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スキニー旋風がくる? 2027年春夏メンズファッショントレンド【キーワード・総括】

芳之内史也

 記録的な猛暑が訪れたヨーロッパ。熱気を帯びた2027年春夏メンズファッションウィークで目立っていたのは、装うことの純粋な喜びと、人間の「身体」そのものへフォーカスするアプローチである。AIの加速度的な進化に伴うデジタル疲労や、終わりの見えない地政学的リスク、そしてグローバルウォーミングなどの環境変化。こうした先行きの見えない不確実な社会情勢を背景に、長らく続いたストリートウェアの熱狂や、体をすっぽりと覆い隠すビッグシルエットのブームはひとつの区切りを迎えた。服作りのテーマは「衣服がいかに個人の生活に寄り添い、心身を守るか」へと変わってきている。

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 過剰なコンセプトや社会への反抗といった外に向かうエネルギーよりも、より自然体で生身の自分を肯定するようなアプローチは、ジェンダーの境界線を溶かす軽快なスタイリングから、大地を足裏で感じる薄底シューズの提案までさまざま。本稿では、メンズウェアの見本市「第110回ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」が開催されたフィレンツェを含む3都市のランウェイや展示から見えたトレンドキーワードを振り返りながら、しなやかに現代を生きるためのリアルなワードローブ像を紐解いていく。

目新しく映る「ジェンダーフルイド」の提案

 今季、新鮮かつ自然な形で提案されたのが、ジェンダーの境界を越える表現である。これまでの「ウィメンズウェアを実験的に着てみる」という段階を終え、ジェンダーフルイドはより本質的な領域へと到達した。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」が描いた脆さと力強さが同居するファブリックの重なりや、「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」が見せた、レースや繊細な装飾を男性の体の上に違和感なく着地させる手腕は、強固な男性像の枠組みを解放するものだった。分断や対立が深まる世界において、旧態依然とした「男らしさ=強さ」という呪縛を解き、個人の色気や弱さをもありのままに肯定する様は、新しいロマンティシズムと言えるだろう。なお、この両ブランドともに、スタイリングをロビー・スペンサー(Robbie Spencer)が務めていたことも、こうしたムードが生まれた理由の一つとして挙げられる。

DRIES VAN NOTEN

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

Simone Rocha

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

権力の誇示から脱却した「テーラリングの柔和化」

 「解放」の精神は、長らく男性の社会的な権威を象徴してきたテーラリングの解釈にも変化をもたらしている。「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」が体現し続ける流麗で優美なシルエットは言うまでもなく、「ディオール(Dior)」や「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」においても、スーツは権威を誇示する硬い制服から、着る人を優しく包み込み、体の動きに寄り添う服へと変化した。従来のピリッとした緊張感から解き放たれ、自然体で風通しの良いエレガンスを漂わせている。そこにあるのは、他者を威圧する攻撃性ではなく、自身を労わるような優しいテーラリングである。威圧的な鎧としてのスーツはもはや時代遅れとなり、しなやかな適応力こそが現代における新たな強さの象徴となっているのだ。

DIOR

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

SOSHIOTSUKI

Image by: SOSHIOTSUKI

スキニー旋風くるか?「プロポーションは細く、薄く」

 ビッグシルエットの終わりを決定づけるかのように台頭したのが、「プラダ(PRADA)」の2026年秋冬メンズコレクションから続く、極端にコンパクトなシルエットの登場である。「プラダ」が2027年春夏で披露した袖も丈も極端に短いデニムジャケットや、「セリーヌ(CELINE)」が提示した袖の短いテーラードジャケットと5分丈パンツの組み合わせは、サイズが合っていないかのような違和感を生み出していた。過剰な大量消費社会へのアンチテーゼや、年々過酷になる猛暑への現実的な対応として、これまでの「正解」のバランスをあえて崩すことで、服の中に隠されていた「着る人の身体」そのものを生々しく浮き彫りにする。ファッションのルールで遊ぶ、極めて知的なアプローチと言える。

PRADA

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CELINE

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 こうした体と精神の解放を足元から支えているのが、靴のトレンドにおける大きな変化である。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」をはじめとする多くのメゾンが、底の薄いロープロファイルなスニーカーやフラットシューズをこぞって提案した。これは、デムナ(Demna)による「バレンシアガ(BALENCIAGA)」がけん引して大流行した分厚いソールの靴や、ランニングシューズに代表される前傾姿勢を強いるデザインに対する明確な反動であろう。大地を足の裏で直接感じ取るような薄底の靴は、情報が溢れ、SNSなどバーチャルな空間に浮き足立ちがちな現代社会において、もう一度確かな現実の地面を踏みしめようとする本能的な欲求が現れているのかもしれない。

LOUIS VUITTON

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

DRIES VAN NOTEN

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

日常を拡張する洗練された「ユーティリティ」

 服が体に寄り添い、軽さを手に入れれば、それに伴って動きも自由になる。機能性や実用性を意味する「ユーティリティ」は、今季、過酷な環境に耐えるためのギアとしてではなく、日常の振る舞いをより身軽で優雅にするためのディテールへと洗練された。プラダは、バッグやポシェットをベルトに直接固定することで、手ぶらの快適さとモダンな装飾性を両立。また、「エルメス(HERMÈS)」の紐パンツや、「チャーチ(Church's)」、「トッズ(TOD'S)」といった老舗が発表した踵が踏めるフラットシューズやローファーは、現代の男性たちが求めるリラックスした気分を素直に表している。ちなみにトッズはローンチメトリックスの分析でも、オウンドメディア戦略等で高いデジタルインパクトを誇ることが示されており、現代の多様なライフスタイルに寄り添うこうした提案が、ブランドの強力な発信力に繋がっていることが窺える。

PRADA

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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郷愁とモダニティが交差する「プレッピー」の復権

 不確実な社会に対するもう一つの回答として、ランウェイに清涼な風を吹き込んだのが、安心感や普遍性の象徴である「プレッピー」スタイルの台頭である。「ポロ ラルフ ローレン(Polo Ralph Lauren)」は、ブランドの真骨頂であるトラディショナルなブレザーや爽やかなストライプを惜しみなく披露し、次世代のアメリカンプレッピーを提示した。一方で「サカイ(sacai)」は、伝統的なプレッピーのコードを独自の技術で解体・再構築し、単なる昔のスタイルのリバイバルではなく、現代の日常着へとアップデートした。伝統をベースにしたこれらの提案は、大人に不可欠な知性や上品さを担保しつつも、現代的なストリートの抜け感をシームレスに調和させている。ドレスアップとカジュアルダウンの境界線が曖昧になる中で、その双方を1着で満たしてくれる高い汎用性こそが、2027年春夏のプレッピーが持つ最大の強みである。

Polo Ralph Lauren

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

sacai

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

まとめ

 ジェンダーの境界を飛び越え、プロポーションで遊び、プレッピーを再解釈して服を日常のくつろぎへと引き寄せ、足元から大地と繋がる。2027年春夏メンズコレクションのキーワードとして現れたのは、これまでの「男らしさ」の枠から解放された、しなやかで自由な男性像である。服が人間の精神や生活といかに美しく、誠実に調和できるか。不確実な時代において、2027年春夏のファッションは日常をより身軽にし、しなやかに生きるためのリアルな選択肢に満ちている。

特集:5分で分かるファッショントレンド

最終更新日:

文・芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

FASHIONSNAP ディレクター

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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