ジェンダーレスやダイバーシティが浸透していく中「ありのままの心とボディで、より自分らしくいられること」に重きを置いたスタイルが増えてきている。2023年秋冬シーズンに向けたコレクションから、誰のためでもない、自分の心と身体を解放するために注目すべき10ブランドを紹介する。
1. ミュウミュウ(MIU MIU)
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カーディガンやフーディ、ジャケットやコートなどのトップはきちんとしているのに、なぜかボトムはストッキングにアンダーウェアだけだったり、スカートの下からストッキングがのぞいていたり、きちんとしたはずのまとめ髪が乱れていたり。慌ててボトムを履き忘れて出かけてしまったかのような大胆なスタイルが新鮮でキュートだ。
Image by: MIU MIU
Image by: MIU MIU
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本来なら「隠す」アンダーウェアを、アウターウェアの上に重ねるスタイリングで生まれる、素材や色のグラデーションが新しい。また、ありのままの美しい体を見せていこうという堂々とした姿勢が潔くヘルシー。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のユーモアたっぷりの視点から生まれたデザインは、まるで私たちに「無理に頑張らなくていいのよ」と優しく語りかけているよう。
Image by: MIU MIU
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ケンダル・ジェンナー、ベラ・ハディッド、ヘイリー・ビーバーら最先端のオシャレに敏感なZ世代セレブの「ノーパンツ」スタイルを彷彿とさせるコレクションと、若手の女優やトランスジェンダーをキャスティングすることで、若い新しい世代を賞賛し歩み寄るミウッチャの柔軟なスタンスを感じる。
2. ロエベ(LOEWE)
毎シーズン新しい試みを続けているクリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、過去のクチュールのクラシシズムと現在の新しい形との融合を「ファッションの亡霊のようなものだ」と捉え、ロエベの亡霊でインターネット上の目を欺こうというコレクションを発表した。
Image by: LOEWE
Image by: LOEWE
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花柄ドレスやトレンチコートなどをぼかしてプリントした白いチュニックドレスやカーディガンに、シワをプリントしたトロンプルイユ的な加工やレザーへのモールディング加工。シンプルなTシャツやショーツをフェザーで作ったり、ナッパレザーで作ったシンプルなシャツドレスにショルダーバッグのストラップチェーンのようなものがついていたり。様々な曖昧な輪郭のだまし絵のようなテクニックを使い、オンライン上でそれらのエフェクトが不具合でそうなっているのか、それとも本当にそういうものなのか、本当のことは実際に手に取ってみないとわからないようになっている。
Image by: LOEWE
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ソーシャルメディアやChatGPT、AIのめざましい普及によって、何がリアルで何がリアルでないかが非常に曖昧になってきている現代を嘲笑うかのようなジョナサンのチャレンジは、まだまだ続きそうだ。
3. シモーン・ロシャ(Simone Rocha)
シモーン・ロシャの故郷アイルランドにて毎年8月1日に行われるケルトの収穫祭「ルーナサ(Lughnasa)」から着想を得たコレクション。刈り取った麦穂でつくられるコーンドリー(Corn dolly)を連想させる赤いリボンのディテールやラフィアで編まれたマクラメドレス、またチュールやレースの袖とパニエの部分にラフィアが詰め込まれた小鳥の巣のようなドレス、光り輝く小麦のようなゴールドのラメ素材のアイテムや刺繍など、さまざまな素材でこの伝統的な儀式を表現した。
Image by: Simone Rocha
Image by: Simone Rocha
Image by: Simone Rocha
前シーズンに発表されたブランド初のメンズコレクションを、今回も継続。ミリタリーやテーラリングがベースとなり、ロマンティックなレースやラメ、シースルーといったウィメンズと同様の素材使いのアイテムは、ジェンダーレスな仕様となっている。
Image by: Simone Rocha
Image by: Simone Rocha
Image by: Simone Rocha
シモーンらしいロマンティックで可愛らしい雰囲気も兼ね備えたコレクションは、若い世代だけではなく、むしろ大人の男女が着こなしたら甘すぎずにカッコ良く決まるのではないだろうか。これからも独自の道を進んでもらいたいブランドの一つだ。
4. コーチ(COACH)
ニューヨークの歴史的建造物で1880年に建てられたパーク・アヴェニュー・アーモリーでショーを行ったコーチは、今シーズンもアメリカのブランドらしいスーパーマンやミッキーマウスなどの元気なキャラクターや、シアリングやデニムなどのアイテム満載のコレクションを発表した。
