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服を“感じる手段”に BFGU出身の中国人デザイナー「コユー」のものづくりへの愛着

聞き手&文・平原麻菜実

 文化ファッション大学院大学(BFGU)を卒業後、2025年秋冬シーズンに東京でデビューした「コユー(kallyu)」。「知覚のひとつとして服を提案する」というコンセプトのもと、毎シーズン“動詞”をテーマに掲げ、ブランドの世界観を築いている。デザイナーのカユウ・シュウ(Kayuu Zhou)は中国出身で、日本のファッションに影響を受け、この地でブランドを立ち上げることを決めたという。

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 新宿歌舞伎町からほど近くに位置するアポイント制のセレクトショップ「ジャックポット(jackpot)」のバイヤーの奥山達也はコユーを見守ってきたひとり。ポップアップを経て、2026年秋冬コレクションから同店でも常設ブランドとして買い付けている。

 そんな2人の対話から、コユーの魅力を深堀するとともに、ヴィジュアル制作への想いや、今の時代にブランドを作るためのヒントを紐解く。

カユウのバックグラウンド――幼少期からブランド立ち上げまで

⎯⎯中国出身のカユウさんですが、幼少期はどのように過ごされていましたか?

カユウ・シュウ(以下、カユウ):いつからという記憶が曖昧なくらい昔から、ファッションに興味のある子どもでした。両親は服飾系の仕事ではないのですが、生地屋さんに連れて行ってもらって「あれもこれも欲しい」とねだるような。小学生の時に独学でスカートを作ったのを覚えています。かなり簡単な作りのものだったと思いますが、その時に「自分はものを作ることが好きなんだ」と強く自覚しました。元々絵を描くのが好きということもあって、漠然とこういうことを続けたいなと思っていたんです。

⎯⎯ファッションに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

カユウ:父がよくファッション番組を見ていて、一緒になって毎週見ていたんです。「ファッション通信」のようなファッションウィークのランウェイを紹介する番組でした。多くのブランドに触れていくうちに、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」といった日本のブランドに興味を持つようになりました。現行コレクションもチェックしますが、アーカイヴをリサーチするほうが好きです。

⎯⎯中国の大学で服飾を勉強してから、文化ファッション大学院大学(BFGU)のファッションビジネス研究科 ファッションクリエイション専攻 テクノロジーコースに進学しています。

カユウ:同郷の先輩がBFGUに留学していたこと、そして日本へ旅行した際に実際のキャンパスを目にしたことで、その雰囲気の良さに惹かれました。中国の学校ではデザインの発想やコンセプトなどブランドづくりの基礎となるような部分を勉強したので、日本では技術的なスキルをさらに深めたいと考え、テクノロジーコースを選びました。

⎯⎯日本での学生生活はどのように過ごしていましたか。

カユウ:学校が終わったら、ほぼ毎日古着屋に通って、さまざまなブランドのアーカイヴをチェックしに行っていました。写真や資料でも見ていましたが、実物に触れると作りの面白さや、発想力を肌で感じられてワクワクしました。

⎯⎯中国ではなく日本でブランドを始めようと思ったのはなぜですか?

カユウ:実は特別な理由があるわけではないんです。ただ、学生時代から友人とアイテムを作るうちに、本格的なブランドを立ち上げたいと思うようになって。当時は日本でのモデルの活動を通じて知り合ったフォトグラファーやスタイリストなどクリエイターの方々が増えてきて、ものづくりに最適な環境だと感じていました。それから、やっぱり日本のファッションシーンの面白さに惹かれていたこともあり、日本での挑戦を決めました。

⎯⎯お二人の出会いについて教えてください。

奥山達也 jackpot バイヤー(以下、奥山):初めて会ったのは、お店のスタッフの友達として紹介してもらったんです。まだブランドを始める前で、モデルとして会いました。

カユウ:ジャックポットは個性がしっかりあって、ブランドに対してリスペクトのある東京の素敵なお店の一つだと思っています。いつか自分がブランドを作ったら、こういうお店で扱ってもらいたいと考えていました。

奥山は顔出し無しでの取材対応だったが、終始穏やかな口調でカユウと談笑。若いスタッフを束ねる人柄がにじみ出ていた

動詞から始まるコレクションの世界観

⎯⎯「コユー」は2025年秋冬コレクションでデビュー。「知覚のひとつとして服を提案する」というコンセプトはどのように思いついたのでしょうか。

カユウ:私にとって服を作ることは、その時々の感情や記憶の断片をつなぎ合わせるようなものなので、「感じる」ことがとても大事。コユーでの服作りを通じて、洋服はただ着るものではなく、世界を感じるための手段でもあるということを伝えたくて。ブランド名にもそうした感覚的なニュアンスを込めたかったので、「Call you(コール ユー)」という動詞から着想を得て「コユー」と名付けました。

