Image by: FASHIONSNAP

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今、産地の倉庫に眠っていたデッドストック生地や開発反に、学生や個人デザイナー、中・小規模ブランドの企画担当者が殺到している。年間数百社の繊維工場を訪れ、10年以上にわたってデザイナーと産地の橋渡しを行ってきた糸編代表の宮浦晋哉氏が運営するキュレーションストア「糸編商店」では、2024年11月からテキスタイルのガレージショップを不定期で開催。来場者数は回を重ねるごとに増え、現在は日本各地から1日平均130人が、日本各地の産地の工場から集結した個性豊かな生地を求めて足を運んでいるという。
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従来は日の目を見ない存在であったデッドストック生地や開発反に、なぜ今大きな注目が集まっているのか。その背景には、新たな“場”ができたことによって初めて顕在化した、思いがけない需要が存在するようだ。
目次
意識も興味もなかった“残反”に、学生や個人デザイナーが殺到
宮浦氏がデッドストック生地の販売を始めたきっかけは、2020年に参加した南青山「スパイラル」主催の展示販売イベント「SPINNER MARKT」。ひびのこずえ氏とのコラボレーションで、産地から買い集めた残反やB反などを用いて約60種類のエコバッグを製作し展示販売したところ、服飾学生などから好評を得て即完売した。その後、同氏の母校であるドレスメーカー学院で残反を200種類ほど集めて販売するイベントを開催した際も、学生や個人デザイナーたちの長い行列ができ、対応しきれないほどの盛況だったという。


「SPINNER MARKT」でのエコバッグ展示販売の様子
Image by: 糸編
学生や個人クリエイターからの高い需要を実感した宮浦氏は、全国の繊維産地からの買い付けと不定期でのポップアップ開催を続けた後、2024年6月に初の実店舗として「糸編商店」を台東区・鳥越に開設。常時は取り引きのあるアパレルメーカーやデザイナーにアポイント制で開放しながら、2024年11月からは「ガレージショップ」として不定期での一般開放もスタートし、継続的にデッドストック生地や開発反の販売を続けている。





「糸編商店」店内に並ぶ、デッドストック生地や開発反
長年テキスタイルや産地に密接に携わってきた宮浦氏だが、意外にも、元々は産地の倉庫に眠るデッドストック生地等の活用に対して「意識も興味もあまり持てていなかった」と話す。「基本的にはデザイナーたちの素材開発を手伝ったり、大量発注に繋げることが僕らの仕事。『残反やB反を買う』ということはあまり言うべきではないと思っていたし、デッドストック生地は商品の量産に向かないので、普段付き合いのあるブランドとは噛み合わず、ビジネス的にも意識が向いていませんでした」(宮浦氏)。
一方で、産地ではこれまで、開発の過程で生まれた残反や、染めなどのミスにより引き取ってもらえなかったB反などの在庫を大量に抱え、廃棄するしかないという課題もあった。糸編商店では、毎月数十から数百反の残反を日本各地の産地の工場から言い値で買い付けているため、倉庫で眠っていた在庫が数十から数百万円単位のまとまった金額の収入になり、産地にとっても決して少なくないメリットになっているようだ。
デッドストック生地を求める、三者三様の理由
ガレージショップへの来店者は、約半数が服飾学生、残りは小規模なビジネスを行う個人デザイナーやクリエイターが大半を占める。その背景には、「ベイス(BASE)」や「ストアーズ(STORES)」といったECプラットフォーム、ウィークエンドマルシェや「森、道、市場」などをはじめとしたクラフトマーケットなど、近年個人・小規模ブランドがオンライン・オフラインで商品を販売できる環境が充実していることもあるようだ。
では、実際にこの場所を訪れる作り手たちは、なぜデッドストック生地や開発反を求めるのだろうか。
◆「一期一会の出合いから、コレクションの限定品に」
アパレルブランド「アンフォーク クラシック(UNFOLK CLASSIC)」のディレクターを務める関根大地氏は、その理由を「一期一会の出合い」だと語る。2024年秋冬シーズンにデビューした同ブランドは、「日本の繊維産地の魅力を伝える洋服」をコンセプトに、シーズンごとに日本の繊維産地を巡り、各地での生地や人との出合いを起点としたものづくりと発信を行っている。
当初はブランドの打ち合わせで糸編商店を訪れていたところ、「どうしてもこれが使いたい」と惹きつけられるデッドストック生地に出合ったことをきっかけに、継続的にガレージショップを訪問。同氏が購入したのは、静岡・遠州のカネタ織物の年代物の生地である、刺し子のようなステッチが特徴的なコットンウール素材。残り15mほどしかなく量産には向かなかったものの、「10着ほどでも良いからやってみたい」と購入を決め、2025年秋冬の新作ジップアップブルゾンの生地違いの限定品として販売する予定だという。




