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香りで美容の常識を変える 少数精鋭で60億円を売り上げる「ロア」の美学と戦略

文・平松将

【フレグランス特集】2023年5月に始動したヘアフレグランスブランド「ロア(LOA)」は、現在、全国3万超のヘアサロンへと導入が広がったほか、百貨店にも進出している。従業員約20人という少数組織ながら、今期は売上高60億円規模を見込む同社。急成長を遂げた背景には、従来のプロフェッショナル向けヘアケアが重視してきた定石からは、あえて距離を取る戦略がある。これまでサロン商材で焦点が当たりづらかった「香り」を起点とした商品開発から、これまでサロンビジネスが行ってこなかった直接消費者にアピールするPR戦略まで、業界の“逆”をいくビジネスモデルで旋風を巻き起こしている。ロアを運営するジェイドジャパンの田村純一社長に話を聞いた。

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業界の盲点だった「香り」

──LOAを立ち上げた経緯を教えてください。

 2022年4月に会社を設立し、約1年の準備期間を経て2023年5月にLOAをローンチしました。独立前は日本ロレアルのプロフェッショナル事業部でマネジャーを務めるなど、美容業界に約20年携わりヘアサロンを訪問する中で、メーカーが訴求する価値と、美容師が商品を選ぶ際に重視する価値に隔たりがあると感じたことがブランドを立ち上げたきっかけです。

──隔たりというのは?

 メーカーは、ダメージ補修やカラー、パーマといった髪の悩みに応じた商品を提案しますが、美容師は新商品のサンプルを手にすると、必ずと言って良いほど、まず香りを確かめます。ここにギャップを感じたんです。だったら、香りを起点にしたヘアケア商材を作ろうと。

 ヘアケア製品の機能や質感が高まり、機能面・質感で大きな違いを感じることも少なくなってきています。過去の経験からも、人気だった商品でも、顧客の印象に強く残っていたのは補修機能より香りでした。使った後に分かる機能や質感と違い、香りは手に取った瞬間に感じられ、周囲にも届きます。人に褒められる体験にもつながるので、再購入の決め手になり得ると考えています。

──近年のフレグランス市場拡大も追い風となりましたか?

 そうですね。コロナ禍を経て、自粛期間や在宅ワークなどでアロマやフレグランスを生活に取り入れる人が増えました。外出が再開されると、今度は自分自身にまとう香りへの関心も高まっています。実際に百貨店に行くと、1本4万〜5万円もする香水を大学生など若年層が並んで買っている。時代が完全に変わったと肌で感じましたし、ヘアサロンでも十分勝負できると確信しました。

営業の属人性を排除する“非言語体験”

⎯⎯ 実際に「香り」を前面に押し出した商品をサロンに提案してみて、反応はいかがでしたか?

 上々だと捉えています。現在、全国で約3万件のサロンにお取り扱いいただいていますが、導入後、サロンでポップアップを開催するとろこもあるなど意識が高まっていますし、店販売上が前年比で2倍から3倍に拡大するケースもあります。

⎯⎯ 美容師の中には店販に苦手意識を持つ方も多いと聞きますが、なぜそこまで売れるのでしょうか。

 一言でいえば、非言語(ノンバーバル)で魅力が伝わるからです。美容師さんは髪のプロですが、営業のプロではありません。従来の機能性商品だと、商品の価値を分かって、購入に至ってもらうためには、成分や効果を一生懸命説明しなければならず、得意・不得意が分かれる。人によっては、押し売り感が出てしまうこともあります。

 ですが、例えばヘアオイル「ロアザオイル(LOA THE OIL)」の場合は、仕上げの段階で髪につけてあげるだけで、嗅覚を通して価値が伝わるので、言葉による説明を多く必要としません。時として、香りが気になったお客さまの方から「何を使ったんですか?」と自然に聞いてきてくれることもあります。

⎯⎯ 美容師さん側は、ただ香りを体験してもらうだけでいいと。

 そうです。「今、こんな香りのオイルがあるんですよ。好きなものを選んでみてください」と提案するだけで完結させることができます。営業力に依存せず、ストレスなく売れる成功体験が積めるため、サロン全体の物販が活性化する好循環が生まれています。

 さらに言うと、ヘアサロンは香りというライフスタイルに関わる提案を行う場として非常に適していると考えています。毎回1〜3時間ほど対面でコミュニケーションを取る場所であり、しかも多くの人は約2〜3ヶ月に一度、定期的に訪れてくれます。加えて美容師さんにお客さんがつくケースが多く、信頼関係が生まれています。

 これほど顧客のライフスタイルや好みを深くヒアリングできる業態は珍しいと思っています。深い信頼関係がある美容師さんからだからこそ、香りの提案もしやすい。そして実際に、自分用としてはもちろん、ギフト需要としてのリピート買いも多く発生しています。

⎯⎯ 香りのラインナップについてこだわりはありますか?