⎯⎯毎シーズンのコンセプトも、「Hearing(聞く)」や「Warten(ドイツ語で待つの意味)」と動詞に由来していますね。

カユウ:それぞれの動詞が含んでいる抽象的なイメージを、服自体やヴィジュアルなど総合的に表現しているような感覚です。デビューコレクションはヒアリング(Hearing)の具現化として、象の耳のように大きなフードをあしらったアイテムを作りました。2026年秋冬コレクション「Reciprocal(相互的)」ではリバーシブルやマルチウェイのアイテムをデザインしたのですが、ただ服を着るのではなく、着る人それぞれの感性で服との関係性を相互的に探求してもらえるように意識しました。

⎯⎯奥山さんはコユーをデビューコレクションからチェックしているそうですね。

奥山:カユウちゃんはモデルとして出会った時から、独特な空気感を持っている子だったので、どんなブランドなのか素直に気になったんです。数シーズン見ていて思うのは、基本はウィメンズの作りだけれど、どこかメンズ的なクールさがあるのが独特だなと。ヴィジュアルなどではワークなテイストもありながら、女性らしいパンプスを履いたルックもある。いわゆる「ジェンダーレス」や「ユニセックス」ともまた違う印象を受けました。僕個人としては、メンズ目線で共感を得られるウィメンズウェアだなと感じています。

ショールになるつけ袖

気泡のようなディテールの穴に指を通すと袖のシルエットが変わる

⎯⎯これまでジャックポットでポップアップを実施してきましたが、2026年秋冬シーズンから本格的に取り扱いをスタート。

奥山:タイミングが合致し、ようやく取り扱いがスタートしました。ブランドとしても元々のPR担当に加えて、新たにセールスが入り、より全体の強度が増したシーズンでもあるので、良いタイミングでご一緒できて嬉しく思っています。

カユウ:コユーは一気に店舗数を増やしたいわけではなく、ショップとしての世界観やブランドとの関わり方、お客さんとの接し方などで「ここにお願いしたい!」と感じるお店との取り引きをしっかり作っていきたいと考えています。ジャックポットさんもいつかはお願いしたいお店のひとつだったので、ポップアップの時も嬉しかったですが、取り扱ってもらえて光栄だなと思います。

⎯⎯ポップアップで実際の顧客と接してみて、学びや気づきはありましたか?

カユウ:お店の特性もあってメンズのお客さんが多かったのが新鮮でした。男性が着た時の雰囲気や、お客さんそれぞれの着こなしは刺激になりました。私は店頭であまり話すタイプではないのですが、ポップアップにコユーの服を着て来てくれた方々を見た時の感動は忘れられないですね。

奥山:今年2月のポップアップでは、別注で作ってもらったグローブやバッグが男女ともに好調でした。新しいブランドをお客さんに紹介する時、「こういう人たちには刺さるだろうな」とある程度想像しますが、意外な反響になることも全然あります。コユーの場合は「やっぱりいいよね」という感じで、僕らのお客さんにしっかり魅力が伝わったんじゃないかなと思います。

ブランドのヴィジュアルと、世界観を伝えるための姿勢

⎯⎯コユーとジャックポットの共通点として、ヴィジュアル制作に力を入れていると思います。服そのものだけでなく、見せ方におけるこだわりはありますか?

カユウ:私は立ち上げ当初からブランド全体の世界観を感じてもらいたいという思いがあるので、ヴィジュアル制作は毎シーズンの楽しみでもあります。

奥山:コユーのヴィジュアルはいつも素敵なチームで撮影しているよね。

カユウ:私自身ものづくりが好きなので、フォトグラファーやスタイリスト、ヘアメイク、モデルのみんなで毎シーズンの空気を形にするのが刺激的なんです。ファーストシーズンはパリ、2シーズン目はベルリンで撮影しました。今回はパリ在住のフォトグラファーの方にお願いしています。ジャックポットもインスタグラムでヴィジュアルをたくさんあげていますよね。

コユーが毎シーズン制作しているヴィジュアル。5年、10年と続け、アーカイヴ展のように展示する機会があったら面白いかもしれない、とカユウ。

奥山:僕らの場合は入荷するアイテムの発信を模索するうちに今の形に落ち着いた感じです。トップダウンでディレクションしているわけでもなく、特にコンセプトやレギュレーションもありませんが、「新宿という場所を隠さずに出していく」「ブランドのルックとは違うことをする」というゆるい決め事だけあります。あと、スタッフの子たちが楽しんで続けられるのも結構大事だと思っていて。だからなのか、服を着て街を歩く姿が想像できる、自然体の良いカットが上がってくるんです。カユウちゃんが撮影する時は結構ディレクションする?

カユウ:クリエイティブのコントロールはむしろしないようにしています。テーマや雰囲気が分かるキーワードを伝えたり、自分が行ったことがある場所で良いなと思ったところを共有したりするくらいですね。異なる感性を持った人たちから何が生まれるのかが楽しみなんです。いろんな人が着ているのを私自身が見てみたいというのもあって、自分ではモデルにならないようにしています。

ジャックポットのスタッフが撮影したスナップ

新宿に馴染みがある人なら、場所が思い出せるロケーションが多い

多様な環境を“泳ぐ”ことを探求した27年春夏

⎯⎯新作の2027年春夏コレクション「Swim(スイム)」について教えてください。

カユウ:泳ぐという行為そのものではなく、流動的な空気感や連想する触感をアイデアの軸にしました。水中から陸に上がった時に皮膚と空気が触れる感覚、水面に反射する光や揺らぎ、水中で生きる生物のテクスチャーなど、スイムを広い意味で捉えてコレクションに落とし込みました。

奥山:コユーのテーマはとても抽象的だけれど、どこかクスッとするような遊びがあるのも面白い。クラシカルなスカーフやタイとして使えるアクセサリーに、ゴーグルみたいに穴を開けるとか。魚のエラみたいなディテールもあったよね?

