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【2023年ベストバイ】音楽家 渋谷慶一郎が今年買って良かったモノ

Video by: FASHIONSNAP

 今年のお買い物を振り返る「2023年ベストバイ」。17人目は、ヒューマノイドロボットとの共演による「アンドロイド・オペラ®」で知られ、「グッチ(GUCCI)」のショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」では作曲を担当した音楽家の渋谷慶一郎。東京とパリを拠点に活動する渋谷さんに、都内某所のスタジオで聞いた2023年に買って良かったモノ5点。

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PRADA Down jacket

プラダのダウンジャケット平置き

Image by: FASHIONSNAP

FASHIONSNAP(以下、F):ベストバイ1品目は、「プラダ(PRADA)」2023年秋冬メンズコレクションのランウェイでも一際目を引いていた真っ白のダウンジャケットです。これは、どちらで購入されたんでしょうか?

渋谷慶一郎(以下、渋谷):パリのサントノーレにある「プラダ」で購入したんですけど、第一印象は「これを着ることはないだろう」でした(笑)。ただ面白いピースだから、買わないだろうと思いつつ、ショート丈とビッグシルエットの2パターンを試着してみたら、このショート丈が思いの外良くて。ただ、そのタイミングでは購入せず、何日か後に「やっぱり買おう」と思って店に行ったら、僕のサイズが無くなっちゃっていたんです。Mサイズだと布団を着ているように見えてしまうので、割とタイトに着たくてSサイズが欲しかったんですが、ファッションウィークのタイミングだったから捌けるのも早かったみたいで。でも、パリの店員さんって全体的なノリとして「どこまででも追いかけて君のサイズをゲットするから」っていう感じで、結局ミラノから取り寄せてくれて無事買うことができました(笑)。

プラダのダウンジャケット
プラダのダウンジャケット
プラダのダウンジャケット

Image by: FASHIONSNAP

F:渋谷さんはダークトーンのアウターを着てるイメージが強いので、意外なチョイスでした。

渋谷:白いアウターなんて覚えている限り、人生で買ったことがないですね。でも、自分の中でブラックやオーバーサイズのアウターに飽きている傾向にあったので、思い切ってチャレンジしてみました。着方次第で一歩間違えると“アイスマン”とか“布団くん”みたいになってしまうから、気を付けようと思ってます(笑)。まぁ、日本に持って帰ってきたのはいいものの、今の段階じゃまだ暑くて1回も着られてないんですけどね(*取材は11月中旬)。ただ、愛用すると思ったのでベストバイに選びました。

F:そもそも、ダウンはよく着られるのでしょうか?

渋谷:去年は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のダウンベストをよく着てたし、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の本格的なものも持っているし、結構好きですね。世界中、あちこち行くからそもそも重いコートは現実的じゃないんです。

F:では、「プラダ」は?

渋谷:素材のレベルがすごく高く、そこにラフ・シモンズ(Raf Simons)らしいおもしろいカッティングやフォルムが組み合わさっているから、良いバランスだなと思ってて最近すごく好きなんです。「プラダ」はこのダウン以外にも、トレンチコートを買っちゃいました。今年はこれ以上は買わないです。多分。。。

CELINE Leather jacket

セリーヌのブルゾン平置き
セリーヌのブルゾン平置き

Image by: FASHIONSNAP

F:続いて、「セリーヌ(CELINE)」のレザージャケットです。「2022年ベストバイ」にご出演いただいた際にも、同じく「セリーヌ」のレザージャケットをご紹介されていましたよね。

渋谷:毎年購入しているわけではなくて、たまたまですね。「セリーヌ」の黒のレザージャケットを買うのは3年ぶりで、黒のレザージャケット自体、「セリーヌ」の2着しか持ってないです。当時購入したのは、エディ・スリマン(Hedi Slimane)も着用していた人気の型で、それ以降は欲しくなるものがなかったんですけど、今回のは何かで見かけた瞬間にいいなと思いました。以前購入したオーソドックスなデザインから、切り返しなどのディテールがプラスされ、アームホールや身幅など全体的にゆとりがあって着やすくなりましたし、格段に合わせやすくなったと思います。

渋谷慶一郎

Image by: FASHIONSNAP

F:こちらはもう着用されましたか?

