東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から、中国でいま起こっていることをコラムでお届けする連載「ニイハオ、ザイチェン」が期間限定で復活。今回は、最近日本でも存在感を示している「シーイン」にフォーカス。ファストファッションブランドの撤退が相次ぐ中国でシーインはどのように受け止められているのか?
(文・佐藤秀昭)
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この服は持っていくべきか置いていくべきか、それが問題だ。(1年ぶり2回目)
今回の上海出張は1ヶ月間ということもあり、前回よりもさらに出張ミニマリズムに徹し、荷物を少なく抑えた。
レディオヘッドのトム・ヨークが着ていた黄色い反戦メッセージTシャツ、ニルヴァーナのカート・コバーンが着ていたダニエル・ジョンストンのイラストTシャツ。ソニック・ユースの名盤のジャケットのTシャツ、「ザ・ブルーハーツ」とプリントした自作のTシャツ。前回の上海出張時に手刷りで作った「Nǐ hǎo Zài jiàn」の保護猫のチャリティTシャツ。上海の「ショールーム キャッツ(Showroom CATS)」で購入した「UPPERDEVICE」のキャップ。「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」のウエストポーチ。「サカイ(sacai)」と「ナイキ(NIKE)」と「フラグメント(fragment design)」のコラボによるスニーカー。それ以外は現地で調達する計画だ。
10日間の隔離を終えて、上海の街に降り立つ。プラタナスの街路樹は緑のままで、夏の終わりのハーモニーのエピローグが続いているものの、青い空には水色めがねのトンボが羽ばたき、少しずつ秋の香りが漂い始めていた。
◇ ◇ ◇
ここ中国では、オンライン、特にスマートフォンで商品を買う習慣が生活に日本以上に根付いている。毎年10月末から11月11日に開催される、年間最大のECイベント「独身の日」では昨年、中国EC企業の2トップと言われるアリババとジンドンの2社で15兆円以上を売り上げ、過去最高売上高を記録した。
■独身の日とは?
11月11日は中国で「光棍節(こうこんせつ)」と呼ばれており、もともとはパートナーのいない独身の人たちが集まってお祝いをする日だったが、2009年からアリババが自社のECサイト「Tmall(天猫)」で大規模なセールをスタートし、国民的なECイベントの開催日となった。
その中でアパレルの売上シェアは、家電とスマートフォンに続いて3位と言われている。僕自身も市場調査で毎週末、街には繰り出すが、洋服はもちろん、食材や消耗品などもオンラインショッピングで買うことが多い。
「中国」「EC」「アパレル」というキーワードから、多くの方が中国発のファストファッションブランドである「シーイン(SHEIN)」のことを思い浮かべたかもしれない。
店舗を持たないオンラインのみのビジネスモデルで、アメリカではアプリのダウンロード数でAmazonを上回り、推定時価総額では4月に「ザラ(ZARA)」と「H&M」の合計額、そして今月には「ユニクロ(UNIQLO)」をも超えたと伝えられている。日本では各地でのポップアップ出店、最近では東京ガールズコレクションへの参加などもあり、最近では雑誌やメディアでも多くの特集が組まれるなど勢いを増している。そこで、本国ではどのような印象なのか、社員やインフルエンサーやアパレルで働く友人たちに聞いてみた。
結論から言うと、「ビジネス」の文脈から「シーイン」を認知している人はいたが、「ファッション」というフィルターを通してこのブランドを見ている人は少なかった。
そもそも、「シーイン」の母体は「南京希音電子商務」という中国企業だが、中国から世界に向けての越境ビジネスがベースとなっており、中国国内での流通は現状ではほぼない。それに加えて、友人たちにアプリやSNSを見てもらった上で、デザイン、価格帯ともに中国国内では大きな競争力がないことが率直な感想として挙げられた。
実際、アリババが運営する「タオバオ」では、デザイン性とトレンド性が高い商品が、驚くべき低価格帯で販売され、また違法ではあるものの、幾層もの網をくぐり抜け、多くのラグジュアリーブランドの偽物も見受けられる。商品到着後1週間は無理由で返品できることもあり、消費者にとっては購入のハードルが低い。
さらに、ここ数年では「タオバオ」以外に、Tiktokの本家である「抖音(ドウイン)」やスニーカーアプリから成長した「得物(デウー)」などでは、インフルエンサーの訴求力も相まって、低価格でデザイン性が高い、中国のトレンドに適応した商品がZ世代に響いている。
タオバオで販売される18元(360円)の洋服たち
2018年以降、Gap傘下の「オールドネイビー(OLD NAVY)」に加えて「トップショップ(TOPSHOP)」「ニュールック(New Look)」などが中国から撤退。直近では、コロナ禍の影響もあり、ファストファッションの雄であるザラを擁するインディテックス傘下のブランドもザラ以外は中国から姿を消し、H&Mの中国本土1号店である上海旗艦店も閉店した。日本でもファストファッションは、一時に比べるとその隆盛に影を落としているように見えるが、中国人にとっての「ファスト」そして「ファッション」は、さらに早いスピードで、最先端で日々変わり続けていると改めて思った。
さて、早く長袖と長ズボンを買おう。
ザ・クロマニヨンズ「スピードとナイフ」
>>次回は9月26日(月)に公開予定
■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.18:ニッポンザイチェン、ニイハオ上海
・vol.17:さよなら上海、サヨナラCOLOR
・vol.16:地獄の上海でなぜ悪い
・vol.15:上海の日常の中にあるNIPPON
・vol.14:いまだ見えない上海の隔離からの卒業
・vol.13:上海でトーキョーの洋服を売るという生業
・vol.12:上海のスターゲイザー
・vol.11:上海でラーメンたべたい
・vol.10:上海のペットブームの光と影
・vol.9:上海隔離生活の中の彩り
・vol.8:上海で珈琲いかがでしょう
・vol.7:上海で出会った日本の漫画とアニメ
・vol.6:上海の日常 ときどき アート
・vol.5:上海に吹くサステナブルの優しい風
・vol.4:スメルズ・ライク・ティーン・スピリットな上海Z世代とスワロウテイル
・vol.3:隔離のグルメと上海蟹
・vol.2:書を捨てよ 上海の町へ出よう
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好
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