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正しさと効率の時代に、ピリングスが「日常と幻想のあわい」を描く理由

佐々木エリカ

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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 ほとんど家と会社を往復するだけで過ぎていくような、変わり映えのない毎日。「そんな退屈な日常の風景の中に、もっと何か面白いことがないとやっていけない」──そう語るのは、「ピリングス(pillings)」のデザイナー村上亮太だ。華やかできらびやかな印象を持たれることも多いファッションの世界。しかし村上は「僕はパーティーや美術館に行ったり、色々な人に会ったりすることもあまりない」と自身の日常を“退屈”なものだと話す。そうした日々の中で「もっと何か面白いものを見つけたい」との思いから出発したのが、2027年春夏コレクションだった。

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「日常」と「ファンタジー」が溶け合う童話の世界

 今季のテーマは、「landscapes 2」。先シーズンから続く、現実と幻想的なもののあわいにある「平凡な日常の風景」という世界観をさらに掘り下げ、そこで生きる人々が着る「何気ない日常の服」をモチーフにした。1年前の2026年春夏では、都市型小型スーパーの「まいばすけっと」を着想源に、家にひきこもっていた内向的な女性が部屋から一歩踏み出し、近所の“まいばす”に向かう際のようなリアリティのある装いを描いた。続く2026年秋冬では、東京の街やその郊外を俯瞰して眺めるような視点から、「何気ない日常のドレスアップ」をベースに現実と夢のあいだにある世界を想像。今シーズンはそこからさらに、現実と幻想の境界線をぼかし、それらがグラデーションのように自然に溶け合う感覚を表現した。

 直接的なヒントとなったのは、小学校の国語の教科書にも載っているあまんきみこの童話「白いぼうし」。「道端の白い帽子からモンシロチョウを逃してしまったタクシー運転手が、持ち主への埋め合わせに夏みかんを置く。すると不思議な小さな女の子が乗車してくるが、目的地に着くとその姿は消え、代わりに外で白いちょうちょが飛んでいる──」という、日常の風景の中にいつのまにか小さな不思議が入り込んでくる物語だ。

 その「曖昧さ」が、染色や編みによる色のグラデーション、トップスとボトムスの切れ目がどこかはっきりとわからないように繋がるスタイリング、日常着からドレスアップスタイルへと印象が変化していくルックの構成など、コレクション全体に落とし込まれている。

 コレクションは、無地の半袖や長袖のシャツに膝下丈のタイトスカート、ハイゲージのタートルネックニットとカーディガンにジーンズ、といった“普通”を記号化したようなプレーンなルックからスタート。次第に色合いやディテールが装飾性を帯び、野に花が咲く様子や、花そのものを思わせるファンタジックなルックを経て、白を基調としたエレガントでドレッシーな装いへとゆるやかに変化していく。中盤以降の多くのルックでモデルが目深に被っている「白い帽子」は、レディライクな印象とともに、どこか実在しないかのような儚さと不可思議さを漂わせる。

より抽象的で詩的になった“ピリングスらしさ”

 「生きづらさ」や「生活のままならなさ」といった内面のわだかまりや、社会との摩擦や齟齬を、しわや不自然な布の溜まり、歪み、飛び出した裏地や袋布といったディテールで表現する“ピリングスらしさ”は、今季も随所に見られた。ただし、かつてはひきこもりがちで内向的な女性の生活の痕跡や内面の葛藤がそのまま表出したような、特定の人間像に対して強いリアリティを持つデザインだったのに対し、今季はより抽象的でさりげない形へと変化し、詩的でどこか洗練された印象を与えている。毛羽立ち、ごわごわ、ぐちゃぐちゃとしていたテキスタイルやニットの表面は滑らかになり、胸ポケットに添えられたレースのハンカチや帽子は、エレガントな佇まいを醸し出す。

 曖昧さやグラデーションを表現するための技法には、もう一つの“ピリングスらしさ”である手仕事の数々が用いられている。ニットの上に刺繍された花のモチーフは、近くで目を凝らして見ると、花の色がニットにじわっと滲んだような手塗り染め。襟付きのノースリーブトップスとスカートを飾るフリルには、あえて色落ちしやすい“泣き糸”で縫製して洗いをかけることで、じんわりとした色の滲みを生み出している。タイダイ染めのように見えるグリーンのニットは、染色ではなく手編みのインターシャによって、繊細なグラデーションを表現。白のスリップドレスには、後から染料プリントで「無理矢理」施したという朝顔のような鮮やかなピンクやパープルが、ひとさじの不穏さや違和感を添える。さらに、しぼんだ朝顔の花をそのまま巨大化させたようなドレスは、布花のコスチュームジュエリーを手掛けるアトリエ染花との協業によるものだという。

