ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。今月は新入社員時代からの心強い相棒、「オリバーピープルズ(Oliver Peoples)」の「RILEY」を紹介。
ゴールデンウィーク、皆さんはいかがお過ごしだっただろうか。僕はたまたま、旅行の予定が3つ重なり、名古屋拠点に北海道、福岡、東京をそれぞれ中一日で回る強行スケジュールになってしまい、疲れを引きずり今も抜け殻のようになっている。私事だが5月から部署に配属された新入社員の教育係となったため、五月病になっている場合ではないのだが、初々しい新人を眺めていると、僕が新入社員だった当時のことを思い出したりと、なんだか懐かしくもなってくる。
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当時の上司からの教えで印象深かったものがある。それは「社内は別だが、社外のお客さんからすれば新人であるかどうかなんて関係ない。できるだけ早く社内外から舐められないような風貌を身に付けろ」というものだった。確かにわからない事がほとんどなので、多少のミスが許されたり、関係者から認識してもらいやすかったりと、新人というステータスが有用に働く部分が大いにあるものの、いつまでたってもそれでいいわけではもちろんなく、いずれは一人前のプロとして仕事を回せるようにならないといけない。そういう意味で「安心して仕事を任せられるような外見を磨く」というのは理にかなった話だと納得した当時の自分が手練れたサラリーマンになるために購入したのが「オリバーピープルズ(Oliver Peoples)」の眼鏡。今回はそんな思い出の一本を紹介したい。
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オリバーピープルズは1986年にロサンゼルスで創業したアイウェアブランド。アイウェアブティックの設立を夢見た3人の若手経営者がニューヨークの骨董品業者から入手したヴィンテージフレームと出会ったことから始まった、数あるアイウェアブランドでも高い知名度を誇る世界的なブランドだ。1920~80年代のヴィンテージフレームから着想を得たコレクションがブランドの代名詞として知られる。ブランディングのコントロールにも強いこだわりがあり、国内でも厳選された権威ある代理店のみに卸している。
アンディ・ウォーホルやジョニー・デップら数多くのセレブリティが愛用した「SHELDRAKE」シリーズや、1960年代の映画「アラバマ物語」でアティカス・フィンチ演じる主人公であるグレゴリー・ベックが着用したフレームにインスパイアされた「Gregory Peck」シリーズが特に人気だが、僕が長い間気に入って愛用しているのは「RILEY」というモデル。先述のモデルと比べるとややマイナーだが、実はこのRILEYシリーズは過去に廃盤となったモデルで、近年に数量限定で復刻した本国では一部のブランドファンから高い支持を集めている。映画監督のスティーブン・スピルバーグや俳優のジャスティン・ティンバーレイクなども着用する隠れた名作だ。
形状はいわゆるボストンタイプになるが、同社のボストンタイプフレームのA面的存在であるGregory Peckシリーズに比べてセルはより華奢で、繊細で知的な印象を与える。デザインから余計な要素を限りなく省き、バランスの美しさで勝負するミニマムな佇まいは、まさに引き算の美。カジュアルからドレスまで、幅広いスタイルに寄り添ってくれるデイリーな一本に持ってこいのモデルである。
もちろんビジネススタイルとの相性も抜群で、スーツにこの眼鏡をかければこの僕でもたちまち頭の冴えた提案ができる敏腕ビジネスマン……と言うには本人の素材に無理があるものの、下っ端の雑魚の自分の格好に多少の知的な印象に変えつつ、メタルフレームほど堅苦しさはない柔和で落ち着いた顔つきにしてくれる雰囲気がある。ボストンフレームの丸みがかった柔らかさと繊細なフレームの細さの調和は、一見するとオーソドックスなデザインながらも、他の同タイプのフレームにはない唯一無二の絶妙なバランスだと思う。
RILEY自体の魅力とは全く関係ないものの、個人的にこの眼鏡に思い入れがある理由が、なぜか何度なくしても不思議と自分のもとへ帰ってきてくれるところ。僕は本当にガサツなので失くし物は日常茶飯事なのだが、外したタイミングでどこかに置いてきてしまっても、道中に落としてきてしまっても、ひょっこり出てきてはかれこれ6年間にわたり自分の手元に残り続けてくれている。先日も宴席で頑張りすぎて泥酔してしまいスーツのジャケットと眼鏡のほか諸々を紛失したのだが、この眼鏡だけは発見することができた。普通はジャケットの方が失くすハズがないと思うのだが……。ここ数年はファッションアイテムとしてアイウェアに凝りだし十数本の眼鏡を使いまわすようになったため出番も減ってはいるが、今でも大事な商談やフォーマルにドレスアップするときは迷いなく手が伸びる安心感のある相棒だ。
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僕も社会人歴6年目に突入し、職場でもだんだんと中堅社員として取り扱われるようになったのだが、自分が新人の時に教育係として上についてくれた先輩も当時6年目であった。その先輩はとても仕事ができる人で、社内外からも信頼を集める優秀なビジネスマンだった。今の自分と当時の先輩を比べると到底追いつけている気はしないが、少なくとも振舞いや風貌だけは先輩のようになっていないと新人に示しがつかないので、ここ数日はこちらも身が引き締まる思いで仕事をしている。もちろん、本質は新人が僕の背中を見ながら一日も早くひとり立ちできるように努めることだが、ある意味で部下ができるというのは、これまでの誰かの下で働く立場から、部下をマネジメントしつつ仕事を進める立場になった自分にとっても、改めて仕事のやり方を見つめ直し、社会人として一皮剥ける丁度いい機会なのかもしれない。そういう意味で最近は新人だった頃を思い出しつつ、相棒のオリバーピープルズとともに新たな気持ちで仕事をしている。
ところで、冒頭の「社内外から舐められないような風貌を身に付ける」という当時の上司の教えだが、この6年間で自分の風貌がどうなったかというと、すっかりスーツは着なくなり基本はほとんど私服に近い状態、髪型はロン毛のパーマという一般的なサラリーマンの風貌とはかけ離れた結果になってしまっている。新人がこれを見てどう思うか正直わからないのだが、こういう見た目は望ましくないという反面教師として使ってもらえればまだ救われるなと思う。
>>次回は6月30日(金)に公開予定
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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