
【フレグランス特集】フレグランス市場は現在、世界中で活況だ。これまで“香水砂漠” と揶揄されてきた日本でもフレグランスが数年前から盛り上がっているが、その流れは日本だけにとどまらず世界中で起きている。世界最大手の決算からも各社の主な成長ドライバーは香水であることは明確で、事業強化やブランドのM&Aが相次ぐなど、香水を巡るエコシステムが急速に変化している。本記事では、海外で注目される4つの潮流から、フレグランス市場の今を読み解く。
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目次
trend1:Z世代の間でフレグランスの“推し活化” 香りの形態も多様化
Z世代やTikTok世代でいま話題なのが、“Smellmaxxing”という概念だ。香りで自分の魅力を極限まで高める行為のことを指す。もともとは “Looksmaxxing”というメイクや整形などルックスを磨くことから派生したスラングで、それを香りに置き換えたもの。かつての一生モノの香りを自分の“シグネチャーセント”として愛用する流れから、今はさまざまな香りを重ねて自分の“推し”の香りを自己表現の一環としてとらえる若年層が増えている。TikTokでは#PerfumeTokが大きなトレンドにもなっており、フレグランスインフルエンサーも人気だ。
その結果、香りの形態も多様化している。従来のオードパルファムやオードトワレだけではなく、バームやゼリースティック、プライマー、ボディーミストなど、香りアイテムのバリエーションは多岐に広がっている。セレーナ・ゴメスの「レア ビューティ(RARE BEAUTY)」は香水が身体障害がある人にも配慮したパッケージの香水で話題になったが、その次に発売したのが重ね付けする液状のフレグランスバーム。手持ちのフレグランスと重ねることによってまた違った香りの表現を楽しめるもので、かつ香水よりはお手頃な価格もポイント。セフォラで2024年全カテゴリーに置いて売上No.1をたたき出した「ソル デ ジャネイロ(SOL DE JANEIRO)」は、まさにボディークリームやボディーミストで爆発的に人気になり、商機を見出した「ロクシタン(L’OCCITANE)」が2021年に買収したほどだ。人気の香りのシリーズから、ゼリー状のフレグランススティックを発売して話題になった。「シャネル(CHANEL)」からは、最新の香り「ココ マドモアゼル クラッシュ アプソリュ」で香水をつける前に重ねる「プライマー」が登場。肌を整えながら香りの持ちを良くする働きがあり、次に重ねるフレグランスをさらに引き立たせる。
「ソル デ ジャネイロ」のジェリースティック
「レア ビューティ」のフレグランスバーム
trend2:“飯テロ”フレグランス?食べ物をイメージした香りが空前の大ブーム
香りのトレンドは、食べ物をイメージした香りが空前のブームを巻き起こしている。これまでもバニラやチョコレートなど甘いスイーツから着想を得たフレグランスはあったが、「トマト」「お米」「焼きたてのクロワッサン」など、塩気のある料理や野菜、リアルな果実の香りをまとう“ネオ・グルマン”が浮上している。
トマトで人気なのは「ロエベ(LOEWE)」のトマトの葉っぱをイメージした「トマト リーフ」、「メゾン マルジェラ フレグランス(Maison Margiela Fragrances)」の大地と青々としたトマトリーフの香りを表現した「レプリカ オードトワレ フロム ザ ガーデン」など。お米からインスパイアされたライスアコードの香りも近年人気で、「ディプティック(DIPTYQUE)」の「ローパピエ」や、ベトナム発の「ダナム(D'ANNAM)」の「マンゴースティッキーライス」、韓国の「ボーントゥスタンドアウト(BORNTOSTANDOUT)」の「ダーティライス」はたびたびSNSでも取り上げられている。

メゾン マルジェラ フレグランス「レプリカ オードトワレ フロム ザ ガーデン」
Image by: メゾン マルジェラ フレグランス
そのほかニューヨーク発のニッチフレグランス「DSアンドダーガ(DS & DURGA)」の朝食をイメージした「ブレックファーストライプツィヒ」やクロワッサンを彷彿とさせる「スニフ(SNIF)」の「クラムクチュール」も話題だ。もちろん、従来のグルマン系の香りも根強い人気を誇っている。