 村上が2シーズン続けて「現実と幻想的なもののあわい」や「曖昧な記憶」をテーマにする背景には、こうした思いがある。

今の時代、正しいか間違っているか、明確な答えやスピード感が大切にされますが、そうじゃない部分を持てることが、自分にとっては“ラグジュアリー”なんじゃないかなと。人の手の跡が残っているものには、愛おしさがあるなとも思います。

「スクランブル交差点」のように開かれた入り口としての服へ

 そして、ピリングスの服が軸として強く持ち続けてきた「社会との折り合いがつかない内向的で不器用な人間像」にも、ここ2〜3シーズンで変化が見られる。かつては特定の人物の生活や内面を強いリアリティで描いていた服が、今ではより抽象的で、見る人それぞれの解釈に開かれたものになっている。その理由を尋ねると、村上はこう話す。

自分たちが作ったものが、見てくれる人や着用してくれる人のものになったらいいなということを意識しています。自分が若いころに読んで好きだった小説のように、その人を映してくれる鏡のようなものになったり、一方通行ではなく「スクランブル交差点」みたいに、どの方向からでも見られて色々なところに行けるような入り口みたいなものになればいいなと。

 村上が語る「交差点」のような場所として今回ショーの会場に選んだのは、朝日新聞社 東京本社にあるオフィス空間。村上は、小学生から100歳近い人まで幅広い人が思い思いのことを投書する朝日新聞の「声」欄が好きだといい、会社と家の往復生活で社会と触れ合う場が少ない中で、日常を感じたり、今の社会に触れたりする場になっていたという。

 コレクションの内側で、村上自身の視点をより多くの人へと開いていくような変化が進む一方で、昨年LVMHプライズのセミファイナリストに選出され、海外での取り扱い店舗も25店舗以上に拡大するなど、ピリングスを取り巻く環境も大きく広がっている。

 けれども、見る人や着る人の内面や社会の中でのあり方にそっと寄り添い、世間一般の“普通”に対して「こうであってもいいのかもしれない」と、オルタナティブなあり方や視点を服作りを通して提示する姿勢は変わっていない。

疑問文のまま提示する、服の“余白”がもたらすもの

 毎回「もしかしたらこういう方向に行ってみたら何かあるかもしれない」といった思いでコレクション製作を進めていくという村上は、発表したコレクションに対しても「疑問文のまま終わっていく」ようにしているという。だからこそ今回のコレクションも、何を受け取り、どのように自分を投影するかは、それを見る私たちに委ねられている。

 白い半袖シャツと黒い膝下丈のスカートのルックで始まったショーは、少し透け感のある白い半袖シャツと白い膝下丈のスカートに、白いチューリップハットを被ったルックで締めくくられた。始まりと終わりが繋がるその円環構造は、まるでループのように繰り返しながらも少しずつ変化していく、日常を思わせる。アイテムのシルエットやデザイン、組み合わせはそれほど変化していないにもかかわらず、同じような日常着が、どこか現実から浮遊したものに見えてくる。

 現実と幻想、普通と特別。その境界にあるものを見つめながら、今季のピリングスは、見る人それぞれの解釈へと開かれた服を作った。日常の風景や些細なものごと、服のディテールにそっと目を凝らし、自身の感覚に身を委ねる。「なんだかわからないけれど、なぜか気になる」と感じたものを、そのまま自分の中に残しておく。そんな「余白」こそが、今季のピリングスが提示する一つの価値観なのかもしれない。

pillings 2027年春夏

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pillings 2027年春夏コレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

文・佐々木エリカ

Erika Sasaki

FASHIONSNAP 編集記者

埼玉県出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、国内大手アパレルメーカー、ケリング傘下ブランドのMDなどを経験した後、2023年にレコオーランドに入社。現在はウィメンズのデザイナーズブランドを中心に、サステナビリティやSDGs、教育分野も担当。ファッションやカルチャーに加えてジェンダーや社会問題にまつわるトピックにも関心があるため、その接点を見出し、思考や議論のきっかけとなるような発信をしていけたらと願っている。

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