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韓国発「ナフ」の“ありのままのセクシーな香り” モデル出身ディレクターの挑戦

【フレグランス特集】アジア発のフレグランスブランドが、世界で存在感を高めている。中でも韓国では、独自の美意識とクリエイティブを背景に、新たなブランドが相次いで誕生。香りそのものだけでなく、ディスプレイにおける空間演出からコミュニケーションまで、ブランドの世界観を五感で体験できるデザイン設計に若者が共鳴し、現地を訪れたり、SNSで発信したり、今や世界のトレンドとして浮上する。2025年10月に韓国でデビューした「ナフ(nahes)」も、その潮流を担う注目株の1つだ。

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 今年日本に上陸したナフは、洗練された美しさではなく、人が本来持つ本能や感情、言葉では説明しきれない魅力に着目。“RAW SENSUALITY(ありのままのセクシーさ)”をテーマに、既存のフレグランスとは異なる香りの体験を提案している。ブランドディレクターは、モデルのイ・セハン。ブランド誕生の背景と香りに込めた哲学をセハンディレクターに聞いた。

イ・セハン:1990年生まれ。韓国を拠点に活動するモデル、クリエイティブディレクター。モデルとして世界的ラグジュアリーブランドのコレクションに出演。ファッションシーンでキャリアを築きながら、ニューヨーク滞在中に現代美術や表現活動への関心を深める。2025年にフレグランスブランド「ナフ」を設立。

25歳のモデルデビュー、30代で香水作りを開始

—— モデルとしてのキャリアを経て、フレグランスブランドを立ち上げられました。もともと香りが好きだったのでしょうか?

 香りが好きだったかと聞かれると、必ずしもそうではありませんでした(笑)。ブランドを立ち上げる前は、5年に一度、フレグランスを買うかどうかという程度でした。興味を持ち始めたのは、自分の個展を準備したことがきっかけです。そこから一気に香りの世界に引き込まれていきました。

—— 個展というのは?

 アメリカで約3年間モデルとして活動していたのですが、現地で過ごす時間を無駄にしたくなくて、モデルの仕事がない時は、友人たちと映像を制作していたんです。

——そもそも、モデルの仕事を始めたのはいつですか?

 25歳の頃です。田舎で育ったので、周りにはファッションに興味がある人や、芸能界を目指している人はいませんでした。そんな中で、兵役中に出会った後輩がデザインを専攻していて、彼が持っていたファッション誌を見たことが大きなきっかけです。「こんな世界があるのか」と衝撃を受けたんです。兵役を終える頃で、これからの人生について悩んでいた時期でもあり、せっかくならファッションの世界に飛び込んでみようと、除隊後、モデルエージェンシーを訪ねて、そこからモデルとしての活動が始まりました。

——兵役中の出会いがきっかけだったんですね。そこからアメリカに?

 渡米したのは29歳ですね。モデルを始めるのも、アメリカに進出するのも遅いタイミングだったと思います。だからこそ、限られた時間を大切にしたいという気持ちが強くありました。現地で出会った友人には、アートの分野で活動している人も多く、彼らと作品作りのために映像を撮影していたんです。

——どんな映像を撮影していたのですか?

 例えば、夜中の3時に地下鉄に乗り、逆立ちをしながら2時間にわたって動画を撮ったり……。かなり冒険的なこともしました。今振り返ると、アメリカだったからこそできた経験だと思います。

——その映像制作が、どのように香りへとつながったのでしょうか?

 撮影した映像の展示会を開くにあたり、「匂い」をテーマにすることになり、その香りを自分で制作することにしたんです。そこから、香りについて深く掘り下げるようになりました。

過去の記憶と結びつく香りの原点

⎯⎯ その展示会では、どのような香りを作ったのですか?

 幼い頃に人生で初めて嗅いだ、衝撃的な香りを記憶の中からたどってみました。そこで思い出したのが、夏に母と歩いていたときに嗅いだ、母の脇の匂いでした。4歳頃の記憶なので、その匂いが良いのか悪いのかも分からなかったと思います。ただ、そうした曖昧な記憶だからこそ、香りが過去の記憶と結びつくことの重要性に気づきました。

⎯⎯ その香りをどのように再現したのでしょうか?

 実は、形にすることはできなかったのです。韓国内のさまざまなメーカーや調香師に相談したのですが、「あまりにも変わっている」という理由で断られてしまったんです(笑)。

 それで、自分で香りを作ろうと決心しました。当時は、ブランドを立ち上げることになるとは考えてもいなかった……。でも、自分が計画的な人間ではなかったからこそ、ここまで来られたのかもしれませんね。

⎯⎯その後、その香りは完成したのですか?

 いいえ、現在も、母の脇の匂いはまだ完成していません。でもいつかスペシャルエディションとして形にしたいと思っています。

——もともと香りに詳しくない状態から、どのようにフレグランス作りを学んだのですか?

 ブランドのディレクターとして、調香師に作りたい香りを伝える必要がありますよね。でも、最初は何も分からなかったので、まず有名なフレグランスを150〜200種類ほど集めました。当時はお金がなかったため、中古品もたくさん活用しましたね。

 それぞれの香りが何を表現しているのかを調べながら、少しずつ学んでいって。そこで得た知識は、調香師とコミュニケーションを取る上でとても役立っています。

——その中で、特に影響を受けた香りはありますか?