「ロエベ」の人気の「トマトリーフ」キャンドル
「ダナム」の「マンゴースティッキーライス」
“ネオグルマン”と同等に最近人気なのが、柔らかくムスキーなノートが特徴の“スキンセント(Skin Scents、肌のような香り)”。周囲に強くアピールするのではなく、至近距離の相手にしかわからない肌本来の香りや体温のぬくもりを感じさせる香りだ。これらの大きなブームの火付け役になったのが、ミレニアル世代の間で大ブームとなった「グロシエ(GLOSSIER)」の「グロシエユー」。D2Cブランドの成功ブランドの代名詞だったグロシエは、現在ではかつての勢いはなく路面店の大型閉店が続いたが、フレグランスの成功でまだ生き残っている印象だ。看板の「グロシエユー」はムスクやピンクペッパーを含み、まとう人が元々持つ香りを引き立たせるもので、“誰でも似合う香り”として話題になった。
また、ファッションインフルエンサーのクリセル・リム(Chriselle Lim)が手掛ける「フルール(PHLUR)」の「ミッシングパーソン」はスキンムスクやベルガモットなどをブレンドし、大ヒットを記録。一気にブランドをトレンドセッターに押し上げ、以来ヒット作を連発している。「ジュリエット ハズ アガン(JULIETTE HAS A GUN)」の「ノット ア パフューム オードパルファム」や、「ルラボ(LE LABO)」の「アナザー13」、「バイレード(BYREDO)」の「ブランシュ」なども同カテゴリーに属する。
「グロシエ」の「グロシエユー」
この流れで、香りそのものだけでなく、処方もアルコールフリーのものが増えている。「ディオール(DIOR)」も最近名香のアルコールフリー処方を出したり、モデルのベラ・ハディッド(BELLA HADID)の「オルベラ(OREBELLA)」もアルコールフリーにこだわっている。よりやわらかく香りたち、主張も激しすぎないのがポイントだ。ファッションでもロゴや派手なデザインを避ける“クワイエット・ラグジュアリー”が一時ブームだったが、“スキンセンツ”は一種香りの“クワイエット・ラグジュアリー”といえるかもしれない。
trend3:アジアが次なるフレグランスの聖地へ
これまでフレグランスの聖地はヨーロッパをはじめとする欧米が中心だったが、近年アジアのブランドが頭角を現している。ブラックピンク(BLACKPINK)のジェニー(Jennie)を起用した「タンバリンズ(TAMBURINS)」や、ミニマルな世界観で人気の「ノンフィクション(NONFICTION)」、奇抜な世界観が特徴的な「ボーン トゥ スタンド アウト(BORNTOSTANDOUT)」、ホームフレグランスが人気の「グランハンド(GRANHAND)」など韓国発のニッチフレグランスブランドが世界中で急拡大。どのブランドも日本での事業を拡大し、店舗出店もはじめている。ライフスタイルになじむスタイリッシュな香りを手ごろな価格帯で提供しているだけでなく、キャッチーな見た目や店頭の空間演出でSNSでも拡散されているのが人気の理由だ。スキンケアやメイクアップでK-Beautyが市場を変えたように、フレグランスでも韓国が力を拡大しはじめている。

韓国発「タンバリンズ」

韓国発「ボーン トゥ スタンド アウト」
中国の香水市場も現在爆発的に成長しており、お茶や金木犀、寺院のお香など東洋の美学をモダンに表現した香りで若年層からの根強い支持を獲得している。中でも人気なのが現代的なオリエンタルノートを作る「トゥーサマー(TO SUMMER)」や、重厚な空間演出とハイエンドな製品で一線をかくす「ドキュメンツ(DOCUMENTS)」、ノスタルジックな香りをそろえる「メルトシーズン(MELT SEASON)」など。西洋の香りの模倣ではなく、中国地域固有の美意識をプレミアムなブランドイメージへ昇華していることで人気を博している。
「トゥーサマー」の金木犀の香り
「ドキュメンツ」の店頭デザイン
アジア太平洋市場は約2兆円規模に
ケンリサーチ(KENRESEARCH)の調査によると、アジア太平洋の香水市場は2025年に約125億ドル(約1兆9600億円)規模となり、2032年まで年平均8.3%で成長する見込みだという。これは成熟市場である欧米を上回る成長率で、特に日本や中国、インドがその成長をけん引している。欧米のブランドも日本のフレグランス市場に目を向け、インバウンド需要も兼ねて日本限定の香りを続々と出している。「バイレード(BYREDO)」の「オボロ」や、メゾン マルジェラ フレグランスの東京限定の香り「レプリカ オードパルファン レター ネバー セント」、「ルラボ(Le Labo)」の「オスマンサス」などが記憶に新しい。
