
上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から中国でいま起こっていることを週1回更新でお届けする。第15回は上海の“日常生活”に根付いた日本企業を紹介。「ニトリ」「ダイソー」「無印良品」「ユニクロ」の4社の店舗から感じたことを記す。
(文・佐藤秀昭)
日本でも報道されている通り、2ヶ月にわたる上海のロックダウンは5月31日23時59分に幕を閉じた。この閉ざされた生活の中でしか生まれ得なかった出会いや気付きはあったが、これは決していい経験だったなどと呼べるものではなく、家族や友人には味わってもらいたくはないと思っている。
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この文章を綴る6月11日現在、再び新型コロナウイルスの新規感染者が確認され始め、封鎖されるマンションや地域が続出し始めた。ロックダウン解除後に感染者が1人でも出た区では、この週末に区民全員がPCR検査を受けることとなり、さながらロックダウン直前の3月中旬にタイムリープしたようだ。2日に一度はPCR検査を受けなくては公共交通機関を利用できず、出勤も出来ず、スーパーマーケットにも入れない。未だ、日常とは程遠い。
そんな中、僕は来週、273泊274日の長期出張を終えて日本に帰国する。サービスアパートメントの部屋を少しずつ片付けながら、この生活の一部が、上海に進出している日本企業の製品によって形成されていたことに改めて気付かされた。
以前、上海に進出しているラーメン店や珈琲店についてはここで触れたが、上海の“日常生活”に根付いた日本企業のことを記したいと思う。
◇ ◇ ◇
上海での生活を始めた頃を振り返る形になる。
現在も住んでいるサービスアパートメントには小さなキッチンがあり、鍋やフライパンは備え付けられていたが、包丁や調理器具は一切なく、フルコースを並べるためのお皿やワインを嗜むグラスもなかった。そのため、まずは家の近所の「ニトリ」へ向かった。気分は田舎から東京に出てきたときのようだ。なお、「ニトリ」は現在中国全土で35店舗以上を展開している。
店内はとても広く清潔で日本語が話せるスタッフもおり、まるで日本にいるような感覚を覚えた。ベッド、カーテンから食器や入浴グッズまで新生活のスタートを後押しする商品が綺麗に並ぶ店内を見渡していると、自分の部屋に掃除用品が全くなかったことに気付き、コロコロやクイックルワイパー、激落ちくんなど日本でも使っている商品をカゴに入れた。
上海に来たばかりということもあり、ネット購入もできず、中国でこのような生活用品をまとめて購入できるところも知らなかったため、日本とほぼ同価格での購入出来る商品に「お、ねだん以上」だと思った。タオルやバスマットなどは、日本では買わないであろうファンシーなラインナップで揃えた。なお、日本の一部店舗で展開しているウィメンズのアパレルブランド「Nプラス(N+)」は未展開だったようだ。


























続いて、文房具や細かい日用雑貨などを揃えるために「ダイソー」を訪れた。「DAISO JAPAN」という屋号で日本のブランドであることを明確に示しており、上海だけでも10店舗以上を展開している。
販売されている商品は100円均一ではなく10元(200円)が中心となり、今は円安の影響もあり日本より若干高めには感じるが、単語帳や修正テープ、付箋、クリアファイルなどこれもまた中国でどこに売っているか、そもそも中国語でなんと言えば良いかすら分からない、かゆいところに手が届く品揃えが嬉しかった。サンリオとのコラボレーション商品なども取り扱われ、信頼性と高品質とデザインを売りに上海の人々にも強く根付いているように感じた。














家で簡単な食事をするためのレトルト食材やフリーズドライのスープなどは、「MUJI」で購入した。店内には、日本同様にシンプルでナチュナルなコーディネートのお客さんも多く、商品構成としては日本で売っているおなじみのカレーやパスタソースなどに加えて、ローカライズした中国の名物である麺のセットやお菓子などもあり、試してみたい商品を全てカゴに入れていくと腕が千切れそうになった。














そして今回の滞在には最低限の服しか持ってきておらず、全て現地で調達しようと思っていたため、肌着や靴下などを買い揃えるべく、「ユニクロ」に向かった。日本と全く変わらない品揃え、「欢迎光临!(フアンィン グアンリン:ようこそいらっしゃいませ)」という店員さんの声掛け、整然としたヴィジュアルマーチャンダイジングに感動を覚えた。
幸運にも来店のタイミングで「ユニクロアンドホワイトマウンテニアリング(UNIQLO and White Mountaineering)」のコラボレーションアイテムが販売開始されていたため、フリースとブルゾンを購入した。特設コーナーが設けられ店内放送でも大々的に告知されており、日本人として誇らしく感じ、セルフレジの前でピンと背筋が伸びた。






































◇ ◇ ◇
正直、中国のファッションの文脈においては国潮(グオチャオ)の隆盛、Z世代の多様性もあり、全ての日本のアパレルにとって決して追い風が吹いているわけではない。ただ、上海という一級都市で、食や住も含め“日常生活”という視点では日本の空気を感じられた。琥珀色の街で、時にそのニッポンの香りと静かな炎に少しの勇気をもらった。
椎名林檎「NIPPON」
次回は6月27日(月)公開予定です。
(※来週6月20日は休載いたします)
■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.14:いまだ見えない上海の隔離からの卒業
・vol.13:上海でトーキョーの洋服を売るという生業
・vol.12:上海のスターゲイザー
・vol.11:上海でラーメンたべたい
・vol.10:上海のペットブームの光と影
・vol.9:上海隔離生活の中の彩り
・vol.8:上海で珈琲いかがでしょう
・vol.7:上海で出会った日本の漫画とアニメ
・vol.6:上海の日常 ときどき アート
・vol.5:上海に吹くサステナブルの優しい風
・vol.4:スメルズ・ライク・ティーン・スピリットな上海Z世代とスワロウテイル
・vol.3:隔離のグルメと上海蟹
・vol.2:書を捨てよ 上海の町へ出よう
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好
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上海: 特派員が見た「デジタル都市」の最前線 (998;998) (平凡社新書 998)
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