 私が一番尊敬している先輩の家を訪ねたとき、「トム フォード(TOM FORD)」のフレグランスがあったんですが、試してみると、自分にとって最もセクシーに感じる香りだったんです。その香りはすでに廃盤になっていたのですが、韓国中の中古マーケットを調べ尽くして探すほど、特別な存在でした。

 トム フォードは1番好きなブランドでしたが、ラグジュアリーなイメージが強かったので、ナフでは、そのセクシーをもう少し生々しく、ありのままの魅力を表現したい、そう思うようになったんです。

セクシーとは、その人の生き方がにじみ出るもの

——ナフのインスピレーション源は?

 私自身、旅の経験や、そのときに感じたことをメモする習慣があり、それが香りの起点になることが多いんです。例えば、ナフのコレクションで「プア バット セクシー(POOR BUT SEXY)」というのがありますが、これは仕事でベルリンを訪れたときの経験から生まれました。街の人たちがとにかくかっこよくて。ベルリンという都市についてもっと知りたいと思い、調べていたら、2000年代初頭のベルリンのアーティストたちを象徴する言葉として、「プア バット セクシー」という表現が使われていたことを知りました。「貧しいけれどセクシー」という自虐的でありながらポジティブなニュアンスが面白くて、メモしておいたんです。

 香りは、当時ベルリンで出会った人たちが着ていた、ヴィンテージのレザージャケットから着想を得て、レザーが主役のフレグランスに仕上げました。

——「セクシー」という概念をとても大切にされている印象を受けます。ナフが考えるセクシーとは?

 セクシーさは、人間であれば誰もが持っているものだと思います。一人ひとりが歩んできた人生や、その人のスタイルが、それぞれのセクシーさを形づくるのではないでしょうか。仕事をしているときや、誰かと話しているときに、ふとした瞬間ににじみ出るものだと思います。セクシーさが表れるポイントは人それぞれですが、ナフは、その人が持つ魅力を少し引き立てる存在でありたいと考えています。

モデルの経験が育んだ、細部へのこだわり

——香り作りで最もこだわっていること、譲れないポイントを教えてください。

 香水について学ぶ中で、「これと似た香りを知っている」と感じたものは、まず候補から外します。もちろん、他の人が香ったときに別のブランドを連想する可能性はありますが、自分が知る限り、まだ嗅いだことのない香りをラインナップしたいと考えています。

——香りを製品化するまでのプロセスを教えてください。

 まず、自分がどのような香りを作りたいのかを、できるだけ具体的にします。メモやイメージ、時には映像など、調香師に「こういう香りを作りたい」と伝えられる資料を集めて送ります。

 すると、調香師が5種類ほどのサンプルを作ってくれます。その中から良いと思った2種類を選び、加えたい要素や取り除きたい要素を伝えて、サンプルを作り直してもらいます。その作業を何度も繰り返すんです。スムーズに完成することもあれば、一つ前の段階に戻ってやり直すこともあります。一つの香りが完成するまでには、通常6ヶ月から1年ほどかかります。

——モデルとしての経験が香り作りに活かされていることはありますか?

 ファッションの仕事を通じて築いたネットワークのおかげで、さまざまな調香師を紹介していただきました。その中でも、現在の調香師の方とはコミュニケーションが取りやすく、直感的に相性が良いと感じています。

 また、香りだけでなく、服の生地やヴィジュアル、映像、表現方法など、さまざまな分野で活躍する人たちと仕事をすることで、質の高いものに触れる機会が多くあると思います。そこで培った感性を、ナフのフレグランスを通して表現したいと考えています。

——ボトルのデザインもとても洗練されていると思います。

 ボトルは、専用の型を作って製造しています。例えば、キャップの内側の見えない部分や、スプレー部分上部のロゴ、キャップを閉めたときのマグネットの感触、ガラスの研磨など、気づかれにくい細部にまでこだわりました。そうした細部が全体のクオリティを高めることを、モデルの仕事を通じて学んだことですね。

「ボトルの底の厚みもこだわり」


ファッションとフレグランスの境界を越えるブランドへ

—— ナフの「夢」を教えてください。

 「ディプティック(DIPTYQUE)」「バイレード(BYREDO)」「ル ラボ(Le Labo)」といったブランドに肩を並べる、唯一無二の世界観を持ったグローバルブランドとして育てていきたいです。ニッチになりすぎず、手に取りやすい価格帯を意識しながら、かっこいいブランドを目指したいですね。

 私が常に話しているのは、「ファッションフレグランス」を作りたいということです。香りそのものに集中しているブランドも多いですが、ナフでは、香りとファッションを融合させた魅力を表現したいですね。

——ヴィジュアルもとても独特です。フレグランスが写っていないものもありますね。

 香りをまとったときのイメージを、ヴィジュアルや映像で表現しようと思うと、商品をほとんど見せないということになりますね。自分の香りとの関わりが映像の展示会から始まったように、一見すると何の動画なのか分からない映像から、自然に香りへとつながっていく。そんな表現を目指しています。

ナフのキャンペーンヴィジュアル

Image by: nahes

——日本での展開についても教えてください。

 実は、韓国のショップを訪れる外国人のお客さまの半分以上が、日本人です。それほど多くの日本の方がナフを愛してくださっているからこそ、日本への展開を決めました。ファッションフレグランスとして、セレクトショップを中心に展開していく予定です。

——今後発売予定の製品は?

 現在展開しているオードパルファムに加えて、パフュームオイルやハンドクリーム、リップバーム、オードパルファムのミニサイズも発売する予定です。また、世界的に著名な調香師たちと新たな香りの開発も進めています。ぜひ楽しみにしていてください。

photography: Katsutoshi Morimoto (FASHIONSNAP)

最終更新日:

◾️ナフ:公式サイト

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