デッドストック生地を用いた「Enshu wool mix sashiko style blouson」
Image by: UNFOLK CLASSIC
関根氏は「デッドストック生地とは本当に一期一会の出合いなので、作り手としても『こんな面白い生地があるんだ』というワクワク感があります。そして、産地の方々が丁寧に愛情を持って作った生地だからこそ、ちゃんと使われて形になり、誰かのもとで輝いてほしいという思いもあります」と語る。
◆「ファッションコンテストへの応募作品に」
ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーに在学中の島田響氏は、新人デザイナーの登竜門である海外のファッションコンテスト「イッツ(ITS)」への応募作品に日本のデッドストック生地を使いたいと考え、ガレージショップを訪れている。
デッドストック生地を用いる理由としては、「今海外でファッションデザインをやっている学生は、まず『サステナブル』という点が考慮されているかどうかが足切りのポイントになる」という現実的な側面もある。一方で、「デッドストック生地は偶発的に出合うものだからこそ、出合った素材から生まれてくる新しいアイデアがあるし、個性の強い素材が多いため作品に視覚的インパクトを与えるのにも有効」とそのメリットを語る。何より、「日本人のデザイナーとして、クオリティの高い日本の生地を用いて作品を作り、海外に持って行くということの意義にも魅力を感じています」と話す。
アントワープのテキスタイルの授業で「日本の生地の凄さ」を教えられ、海外に出て初めて日本の産地のものづくりの価値や魅力に気づかされたという島田氏。休学し一時帰国している期間に、宮浦氏が企画運営する「産地の学校」を通じて日本全国の繊維産地の工場を巡り、職人たちの品質に対する姿勢や技術を目の当たりにしたことで、自身のクリエイションの背景を伝える際の説得力が格段に増したと感じているそうだ。
◆「新ブランド設立や素材開発のアイデアソースとして」
デザインや素材開発、OEM・ODMなどを幅広く行う出水拓未氏は、新ブランドの立ち上げの際や、普段手掛けている合繊素材開発のアイデアソースを求めガレージショップを活用している。
「デッドストック生地や開発反には、価格や原材料などの理由から再現性のないものや、偶然出来上がったものなど、あまり他では見られない面白い素材があり、人とも被りにくい」とそのメリットを語る。また、宮浦氏が始めたガレージショップが多くの人で賑わう様子を目の当たりにし、デッドストック生地や開発反を欲する人の意外な多さに驚いたという。
「普段開発だけをしていたり、大企業との取引をしているだけでは見えてこない需要の存在を実感しました。私も北陸産地などで素材開発に携わってきた身として産地の苦労や課題を知っているので、もっとこういう場所が増えたらいいと思うし、自分でも何かやりたいと思わされました」(出水氏)。
生き残りをかけた地方セレクトショップが求める「ちょうど良さ」
ガレージショップの利用者の中心は学生や個人クリエイターだが、最近ではオリジナル商品を手掛ける、地方のセレクトショップオーナーの来店も増加しているという。
「自社ECでの直販を始めるブランドが増えたことで、地方のセレクトショップがセレクト業態として運営することが成り立たなくなりつつある中、生き残りをかけて古着やオリジナル商品の販売を始めるケースが増えています。宮城や富山、長野、愛知、大阪など日本各地から、毎月5件はセレクトショップのオーナーが生地を買いに来ていますね」(宮浦氏)。
生地屋や商社との取引経験がない地方のセレクトショップオーナーたちにとって、30m程度のロットで仕入れられるユニークな生地は「本当にちょうど良い」といい、糸編商店は貴重な仕入れ先となっているようだ。

さらに、最近ではサステナビリティ対応などの観点から、大手企業やデザイナーズブランドからの関心も高まっている。山縣良和氏が手掛ける「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」や、皆川明氏が監修する「無印良品」のアップサイクルプロジェクト「プール(POOL)」、中川政七商店、京都の老舗呉服屋などをはじめ、さまざまな企業やブランドがデッドストック生地の活用に動き始めており、残反購入に関する相談が増えているという。