渋谷:ステージでも普段でも、バンバン着ていますね。パリで1ヶ月くらいほぼ毎日着ていて、帰国した後の金沢の公演でも普段着、衣装両方これでした(笑)。

F:そういえば、ステージ衣装はセルフスタイリングだそうですね。

渋谷:洋服を購入するときは、いつも自分に「これは衣装だから経費」と言い聞かせています(笑)。実際、動きづらいロングコートなどを除けば、購入したアウターは大抵ステージや撮影で着ています。洋服の中でも、アウターが好きなんですよ。インナーは数年着たらダメになるものが多いから、良いものを買うモチベーションが湧かなくて。

BALENCIAGA Graffiti Skater Tailored jacket

BALENCIAGA テーラードジャケット平置き

Image by: FASHIONSNAP

F:昨年、スーパーチャンキースニーカー「ディフェンダー」を購入されていたように、好きなブランドの一つが「バレンシアガ(BALENCIAGA)」とのことですが、このジャケットは購入したいくつかのアイテムの一つでしょうか?

渋谷:そうですね。「バレンシアガ」は、今年もコンスタントに買いました。「『バレンシアガ』が好き」って言うと、東京ではロゴ入りアイテムを着ているイメージだけど、僕の場合はロゴ入りがもともと嫌いだから、全然持っていないんです。一方パリでは全然イメージが違って、“形”の更新というか新しさが今でも注目されている感じです。実際、“形”でそれと分かるブランドは秀逸だと思っているし、なおかつ着やすくて合わせやすい点が好きですね。あと、アート業界やファッション業界で会う人たちは「バレンシアガ」を着ていることが多くて、初対面でお互いに黙視してたりしますね(笑)。それきっかけで話しかけてきて打ち解けることも多いです。

F:これはどちらで購入を?

渋谷:パリの友達が働いている百貨店「サマリテーヌ」店ですね。余談なんですけどその友達との出会いが面白くて、彼は20代前半でまだ若いんだけど、1年ほど前に「サマリテーヌ」の中を歩いていたら「『バレンシアガ』が似合うね!」って急にナンパしてきたんです(笑)。その直前に、「バレンシアガ」の店内で「Wow……」とか言いながら洋服を触っているマニアを見かけていたんですけど、それが彼で。今は念願叶い、その「サマリテーヌ」店で働いていて。結構アツい男なので彼から購入しました。

BALENCIAGA テーラードジャケット
BALENCIAGA テーラードジャケット

Image by: FASHIONSNAP

F:すごい偶然ですね(笑)。アイテムで気に入ってる点は?

渋谷:ジャケットは衣装で着ることが多く、ピアノを弾くので肩と胸のフィット感、特に肩に乗っている感じが気持ち良いかどうかが大事なんですけど、これはシルエットが大きいのに肩の部分はふわっと軽いんです。あと、めちゃくちゃ良い素材なのに、遠慮なくシミとかシワなどのダメージを与え、あえて作りも雑にしているディテールが気に入っています。これに限らない話でいうと、「バレンシアガ」のジャケットって胸の内ポケットに必ずボタンが付いていて、手でジャケットを持ったとしても中身が落ちない仕様になっているんですよ。パリではスリ対策は重要で胸のうちポケットには財布を入れることが多いので、ポイントが高いです。あと、汚れてもいいようにできていたり、もともとシワが入っているから丸めてカバンにも入れられたりと、高級なストリートウェアなんだと思います。デムナ(Demna)の作る洋服からは、フォーマルやラグジュアリーの価値観を転倒させようとしているのが伝わってきていいなと思います。