カユウ:はい。水かきのようなカッティングを施したシャツもあります(笑)。目に見えてわかるモチーフもありますが、水の揺らぎを想像して透け感のある素材を使ってみたり、環境の変化に適応するというイメージからマルチウェイのアイテムを作ってみたり、間接的にテーマを服に宿らせる方法をいつも考えています。

ゴーグルのように穴を開けたアクセサリー

Image by: コユー

エラのように襟が二重になったジャケット

Image by: コユー

⎯⎯これまでのシーズンはダークなカラーパレットが特徴でしたが、今回は春らしく明るいカラーを取り入れています。

カユウ:ブランドとして特定のカラーを固定したいわけではないので、常にそのシーズンのイメージを最も表現できる配色を探っています。水色はもちろん水のイメージ。ベージュやスキントーンのカラーは、皮膚や魚類、両生類の体の色に着想しています。魚の色というともっと銀色や光沢のある色味を想像するかもしれませんが、実物を見るとうろこがあるので半透明に見えますよね。そのイメージを形にしようと思って、今回はラムスキンを脱色したショーピースを特別に制作しました。

レザーを脱色したトランスペアレントなアイテム

Image by: コユー

Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

やりたいことを忠実にやるだけ

⎯⎯3シーズン目からショールーム「ON TOKYO SHOWROOM」と契約するなど、ビジネスも少しずつ強化しています。

カユウ:私自身、ビジネス面は全く得意ではないんです。だから早い段階で信頼できる人にお願いしたいと思っていました。今はPRをお願いしている方もいて、それぞれの専門の方の意見も取り入れながらデザインを深めていくのが楽しいです。

セールスのアイデアなどを受け、初めてドレスを製作。定番のデニムには新シルエットが加わるなどバリエーションが広がった

⎯⎯ジャックポットはオープンから30年以上が経ちますが、新しいブランドを買い付ける際、何か大切にしている哲学はありますか?

奥山:ジャックポットがあるのは歌舞伎町からも近い新宿のど真ん中で、文化(文化服装学院)もあるし、客層が幅広いんです。尚且つ、実店舗はアポイント制なので、理由があって来店する方がほとんど。そこを加味すると、やっぱり大手のセレクトさんや百貨店さんが手を出せないブランドやアイテムもしっかり見るのは大事なのかなと。ただ、単に尖っていればいいというわけではなく、全体のバランスは重視しています。基本的にはメンズが主体なので、ウィメンズアイテムを買い付ける場合は、メンズ目線で共感を得られるウィメンズウェアというのを意識しています。

⎯⎯ブランドの今後の目標を教えてください。

カユウ:自分たちの価値観に共鳴してくれるユニークなセレクトショップを通して、私たちの服を本当に届けたいと思える方々に出会っていきたいです。もちろん、日本に限らず中国や韓国、アジアだけでなく、アジア以外の市場にも段階的に広げていきたいですね。

⎯⎯最後に、変化の激しい時代の中で、これから自分の表現をしようとしている人たちに、お二人から何かヒントになるような言葉をいただけますか?

カユウ:私はあくまでやりたいことを忠実にやっているという感覚で。デザインにしろ素材選びにしろ、自分が好きなものに触れ、その感覚を形にするような。根本的に自分が好きなものを積み重ねていけば、少なくとも何かを生み出すことはできるんじゃないかなと思います。

奥山:僕も同じように考えていて、自分がやっていることを信じて続ける、これに尽きると思います。評価の基準は時代によって変化するので、どれか一つが正解というわけではない。これだと思ったものを続けていくと、後から評価が変わるなんてこともよくあります。僕らも昔は「アポイント制なんてうまくいくはずない」と言われていましたが、今では濃いファンがついてくれています。だめな時期もあれば、いい時期もある。その波をうまく乗り越えていくことが、一番大切なことだと思っています。

2027年春夏コレクションの会場には「Swim」がテーマのインスタレーションを展示

ミニマルな水の展示の中をめだかが泳いでいる

最終更新日:

聞き手&文・平原麻菜実

Manami Hirahara

FASHIONSNAP 編集記者

埼玉県出身。横浜国立大学教育人間科学部人間文化課程卒業後、レコオーランドに入社。国内若手ブランド、国内メーカー、百貨店などの担当を経て、2020年にビューティチームの立ち上げに携わる。ポッドキャストやシューティング、海外コスメレビュー、フレグランス、トップ取材など幅広い観点でファッションとビューティの親和性を探る企画を進行。2025年9月より再びファッションチームに所属。映画、お笑い、ドラマ、K-POP......エンタメ中毒で万年寝不足気味。ラジオはANN派。

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