trend4:大手が狙う香りの成長力と決算に見るフレグランスの“独り勝ち”
このアジアでの香水旋風に欧米のビューティ大手が目をつけ、現在出資・買収合戦が過熱している。ロレアルは前述のドキュメンツを2022年に、トゥーサマーを2024年に、エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES、以下ELC)は2023年に「メルト シーズン」に出資している。先ほどのボーン トゥ スタンド アウトも、ロレアルグループのコーポレートベンチャーキャピタルファンドのBOLDなどが出資している。ちなみに、アジアではないもののロレアルは2025年にオマーン発の「アムアージュ」の少数株式を取得した。
もちろん、アジア以外の欧米のフレグランスも人気で、決算でも“独り勝ち”している状態だ。各社ではフレグランスが最大の成長エンジンになっている。ロレアルのニコラ・イエロニムス(Nicolas Hieronimus)CEOは、不景気や先行き不透明な社会情勢の中で消費者が手軽なラグジュアリーと幸福感を求める心理を“ビューティのドパミン効果”と表現。バッグやジュエリーより購入しやすい香水は、消費者がブランドの世界観へ入るためのエントリー商品として機能する。また限定品やよりハイプレステージコレクション、パーソナライゼーションによって上位価格帯へ誘導しやすいのも、売り上げを底上げしている一因だ。同社の中では「イヴ・サンローラン・ボーテ(YVES SAINT LAURENT BEAUTE)」や「プラダ ビューティ(PRADA BEAUTY)」、メゾン マルジェラ フレグランスが成長をけん引している。

「プラダ ビューティ」から、8月に登場した新作フレグランス「プラダ パラドックス スウィート ケミストリー オーデパルファム」
「グッチ(GUCCI)」など多くのファッションブランドを擁するケリング(KERING)も苦戦する主力のラグジュアリーグッズを立て直すためにビューティ事業をロレアルに譲渡。その結果、ロレアルは老舗高級フレグランスメゾン「クリード(CREED)」を約35億ユーロ(約5600億円)で買収したほか、グッチ、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「ボッテガヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などのビューティライセンスを手に入れた。どのメゾンもフレグランスを展開しており、今後ロレアルがさらに注力していくことが伺える。ELCも「トム フォード(TOM FORD)」やルラボ、「キリアン パリ(KILIAN PARIS)」「ジョーマローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」など、フレグランスブランドが好調だ。
香りは、ラグジュアリーの新たな入口へ
先行きが不透明な時代に、香水はバッグやジュエリーに比べれば手に取りやすく、それでいてブランドの世界観や高揚感を濃密に体験できる“手に届くラグジュアリー”ともいえるだろう。新客との接点をつくり、ギフトやリピート、他カテゴリーへの回遊まで促せる点で、フレグランスはもはやサブカテゴリ―ではなく、ブランド成長の中核を担う存在になりつつある。SNSでもトレンドを引っ張るカテゴリーの1つとなる中で、商材の多様化やトレンドの急速な進化など、話題が絶えない。引き続きアジアを中心に日本のフレグランスブランドの活躍をはじめ、香り市場のさらなる発展に期待したい。
最終更新日:
エディター・ライター
幼少期をアメリカ・ニュージャージー州およびマサチューセッツ州で過ごし、13年間在住。2015年にINFASパブリケーションズに入社し、「WWD JAPAN」でファッション・ビューティ双方の記事を執筆。2021年に副編集長に就任、同年に退社。エディター・ライター・翻訳者。
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