ADVERTISING

フランシス・クルジャンが語る 「ディオール」新フレグランスについて、日本との結びつきについて

文・福崎明子

Image by: DIOR

Image by: DIOR

Image by: DIOR

【フレグランス特集】「ディオール(DIOR)」が、ディオールの物語を22の香りで綴る特別なフレグランス コレクション「ラ コレクシオン プリヴェ」をよりミニマムに再解釈した「エスプリ ドゥ パルファン」から、ジャスミンの香りのフレグランス「ジャスミン デ ザンジュ エスプリ ドゥ パルファン」(80mL 7万1500円)を発売した。

ADVERTISING

 「目指したのは、ジャスミンの収穫時の、グラースの空が夕焼けに染まり、陽が静かに沈みゆく一瞬を香りで描き出すこと」と語る、ディオールのフランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)パフューム クリエイション ディレクター。フレグランス特集の最後を飾るインタビューで、クルジャン氏に新しい香りのインスピレーション源から、日本との親和性、さらには自身の記憶に残る香りについてまで、聞いた。

フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian):1995年「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」初のメンズフレグランスを手がけ、25歳でデビュー。2008年に芸術文化勲章”シュバリエ”を受勲。2009年「メゾン フランシス クルジャン」を立ち上げ、2017年にLVMHグループの傘下入り。2021年10月から現職。

夕暮れ時のジャスミン畑に感じるセンセーション

 新作フレグランスには、グラース産とエジプト産のジャスミンが用いられている。同じジャスミンでありながら、異なる土地で育った2つの個性を、いかにして1つのハーモニーへと昇華させたのかーー。

 「『コミュネル』という伝統的な技法を用いている。これはとてもクラシックで、昔からあるやり方だ」とクルジャン氏。そのコミュネルとは何か? 

 「ワイン造りの、異なるブドウの品種(セパージュ)をアッサンブラージュする技術にも似ている。エジプト産ジャスミンが持つフルーティでアニマル的な側面と、フランス産ジャスミンの繊細でエアリーなフローラル感。片方だけでは描けないイメージを、両方を合わせることで完結させる。それは調和やバランスというではなく、自分の頭の中にあるゴールに辿り着くための、完璧な素材を構築する作業」なのだという。

 クルジャン氏が追い求めたイメージ。それが最初に言った、「夕日が沈もうとしている瞬間に、ジャスミン畑を散歩しているときに感じるセンセーション」。夏の終わりの、情緒的な光景だ。ジャスミンが、芳醇で官能的なシロップのように甘いアプリコットの香りを放ち、そこに甘いストロベリーとジューシーなピーチといった新たなフルーティーノートが重なる。

 この創作の背景には、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が抱いた南仏への深い愛情がある。クルジャン氏にとって、そのヘリテージを物語に込めることは、インスピレーションというよりも「必然であり、義務」に近い感覚だという。

 「ディオールは1947年にメゾンを創立したとき、コレクションと同時に香水を発表した。50年代には南仏にラ・コルノワールという城を買い、そこに香料用の花々を植えた。彼の歴史の一部であり、ディオールの物語を語る以上、それは欠かせないものなのだ」。

 クルジャン氏自身もまた、ディオールで働くことで南仏・グラースとの必然的な関係を結んだ。パリ生まれのクルジャン氏にとって、グラースは必ずしも必須の場所ではなかった。しかし「ディオールで仕事をする以上、グラースに行くことは必然」という、ブランドの歴史と自身の創造性が、南仏という土地で結ばれている。

都市のリアリズム、記憶のアーキテクチャ

 クルジャン氏の創造性の源泉は、いわゆるフレグランスのインスピレーション源として挙がる、牧歌的な自然の中にあるわけではない。むしろその感覚は、極めて現代的で複雑なリアリズムに根差している。

 幼少期、パリ郊外の自宅の庭は、クルジャン氏にとって「罰」の記憶と結びついていた。サッカーをすれば怒られ、芝刈りを言いつけられる場所。だからこそ「庭のないアパートに住むことが夢だった」と笑う。

 その価値観が変化したのは、コロナ禍のロックダウンだったという。偶然にも引っ越した新しいアパートには大きなテラスがあり、2年間、植物の世話をすることに喜びを見出す。今ではそこは、香りのする植物だけを集めた「ユースフルな庭」となった。ただクルジャン氏は言う。「植物を愛でるからといって、山に登ったりはしない。私は都会が好きなんだ。パリや東京のような、観たいもの、美しいお店、美術館がたくさんある場所が落ち着くんだ」。

 この都市的な感性は、クルジャン氏が日本の美学に寄せる共感とも響き合っている。

 「美しいものに触れることは、テイストや感性を磨き、人生をより豊かにする」。クルジャン氏が特に心を惹かれるのは、日本の文化に息づく「ニュアンスの芸術」。光沢とマットが隣り合う紙の質感、西洋とは異なる「余白の美」。その繊細な感覚は、フランスの美意識と通底すると語る。日本を訪れ、その美学に触れることは、調香師としての感性をより鋭敏にするための、不可欠な経験なのだ。