F:ただ、このジャケットは手入れが大変そうですね。

渋谷:「バレンシアガ」はどれもクリーニングが超大変です(笑)。クリーニング屋のおばちゃんには、「これはあえての着ジワだからアイロンをかけないで」とか「これは染み抜きの必要がない染みで」とか、一つ一つ指示しないと綺麗になりすぎて返ってきちゃうから(笑)。

HERMÈS Necklace & ring

エルメスのアクセサリー
エルメスのアクセサリー
エルメスのアクセサリー

Image by: FASHIONSNAP

F:こちらは、「エルメス(HERMÈS)」の「シェーヌ・ダンクル・パンク(Chaine d'Ancre Punk)」シリーズのネックレスと、2連のようなデザインの「ヴェルティージュ リング(Vertige ring)」になりますが、購入されたきっかけは?

渋谷:5月に50歳になって区切りもいいし、なんか自分に買おうかなと思っていたときに、パリのサントノーレの「エルメス」本店でネックレスを見つけました。これ自体に存在感があり、首からかけるとバランスが絶妙なのと、普通の「シェーヌ・ダンクル」はみんな着けてるから興味なかったけど、「パンク」はいいなと思って。その後、ネックレスが気に入ったのをきっかけに「久々に指輪でもするか」と思って、指輪も買いました。

渋谷慶一郎

Image by: FASHIONSNAP

F:普段からアクセサリーは付けるんでしょうか?

渋谷:ピアノを弾くから指輪を着けたり外したり出来ないのであまり買わないです。時計も、パリでの公演中に控え室に置いていた「ロレックス(ROLEX)」が盗まれて以来、買うのをやめましたからアクセサリーは全体的にご無沙汰な感じです。例え着けていても、指輪1つで鍵盤に触れた時のコンディションが変わってしまうので、演奏時には必ず外していました。でも、最近ずっとこの指輪をしていて、10月に実施した金沢21世紀美術館の公演で外したら逆に指のバランスが悪くなってしまって。初めて本番で指輪を付けながらピアノを弾きました。

Melbourne Instruments NINA

Melbourne Instruments NINA

Image by: FASHIONSNAP

F:ラストを飾るのは、商売道具でもあるシンセサイザーです。去年もアナログ・ポリフォニック・シンセサイザー「Moog One」を購入されていましたよね。

渋谷:ここ数年、アメリカのシンセサイザーメーカー「シーケンシャル(Sequential)」が名機と呼ばれるアナログ・ポリフォニック・シンセサイザー「Prophet-5」を復刻したり、去年もやはり名機の復刻というかリニューアル的な「Moog One」を手に入れたから、当分シンセサイザーは買わないと思っていたんです。ただ、原宿に「ファイブ・ジー(Five G)」という世界でも有数のシンセサイザーショップがあるんですけど、ふらっと入った時にこの「NINA」を試弾している方がいて、すぐに音の凄みに気付いてしまったんです。自分で試弾してもとんでもない楽器だと分かりつつ、これは沼の領域だと思い、店を出たんです。でも、その後パリの家に戻っても気になってしまって、「1台押さえてください」とメールしている自分がいました(笑)。

Melbourne Instruments NINA

Image by: FASHIONSNAP

F:以前から所有しているシンセサイザーとの違いは、どういったところにあるんでしょうか?

渋谷:「NINA」もアナログ・シンセサイザーではあるんですけど、ヴィンテージを復刻した「Prophet-5」や「Moog One」とは全く方向性が違うんです。世界初の完全モーター駆動式で、アナログシンセ4台分ぐらいの性能が入っていて、2つの違う音色の間をモーフィングして移り変わったり、音と音の間を移動させる手法をパンニングと言うんですけど、多くは水平方向でしか動かせないのに対して、これは立体的な動きも可能です。音色もアナログだけど、いわゆるアナログっぽくなくてフューチャリスティックで新鮮です。ファッションに寄せて話すと「Prophet-5」や「Moog One」が、ヴィンテージを解釈して現代のアイテムに仕上げる「セリーヌ」だとしたら、「NINA」は、新しいフォルムを提案する「バレンシアガ」のような感じ、というのはかなりうまいこと言ったと思います(笑)。

