ADVERTISING

川久保玲はなぜ「もし」と語ったのか、コム デ ギャルソン オム プリュスが描く戦争の終わり

2027年春夏コレクションを発表

芳之内史也

2027年春夏コレクション

Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)

2027年春夏コレクション

Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)

2027年春夏コレクション

Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)

 パリのエリゼ・モンマルトル劇場を舞台に発表された「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」の2027年春夏コレクションは、現在進行形で世界を覆う暗雲に対し、ファッションという表現手法を用いて鮮烈かつ根源的な応答を示したショーであった。川久保玲が発した今季のメッセージは、「もし 戦争が 終わったら. If The War Were To End..」。終わりなき分断と争いが日常となってしまった現代において、川久保はあえて仮定法を用い、絶望の淵を覗き込むのではなく、争いが終結した先にある「未来の解放」へと私たちの視線を向けさせた。

ADVERTISING

 コム デ ギャルソン・オム プリュスが「アンチ・ウォー(反戦)」をテーマとして掲げたのは、2015年春夏コレクションのこと。ミリタリー要素の解体や、平和を願うメッセージがプリントされたテーラリングが提示され、足元には先端が異様に長く尖ったサイドゴアブーツが合わせられた。あれから12年という歳月が流れ、世界情勢は好転するどころかより深刻な分断の只中にある。しかし、今回の川久保のクリエイションは、怒りや抵抗といった表現から、生の喜びや連帯、そして希望を祝福するような、ポップで祝祭的なエネルギーへとその位相を大きく変えていた。かつて戦士の足元を飾ったとんがり靴は今シーズン、「メキシカーナ(Mexicana)」とのコラボレーションによるエクステンデッドブーツとして復活。未来へと向かって力強く踏み出し、平和な世界を誰よりも自由に闊歩しするための象徴として再定義されているかのようだ。

 コレクションの前半に登場したのは、ストライプ柄をレイヤードしたルック。異なるピッチのストライプが重なり合う様は、多様な価値観が共存する世界のメタファーとして映る。頭上を飾るのは、日爪ノブキが手掛けるハットブランド「ヒヅメ(HIZUME)」とのコラボによる、フェルト帽やパナマ帽を重ねたハット。既成のルールから逸脱し、無邪気に帽子を二つ重ねて被ってしまうような「自由の謳歌」が、そのシルエットに宿っていた。続くパートでは、コレクションの重要なモチーフとなる迷彩状の切り替えが現れる。国境や思想といったあらゆる境界線を曖昧に溶かし込むかのような曲線の迷彩柄は、ウエストをドローストリングで無造作に縛るコートや、裾にかけてペプラム状に広がりを見せる優美なパンツなどに落とし込まれた。純白を基調としたパートでは、プリントで表現された軽やかな迷彩柄にボーダー柄が交錯し、内側から覗くメッシュのインナーがスポーティで解放的な空気を吹き込んでいく。

 中盤に差し掛かると、ブランドの根幹をなす「黒」を基調としながらも、鮮やかな色彩が差し込まれる。赤とピンクの鮮烈なバイカラーが目を引くポリエステルシャツは、クラシックな黒のテーラリングに強烈なコントラストをもたらし、ニッカポッカを彷彿とさせるボリュームのあるパンツや、菱形の前立てを備えた構築的なジャケットが、躍動する身体を包み込む。さらに、直線が交差するトラディショナルなチェック柄は、迷彩曲線に切り替えられていく。規則正しく線がぶつかり合うチェック柄が「対立」や「分断」を暗示しているとすれば、迷彩柄はあらゆる境界線が溶け合う「融解」や「平和」の象徴と言えるだろう。

 コレクションの終盤、服飾の構造的な遊びはさらに加速する。裾にかけて詰められた中綿が透けて見えるジャケットや、メッシュ素材を大胆にレイヤードしたアウター、そして光沢のあるパンツの組み合わせは、内なるエネルギーが外へと溢れ出す様を視覚化している。フィナーレでは、色鮮やかなグラフィックアイテムを着用したモデルたちがゆっくりとウォーキングするのではなく、自由を謳歌し、抑えきれない歓喜を爆発させるように、軽快な足取りで一斉にランウェイを駆け抜けていった。彼らの足元を支えるのは、前述のメキシカーナのエクステンデッドブーツにとどまらず、「ジョージコックス(GEORGE COX)」とのパッチワークダービー、「ナイキ(NIKE)」の「ペガサス プレミアム」、そして「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」といった、出自の異なる多彩なコラボシューズの数々だ。

 祝祭的なメッセージの真意は、ショーに連動してドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)で開催されたインスタレーションによって、より明確な言語として提示された。ショーのクライマックスを飾ったルックは、まさにこのインスタレーションを構成する色鮮やかなグラフィックフラッグを用いて仕立てられたものであった。

 エントランス前の広場には、赤、青、黄、緑、ピンクといった多種多様なカラーのフラッグが円形状に無数に吊るされ、まるで世界中の国旗が平和のもとに連帯しているかのような空間が広がっている。その一つひとつの旗には、「COMME des GARÇONS」のロゴとともに、「wear your freedom(自由を着ろ)」 や「live free with strong will(強い意志を持って自由に生きろ)」といった、川久保からの力強いステートメントが手書き風のダイナミックな文字で刻み込まれていた。

 12年前の「アンチ・ウォー」から現在に至るまで、川久保玲はファッションを通じて世界情勢に鋭く反応し続けてきた。混沌のなかに一筋の希望を模索した2025年春夏の「THE HOPE OF LIGHT」、軍服を解体し花を手向けながら直截的な怒りを示した2025年秋冬の「TO HELL WITH WAR」。そして、平和と愛へ導くシャーマンのような存在を希求し、スーツという形式を通して衣服に深い祈りを託した2026年春夏の「Not Suits, But Suits」。その祈りも虚しく、すべてを吸い込む閉塞した暗黒を描きつつも、最後に純白のルックを登場させて闇からの脱出と再生の光を力強く提示した2026年秋冬の「ブラックホール(Black Hole)」

 そうした怒り、祈り、そして絶望の淵からの脱出というプロセスを経て、同氏のクリエイションは今季、これまでにないほど軽やかで、生の歓喜を力強く謳い上げる鮮やかな境地へと到達した。この移ろいは、決して安易な楽観主義に逃避したからではない。分断と絶望が極みに達している今だからこそ、ファッションは暗闇に呑まれることなく、希望のヴィジョンを描き、生の喜びを肯定する絶対的な光でなければならないという、表現者としての覚悟の表れなのであろう。 私たちは「もし戦争が終わったら」という仮定法のその先を、強い意志を持って生き抜かなければならない。この問いに対し、川久保が提示した究極の答えは言葉ではない。自由をまとい、フィナーレでランウェイを駆け抜けたモデルたちの姿そのものだ。2027年春夏コレクションは、平和という未来を、「今、ここで」生きることの美しさと力強さを、私たちに鮮烈に焼き付けたのである。

全ルックを見る

COMME des GARÇONS HOMME PLUS 2027年春夏コレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

文・芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

FASHIONSNAP ディレクター

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント