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【連載】若き写真家の肖像 -波多野彩姫-

 ファッションの世界でも活躍する若き写真家を紹介する連載「若き写真家の肖像」。14人目は、“ボーイズハンター”を自称し、「オーラム(aulam)」や「アンダーザデスク(UNDERTHEDESK)」などのルックを撮影した経験を持つ25歳の波多野彩姫。

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──出身は?

 埼玉県の三郷市です。「物事について常に問いを持つように」という父の教えのもとで育ち、絵描きの教室、ピアノ、サッカーなど、とにかく気になることはなんでもやりました。

──大学は文化学園大学の服装学部。

 ファッションクリエイション学科でした。大学2年生で「ここのがっこう(coconogacco)」に、大学3年生で東京文化財団主催のコミュニケーションツールについて模索する「東京プロジェクトスタディ」に、卒業年度にもう一度「ここのがっこう」に入り直しました。

──「ここのがっこう」では何を作っていたんですか?

 男性に対してコンプレックスを感じることが多くて、その記憶や体験を残すために男性の下着や衣服をずっと作っていました。「あの子が着ていたパンツを作ろう」とボクサーパンツを皮膚感のあるシリコンで作ったり、文も書いていました。

──写真を始めるきっかけは?

 もっと解像度高く記憶を残したいと考え、写真をやってみようと。あと、「ここのがっこう」のプレゼンテーションで「写真がいいね」と言われたことも大きかったです。

──フロットサムブックス(flotsam books)*¹のポートフォリオレビューにも参加されていますね。

 「ここのがっこう」の勧めで応募したのですが、当時はちゃんとした作品集を持っていなかったため、インスタグラムのアカウントだけを送りました。幸いにも目を通していただけることになり、ポートフォリオレビューへ進むことになったんです。私は当時から「大きく、厚みがあるものこそ格好いい」という美学を持っていたので、当日はA1サイズのポスターと厚紙で自作したポートフォリオを持参し、そこに男の子たちのヌード写真を大きく大胆に構成して臨みました。それを見たオーナーの小林孝行さん、スタイリストの小山田孝司さん、「スタディ(STUDY)」編集長の長畑宏明さんが「気持ちいい」「ストーリーがいいね」と言ってくださって。 「ここのがっこう」という身内の環境とは違う場所で、自分の写真に対して「写真でやっていけるよ」と言っていただけたことは、大きな転機になりました。それなら一歩踏み出してみてもいいかもしれないと思い、写真を本格的に始めるきっかけになりました。

東京を拠点とするブックストア。ファッション、写真、アート、デザインなどのヴィジュアルブックを、海外からの輸入書を含め、多様な視点や表現を反映したセレクションで紹介している。

──「ボーイズハンター」と名乗られていますが、どういったきっかけで名乗るようになったんですか?

 「写真家」や「アーティスト」という既存の肩書きに違和感を覚えたというか。当初は「男性の漂いを捉える人」と名乗っていたのですが、小林さんにもっとふさわしい肩書きがないか相談したところ、「『ボーイズハンター』はどう?」とアドバイスをいただいたんです。それが非常にしっくりときたため、それ以来「ボーイズハンター」という肩書きで活動しています。

──被写体は基本的に男性ですが、選定基準は?

 背が高く、どこか一人では生きていけないような、儚げで頼りない体つきの男性に強く惹かれます。いわゆる「塩顔」と呼ばれるような、あっさりとしたニュアンスを持った方が多いですね。

──作品集「boy's soul」のコンセプトや、制作過程で大切にしたことは?

 「boy's soul」は、私よりも年下の、これから未来へ向かって進んでいく若者たちを集めて2024年に制作した作品集です。もともと私は夏が苦手で、その季節をどう乗り切るかを考えた際、あえて自分の中で一番熱い夏にしたいと思い立ち、制作をスタートしました。制作はオルタ(OLTA)*²でアシスタントをしている哲平くんと一緒に進めました。彼も私と同じようにボーイズへの強い情熱を持っていますが、私とは異なる独自の視点を持っている点が非常に興味深かったんです。彼もまた、被写体となる彼らに深く心を寄せている。その異なる2人の感覚を掛け合わせたらどんな化学反応が起きるのだろう、という好奇心が制作のきっかけでした。

 全員でロケハンを重ねながら撮影を進めていくプロセスは、まるで冒険をしているかのようでした。こちらが一方的にストーリーを用意するのではなく、作品に深みをもたらすために、モデルとなった彼らと密にコミュニケーションを重ねながら、共に作り上げていくという感覚が強かったですね。

*² ヘアスタイリストの後藤泰が手掛ける明治神宮前のヘアサロン。男女問わずトレンドに敏感なユーザーが多く、モデルや俳優からも支持されている。

boy's soul

── ボーイズをハントするとき、おしゃれかどうか気にしますか?

 気にしないですね。いつも彼らには「好きな服を着てきてほしい」と伝えています。ただ、写真を撮り始めた初期の頃は、少年たちのために自分で服を制作して持参し、それを着てもらっていました。白シャツなどをすべてミシンで自作し、着用してもらったパーカを「持って帰っていいよ」とプレゼントしたこともあります。しかし現在は、彼らが自身で誇りを持っているスタイルで来てほしいと考えています。それが奇抜な色合いであっても、極めてナーディな服装であっても構いません。彼らのその瞬間の“気分”を、ありのままレンズに収めたいと思っています。

── スタイリストと撮影するときと、ボーイズに服を着てきてもらう時の違いは?