Image by: COACH
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レザーの端切れをアップサイクルして仕立てたジャケットやコート、コーチの古いバッグをアッパーに取り入れたレザースニーカー、そしてヴィンテージパーツを再利用したアクセサリーなど、サステナブルなアプローチに取り組んだコレクションは好感が持てる。
Image by: COACH
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また発色の美しいピンクやミントグリーン、マスタード、パープルといったシフォンのスリップドレスは、アーティストのマギー・パクストン(Maggie Paxton)とのコラボレーション。ログウッド、ベニバナ、マリーゴールドなどの植物で天然染めされている。
注目なのがハートや星、りんごやクローバーなどの形をした小さなハンドバッグ。ひとつひとつがとても愛らしいので、お気に入りの形が見つかるはず。
5. モスキーノ(MOSCHINO)
ミラノで発表されたモスキーノのコレクションは、スペインの画家、サルバドール・ダリの『記憶の固執』(1931年)が着想源。コレクションのオープニングで見られたジャケットやスカートのヘムは、絵画の歪んだ時計のような曲線を描き、ボタンもバッグも溶けて歪んでいる。パンクなムードのヘッドピースは、シュルレアリスムな雰囲気ともマッチしている。
Image by: MOSCHINO
Image by: MOSCHINO
Image by: MOSCHINO
このところ、ファッションの流れとしてオーバーサイズのシェイプが続いており、個人的にはそろそろ食傷気味に感じていた。しかし2023年秋冬は、モスキーノをはじめ様々なブランドで90年代初頭を彷彿とさせるボディコンシャスなシルエットやクチュールドレスが登場。久しぶりに「90年代クチュールスタイルが今、新鮮でカッコいい」と思わせるシーズンだった。
Image by: MOSCHINO
Image by: MOSCHINO
Image by: MOSCHINO
コレクションの発表の後、モスキーノのクリエイティブディレクターを2013年から10年間務めてきたジェレミー・スコット(Jeremy Scott)が今シーズンで退任という残念なニュースが流れた。モスキーノの世界観を引き継きながら、これからの時代に合ったクリエーションが出来る後継者が見つかるのか、今後のモスキーノの行方がとても気になる。
6. ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)
防護マスクやゴールドのチェーンで顔が覆われたモデルたちが登場したジュンヤ ワタナベ。デザイナーの渡辺淳弥はショー会場でも流れたレッド・ツェッペリンの『カシミール』(1975)の歌詞から、砂漠の旅に思いを馳せコレクションをデザインしたという。
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
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ダークな戦闘服のようなディテールや雰囲気なのに、クチュールシルエットによってエレガントにも見えるドレスやジャケットなどの数々は、レザーやライダースやスポーツウェア、シアリング、ダウンなど様々な要素で構成されている。ハイブリッド服といえば日本人デザイナーが得意としている分野だが、ジュンヤワタナベのハイブリッドは常に精密で巧妙、そして絶妙なバランス感覚を持ち合わせている。ため息が出るほど格好良く美しい。
Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)
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色々な出来事が目まぐるしく起こっているこの現代社会で、強い意志を持って生きる女性にぴったりの勝負服だ。
7. サンローラン(Saint Laurent)
エレガントで強い意志を持った女性のための服といえば、80年代を彷彿とさせる肩を大きく誇張した今シーズンのサンローラン。クリエイティブディレクターのアントニー・バカレロ(Anthony Vaccarello)は映画『ワーキング・ガール』(1988年)のシガニー・ウィーバー、メラニー・グリフィスからインスピレーションを得たという。
Image by: Saint Laurent
Image by: Saint Laurent
Image by: Saint Laurent
パワーショルダーとスリット入りのタイトスカートで逆三角形のシルエットを描くスーツやコートの数々は、ブランドの創設者であるイヴ・サンローランも好んで使用していたメンズウェアの生地で作られている。シフォンやナッパレザー、チェックのウールなどで作られた長いスカーフやストールを肩にふんわりと巻いて、女性的な柔らかさを添えた。
Image by: Saint Laurent
Image by: Saint Laurent
Image by: Saint Laurent
