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半人半獣が夢見る物語 ドリス ヴァン ノッテンが27年春夏メンズで描く官能美

芳之内史也

DRIES VAN NOTEN 2027年春夏メンズコレクション

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

DRIES VAN NOTEN 2027年春夏メンズコレクション

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DRIES VAN NOTEN 2027年春夏メンズコレクション

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 まるで、夏の午後の微睡みから、ゆっくりと目を覚ますかのように。ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)が率いる「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の2027年春夏メンズコレクションは、極めて静かで、しかし抗いがたいほどの官能性が、ランウェイを優しく包み込んだ。クロスナーが提示したのは、過去のアーカイヴを踏襲するという安全な道ではない。それは、現実よりも美しい幻想に身を委ねるという、ポエティックなアプローチであった。

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 今季、クロスナーのクリエイションを導いたのは、1876年にステファヌ・マラルメ(Stéphane Mallarmé)が綴ったフランス象徴主義の傑作「半獣神の午後(L'Après-midi d'un faune)」。森で微睡む半人半獣が、官能的に踊るニンフたちの夢を見るという物語で、暑さ、木々、風のなかで、現実と想像の境界が絶えず曖昧になり、感覚と空想が滑らかに溶け合う流動的な世界観こそが、コレクション全体を貫く軽やかさとエロティシズムの源泉となっている。

 「このコレクションは、軽やかで繊細な印象を与えるものを作りたいという思いから始まりました」というクロスナーの言葉通り、ランウェイに現れたのは、現代社会を生き抜くための堅牢な鎧ではなく、無防備で親密な心地よさを追求した柔らかなワードローブである。本来であれば実用性や身体の保護を目的とするハンティングジャケットやパーカといった男性的な定番アイテムは、ウォッシュ加工を施したポンジーシルクやウォッシュドビスコース、水のような質感のナイロンといった極上の素材へと置き換えられ、無防備な身体を優しく包み込む繭のような親密さをまとっている。ショーのティザー動画も、水面の様子が映し出されていた。

 シルエットは柔らかく、テーラリングは風を孕むように流麗に揺れる。深く切り込まれたネックラインや、ランジェリーを思わせるシルクシャルムーズ、細いスパゲッティストラップのディテールが、“脱ぎかけ”のような危うい美しさと無防備な色気を漂わせる。透け感のある淡いブルーのトレンチコートや、短い丈のショーツから覗く素足、足元はメンズでは珍しい編み上げのバレリーナシューズで、重力から解放されたかのような浮遊感を強調。モデルの襟足にあしらわれた遊び毛は、森を吹き抜ける風の存在を視覚的に表現し、自然との調和をさらに深めていた。

 カラーパレットは、肌と溶け合うようなブラッシュやアースカラーのヌーディなトーンを基調としながら、自然の生命力を思わせる鮮やかなグリーンやブルーが差し込まれる。そこに、牧神を示唆するようなレオパードやスネークといったアニマル柄のアクセントが加わった。

 今季の白眉とも言えるのが、自然の純粋な美しさへのオマージュとして描かれたプリントと装飾の数々である。クロスナーやデザインチームが日常の中で捉えた風景──オフィスから見上げた夕日、空を流れる雲、湖面に映る月明かり──が、写真のようにリアルなモチーフとしてシルクにプリントされ、服の表面に美しい記憶を定着させている。水面に差し込む陽光を思わせる煌めくスパンコールのパンツや、ヨークから滲むように色が移ろうシャツは、時間帯によって表情を変える空と光の揺らぎを見事に捉えていた。

 樹木の影とボタニカルな刺繍を組み合わせた柄は、自然の懐に抱かれ、その一部と同化するための快楽的でやさしい試みと言えるだろう。フィナーレに向けて、ブラックを基調とした流れるようなテーラリングが登場し、月明かりや夜更けを連想させる神秘的なスリルをコレクションに添えていた。

 ショーのフィナーレで、大きな拍手で迎えられたクロスナー。その理由は、ブランドの核である知的なエレガンスや色彩の美学を継承しつつ、それを現代的な「ジェンダーフルイドな官能性」へと見事に昇華させた点にあると言えるだろう。それを語る上で欠かせないのが、スタイリストのロビー・スペンサー(Robbie Spencer)の存在だ。同氏は今月、第110回ピッティ・イマージネ・ウオモで「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」初となるメンズコレクションのスタイリングも手掛け、マスキュリニティのなかにロマンティシズムを違和感なく融和させる卓越した手腕を見せたばかりである。制作の意思決定が早かったという創業者ドリスに対し、クロスナーとスペンサーはショー直前まで緻密な推敲を重ねることで、ルックに深い詩情と説得力を見る者に与えた。ウィメンズウェアのバックグラウンドを持つクロスナーのフェミニンな感性と、スペンサーの現代的なバランス感覚の融合は、ドリス ヴァン ノッテンのメンズウェアにおける新たなロマンティシズムを強く印象付けた。

最終更新日:

文・芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

FASHIONSNAP ディレクター

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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