デッドストック生地を使用した「ワンスアポンアタイム・マーケット」の服
Image by: writtenafterwards
「リトゥンアフターワーズ」と「フェルメリスト ビームス(Vermeerist BEAMS)」のディレクター・犬塚朋子氏によるプロジェクト「ワンスアポンアタイム・マーケット(wonsaponatime market)」では、糸編商店から仕入れたチェック柄のデッドストック生地を全て使用して約40着のアイテムを製作し、今年4月にフェルメリスト ビームスでのポップアップで販売。宮浦氏は、「アンフォーク クラシックさんをはじめ、他ブランドでも『限定受注』や『限定品』という形でデッドストック生地を活用するケースも増えてきました。今後はそういった新しい動きにも期待しています」と話す。
海外、そして日本の若手に感じる新たな潮流
近年、世界ではエミリー・アダムス・ボーディ(Emily Adams Bode)が手掛けるNY発のブランド「ボーディ(BODE)」や、ローラ・べハム(Laura Beham)とカラム・ピジョン(Callum Pidgeon)のデザイナーデュオによるチューリッヒ発のブランド「プロトタイプス(Prototypes)」など、ヴィンテージ生地やデッドストック生地のアップサイクルをベースとしたクリエイションを行う若手ブランドが注目を集めている。

「ボーディ」2024年春夏コレクションのルック
Image by: Courtesy of Bode

「プロトタイプス」2025年春夏コレクションのルック
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
また、海外ではサステナビリティやサーキュラーデザイン、イノベーティブデザインなどに関心の高いファッションブランドに特化したショールームも存在する。宮浦氏が以前訪問した、マヤ・ヴァイスヴァッサー(Maya Weisswasser)氏がディレクターを務めるパリのショールーム「MMW Collective」では、「サステナブル」や「サーキュラーデザイン」などを軸にしたブランドだけを集めており、その大半がアップサイクル素材や残反を使ったものづくりを行っていたという。




MMW Collectiveのショールーム
Image by: 糸編
欧米と比較して、日本では作り手・受け手共に「サステナビリティ」に対する意識がまだそれほど高まっていないという現状もある。しかし宮浦氏は、デッドストック生地を求めて来店する人々と接する中で、ある新しい流れを感じているという。
「糸編商店に来る、1人でブランドをやっているような若手デザイナーたちには、『必要な量だけ作って必要な規模で売る』という考えがベースにあるのを感じます。「自分が食べていける最低限の収入があれば、そんなに儲からなくてもいい」と考えている人も一定数いる実感がありますね。もう一つは、『職人さんから直接買いたい』『顔が見える範囲の人と仕事をしたい』といった、人と人との繋がりや、自分の納得感を重視するような価値観も見られます」(宮浦氏)。
アントワープ在学中の島田氏も、公私ともに懇意にしている地元・桐生の機屋で織られた生地を縫っていると「温かみ」のようなものを感じることがあり、そこに“面白さ”を見出しているという。「社会的な責任をとるというとすごく大きいですが、もう少し原始的な、人と関わって、真摯に向き合っていくみたいなことがデザイナーやクリエイションをやっていく上で大切だし、そこを楽しむことが重要だと思っています」(島田氏)。
需要が顕在化した、“産地と個人を繋ぐ新たな場”
「サステナビリティ」が重視されるようになった背景の中で、デッドストック生地などを販売する取り組みは、以前から少しずつ増えているようだ。愛知県一宮市では、繊維組合保有のビルを拠点にショップやアトリエ、スクール、カフェなどを集積して尾州産地の素材の魅力を発信する複合施設「リテイル(Re-TAiL)」が2016年に誕生。デッドストック生地や見本反などを展示販売する「アール・マテリアル・プロジェクト(RRR MATERIAL PROJECT)」をキーテナントとして導入し継続的に販売しているほか、さまざまな発信も行っている。
一方で、各産地でも組合が“訳あり”の生地などを集めて販売する取り組みを小規模で行っているものの、十分な発信がされず、地元の人にしか知られていないケースも多いという。「闇雲な開発は減ってきていますが、どこの産地の工場も常に素材を開発しているので、開発反は今後も間違いなく出るもの。糸編商店だけでは絶対に捌けないので、今後はもっと色々なところでこういった取り組みが盛り上がっていってほしいです」(宮浦氏)。
従来はBtoBに特化したビジネスを行ってきた宮浦氏にとっても、個人と産地を繋げる新たなチャネルが増えたことは、やりがいになっているという。「日本各地の産地から原反を集めて1メートルから売るという、“誰でも来られる、誰でも産地の布を買える場所”になっていることが嬉しいですね。産地の皆さんにも多少なりとも恩返しができるので、今後も積み重ねていけたらと考えています」。

糸編代表の宮浦晋哉氏
各産地に眠るデッドストック生地が集まる場ができたことで新たに顕在化した、服飾学生や個人デザイナーたちの需要。そこには、服の作り手と産地のあいだの思いがけない“Win-Win”な状況が生まれている。「サステナビリティ」への意識の高まりや、ファッションビジネスの在り方や価値観の多様化が加速する中で、産地と個人の双方を豊かにする新たな場や機会のさらなる創出に、今後も期待が高まる。
最終更新日:
■UNFOLK CLASSIC:公式サイト/公式インスタグラム
■島田響:公式インスタグラム
■出水拓未:公式インスタグラム
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