 スタイリストさんにお願いするときは、その方が持つ独自のムードや世界観を何よりも大切にしたいと考えています。異なるアプローチの情熱が交わることで生まれる化学反応が見たいという思いが強く、撮影は心から信頼できる方々とだけ行うようにしています。でも、スタイリストさんには「骨格が透ける服がいい」というのは言っているかもしれないですね。

── 骨格が透ける服ということは、オーバーサイズや重ね着は基本的に避けるということでしょうか。

 物理的な意味で「肌が透ける服」ということではないです。たとえ体を完全に覆い隠すような服であっても、そのシルエットや生地の落ち感から、スタイリストの方が「これなら骨格の気配が伝わる」と解釈してくださるのなら、それで構わないと考えています。私が投げかけた言葉を相手がどのように受け止めるのかを知りたいですし、そうした大きなテーマを他者とともに紐解き、共有していくプロセス自体に、何よりの魅力を感じているんだと思います。

── 普段使用しているカメラは?

 「ソニー(SONY)」のサイバーショットシリーズの「DSC-F505K」と、デジタル一眼レフ「α100」を使用しています。写真を始めた当初は母が薬局の景品で手に入れたサイバーショットシリーズのコンパクトモデル「DSC-WX200」を使用していました。皮膚の色の写りが気に入っていたのですが、サイバーショットがコンパクトになる前のモデルが欲しいと思い、「DSC-F505K」に切り替えました。暗視機能が付いていてとても気に入っています。「α100」を購入したのは、ソニーに勤めている方がスナックにいらしたことがきっかけでした。企業努力や過去発売されていた商品の話を聞いたことでソニーに対する愛着が湧き、ソニー初のデジタル一眼レフである「α100」を使用したいと思ったことで購入に至りました。

── ご自身の写真は、写真史の中でどのような文脈に位置付けられると思いますか?

 誤解を恐れずに言えば、実は写真というメディアそのものに対して、それほど強い興味があるわけではないんです。私がカメラを手にしたのは、自身の表現活動を進める上での必然的な延長線上にすぎません。そのため、「何派」に属するのか、あるいは「誰の系譜に連なるのか」といった写真史的な枠組みを意識したことはありません。

 ただ、「ここのがっこう」に在籍していた当時、私の作品のスタンスがソフィ・カル(Sophie Calle)に近いと指摘されたことがあって。実際に彼女の作品に触れた際、複合的な視点から一つの対象へと迫るアプローチや、それをインスタレーションへと昇華させる手法には、非常に深い感銘を受けました。

── 写真家やクリエイターで気になる人は?

 写真家の中野道さんが撮影する作品が好きです。撮影する時の心情が写真にそのまま現れているところに魅力を感じます。また、同じようにボーイズを被写体にしている写真家の方々の作品にも惹かれますね。ただ、彼らの作品を見て純粋に感嘆するというよりは、「これほど魅力的な男の子を見つけ出すなんて最高すぎる」と、どこか嫉妬に似た悔しさを覚えてしまうことの方が多いです(笑)。

 他には、ウィンター・ヴァンデンブリンク(Winter Vandenbrink)のように、遠方から身を隠すようにして少年を捉えるような、ある種の執着や狂気を感じさせるアプローチが非常に刺さります。そこには彼なりの明確な距離感があるのだと思います。私は被写体と密にコミュニケーションを重ねて撮影したいタイプですが、彼の場合は、言葉を交わす必要すらなく、遠くの定点から覗き見るようなスタンスを貫いている。そうした、被写体との距離感がクリアな作家に惹かれます。「自分はこの距離で対峙する」という意志がはっきりしていると、作品に確固たる一貫性が生まれる気がするんです。

── 進行中のプロジェクトは?

 韓国での撮影・制作を計画中です。韓国に私のことをずっと見守ってくれているボーイズのファンがいて、彼だけを被写体にした作品集を制作したいと考えています。あと、あえて言語の通じない海外という環境に身を置き、もどかしさを抱えながら必死にコミュニケーションをとってみたい、という動機もあります。私は現在、昼の仕事に加えて夜はスナックでも働いているのですが、そこでの会話は簡単に結論が導き出されがちで、最近の自分自身のコミュニケーションに「余白」がなくなっていると感じていました。断定的ではない、言葉が足りないからこそ生まれる豊かな余白を表現に落とし込みたい。そのためには、一度日本語という慣れ親しんだ言語の枠組みから離れてみる必要があると思ったのです。韓国のプロジェクトを経て、来年はヨーロッパへ渡り、同様の試みに挑戦してみたいと考えています。

── 今後の目標は?

 コンペへの応募などはあまり意識しておらず、とにかく作品を精力的に制作し、グローバルに展開していくことが現在の目標です。自分の残した記録が、世界へ届いてほしいという強い思いがあります。

 もちろん日本でも見てくださる方が増えたら嬉しいんですが、それ以上に「日本語が通じない国の人々がこの作品を見たときにどう感じるのか」ということが非常に気になっていて。そのため、現地の書店へ直接売り込みに足を運ぼうと計画しています。

Ayami Hatano(波多野彩姫)
2000年11月15日生まれ、埼玉県三郷市出身。文化学園大学服装学部ファッションクリエイション学科卒業。
2022年 合同展 東京プロジェクトスタディ1「happening」inTokyo Bababa
2023年 合同展 coconogacco exhibition in Fujiyoshida 
2024年 合同展「Boys Don't Talk」in Berlin
2024年 個展「For Boys」in Tokyo Flotsam books
2024年 Zine「boy's soul」発刊
2024年 「boy's soul」発売記念展 in Tokyo SPWN
公式インスタグラム

= Self-Portrait For FASHIONSNAP =

最終更新日:

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