、宇宙人の匂いがする服というのは斬新でした。そもそも海外では、香水を付けることを「香りを着る」と表現したりします。そのため服に香りを定着させて印象付けようとするというのは、ファッションの文脈的に見ても面白いアイデアだと思います。

*ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク・・・90年代に新しいモードの波としてファッション業界を席巻した「アントワープの6人(The Antwerp Six)」の一人。アントワープ王立芸術アカデミーで教員も務めている。

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−気になるのはいわゆる人が嫌がる臭いを付けているというところです。

坂部:YOKOさんのデザイン哲学でもある"日常性"にこだわった結果、「リアルな人の臭い=汗」ということになったんだと思います。防具はわかり易さを重視したからだと思うのですが、日常性を突き詰めるのであれば限定されたものではなく、一般生活の中でかいた汗をしみこませたほうがコンセプトとマッチした可能性はありますね。

■デザインで大切なのは意図しない偶然性

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「CHIJIMI FUCHIGAMI」・・・「洗濯機は最高のデザイナー」という考えから、服が縮んでいく過程を楽しむアイテムを展開するブランド。

−3つ目は「CHIJIMI FUCHIGAMI」についてです。

坂部:デザイナーは着丈や袖丈の長さなど、パターンの微調整を繰り返して一着の服を作っていきます。ただこのTシャツはその調整をなかったものにするかのごとく、洗濯して縮ませるという意図しないデザインを採用していますね。

−今はビッグシルエットが流行っていますがこちらは限りなくタイトなシルエットです。

坂部:「*ヴェトモン(VETEMENTS)」でもDHL Tシャツのようにタイトなアイテムもありますし、僕はビッグシルエットというよりはワイド、タイトの両極端シルエットがトレンドになっていると考えています。YOKOさんはその辺りをしっかり捉えていて、極端にタイトなアイテムを出してきたんだと思いますね。

*ヴェトモン・・・2014年にデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が立ち上げたファッションブランド。デムナは「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のアーティスティックディレクターも担当しており、現在最も影響力のあるデザイナーとして注目を浴びている。

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−「CHIJIMI FUCHIGAMI」ですごいと思う点は何ですか?

坂部:「縮み」という偶然性があるところです。どうなるか分からないというのが最終工程に入ってくるというのは、個人的にすごく好きです。本人のコントロールできないところがあるとデザインの強度が高まるんです。

−自身のブランド「ミキオサカベ」でそういった手法を使うことはありますか?

坂部:使うというより、偶然性が生まれるように配慮しているという感じでしょうか。普段はコンセプトを立ててデザインしていくんですが、まず考えた通りのデザインだと良くならない。頭で考えたものは絶対良いデザインに仕上がらないんですよ。デザイン画で言うと、手が意図せず動いたときのような意識的でないことが良いデザインになる事が多いんです。

−YOKOさんはそこをうまく表現している。

坂部:そうですね。無意識にデザインを託せるかというのは結構大切なことだと思います。

■価値転換こそがデザイナーの仕事

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Tissue FUCHIGAMI・・・一緒に洗濯してしまったティッシュをデザインに採用したパンツなどを展開するブランド。

−最後は「Tissue FUCHIGAMI」についてです。

坂部:率直な感想として、和紙っぽく見える日本的なデザインで好きですね。

−紙を用いた服は色々ありますが、こういった付き方のものは見たことないですね。

坂部:そうですね。これも偶然性が入ったデザインですが、率直な感想としてはこの1着だけではなく、色々な柄のティッシュを使ったアイテムも見たかったですね(笑)。もちろんリアル感を徹底的に追求したため、一番オーソドックスな白のティッシュだけを使ったということなんでしょうが。あとパンツの素材にコットンを使っていますが、透け感の素材を使ったパンツで作ってみてもいいかもしれませんね。いずれにしてもYOKOさんのコレクションは、日常性を服にどう落とし込むかということを一貫して表現しています。その手法は、現実をしっかり見てその先を探すというシュルレアリスム(超現実主義)の考えに近いと思いますね。

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−坂部さんは*アントワープ王立芸術アカデミー出身者にはシュルレアリストが多いと言っていました。

坂部マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)もそうだと思いますね。ロンドンの*セントラル・セント・ マーチンズ出身のデザイナーは簡潔に言うとファンタジーでドレッシーな服作りが得意で、アントワープ卒のデザイナーはシャツやジャケットなどベースのあるものを派生させてデザインしていく人が多いなという印象を持っています。YOKOさんも誰もが共有できるイメージを元に、そこからのずらしで表現していくデザイナーなんだと思います。そしてこのコレクションはまだ実験段階なのではないかとも感じました。

*セントラル・セント・ マーチンズ・・・ジョン・ガリアーノ(John Galliano)、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)、アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)を輩出したロンドンの芸術大学。

*アントワープ王立芸術アカデミー・・・アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)、マルタン・マルジェラ、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)などを輩出したベルギーの美術学校。

−実験段階ですか?

坂部:YOKOさんは、ファッションを新しい価値に転換できるか、という所まで考えているんだと思います。例えば泥の汚れは普通落としたいと思うものですが、これを落としたくないとするには「泥の汚れが格好良い」など新しい価値を付与することが必要ですよね。女性はパンツを履いて外に出れない時代がありましたが、価値感が変化したことで今では当たり前のように履いて出かけるようになっています。非常識を常識に変換することはとても難しいことですが、YOKOさんはそれをデザインで追求しようとしているんだと思います。

リンク:汚れや臭いはどうやって付着させた?YOKO FUCHIGAMIの新ブランドができるまで