
今年7月、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が初めて手掛けたオートクチュールコレクションで、アトリエの技と精神を鮮やかに示した「バレンシアガ(BALENCIAGA)」。現代の日常着を起点に、アーカイヴのシルエットを新たな技術で再解釈し、“ネオ・クチュール”と呼べる表現に昇華した。続く今回の2027年サマーコレクションでは、再び日常着に焦点を当てる。退任の噂が取り沙汰されるなかでも、ピッチョーリの創造は歩みを止めない。クチュールの思想を日常へと広げ、メゾンの伝統に新たな風を吹き込んだ。
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クチュールを思想として捉える
2027年サマーコレクションのテーマは「Les Coraux de la Liberté(自由のサンゴ)」。ショー会場の中心には、フランス人アーティスト、オード・フランジュによる同名の作品が据えられた。リネンを巻き重ねて作られた巨大な彫刻は、アートとクラフトの交わりを示すとともに、クチュールメゾンをひとつの生態系になぞらえる。
究極の手仕事による日常着
クチュールとは、フランス語で「仕立て」や「縫製」を意味する。ピッチョーリはそれを技術にとどめず、服作りを支える思想として捉えているという。人の手が加わることで生まれる構造や、そこに刻まれる痕跡の積み重ねが、バレンシアガの歴史そのものを表している。

ファーストルックは、アーカイヴの「バスク」シェイプを取り入れたホワイトシャツ。一見するとシンプルなデザインだが、よく見ると、腰から広がるペプラムのパーツを埋め尽くすように、何百本ものステッチがぐるりと施されている。そのステッチによって布地に張りを持たせ、立体的なシェイプを形作るという手法だ。


布と糸のみで形成する根源的な立体構造はコレクションの随所に見られ、身体から浮遊するようなシルエットを生み出す。Tシャツをドレスに仕立てるなど、見慣れたワードローブに命を宿すように、手仕事の痕跡を残している。



もうひとつの鍵となるのが、布地を斜めに裁つバイアスカットだ。通常はドレスやスカートに用いられる技法を、スーツやジーンズなどに応用。アイテム本来の表情を保ちながら、身体に沿うしなやかなフォルムへと変化させた。


日本製デニムとカーゴパンツ
ショー中盤に登場したダメージジーンズにも、クチュールの思想が息づく。日本製デニムを使用し、腰のラインをカーヴィーに造形。また、バックに大きなラッフルを描くボトムのシルエットに注目。ドレスメイキングの要素を取り入れたジャンプスーツやカーゴショーツが、ワークウェアに動きをもたらした。




数珠状に成形したオーガンザやレース使いなど、クチュール技術を余すことなく取り入れながら、コレクション全体を貫くのは軽やかさ。カラーパレットは、バレンシアガ創業の地であるスペインの伝統衣装に見られる黒を用いながら、ピッチョーリらしい鮮やかなピンクやブルーの差し色が映える。



新型バッグとフラットな足元
バッグでは、「ロデオ」に新型のトートバッグが仲間入りしたほか、「ル・シティ」に新色が登場。新作ホーボーバッグ「ノド」、ショルダーバッグ「キキ」、そして三角パーツをスタッズでつなげた「タイルタイル」などがラインナップしている。






足元では、トングサンダルなどフラットシューズが多かったほか、今シーズンも「マノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)」とのコラボレーションシューズを発表。アクセサリーでは、ピアスとネックレスが一体化したデザインがユニークだ。



この先に何が待っているのか
ピッチョーリがバレンシアガのクリエイションを率いてから、まだ1年強。人間になぞらえれば、1歳はようやく一人で立ち始める頃だ。前任者のデムナ(Demna)も、現在クリエイティブディレクターを務める「グッチ(Gucci)」において自身のヴィジョンを形にするまでには、1年の時を要したと語っている。歴史あるクチュールハウスを舵取りを引き受け、新たな美学と技術の根を張るには時間が必要だ。真摯なクリエイションの先に何が待っているのか、今後を見届けたい。
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