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中谷芙二子の「霧」に包まれたサンローラン、27年夏メンズで体現する抑制美

芳之内史也

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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 アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が「サンローラン(SAINT LAURENT)」のクリエイティブ・ディレクターに就任して今年で10年。メゾンのヘリテージと現代的なセンシュアリティを融合させてきた同氏が、2027年メンズサマーコレクションで提示したのは、「抑制」という名の誘惑であり、「不在」がもたらすラグジュアリーであった。

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 ショーの舞台は、パリ1区にある現代アート美術館「ブルス・ド・コメルス(Bourse de Commerce – Pinault Collection)」。安藤忠雄設計のロトンド空間で、現在芸術家の中谷芙二子による没入型の霧のインスタレーション「CLOUD #07156」が展開されており、ショーではその中をモデルが歩いた。服が見えなくなるほどの霧は単なる舞台装置ではなく、視界を遮ることで「すべてを知り、見ようとする」情報過多な現代の欲求に対するアンチテーゼとして機能している。あえて見せないことで、語られないものが持つ奥深さや、未知なるものへの想像力が掻き立てられる。

 「誰もあなたを誘惑しようとはしていない。彼らを魅力的に見せているのは、誘惑する必要がないという事実そのものだ」。ヴァカレロの言葉通り、全41ルックを貫くのは、やや広めに取られた肩と絞ったウエストで作る静謐なテーラリングだ。コレクション全体を通して、ヴァカレロは「抑制」を美徳とし、語られざる部分に意味を持たせた作家のマルグリット・デュラスなど、「割愛」を表現様式とした人物たちにオマージュを捧げている。

 今季は具体的なアイテム群が、その美学を雄弁に物語っている。ウールキャンバスやウォッシュドシルクギャバジンを用いたジャケットとトラウザーは、洗練されたシルエットを描き出し、端正なテーラリングの進化を証明。そこにグレーのシルクサテンTシャツや、ワインレッド、オレンジといった色鮮やかなシルクカシミヤのニットを合わせることで、極上の肌触りと上質なリラックス感を演出した。さらに、アプリコットやミントグリーン、レモンイエローに彩られたウォッシュドナイロンパーカを差し込むことで、クラシックな装いにスポーティな軽快さが加わり、コントラストを生み出している。

 カラーパレットは、アンスラサイトやグレージュ、チョコレートといった落ち着いたトーンを基調としつつ、随所に差し込まれた鮮やかな色彩が美しいリズムを生む。中でも際立っていたのは、実用的なアウターを非日常へと引き上げる「ゴールド」の存在だ。終盤に登場する金箔を用いた平織り生地のトレンチコートやジャケットは、これ見よがしな富の象徴ではなく、今季の「不在のラグジュアリー」を象徴する中心的なアクセントとして機能している。足元の透けるPVC素材のスクエアトゥシューズも、抑制された官能美を静かに主張していた。

 ヴァカレロが歩んだこの10年は、メゾンのコードを現代に翻訳し続ける探求の旅であった。彼がたどり着いた「不在のラグジュアリー」は、サンローランが迎える次なる10年の、最も深く官能的なプロローグである。

SAINT LAURENT 2026年ウィンターメンズ

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SAINT LAURENT -Men's- サマーコレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP ディレクター

芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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