
第一線で活躍する著名人たちが、自身のキャリアに影響を与えた“東京”の街について語る連載企画「あの人の東京1年目」。13人目は芸人 ケンドーコバヤシさん。嘘か真か分からないエピソードトークや、漫画やプロレスを題材としたマニアックなネタ、ダンディズムに独自の「変態性」を織り交ぜた唯一無二のキャラクターで、関西のコアなお笑い好きから熱烈な支持を受けていたピン芸人は、いかにして「ケンコバ」の愛称で親しまれる全国的な人気タレントになったのか。夢追い人たちへ贈る、明日へのヒント。
ADVERTISING
目次
子どもの頃の夢はうどん職人
子どもの頃になりたかった職業は、うどん職人でした。10歳くらいだったと思いますが、大阪にあったうどん屋で、うどんをこねている職人さんを見て「この人すごいなあ」と感動したんですよ。お笑い芸人を本気で志したのは、芸人になってから20年くらい経ってからですかね。それまでは「いつでも辞めたる」と思っていました。20年を超えたあたりから、ようやく「まあ、向いてるかもな」と思うようになって。そんな感覚です。

NSC(吉本総合芸能学院)に入る前は、お笑い芸人になろうなんて全く思っていませんでした。そもそも、お笑いは好きじゃなかった。むしろバカにしていたくらいです。外で遊ぶのが好きで、テレビっ子でもなかったので、お笑い番組も現役の芸人の中で一番見ていないと思います。NSCに入ったのは、周りの友達みんなから「俺と吉本に行ってくれ」と懇願されたから。興味がなくても、これだけ言われるんなら才能があるんやろうな、と感じたんです。
芸人として関西である程度テレビやラジオに出るようになってからも、お金は全然ありませんでした。俺、30歳になるまで月収が2桁万円に届いたことがなかったんですよ。だから、錦鯉とか他の芸人の苦労話を聞いても全然響かないんです。「俺のほうが金なかったわ」って。なぜ仕事がなかったか?いわゆる、仕事を「振る」立場の人たちにめちゃくちゃ嫌われていたんだと思います。こんな芸風ですから。でも、さっき話したみたいに「いつでも辞めたる」と思っていたので、そんな状況でも全然気にしてなかったですね。

関西で活動していた頃の写真。1990年代後半に撮影されたと思われる
Image by: 吉本興業
NSCの同期はマジでダサかった
ファッションに目覚めたのは、中学1年生の頃。頑張って「ボンタン」を買ったんです。めちゃくちゃ嬉しかったですね。学年で一番乗りだったと思います。当時、1年生で改造制服を着るヤツなんていなかったんですが、「ボンタンを最初に着るのは俺しかおらん」と思っていました。地元の大きな商店街に、改造制服屋さんが3軒あったんですが、全国流通の既製品を置いている店、オリジナルのデザインにこだわる店、持ち込んだ生地で仕立ててくれる店と、それぞれ扱う商品が違っていたんです。最初に買ったのは既製品。後でオーダーメイドにも手を出しましたね。オーダーメイドは高かったので、駅前の自転車整理のアルバイトをしてお金を貯めました。そのバイトは小学校のときからやってたんとちゃうかな。おじいちゃんたちがやるような仕事を、俺もやらせてもらってました。
オシャレだと思った芸人ですか?いないですね。特に、NSC11期の同期(陣内智則、中川家、たむらけんじ、ハリウッドザコシショウなど)は、とにかくマジでダサかったです。本当に嫌になりました。みんなファッション誌に載っている服装を必死で真似しているだけで、死ぬほどダサいんですよ。「マシやな」と思えるヤツすらいなかったですね。でも、野性爆弾のくっきー!(NSC13期)が入ってきたときは「あっ」と思いましたね。あの世代はおしゃれなヤツが多かった気がします。
年間300日ホテル暮らし「これはもう限界やな」
俺は「いつ上京した」っていうのが、はっきりしていないんです。当時は、大阪から東京に進出する芸人が「4月から東京行きます」みたいな卒業ライブをすることが流行っていましたが、俺にはなかったです。行く気もないのに「さよならライブ」みたいな嘘のライブはやりましたけどね。そもそも、当時はまだ「いつでも辞めたる」って思ってたんで、東京に行くつもりは全くなかったんですが、東京での仕事が徐々に多くなったので、大阪で部屋を借り続けたまま、東京のホテルに泊まる日が増えていきました。
ホテル暮らしは2年くらい続きましたね。「アメトーーク!」の「ホテルアイビス芸人」(2007年に放送された、東京での仕事時に六本木のホテルアイビスを定宿にしていた吉本芸人たちの特集)に出た後、ホテルの年間宿泊日数が300日を超えたんです。そのときに「これもう限界やな」と思って、東京に部屋を借りました。なので、ホテル暮らしを続けていると体が保たないから部屋を借りた、というのが上京の理由です。ホテル暮らしをしていた頃は、仕事が終わると近所のラーメン屋「天鳳」によく行っていました。ほぼ毎晩通っていたせいで、15キロくらい太りましたね。

