
Image by: Runway:FASHIONSNAP、Backstage:FASHIONSNAP(しょごまる)

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技術に裏打ちされた高品質な素材やオリジナルのテキスタイルを強みとするファッションブランドは少なくない。品質やスペック、ものづくりの背景を語ることはコレクションの強度を支える。だが、それらの"情報"が過度に先行するとき、ファッションクリエイティブ本来の面白みが霞むという危うさもある。
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「テルマ(TELMA)」のデザイナー中島輝道は、そうした甘い罠を軽々と飛び越える。その理由は単純だ——中島にとって産地の職人たちは、ただ守るべき伝統の担い手ではなく、ともにファッションをつくる“クリエイター”なのである。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」という、テキスタイルへの深い造詣とクリエイティビティの高度な融合を体現するブランドで培った中島の眼差しは、新体制で初となる2027年春夏コレクションで、これまで以上に鮮明に打ち出されていた。
同ブランドがユナイテッドアローズに事業譲渡し、子会社となったのは今年2月のこと。産地とより深い関係を構築し、ファッションクリエイティブを通じた繊維産業の振興のために、大手企業をパートナーとすることを決断した。経営面でのサポートを得たことで、作りたいものと向き合う時間が増えた中島は、改めて「人がものをつくること」の意義を見つめ直し、「手触り感のある強さ」に辿り着いた。
そうして迎えた今回のコレクションのテーマは「THE BEAUTY OF FREEDOM」。1969年の伝説的な音楽フェス「ウッドストック・フェスティバル」に代表されるヒッピーカルチャーを起点に、自由を信じ、未来を切り拓いた人々のエネルギーを、不完全さや非効率さの先にある美しさの追求へと発展させた。中島は「職人との対話や試行錯誤から生まれる歪みや揺らぎ、偶然性こそが服に生命を吹き込む。効率や均一性が求められる現代だからこそ、人間の痕跡を肯定したかった」と振り返り、これは恩師ドリスのステイトメント「The Only True Protest Is Beauty(美こそ唯一の真の抗議である)」に対する中島なりのアンサーでもあるという。




ショーはホワイトのワントーンルックで静かに幕を開けた。次第に構築的なジャケットやフォーマルなアイテムへと移行し、終盤では色鮮やかなグラフィックや繊細な装飾を施したドレスが次々と登場。フィナーレに向けて、ドラマティックな高揚感が空間を包み込むとともに、空色、オレンジ、マゼンタ、グリーンといったカラーパレットが祝祭的な活気をもたらした。


ブランドの新章を印象付けた美しくエネルギーに満ちた人間らしさは、国内産地との密な共創によるオリジナルのテキスタイルの数々によって表現。栃木県の伝統的な「足利銘仙」(シルクの先染め平織物)のほぐし織に捺染、ジャカード織を掛け合わせ、さらにラメ糸を組み込んだ独自素材は、繊細な光沢感と独特な立体感が手触りを想起させる。群馬県桐生産の三重織(みえおり)には今シーズンの“キーチャーム”である菖蒲の花のモチーフをあしらった。ロングスラブ糸にスペック染めを施すことでウォッシュドデニムのように仕上げたジャケットは、ヒッピーカルチャーに欠かせないデニムスタイルのテルマ流に提案。華やかさと静けさ、強さと繊細さが同居する独特のテクスチャーが想像力を掻き立てた。


ほぐし織に捺染、ジャカード織を掛け合わせ、さらにラメ糸を組み込んだ独自素材によるブルゾン



三重織の生地で仕立てたドレス。3枚の生地を重ねて部分的に繋ぎ合わせることで、カットジャカードのような風合いとなめらかなテクスチャーの独特なニュアンスが生まれる
また、手仕事の極致ともいえるディテールも随所に光る。2枚の生地を重ねて精密なレーザーカットを施し、手作業でカット部分を抜き出したシアー素材でボリュームたっぷりのドレスを仕立て、製造の過程で生まれた残反を、糸に再生した手編みのニットベストや、パッチワークとして配したブルゾンを披露した。

レーザーカットを施しパーツをくり抜いたシアー生地のドレス

この生地をさらに重ねて仕立てている



残反を再生したハンドニットベスト
こうした豊かなテキスタイル、ハンドクラフトの温かみとエレガンスの絶妙なバランス感がテルマらしさを形作っている。シグネチャーであるフラットジャケットは半分縫製してから畳んだ状態でプリントし、そこから仕上げの縫製をするというもので、脇下やラペル裏などは無地になり、着用時の動きによってプリントが表情を変える。ボートネックのワンピースは、ボトムに贅沢に用尺をとり、ウエストの切り替えと最低限のタックによって歩くたびに優美なドレープが生まれる。ドレスやアウターにあしらった大胆なトレーンはウォーキングに合わせてはためき、観客の視線に優美な余韻を残した。

フラットジャケットの新柄

フラットジャケットの新柄

ピンク・フロイド(Pink Floyd)のツアーポスターからアイデアを得たというブランド初のロゴTも製作。肌触りが良いジャージー素材で仕立て、東京とアントワープというバックグラウンドとともに、「BEAUTIFUL IS THE COURAGE TO IMAGINE(美しさは想像する勇気)」のメッセージをあしらった。

中島の職人気質なものづくりとクリエイティビティ、美に対する情熱は言わずもがな“師匠たち”の存在が大きい。ドリスのもとでは、美しさの探究が自由を求める行為であり人の創造性の根源であることを学んだ。花々に象徴される自然のダイナミズムを、テキスタイルとデザインでいかに表現するか——ドリス ヴァン ノッテンでの日々が蒔いた種が、今テルマで花を咲かせている。
そしてイッセイ ミヤケでは素材に対する視座が鍛えられたと以前の取材で中島は語っていた。「生地はデザインのために使うものではない。職人や工場と共創することで、誰も見たことのないファッションの地平に辿り着けるのだと学びました」。ショー会場の座席からは、「シーエフシーエル(CFCL)」デザイナーの高橋悠介や、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)」デザイナーの宮前義之といったイッセイ ミヤケ社の元同僚が温かく見守っていた。

今シーズンの多彩なテキスタイルの挑戦は、ユナイテッドアローズのバックアップがあってこそ。これまでサンプルコストやロット数の兼ね合いでアプローチできなかった工場などと協業できるようになったと話す。今後について中島は、「日本の素晴らしい手仕事や職人技術を、ファッションというフィルターを通して世界に伝えていきたい。テルマを単なる服のブランドではなく、文化の継承と革新を担うプラットフォームのような存在に育てていくことが目標です」と決意を語った。
静謐でエレガントな佇まいの奥に、アグレッシブな素材のアプローチが生み出す、手触りのある強さが渦巻く。直近では第44回「毎日ファッション大賞」 で新⼈賞・資生堂奨励賞を受賞。勢いに乗り、新体制のもとでクリエイションの純度をさらに高めたテルマの飛躍はここから始まる。

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