Melbourne Instruments NINA

Image by: FASHIONSNAP

 PCから再生される音は、一度PCのハードディスクにレコーディングされたものが出力されているので、僕のような劇場での公演が多いアーティストだと、音の解像度や新鮮度に膜がかかったような物足りなさを感じてしまうんですよね。その点、シンセサイザーは“楽器の音”だから解像度が鮮烈なんです。とにかく「NINA」の音に食らいすぎて、パリから帰国したらすぐに受け取りに行って、3日後の公演でいきなり本番に使ったくらいです。

今年を振り返って

今年の買い物を振り返る渋谷慶一郎

Image by: FASHIONSNAP

F:最後に、2023年の買い物を振り返っていかがですか?

渋谷:結構買ったなと思います(笑)。言い訳すると、ここ数年忙しくて旅行とか食事とか全然行けなくて、そういうことにお金を使う暇がないんです。だから、使うとしたら洋服かシンセサイザーくらいで、どちらも実際有意義なんですけど、ピークを迎えたのが2023年、と思いたい(笑)。でもどうせ、また色々買うんでしょうけど、どれも有益な情報とか経験になってるからいいんじゃないかと思ってます。

■渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベルATAKを設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ、オペラ、映画音楽、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。2012年に初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。初音ミクの衣装は当時Louis VuittonのデザイナーであったMarc Jacobsが務め世界中で公演。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、中東圏で公演を行なう。2021年は新国立劇場の委嘱新制作にてオペラ作品『Super Angels』を作曲、アンドロイドとオペラ歌手、合唱、バレエダンサー、そして東京フィルハーモニー交響楽団と共演を果たした。2022年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラによる新作アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。8月にはGUCCIのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」の音楽を担当し、自身もアンドロイドと一緒に映像に出演。2023年6月にはパリ・シャトレ座にてアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』の70分となる完全版を世界初演、Le Figaroを始めとする現地メディアでも大きく取り上げられ成功を収めた。10月には金沢21世紀美術館で2台のアンドロイドによる新作対話劇『IDEA』を池上高志と発表、11月にはリスボン映画祭にて新作『Seeds of Prophecy (預言の種)』を発表。2022年4月から大阪芸術大学にアンドロイドと音楽を科学する研究室「Android and Music Science Laboratory(AMSL)」を設立、客員教授に就任。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
公式サイト

エディター&ライター

Riku Ogawa

WWDとHYPEBEAST出身でプレミアリーグのアーセナルを応援する、食道楽のエディター&ライター。お仕事のご連絡は各種SNSのDMまで。

音楽家 渋谷慶一郎のベストバイ
2022年に買って良かったモノ

■2023年ベストバイ
ファッションエディター 大平かりんが今年買って良かったモノ
「ロンハーマン」ウィメンズディレクター根岸由香里が今年買って良かったモノ
スタイリスト コギソマナが今年買って良かったモノ
映像ディレクター 上出遼平が今年買って良かったモノ
「シスター」オーナーの長尾悠美が今年買って良かったモノ
義足モデル KawaK(川原渓青)が今年買って良かったモノ
スタイリスト 梶雄太が今年買って良かったモノ
資生堂ヘアメイクアップアーティスト 進藤郁子が今年買って良かったモノ
ダンサー RIEHATAが今年買って良かったモノ
VCM 十倍直昭が今年買って良かったモノ
GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーが買って良かったモノ
川谷絵音が今年買って良かったモノ
グラフィックアーティスト VERDYが今年買って良かったモノ
芸人・俳優・芸術家 片岡鶴太郎が今年買って良かったモノ
美容室「アルバム」創業者 槙野光昭が今年買って良かったモノ
スタイリスト TEPPEIが今年買って良かったモノ
[Alexandros] 川上洋平が今年買って良かったモノ
繊研新聞 小笠原拓郎が今年買って良かったモノ
FASHIONSNAP社長 光山玲央奈が今年買って良かったモノ
サカナクション山口一郎が今年買って良かったモノ

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