1月に発表されたメンズコレクションでは、ウィメンズのディテールをメンズウェアに融合させることで「ジェンダーレス」な現代のメンズスタイルを実現させたアントニー。今季のウィメンズコレクションでは「エレガンス」ということについて深く考え、ムッシュ・サンローランのDNAを上手に引き継いでいる様子だ。
8. バーバリー(BURBERRY)
約5年間チーフクリエイティブオフィサーを務めたリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)が退任し、ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)の前クリエイティブディレクターとして活躍した、英国人のダニエル・リー(Daniel Lee)が2022年10月に同職に就任。初めて手掛ける「新生バーバリー」コレクションが発表された。
Image by: BURBERRY
Image by: BURBERRY
Image by: BURBERRY
英国を代表する老舗ブランドの伝統を守るべく、ダニエルはシグネチャーのチェックやギャバジンのトレンチコート、バーバリーのアイコニックモチーフ「馬上の騎士(EKD)」、そして華やかなイングリッシュローズやカモのモチーフを用いて、それらを再解釈。配色やシルエット、丈などの変化で遊び心がありながらも、実用性のあるアウターや着心地の良さそうなアウトドア感覚の若々しいアイテムを多く登場している。
Image by: BURBERRY
Image by: BURBERRY
Image by: BURBERRY
モデル達が抱えていたのは、なんと湯たんぽ。こんなにカラフルで可愛らしい湯たんぽカバーがあったら即買いしたくなる。ダニエルはボッテガ・ヴェネタ時代にアクセサリーに定評があり、バーバリーでのファーストシーズンはフェイクファーがアクセントになった実用性のあるショルダーバッグや「b」の金具モチーフがついたチェックのバッグ、同じくチェックのスノーブーツ風やカラフルなレインブーツ風のブーツなどを提案。バーバリーでも次々と新しいバッグやシューズを生み出してくれそうな予感がする、そんなコレクションだった。
9. ロク(rokh)
韓国 ソウル生まれで米テキサス育ちのロク・ファン(Rok Hwang)は、ロンドンの名門校セントラル・セント・マーチンズでファッションデザインを学んだ。2016年にブランドを立ち上げ、2018年のLVMHプライズで特別賞を受賞。ロクの2023年秋冬コレクションは、Y2Kの流れをくむ健康的な肌見せスタイルと、90年代前半のシルエットが融合していた。
ブラトップやビスチェなどのランジェリーの要素を取り入れつつ、でもエレガントな雰囲気が残るスタイルは思わず着たくなるデザイン。ボトムのウエストベルトの部分を、くるっと表にひっくり返したようなディテールも、遊び心があっておもしろい。
コレクションはニュートラルカラーでまとめられ、はだけたスタイリングや肌見せ、パイソン柄や透けたレース、複数の黒いベルトなどが、決して下品ではないところに好感が持てる。
10. モリー・ゴダード(Molly Goddard)
ロンドン東部にあるスタジオで2023年秋冬コレクションを発表したモリー・ゴダードは、2014年にブランドを立ち上げ、2017年にはLVMHプライズのファイナリストに選ばれている。バレリーナのようなロマンティックなチュール素材のカラフルなボリュームのあるドレスがシグネチャーだが、今シーズンはチュールのスカートを取り入れつつ、ニットやウールのアイテムでよりカジュアルなスタイルを提案した。
Image by: Molly Goddard
Image by: Molly Goddard
Image by: Molly Goddard
ジャケットやコート、トップやドレスのストライプはグログランやベルベットのリボンを叩きつけて、新しいテクスチャーを生み出している。これまでのコレクションはチュールのボリュームが大きくて普段使いが難しいドレスも多かったが、今シーズンはよりウェアラブルで、日々のスタイルに活躍しそうなアイテムばかりだ。
Image by: Molly Goddard
Image by: Molly Goddard
Image by: Molly Goddard
スタッズが付いたメリージェーンは、プラットフォームもフラットもサンダルも、どれも履きやすそうで欲しくなる。
文化服装学院アパレルデザイン科卒業後、服飾専門学校で5年間の教員生活を経て2000年に渡仏。ニコラ・ジェスキエールのバレンシアガ(BALENCIAGA)→ アルベール・エルバスのランバン(LANVIN)→ ピーター・コッピングのニナ・リッチ(NINA RICCI)と、ジョブ型雇用で外資系老舗ブランドのデザイナーを歴任。2015年からはニューヨークに移住し、英国人スチュアート・ヴィヴァース率いる米ブランド、コーチ(COACH)では、ウィメンズウェアのシニア・デザインディレクターとして活躍。2019年に拠点を再びパリに戻し、2021年からパーソンズ・パリ(NYにあるパーソンズ美術大学のパリ校)の修士課程(MFA)でアソシエイト ディレクターを務めるほか、学士課程(BFA)では世界各国から集まった学生達にファッションデザインのノウハウを教えながら、インフルエンサーとしてnoteで執筆活動をするなど、自らもじわじわと進化中。
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