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上海でトーキョーの洋服を売るという生業|コラム連載 - ニイハオ、ザイチェン vol.13

上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から、中国でいま起こっていることを週1回更新でお届けする。第13回は、日本や中国のブランドのプロデュースに携わる西山和希氏との10分間の通話から、中国に進出している日本メンズブランドと国潮ブランドの現在地について探った。

(文・佐藤秀昭)

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「アメリカの大学を出た後は、豆腐を売ってたんすよ」
 経歴を聞くと彼からは予想だにしない答えが返ってきた。

 いつも通りの隔離された土曜日の昼下がり。電話の相手は、“上海一のかぶきもの”と僕が崇める西山和希氏だ。彼は毎日新規感染者が出る、上海でも指折りのハードコアなエリアに住んでおり、3月10日からほぼロックダウンされている。もともと彼に出会ったのは上海に来てすぐだったが、それからよく食事に行ったり、新しい商業施設や話題の店を一緒に回ったりして交流を深めた。

西山和希氏
西山和希氏

「そのあとがステュディオスですか?」
 豆腐売りのくだりには非常に興味があったが、僕は華麗にスルーした。今回電話した理由は彼に聞きたいことがあったからだ。
「ですね。新宿店で初年度、売上全社トップで、その後3年連続トップで店長やエリアマネージャーを経験しましたね」
「さすが」と僕は感嘆の声を上げる。
「そのあと、2017年の香港事業立ち上げを任されて5店舗を展開して、2020年から中国っす」
 東京、香港、そして上海。彼はアジアの中心で服を売ることを生業にしてきたプロフェッショナルなのだ。現在はフリーランスとして、日本や中国のブランドのプロデュースに携わり、両国の架け橋の役割を果たしている。

 いよいよ本題に入る。
「今、中国で流行っている日本のブランドとか、その購買層、特にZ世代のことを知りたくて電話したんですよ」
「メンズはわかりますよ」と彼は軽快に即答した。電話のこちら側で僕は手を合わせる。

「まず、日本ブランドは中国で人気ありますよ。ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)N.ハリウッド(N.HOLLYWOOD)ビズビム(visvim)はさすがの人気で、あとはモードではベッドフォード(BED j.w. FORD)サルバム(sulvam)、ストリートではワコマリア(WACKO MARIA)ニードルズ(NEEDLES)もすごい注目されています。上海の街中でもよく見ますし。最近勢いを感じるのはディスカバード(DISCOVERED)ですかね」

 彼はさらに経験に裏付けされたエピソードを語る。
「中国のZ世代はすごくミーハーなので、いいと思ったものにはどの国のブランドとか関係なく手を伸ばします。偽物もありますが、スニーカーブームもいい例っすね。日本の倍くらい流行り廃りが早いけど。その中で日本ブランドは、品質はもちろん、やっぱりデザインやパターン、ロゴなどのディテールも良いので、国潮(グオチャオ)とかとも差別化は図れていると思いますよ」

※Z世代:中国では一般的に「Windows95」が登場した1995年から2009年生まれの若者のことを指す。
※国潮(グオチャオ):中国のドメスティックブランドを着用、または着こなしに中国のエッセンスを取り入れた、中国Z世代を中心にしたトレンド。

 金釘流で手元のメモにペンを走らせながら、「ドメスティックブランドが中国で展開していく上での課題って何かありますか? 例えば、価格とかPRとか」と僕は質問を続けた。
「内外価格差とか、越境ECを含めての日本からのアプローチ、マーケティング手法とか、そういう問題はあるとは思うんですけど、アメリカやヨーロッパに比べたら、距離も体型も日本と中国は近いんで進出を慎重に考えすぎかな。日本のブランドが受け入れられる土壌は十分にあると思います」

※内外価格差:同一商品の日本と中国の販売価格の差

 マーケットやユーザーのニーズはどう感じているのだろうか。

「中国の場合、服のテイストやカルチャー、ブランドのバックボーンをあまり気にしないことが、逆に中国のカルチャーかなと思いますね。今着たいもの、今可愛いと思うものは簡単に携帯で手に入るので、その中でどれを選ぶか」

「なるほど。僕、前に国潮(グオチャオ)のこと書いたんですけど、あの辺のローカルブランドって、西山さんの目にはどう映ってますか?」日本のブランドをアジアの消費者に長年届けてきた彼に聞きたかった質問だ。

「ハイプライスゾーンは百貨店やモールにあるグローバルなラグジュアリーブランド、ロープライスゾーンはEC展開しているローカルブランドでほぼ完成していますね。ランダムイベント(Randomevent)はその中間の価格帯でオンラインでもオフラインでも売れるいい例かなと。ナイスライス(nice rice)は中国製で中国人のモデルを起用して、高品質で長く着られそうな感じを売りにしてます。ただ、品質もデザインも日本のブランドの方が洗練されているので、日本のブランドが中国で成長してくためにはやはり、そこが切り口になるのかなって感じですかね。あ。PCR検査に呼ばれた。また」

ナイスライス(nice rice)

◇ ◇ ◇

 ほんの10分ほどの会話だったが、中国における日本のブランドの今とその顧客像、国潮ブランドについてのヒヤリングは終わった。豆腐のくだりはまた再会できた時に聞こう。

 中国の総人口の20%ほど、2億6000万人いると言われるZ世代。彼らは多感な10代の頃に、自国のGDPが日本を超えてアメリカに次いで世界2位となった。そのため、彼らは生まれながら強い中国に対しての自信を持っている。また、ほとんどが一人っ子であるため、幼少期より「6ポケット」を背景にした経済力があり、自宅ではなく外から情報を得ることが多く、SNSへの依存度も高い。自宅で姉からブルーハーツを教えてもらったりすることはないのだ。

※6ポケット:一人の子供に、両親と双方の祖父母合わせて6個の財布からお金が投じられること。

 そして、他の世代ほどは有名KOLや有名ブランドを盲信せず、急速なデジタル化を成長とともに肌で感じてきたため、スマートフォンを駆使してコストパフォーマンスを意識しながら、合理的に自分らしさを追求する。国潮はこのような背景から生まれたのだ。

 反面、このロックダウン生活で、中国人が特に食事面で強く欲していたものはマクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、スターバックス、コカ・コーラなど全てアメリカのものだった。

 日本のブランドが高品質であり、持続性があることは中国の誰もが知っている。ただそれだけではもはや強みにはならない。この国の多様性のあるターゲットに向けて洋服を売っていくためには、価格とのバランスに加えて、さらなる付加価値が求められているのだと改めて強く感じた。

 パチパチと炭酸が弾ける音がする。1ヶ月ぶりにコカ・コーラ買って飲んだ。こんな味だったっけな。

Creepy Nuts「生業 / THE FIRST TAKE」

次回は5月30日(月)公開予定です。

佐藤 秀昭(Hideaki Sato)

群馬県桐生市出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中に、友人とブランド「トウキョウリッパー(TOKYO RIPPER)」を設立し、卒業と同年に東京コレクションにデビュー。ブランド休止後、下町のOEMメーカー、雇われ社長、繊維商社のM&A部門を経て、現在はレディースアパレルメーカーの海外事業本部に勤務。主に中国、アジアでの自社ブランド展開に従事。家族と猫を日本に残し、2021年9月からしばらくの間、上海長期出張中。

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