 ロアザオイルを、“髪の香水”として提案したいため、香りの位置づけを整理したポジショニングマップをつくり、甘さや清涼感、華やかさなどを比較しながら選べる14種を揃えています。

 また、重さや仕上がりといった基本となる質感は1種にすることで、香りに集中できるようにしています。ダメージ用は重め、カラー用は軽めといったようにメーカー側が質感を決めてしまうと、お客さまが「本当に自分の好きな香り」だけで商品を選べなくなってしまうからです。もちろんこれは従来の逆をいくリスキーな商品開発ではありますが、結果としてそれが強みを際立たせているのではないでしょうか。

⎯⎯ 質感は1種類とのことですが、その1種をどう決めていますか?

 トレンドに合わせて調整しています。現在は軽めな仕上がりが流行しているため、その方向性に寄せています。質感の部分は最大公約数的な中間を目指すことを意識していますね。

 また、ベースレシピが統一されていることには、新商品の開発・投入スピードが極めて早いという強みがあります。さらに質感を揃えたことで、2種類の香りのオイルを混ぜる香りのレイヤード(重ね付け)」という新しい提案も可能になりました。

サロン専売品ではない、直販主導のPR

⎯⎯ これほどの急成長を支えている要因は、商品力以外にもあるのでしょうか。

 私たちは、サロン専売品として売るのではなく、実は直接顧客と関わるための接点づくりにかなりのコストをかけています。ポップアップイベントがその代表例ですね。今年の2月から3月にかけて表参道で開催したものでは約1.5億円、10月の原宿でのイベントでは約2億円、現在@cosme TOKYO1階で行われているポップアップでも4000万円と、積極的な投資を行っています。

 これらは全て、お客さま自身がSNSやポップアップでブランドを知り、指名買いをしてくれる状態を作るためです。そうすれば、メーカー側から「置いてください」とお願いしなくても、サロンの方から「お客さまが欲しがっているから置きたい」と思っていただけます。

LOA POPUP @cosme TOKYO
日程:2026年10月7日(水)〜10月13日(火)
時間:11:00〜21:00
所在地:@cosme TOKYO 1階 ポップアップストア
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-27

⎯⎯ そうした施策の効果実感を感じますか?

 実際にSNS上を中心に反響があると感じますし、Instagramのフォロワー数も急伸し、現在では15万人を超えています。また、リール動画では広告を打ってはいるものの、1投稿で3600万回再生を超えたときは我々も驚きましたし、認知拡大を実感しています。

⎯⎯ プロモーションの手法や見せ方についてもこだわりがありそうです。

 あえて、従来の美容業界のセオリーとは逆を行っています。業界ではカラフルなパッケージや日本人モデルを起用するのが一般的ですが、私たちはモノクロの世界観で、欧米のモデルを起用して音楽と連動させた、世界観を重視したディレクションを徹底しました。

⎯⎯ 実際の売上数字にも直結しているのでしょうか?

 はい。プロモーションを通じて、ポップアップの1日あたりの売上が増加しました。通常時は900万〜1500万円ほどの売上が、ポップアップをすることで一気に1400万〜3400万円規模にまで膨らみました。

 また、どこでも買える状態にはせず、バラエティショップへの展開は一切行っていません。NEWoMan新宿の常設店舗や百貨店、限られたフラッグシップ店のみに販路を絞ることで、ラグジュアリーブランドとして訴求、その立ち振る舞いを意識しています。

従業員数20人で売り上げ60億円 高効率を可能にする代理店戦略

⎯⎯ 2027年3月の売上高は60億円を見込む一方で、従業員数は20人と高効率性が目立ちます。この要因は?

 従業員は全体で20人ではありますが、営業職は16人です。それでも全国約3万件のサロンと海外5ヶ国をカバーし、これだけの事業規模を回せているのは、ディーラー(販売代理店)との関わり方を工夫しているからです。

⎯⎯ 具体的にどのように違うのですか?