「天鳳、まだあったんや!」と驚きの声。今も六本木に店を構えているが入居しているビルは新しくなっているそう
結局、大阪の事務所に所属したまま、5年くらい東京で活動していましたね。東京で最初の部屋を探すときは、ピースの綾部(祐二)が手伝ってくれました。綾部のビッグスクーターに二人乗りして不動産屋を回ったのを覚えています。あいつ、ええヤツですよ。あと、東京に来て良かったなと思うのは、大阪では買えなかった服が買えたことです。「ルイスレザーズ(Lewis Leathers)」の革ジャンとか。当時の大阪では新品で買えるお店がなかったので、東京でオーダーして買ったりしていました。そういう店を通じて、知り合いも増えました。服屋でも飲食店でも、お店の前にかっこいいバイクが停まっていたら、入っていったんです。そこでバイクの話で盛り上がって、友達が増えました。ファッション業界の人が多かったですが、タトゥーまみれで革ジャンを着てるような人たちばかりでしたね。タトゥーを入れる場所が体になくなったから顔に入れ始めているみたいな、なかなか人に紹介しづらい友達です。

2014年に閉業したホテルアイビスがあった外苑東通りを歩く
東京で好きな古着屋は、原宿の「フェイクアルファ(FAKEα)」と高円寺の「ディークロージング(D Clothing)」。どちらもゴリゴリのヴィンテージを扱っています。ディークロージングは、アポイント制になっているのが面白いです。向かいのレギュラー古着屋さんをやっている奥さんにお願いしてお店を開けてもらったら、奥で店主がなんかの手入れしてるんですよ。あの独特の雰囲気が好きですね。最近買ったおもしろい古着は、素人が手書きでランボーの絵を描いたスウェットです。どこで買ったかは覚えてないんですけど。

フェイクアルファの外観
今使っているバッグは、福岡の古着屋さんが、ロサンゼルスのイラストレーターに依頼して作ったもので、ヴィンテージのバッグにイラストが手描きされています。これを持って歩いていると、海外の人にめっちゃ声かけられるんですよ。「これ描いてるの、俺の友達だ」とか言われて。よく知らないんですけど、有名なイラストレーターなんでしょうね。これからも革ジャンとか、バイク乗りっぽい服を着続けていくんじゃないかと思っています。今欲しい服ですか?私事ですが、実はこの前(2026年1月)子どもができまして。「これ以上服を買ったら燃やす」って妻に言われているんで、その質問には答えかねます。

世の中のアンチテーゼとして生きる使命
最近、アニメ「呪術廻戦」で声優の仕事をさせていただきました(ケンドーコバヤシにそっくりの芸人「ケンさん」役で第50話に登場)。自分の声を自分が演じるというのは、おそらくプロの声優さんでもやったことがない難しい仕事だったと思います。前人未到の仕事を成し遂げましたよね。自分で自分を褒めてやりたいです。今後の目標は特にないですね。やってみたい仕事もないです。今って芸人も自分で仕事を見つけて自分で取りに行く、みたいな風潮があるじゃないですか。そんな時代だからこそ、俺は「待つ」という姿勢を貫きたい。世の中のアンチテーゼとして生きる使命が、俺にはあるんです。
東京に来てから20年以上が経ちました。大阪にいつか戻れたらいいなという気持ちは心の片隅にありますが、いざ帰ると鬱陶しいヤツも多いなと感じるので、俺の安住の地は日本にはないのかもしれません。バンコクが安住の地かもしれないですね。仕事とプライベート合わせて、もう70〜80回は行っていますから。俺の墓はバンコクに建てたいですね。

上京した若者にアドバイスですか?うちのマネージャーも上京したばかりで「辛い」って言ってるんですが、そもそも東京に夢を見すぎなんですよ。なのでアドバイスは「人に聞くな。お前でなんとかせえ」ですね。
photography: Sumire Ozawa
◾️あの人の東京1年目
第12話:俳優 河内大和と稲田堤
第11話:デザイナー コシノヒロコと西新宿
第10話:俳優 光石研と原宿・下北沢
第9話:デザイナー 東佳苗と新宿(文化服装学院)
第8話:エバース 佐々木隆史と上石神井
第7話:俳優 髙石あかりと高井戸
第6話:役者 佐藤二朗と登戸
第5話:お笑い芸人 エルフ荒川と神保町
第4話:オカルトコレクター 田中俊行と清澄白河
第3話:「アンジュルム」 佐々木莉佳子と赤羽橋
第2話:お笑い芸人 ランジャタイと大井町(旧NSC)
第1話:歌手・タレント 研ナオコと原宿
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【あの人の東京1年目】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

















