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BACK TO THE 翡翠色の街、台北【コラム連載 - ニイハオ、ザイチェン vol.35】

文&写真・佐藤 秀昭編集・伊藤真帆

「トウキョウリッパー」の元デザイナー・佐藤秀昭氏によるコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。中国・上海のファッションやカルチャーを発信してきた本企画が、舞台を移して番外編へ。宵の便の先に待っていた15年ぶりの台北。変わったのは街か、それとも時を重ねた自分か⎯⎯雨に濡れた“翡翠色の街”の現在地を紐解く台湾編がスタート。

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(文・佐藤秀昭)

💿一緒に聴きたいBGM:くるり「ばらの花」

 いつもの仕事を終え、夜の空港から飛行機に飛び乗った。浅い眠りを抜けるとそこは台北だった。夜の底が生温かかった。

 空港からホテルへ向かうタクシーの窓から、エメラルドグリーンにライトアップされた台北101が見えた。15年前から変わらずそびえ立つ台湾の象徴は、夜空に宝石のような光を放っている。車窓を流れる街並みを眺めながら、懐かしさと見知らぬ街を訪れたような感覚が入り混じる。

◇ ◇ ◇

 初めて台湾を訪れたのは18歳。大学合格のお祝いに家族で旅行した。当時の父と母は、今の僕とほぼ同じ歳。自分がその年齢になって初めて、あの頃のふたりがしてくれたことは、何ひとつとして当たり前ではなかったのだと気づく。

 仕事柄、ファッションという窓からも、この街を眺めてきた。15年前、シャム猫みたいなファンシーヤーンを探しに来た。目当ての糸は見つからず、最終日の夜は路地裏で三毛猫を撫でながら、温い台湾ビールを浴びるほど飲んだ。帰り道は覚えていないのに、あの猫の柄と、どこかニッポンの匂いがする街の空気だけは、今も鮮明に覚えている。

 5年前には、携わっていたブランドのポップアップストアを台北にオープンした。中国本土への展開を見据えた大切な試みだったが、折しもコロナ禍の真っただ中。僕自身は現地に足を運べなかった。

 気づけば、人生の節目にはいつも台湾があった。

◇ ◇ ◇

 ホテルに荷物を置き、古びた食堂になだれ込む。食堂の看板メニューは豚肉の旨みが溶け込んだとろみのあるスープが特徴の肉羹麺(ロウ・ガン・ミェン)。立ちのぼる白い湯気越しに、現地の味をゆっくりと手繰る。頭はまだニッポンに置き去りのままだが、胃袋だけはひと足先に台湾に追いついていく。

 台湾の庶民に親しまれる一杯を平らげたものの、身体がさらにこの街の味を欲しがり、魯肉飯(ルー・ロー・ハン)を追加で頼む。料理を待つ間、イヤホンを耳に突っ込むと、くるりの曲が流れ出した。ボーカルの岸田繁は、かつて僕が暮らした上海を「琥珀色の街」と歌っている。この曲を聴くたびに、当時の景色が浮かんでくる。街の喧騒も、古い建物も、何でもなかった日々も。過ぎ去った時間とともに、記憶の中で少しずつ色を変えていく。

◇ ◇ ◇

 15年という歳月は、人も街も変えてしまうには十分すぎる時間だ。かつて世界の服を縫い続けていた台湾は、今やパタゴニアやルルレモン、ナイキといった世界的ブランドを支える、高機能素材やサステナブルな繊維の重要な供給地となっている。僕たちが何気なく羽織るジャケットの軽さも、肌に触れる生地のしなやかさも、糸をたどればこの島のどこかに行き着くのかもしれない。

 台北の風を吸って育ったデザイナーたちは、どんな服で自分たちの「現在地」を語るのだろう。そして、親日として知られる台湾で、日本のブランドは今、どのように受け入れられているのだろうか。そして、15年ぶりの台北は、僕の目に何色に映るのだろう。

 ガラス窓の向こうでは、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めていた。「雨の都」と呼ばれる港町、基隆(キールン)を北に望む台北。この街にも、雨がよく似合う。

 雨に濡れた街路樹の深い緑。故宮博物院に収められた翡翠の白菜。エメラルドグリーンに染まった台北101。そして古い街並みのあちこちで芽吹きはじめている新しいカルチャー。上海が埃にまみれた琥珀色の街なら、台北は、雨に濡れた翡翠色の街なのかもしれない。

 雨降りの午前2時。食堂にはアルコールがなかったので、コンビニで台湾ビールを買って飲んだ。こんな味だったっけな。15年前と味が変わったのか。それとも、変わったのは僕のほうなのか。

 BACK TO THE 翡翠色の街。初めての台北ファッションウィーク。
 「ニイハオ、台北。」

文&写真・佐藤 秀昭

Hideaki Sato

群馬県桐生市出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中に、友人とブランド「トウキョウリッパー(TOKYO RIPPER)」を設立し、卒業と同年に東京コレクションにデビュー。ブランド休止後、下町のOEMメーカー、雇われ社長、繊維商社のM&A部門、レディースアパレルメーカーでの上海勤務を経て、現在は化粧品会社に勤務。

最終更新日:

■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.34:3年ぶりの上海でマーラータン食べたい
・vol.33:上海の「Cビューティ」をめぐる冒険
・vol.32:上海で見たルイ・ヴィトンの船とマルジェラのクリスマスツリー
・vol.31:上海で逢った「かわいいだけで全然だめじゃないもの」
・vol.30:「古着」と「ヴィンテージ」が映し出す上海のファッションのいま
・vol.29:上海の展示会での再会と再開した青春協奏曲
・vol.28:上海で思い出した1996年、秋、渋谷と裏原宿
・vol.27:上海で逢った魯迅とハローキティ
・vol.26:上海ファッションウィークで聴く2つのTomorrow Never Knows
・vol.25:3年ぶりの上海の風に吹かれて
・vol.24:3年ぶりの上海でどこにいこう
・vol.23:BACK TO THE 琥珀色の街
・vol.22:上海ファッションウィークと日曜日のサウナ
・vol.21:上海の青い空の真下で走る
・vol.20:上海でもずっと好きなマルジェラ
・vol.19:上海のファッションのスピード
・vol.18:ニッポンザイチェン、ニイハオ上海
・vol.17:さよなら上海、サヨナラCOLOR
・vol.16:地獄の上海でなぜ悪い
・vol.15:上海の日常の中にあるNIPPON
・vol.14:いまだ見えない上海の隔離からの卒業
・vol.13:上海でトーキョーの洋服を売るという生業
・vol.12:上海のスターゲイザー
・vol.11:上海でラーメンたべたい
・vol.10:上海のペットブームの光と影
・vol.9:上海隔離生活の中の彩り
・vol.8:上海で珈琲いかがでしょう
・vol.7:上海で出会った日本の漫画とアニメ
・vol.6:上海の日常 ときどき アート
・vol.5:上海に吹くサステナブルの優しい風
・vol.4:スメルズ・ライク・ティーン・スピリットな上海Z世代とスワロウテイル
・vol.3:隔離のグルメと上海蟹
・vol.2:書を捨てよ 上海の町へ出よう
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好

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