 ディーラーとの取引社数を、全国で16社のみと極端に絞り込んでいます。通常、大手メーカーであれば取引社数が100社を超えるディーラーと取引をしているケースもあります。それは個人事業主を含めると全国津々浦々にヘアサロンはあり、それらとの取引を行う上でディーラーの存在は大きいんです。

⎯⎯ 一見取引先を広げた方が、カバー範囲が増えて売上が伸びるようにも思えます。

 それは違います。複数のディーラー間で担当エリアが被ってしまうと、お互いにパイを奪い合って値引き競争に走ることも考えられます。そうするとブランド価値の毀損にもつながる。

 エリアが被らないよう地域1社に絞ることで、ディーラーにとってもロアが、自分たちだけの強力な武器になります。また、ディーラーによっては1社で約300人規模の営業部隊がいらっしゃいますから、その方々が効果的かつ一斉にサロンへ提案してくださるシステムが機能しているのです。

⎯⎯ では御社の営業部隊は、どのような動きをしているのでしょうか?

 明確な選択と集中を意識しながら動いています。売上の鍵となる重要なサロンが集まる東京エリアには、当社の営業部隊が直接足を運びます。一方、地方エリアに関しては信頼するディーラーにお任せしたり、オンラインを活用してサポートする体制を敷いています。

 また、社内にマーケティング専任の部署はなく、営業職がマーケターも兼任しています。現場の一次情報を知っている人間がマーケターとして販売戦略も考えて動くことが、高効率性につながっています。

⎯⎯ サロン業界特有の集金や売掛といった実務面も、ディーラーを挟むことで解消されている?

 おっしゃる通りです。美容業界のサロンは少人数経営が多く、メーカーが直接集金しようとすると、売掛金の未回収リスクや回収の手間が膨大になります。そこを信用力のあるディーラーに担っていただくことで、私たちは商品開発とブランド作りに集中できています。

100億円企業へ グローバル展開と新カテゴリーを創出

⎯⎯ 今後の目標と戦略を教えてください。

 2029年までに売上高100億円を目指します。そのためには、大きく分けて2つのアプローチを考えています。1つ目は「海外売上の増加」、そして2つ目が「新カテゴリーの創出」です。

⎯⎯ 前者について、海外市場においての現状と目標はどのくらいでしょうか?

 現在は、台湾、韓国、フィリピン、香港、中国、インドネシア、タイの7ヶの国・地域で展開しています。海外売上は全体の約10%です。2029年に売上高100億円を達成する段階では、海外売上構成比30%まで引き上げる考えです。

 国内で磨いてきた“髪の香水”という価値は、海外でも通用すると感じています。ただし、日本と同じ売り方をそのまま持ち込むのではなく、香りの好みや美容習慣、購買チャネルに合わせて展開することが前提です。

──現時点で、最も手応えのある海外市場はどこですか?

 台湾です。進出初月に約1万5000本を販売し、現在は年間4億〜5億円規模に育っています。非常に手応えを感じていますので、今後は中国市場への展開も強化していく予定です。

──海外市場を開拓するために重要になる点は?

 現地の文化や環境に合わせた徹底的な「ローカライズ」ですね。単に商品を輸出するだけでなく、どの販路で売るかを国ごとに見極める必要があります。

 韓国では、カカオトークのように生活に浸透したプラットフォームを活用し、消費者との接点をつくることが重要です。中国ではECを軸に、現地で影響力を持つ発信者やコミュニティーとの連携も視野に入れています。東南アジアでは、高温多湿な気候や洗髪習慣も踏まえる必要があります。香りの強さや持続性、使用感に対する好みは国によって異なります。現地の消費者がどの場面で香りを求め、どのような価格帯・販売場所で購入するのかを見極めながら、商品と販促を調整していきます。

⎯⎯ もう一つの「新カテゴリーの創出」とは?

 現状のヘアオイルやシャンプーだけでなく、市場のトレンドに合わせた新しいジャンルを作っていきます。例えば、現在はサロン市場においてヘッドスパなどのリラクゼーション系メニューが非常に伸長しており、ここに大きな勝機があると感じています。

⎯⎯ 具体的に構想されている商品はあるのでしょうか?

 100%天然精油を使用したプロダクトの開発を考えています。精油は加工コストが高く、香りによっては長持ちさせることが難しい場合もあるため、チャレンジングな領域ではあります。

しかし、だからこそ独自の技術と調香でこれをクリアし、「自分の心を整えるための内なる香り」という新しいジャンルを切り拓いていきたい。強みであるスピード感を活かしながら、ロア ザ オイル以外の成長ドライバーを育成することで、目標である100億円企業を実現していきたいと考えています。

最終更新日:

文・平松将

Sho Hiramatsu

FASHIONSNAP 編集記者

青山学院大学経営学部卒業後、大手事業会社を経て文化服装学院に入学。服作りを学んだ後にレコオーランドに入社。
ファッション、アート、カルチャーに加え、人々の暮らしなどにも関心を持つ。日課としてジャーナルとメモをつける記録愛好家兼トレーニー。骨格筋量41.4kg

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