
Image by: Hideaki Sato
中国でいま何が起こっているのか。「トウキョウリッパー」でデザイナーを務め、現在は化粧品会社に勤務する佐藤秀昭氏によるコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」が再び期間限定で復活! 3年ぶりに足を踏み入れた中国で綴るプロローグをお届け。
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(文・佐藤秀昭)
ロックダウンが解除されたばかりの上海をさっと抜け出し、もう3年が過ぎた。そのあいだに部屋には、2匹の不思議な柄の猫がさらっと増え、僕は慣れ親しんだアパレルと海外事業からそっと離れた。
それでも、下駄箱の奥で眠っていた上海で履いていたナイキに久しぶりに足を通すと、すり減ったワッフルソールに、黄砂と熱にまみれた景色がいまだ薄いフィルムのように貼りついていて、かすかに息を吹き返す気がする。
最近耳に届く中国のニュースは、ボブ・ディランの声で奏でられるフォークソングみたいに渋い。
国の成長率は静かに落ち込み、若者の失業率は20%を超えた。テック企業は規制の波に押され、地方政府の財政は赤字に沈んでいく。ラグジュアリーの売上は2割落ち、人の流れが途絶えたホーンテッドマンションみたいなモールには、空きテナントのガラス越しに夕日が淡く差し込んでいた。
日本のファッションの地図を見れば、伊勢丹上海は27年の歴史に幕を下ろし、ジーユーは上海1号店の明かりを落とし、ゾフは中国本土を去った。バロックジャパンリミテッドは一度撤退した中国事業への再参入を発表し、TOKYO BASEは不採算店舗を整理しながら、プラタナスの並木道に面した路面店から、日本のファッションをもう一度、中国へと届けはじめている。そして、ユナイテッドアローズは上海の真ん中に扉を開き、ビームスは新天地の石畳の中に、静かに自分たちの居場所を刻みはじめた。
◇ ◇ ◇
上海は、きっと変わり続けている。
どんなブランドやショップが新たに生まれているのだろう。日本のブランドたちはどのように戦っているのだろう。ポップなキャラクターは本当に流行っているのか。本場の麻辣湯は、この和食に慣れた舌をどれだけ痺れさせてくれるのか。その答えは、琥珀色の風の中を舞っているのだろう。
失われた時間とこれからの鼓動。3年経った今だからこそ、あの街の輪郭がやわらかく浮かび上がってくる気がする。だから僕もまた、小さな風景と少しの言葉を、ここに残していこう。
BACK TO THE 琥珀色の街。
「ニイハオ、上海。」

上海で訪れた武康大楼。現地では人気の写真スポットになっている。
Image by: Hideaki Sato
💿一緒に聴きたいBGM:真心ブラザーズ+奥田民生「My Back Pages」
最終更新日:
■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.22:上海ファッションウィークと日曜日のサウナ
・vol.21:上海の青い空の真下で走る
・vol.20:上海でもずっと好きなマルジェラ
・vol.19:上海のファッションのスピード
・vol.18:ニッポンザイチェン、ニイハオ上海
・vol.17:さよなら上海、サヨナラCOLOR
・vol.16:地獄の上海でなぜ悪い
・vol.15:上海の日常の中にあるNIPPON
・vol.14:いまだ見えない上海の隔離からの卒業
・vol.13:上海でトーキョーの洋服を売るという生業
・vol.12:上海のスターゲイザー
・vol.11:上海でラーメンたべたい
・vol.10:上海のペットブームの光と影
・vol.9:上海隔離生活の中の彩り
・vol.8:上海で珈琲いかがでしょう
・vol.7:上海で出会った日本の漫画とアニメ
・vol.6:上海の日常 ときどき アート
・vol.5:上海に吹くサステナブルの優しい風
・vol.4:スメルズ・ライク・ティーン・スピリットな上海Z世代とスワロウテイル
・vol.3:隔離のグルメと上海蟹
・vol.2:書を捨てよ 上海の町へ出よう
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好
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