「香りを聞く」ということ

 日本文化との対話の中で、クルジャン氏が影響を受けたもののひとつが「香道」。香道では、香りを「嗅ぐ」とは言わず、「聞く」と表現する。

 「『聞く』という言葉だけでも素晴らしい。それは単に感じることを超えて、神経を集中させる行為を意味する。次元が違う」。

 クルジャン氏によれば、香りは他の芸術と決定的に異なる側面を持つ。それは、私たちの身体の内部へと入ってくる、ということだ。「音楽を聴いたり絵画を見たりするのとは違い、香りは食べ物のように体内に吸収する感覚がある。だからこそ、良い香りは心身に良い影響を与え、悪い香りはその逆をもたらす。『消化する』のに近い感覚だ」と説明する。

 この身体的な感覚こそ、クルジャン氏の調香の哲学につながる。それは、ただ原料を混ぜるだけでは意味がない。「大切なのは、そこから生まれるエモーションだ」。

 クルジャン氏が目指すのは、素材を忘れさせるほどの「感動」。「素晴らしい音楽は、どの音符が使われているかを忘れさせ、メロディだけが心に残る。香水も同じ。何が入っているかではなく、それが呼び起こす感情こそが全てだ」。

 クルジャン氏自身、かつてクラシックバレエを学んでいた経験から、身体表現と香りの創造を重ね合わせる。「ただ腕を動かすのではない。その動きで何かを表現する。それは歌舞伎の所作が一つひとつ意味を持つように」と、ここにも日本文化が重なり合う。

クルジャンの忘れられない香り

 では、クルジャン氏本人の記憶に刻まれた、忘れられない香りとは何だろうかーー。それは、幼い頃に訪れた祖父母のアパートの匂いだという。ワックスがけされた木の床の香りと、階段の先にあった地下室から漂う、独特の湿気と深みのある匂い。

 「カビ臭いという悪い意味ではなく、深淵を覗き込むような、湿度を伴った深い香り。それが、私にとっての『プルーストのマドレーヌ』だ」。

※マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」に登場する、紅茶に浸したマドレーヌの味をきっかけに過去の記憶が鮮やかに蘇る名シーンは、香りが記憶を呼び覚ます「プルースト効果」の由来として広く知られている。

 クルジャン氏は言う。「私が創り出すフレグランスは、いつか市場から姿を消す日が来るかもしれない。しかし、人々が香りによって幸福感を得たり、感動したりする営みは、私がこの世を去った50年後、100年後も続いていくと信じている」と。香りと幸せの特別な関係性は永遠だ。ジャスミン デ ザンジュ エスプリ ドゥ パルファンも、街の中でふとジャスミンが香った時、または夕焼けを綺麗だと眺めた時、そんな小さな幸福感を感じる瞬間に思い出す香りになるだろう。

最終更新日:

◾️ディオール:公式オンラインブティック

【連載:フレグランス】

  1. 香水市場はどこへ向かう? 新体制のブルーベル成田浩明CCOが語る現在と未来
  2. パンピューリ創業者に聞く、心地よさの作り方
  3. 香り作りの原点で思い描いた香りはいまだ未完成 韓国発「ナフ」ディレクターの思考
  4. FASHIONSNAPの"中の人"が選んだ 今好きな香り12選
  5. "香りだけ"を頼りに自分の好きを探る ノーズショップの「嗅覚プロファイリング」を体験
  6. 快進撃続くフレグランス市場 世界の香水ブームを牽引する4つの潮流
  7. 今年の「サロン ド パルファン」の見どころは? 来夏のフロア改装を見据えた売り場作り
  8. 「サロン ド パルファン 2026」に来場するファビオ・ルイージって誰?
  9. 【SNAP】若者が本当に使っているフレグランス 愛用品から見えた香りのトレンド
  10. 香りで美容の常識を変える 少数精鋭で60億円を売り上げる「ロア」の美学と戦略
  11. 【今年発売】洋服を選ぶようにフレグランスも 51の新作フレグランス一挙紹介
  12. 「なぜこの香りが好きか」を言語化 カオリウムが拓く香りとAIの未来
  13. 無印良品が考える「香りのある暮らし」 フレグランス商品の今とこれから
  14. 贈り物に「香水」という選択肢 東京ディズニーランドで探す香りのお土産
  15. 香りを「聞く」——フランシス・クルジャンが語る新作フレグランスと記憶

文・福崎明子

FASHIONSNAP ビューティディレクター

⼤学卒業後⼀般紙を経て、ファッション業界紙 ⽇本繊維新聞社で、編集・記者として従事。2010年からINFASパブリケーションズで「WWD BEAUTY」「WWD JAPAN」に携わり、2021年1⽉に退社。同年7⽉からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティディレクターとしてビューティ領域の拡大および、ビューティ業界でのプレゼンスの向上を図る。私生活では2児の母。"推し活"は、BTS、[Alexandros]のライブには1人で参戦する。

ADVERTISING

RELATED ARTICLE

関連記事

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント