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無印良品が考える「香りのある暮らし」 フレグランス商品の今とこれから

文・木村耀

【フレグランス特集】「無印良品」のフレグランスカテゴリーが好調だ。2025年8月期は計画を20%以上上回って推移し、ヘルス&ビューティ事業においてフレグランスカテゴリーの存在感も高まっている。ヘルス&ビューティ部門の国内売上高は1000億円を突破し、その成長に大きく貢献している。

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 同社がフレグランス用品を取り扱い始めたのは、2008年に発売したエッセンシャルオイルから。その後2010〜2011年に発売したディフューザーが、無印良品の香りへの認知に大きく寄与した。現在はフレグランスオイルやルームスプレー、アロマディフューザー、お香、キャンドルなどフレグランス関連商材を幅広く展開。2024年秋に空間を彩るフレグランス関連においてボトルデザインを一新したことも、ターニングポイントとなった。今年に入ってからは、9月に香りを暮らしの中で使い分ける体験型イベント「無印良品 暮らしと香りのスイッチ展」を開催するなど、単に商品を売るだけに留まらない、香りの訴求に力を入れる。

 背景にあるのは、香りを単なる嗜好品ではなく、「日々の生活を心地よくする日用品」として捉える考え方だ。香水ブランドとは異なるアプローチで、無印良品はなぜ今、香りの領域を広げるのか。同ブランドでフレグランス商品の企画を担当する、良品計画 生活雑貨部の水村まなみ氏に、現在の市場における手応えから商品開発の舞台裏、今後の展望まで聞いた。

◾️水村まなみ
良品計画 生活雑貨部 H&B フレグランス担当。2013年入社。2022年に同部へ異動後、タオルなどのファブリックスをはじめ、カーテン、ラグ、スリッパなどの商品開発を担当したのち現職。フレグランス商品の企画を担当し、コンセプト設計から品揃え、香り、パッケージデザイン、使い方まで幅広く携わる。

フレグランスは嗜好品から日用品へ

──まず、現在のフレグランスカテゴリーの状況について教えてください。

 無印良品では、2008年からフレグランス用品の取り扱いを開始しました。当時は「嗜好品」という印象が強く、売上もまだ大きなカテゴリーではありませんでした。しかし近年、香りに対するお客さまの意識は変化しています。特にコロナ禍を経て、香りは「いい香りを楽しむ」だけでなく、心を落ち着かせたり、安らげる空間を作ったりするものとして、暮らしに取り入れられるようになりました。

 私たちが提案する「感じ良い暮らしと社会」においても、香りは大切な要素です。実際に、フレグランスアイテムは私たちの想定を上回る伸びを見せています。

──現在、特に伸びている商品は?

 中心となっているのは「インテリアフレグランスオイル」です。人気の要因は香りそのものだけでなく、蓋を開けてスティックを差すだけで使える手軽さやデザインにあると考えております。私たちは商品名の通り、家具やインテリアの中に置いても生活のノイズにならないことを意識しています。いわゆる「芳香剤を置いている」という感じではなく、生活空間に自然になじむことが、取り入れやすさにつながると考えているのです。

「置いておきたくなる」ことまで商品設計に

──インテリアフレグランスオイルは、2024年秋にデザインを変更したことも奏功したのでしょうか?

 以前は茶色い瓶に商品名を日本語で大きく表示していたのですが、実は調査するとお客さまはラベルを剥がしてから家に置いているケースが非常に多かったようで、「剥がしやすい素材にしてほしい」という声をいただいていました。

 そこで現在の形では、タグに商品名を表示し、ボトルには小さく英字表記を入れています。日本人からすると英語のほうがよりデザイン性を感じられる傾向があるようです。そのため、インテリアの中に置いたときにも主張しすぎません。さらに、こちらの商品を含むいくつかのフレグランス商品は、デザインについても、商品単体ではなく、暮らしの中でどのように見え、使われるかという視点で検討しています。インテリアとしても楽しめる理由はそこにもあるのかもしれません。

Image by: 無印良品

 フレグランスの商品は、箱を捨てたあともボトルやスプレーをそのまま生活空間に置くものが多い。だからこそ、商品名を分かりやすく伝えるだけでなく、「置いておきたくなる佇まい」まで考える必要があると思っています。

──開発の際には、どのようにお客さまのニーズを捉えていますか?

 ネットストアやIDEA PARK※に寄せられる声と向き合うほか、私たち開発担当が店舗に立って、お客さまが何に困っているのか、どのように香りと向き合っているのかを直接聞くこともあります。
※無印良品が顧客からアイデアや意見を募るWEBサイト。直接の対話を通じてモノづくりを進めると同時に、ブランドの考え方を伝える取り組み

 そうした声を聞く中で、フレグランスを単なる嗜好品ではなく、日常生活に必要な日用品にしていきたいと考えています。そのためには「いい香りです」とおすすめするだけではなく、どうすれば生活に取り入れやすくなるのかを考えることが重要です。

 例えば「おやすみブレンド」というルームフレグランススプレーなら、寝る前に枕元で一吹きしてみる・帰宅したときに空間へスプレーする・窓を開けて空気を入れ替える時にカーテンに吹きかける・そうした具体的な使い方まで提案することで、暮らしに香りを取り入れるきっかけを提案しています。

自然から着想を得た香りを軸に、四季を暮らしへ

──無印良品ならではの香り作りでは、何を大切にしていますか?

 フレグランスに関しては、「自然から着想を得た香り」をテーマにしています。人工的な印象の香りは、一瞬いい香りに感じても、いつか飽きてしまうことがあります。一方で、人は自然の中で暮らしているわけですから、自然にある香りは生活に寄り添いやすいと考えています。

 そういった考えを反映するには、なるべく精油を使うことも1つの方法ですが、それだけではありません。香りも強すぎず、生活になじむことを意識しています。最近特にお客さまから支持を集めているのが「季節の香り」です。日本には四季があり、季節によって咲く花や樹木、草も変わる。そうした季節の感覚を、香りでも生活に取り入れてほしいと考え、シーズンごとに異なる香りを販売しているものです。

 例えば2025年の秋冬には、クスノキを起点に「冷たい空気の中にあるクスノキ」というかなり具体的なイメージから香りをつくりました。最初から大きく括るのではなく、具体的な植物や情景まで落とし込むことで、香りの方向性を明確にしています。

──商品によって香りの作り方も変わるのでしょうか?

 エッセンシャルオイルは精油100%で、植物の力だけで作っています。一方、お香は合成香料を使わないと難しい部分がありますし、インテリアフレグランスオイルやルームフレグランススプレー、フレグランスキャンドルは精油と合成香料を組み合わせています。

 そのため、同じコンセプトから生まれた香りでも、すべてのアイテムをまったく同じ香りにすることはできません。共通するコンセプトの中で、なるべく近い印象になるように、それぞれの香りの楽しみ方に適した仕上がりにしています。

2026年2月に限定発売された春の香り「スプリングフローラル」

Image by: 無印良品

抽象的な商品名が刺さる? ネーミングによる反応の違い

──現在、人気の香りにはどのような傾向がありますか?

 インテリアフレグランスオイルで特に多くのお客さまに選ばれているのが、定番の「ウッディ」や「フレッシュエアー」の香りです。

 しかし先ほど話したように、最近は季節の香りへの注目度が非常に高まっています。2026年秋冬に発売した「オータムブレンド」と「アールグレイ」は、非常に多くのお客さまにご好評をいただいております。

インテリアフレグランスオイル オータムブレンド

Image by: 無印良品

インテリアフレグランスオイル アールグレイ

Image by: 無印良品

 面白かったのが、ネーミングによる反応の違いです。2025年夏は、グレープフルーツを主体とした香り「グレープフルーツブレンド」を発売しました。翌年、2026年夏には同様にレモンなど爽やかな柑橘を主体とした「サマーシトラス」を発売しましたが、大変伸長しました。

 香りそのものの方向性は近くても、名前が変わるだけでお客さまの受け取り方が変わることが分かりました。香りを作る際には、コンセプトをより明確化するほうが作りやすい一方、お客さまにとっては、少し抽象度のある名前のほうが「どんな香りなんだろう」という期待を持ってもらえることもある。フレグランスの商品では、香り名が与える印象も重要な要素だと実感しました。

香りの開発期間はおよそ半年 無印良品らしさをどう決めるか

──香りそのものは、どのように開発しているのでしょうか?

 まず商品企画が香りのコンセプトを決め、それをもとに香料メーカーと検討を重ねながら香りを開発します。トップ、ミドル、ボトムといった香りの構成も考慮しながら試作を重ね、社内モニターの評価も参考にしつつ、コンセプトに合っているか、暮らしの中に心地よく取り入れられるかといった観点から検討を重ねています。

 コンセプトを出してから香りが決まるまで、アイテムによって多少異なりますが、おおよそ半年前後かかります。1つの香りに対して候補となる香りを複数種類作り、何度もやり直しをしながら作り上げています。

──「無印良品らしい香り」を判断する基準も重要になりますね。

 そうですね。「感じ良い暮らし」に寄り添うためには何が必要なのか、という視点で決めることを意識しています。

 過去の例では、すごく"自然"な香りの試作品が上がってきたことがありました。芝生のような香りで、確かに自然ではある。でも、それがお客さまの求めている心地良い香りかというと、違う。そこで、もう少しナチュラルな方向に調整しました。"リアルな自然の匂い"と、"自然を感じさせながらも心地良く感じる香り"は、必ずしも同じではないと考えています。リアルな自然を再現するのではなく、暮らしに寄り添う香りとはどういう香りなのかを考えることも、無印良品のフレグランスアイテムを作るうえで重要な要素の一つです。

「香りのある暮らし」をどう伝えるか 体験型イベントの意味

──2026年9月には「無印良品 暮らしと香りのスイッチ展」も開催しました。

 2025年12月にも香りを題材にした「かおりをきく展」を開催しました。このイベント開催時には「無印良品のフレグランスはいい香り」「暮らしに取り入れやすい」という認知はいただけていると感じました。ですから暮らしと香りのスイッチ展では次の段階として、実際の暮らしの中で、フレグランス商品を使うきっかけを提案することに着目しました。

 実際に香りそのものを嗅いで、直感で心地よいと感じる香りを選んでもらう体験を設けることで、「自分はこの香りが好きだと思っていたけれど、意外とこちらも好きだった。好みの再発見につながった」というお声をいただいています。

2026年9月11日から9月20日まで、東京ミッドタウンで開催された

Image by: 無印良品

会場内の全9ブースには2種類ずつ香りを用意。来場者は実際に香りを試した上で、どちらの香りがより心地よく気持ちを切り替えられるかを直感的に選択する

Image by: FASHIONSNAP

 香りは言葉だけでは伝わりにくいものですし、シトラス、フローラル、ウッディなどのカテゴリーで分けると、それだけで選択肢を狭めてしまうこともあります。だからこそ実際に香ってみることで初めて、自分の好みが分かることがある。商品の販売だけではなく、香りそのものを体験してもらうことにも意味があると考えています。

無印良品が考えるフレグランスアイテムの役割と次に見据える領域

──今後、フレグランスの領域をどのように広げていきたいですか?

 現在は空間に向けた商品が中心ですが、香りに対するお客さまのニーズは広がっていると感じています。実際に限られた店舗で展開している、MUJI Labo練香水など、身体につけるフレグランスアイテムはお客さまからご支持をいただいております。また、グローバルでは各国での要望に応じて現地限定アイテムとして幅広いフレグランスアイテムを展開しています。商品が主体ではなく、ご使用いただくお客さまの暮らしにとってどのような役割が求められているのかを考えることが大切だと考えています。

 例えば香水という商品カテゴリーは非常に奥が深く、ストーリー性やブランド価値に共感してご使用されるお客さまも多くいらっしゃるアイテムです。そういうカテゴリーの商品に対して、無印良品が取り組む場合には、どいう価値を提供できるのか丁寧に考えていく必要があると考えています。

 無印良品のフレグランスは、暮らしの中心にあるというより、日々の生活にそっと寄り添う存在でありたいと思っています。生活するのはあくまで私たち自身で、香りはその暮らしを演出する1つのアイテム。家具やファブリックスなどと同じように、自分たちが感じ良く暮らすための1つの構成要素として考えています。

──香りそのものを強く打ち出すのではなく、あくまで暮らしの一部として考えているんですね。香りを売るのではなく、「香りのある暮らし」をどう根付かせるのか、でしょうか?

 特に日本では、香りがあまり得意ではないという方もいらっしゃいますが、そのような方でも、シャンプーなどの日用品からほのかに感じる香りには、心地よさや小さな幸せを感じることがあると感じております。だからこそ、強い香りではなく日々の生活の中でほんのり感じるような、「暮らしにそっと寄り添う香り」は、これからも生活に取り入れていただけると考えています。

 香りを好む人だけでなく、これまでフレグランスを積極的に使ってこなかった人にもどう間口を広げていくのか。香りがあまり得意ではない方でも、心地よいと感じる香りとは何なのか。そういった観点でも考えながら、今後も商品を開発していきます。

photography: Katsutoshi Morimoto, interview: Akiko Fukuzaki, Hikaru Kimura(FASHIONSNAP)

文・木村耀

Hikaru Kimura

FASHIONSNAP 編集記者

学生時代に外資系ファッションメディアでアシスタントを務めたのち、大学卒業後、ファッション誌で編集として従事。2025年12月からレコオーランド「FASHIONSNAP」でビューティエディターとして幅広い分野を取材・執筆。プライベートでは坂本裕二や今泉力哉などの脚本家が描く日本語表現が好きで、彼らの作品を何度も見返すオタク気質。趣味は作詞作曲。公私問わず言葉を綴っている。

最終更新日:

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