2027年春夏コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI

2027年春夏コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
パリの乾いた空気を思わせるサンドベージュのランウェイを舞台に、大月壮士が手掛ける「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」が2027年春夏コレクション「The Persistence of Memory(記憶の固執)」を発表した。1月にイタリア・フィレンツェで「第109回ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」のゲストデザイナーとして堂々たるランウェイショーを披露し、話題を呼んだソウシオオツキ。初のパリでのショーとなる今季は、そこからさらなる美意識の深化と、プロダクトクオリティにおける飛躍を見せつけたシーズンとなった。
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飛躍の理由は、デザイナー自身による冷静かつストイックな自己探求にある。ピッティでのショーを成功させながらも、大月は「ハンガーに掛かった服単体の説得力」、つまり生地や色が放つ力をもっと引き出せるはずだと考えていた。その省察から、今季はオリジナル生地の製作や色彩の探求に途方もない時間を費やし、ピッティの後には自ら産地を奔走したという。結果として、スーツやネクタイに用いる生地はすべてが日本国内で生産されたオリジナルとなり、20年以上前の生地をリプロダクションしたものも組み込まれるなど、プロダクトとしての完成度と奥行きが格段に押し上げられている。


今季のクリエイションの出発点となったのは、デザイナー自身が経験したことのない「リゾートへの郷愁」である。幼少期、ハワイに旅行する友人たちを羨ましく思いながら、祖母の家で夏休みを過ごしたという私的な追憶。写真や映画を通して形成された「行ったことのない場所への懐かしさ」というノスタルジーが、同コレクションの核となっている。大月が想像したのは、いつも厳格であろうとする父親が、非日常的なリゾートという空間において、ほんの少しだけ羽目を外してしまった姿だ。旅先の開放感から気分が高揚し、片方だけ襟が飛び出したシャツや、トランクスが覗くショーツなど、どこか格好つけきれていない隙のある佇まい。しかし、完璧を求める人間が見せるそのわずかな崩れは、決して品位を損なうものではなく、むしろ愛嬌と人間らしさを漂わせる。


特筆すべきは、これらの着崩しが、スタイリストのアリスター・マッキー(Alister Mackie)の手腕によるものだけでなく、衣服の構造そのものに組み込まれている点だ。着用者の意図を介さずとも、タックの構造やパターンの設計によって、必然的に「そうなってしまう」状態を作り出している。人は服を着る際、「旅先だから」「そういう仕様だから」といった無意識の「言い訳」を欲する生き物であると大月は語る。同氏はその「理由」までもプロダクトの内部にあらかじめ設計することで、着用者が何のてらいもなく、ごく自然にその着崩しを楽しめるように導いている。
この哲学は、今季追求された「ソフトテーラー」の概念にも通底している。大月にとってのソフトとは、単に柔らかな生地を用いたり副資材を省いたりすることではない。毛芯の構造を見直し、カッティングに丸みを帯びさせることで、たとえ硬い生地であっても柔らかな印象を与えることを目指したのである。極端な段返りを見せるラペルや、内部に金属を仕込むことで湾曲したベルト、そして「コウタオクダ(KOTA OKUDA)」との協業による曲がった仕様のカラーステイなど、随所にデザイナーのイニシャルである「S」を思わせる曲線が描かれている。これは、硬い物体が溶けるように柔らかく見えるというサルバドール・ダリの作品群から着想した。




ランウェイを歩くモデルたちがまとう色彩もまた、生命の力強さというよりは、むしろ時間の蓄積を物語っていた。先染めによって経糸と緯糸の色や素材を使い分けたウールやリネン、後染めと洗い加工で表情を加えたコットン素材。紫外線や空気によって水分を失ったかのような乾いたベージュ、粘土質な赤茶、褪色したサックスブルーなど、自然の色ではなく「時間を経た物質の色」が、コレクション全体に奥行きを与えている。加えて、大きな荷物を嫌うデザイナーの意向から生まれた、ウエストのベルトに挟み込むことができる本のような極薄のバッグは、パスポートや航空券を収納するための「リゾートへの旅」に最適な実用品として、機能と物語をシームレスに繋いでいた。


他ブランドとのコラボレーションも、コレクションの完成度を高める重要なピースとして調和している。前回の秋冬シーズンに続く「アシックス スポーツスタイル(ASICS SportStyle)」との協業では、パンチングレザーや高密度メッシュを用いた4配色の新作シューズ「GEL-AXIS FF」を発表。「三陽山長」とはドレスシューズの品格を宿したグルカサンダルを、「ブラックミーンズ(blackmeans)」とは顔料やスプレーペイントによるひび割れた表情が美しいレザーのテーラードジャケットを製作した。加えて、「サンヨーコート(SANYOCOAT)」との協業によるロングコートは、デザイナーの父親が80年代に着用していたトラディショナルなダブルブレストを踏襲しながら、着脱可能な肩パッドと撥水加工を備えた現代的な仕様にアップデートされている。


日本人の精神性とテーラーの技術によって作られる独自のダンディズム。ソウシオオツキにとって衣服を作ることは、単なる過去の再現ではない。それは、経験したことのない記憶に確かな輪郭を与え、新たな記憶として人々の身体に刻み込むための構築的なプロセスなのだ。高められたプロダクトクオリティ、知的なユーモア、そしてテーラリングの真髄が渾然一体となった今シーズン。パリの地で発表された同コレクションは、ダリの絵画が示すように時間や記憶の概念さえも歪ませ、観る者を「存在しなかったはずの美しい追憶」へと誘い込んでみせた。「ソウシオオツキ」がパリという新たなステージにおいて、独自の美学とテーラリングの真髄を堂々と世界へ示してみせた、確かな進化を刻むランウェイであった。
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